想いは何度でも燃え上がる
〜数週間後・王都〜
ロキたち五人は図書館から出てきた。ここ数週間、篭っていた場所である。
「貯金の大半は使い果たしたけど、おかげで良い情報を手に入れたね」
「まさかイラスト付きの本があるとはな」
「あの解説書は割と最近の本みたいだったけれど」
「それでも信じる他はありません。これだけの期間篭っていて、詳細な本はあれしか見つけられなかったのですから」
「信じて行ってみるしかないで。それに、あと行ってへん大都市は西のオルタブルクだけやし」
「フランちゃんのご両親、見つからないね」
「まったく、娘がこれだけ探しているのに音沙汰無しとは」
「私の伝手を使って調べてもみましたが、そこまで詳細な情報を記載している奴隷商人もおらず、尚且つ新しい法律が制定されたばかりですので、獣人界も混乱しています。この状況で見つけ出すのは難しいかと思います」
「どこかで安全に暮らしていると良いけれど」
「そう祈っとくしかあらへんな。よし、ほなオルタブルクに行こか」
彼らが見つけた解説書には、神獣が現れる順番が書いてあった。
その解説書が言うには、北から順番に反時計回り。しかし、実際は少し違っていた。
まず、北を司るはずの亀の魔物が東から現れた。次は、西を司る虎の魔物が北から。とくれば、次に現れるのは南を司る鳥の魔物。それも西からであろう。
そんな安直な思考で、ロキたちはオルタブルクに向かうことを決めた。
「なんだか最近寒くないかしら?」
「そうだね。肌寒いかも」
「お前ら、そんな薄着で良く言うな。何か羽織ったらどうだ」
アイリスは、出会った時と同じく、水着と変わらない布面積の上下とマントだけ。シャルルも、ミニの赤いキュロットスカートと半袖の白いブラウス。袖口にフリルがあしらわれている。
「ロキ君は寒がりすぎやと思うで。暑いやろそれ」
「動きにくそうです」
「何かあればすぐに脱ぐ。寒いのは苦手なんだ」
ロキは毛皮のロングコートを羽織っていた。気温で言えば、日本で言う十一月ぐらいのものなのだが、余程寒がりらしい。
「女の子が寒そうにしてるのは、何かに含まれないの?」
「含まれない。欲しけりゃ勝手に買え」
「わかってへんなぁロキ君。シャルちゃんはロキ君の温もりを感じたいんやで?」
「んなっ!」
「やはりお二人はそういう関係だったのですか」
「ち、違うから!」
「断る。俺の体温は俺のものだ。シャルなんぞにくれてやるものか」
「それ、女の子としては辛い返しね」
というわけで、五人は旅立つより先に、服屋へと向かうことになった。
〜モンテブルク・服屋〜
「やっぱり品揃えはモンテブルクだよね」
「それに安いし」
「職人の街というだけあって、完成度も高いものね」
「お前ら、さっさと選べよ。今日はファッションショーなんてしないでくれ」
「わかっています。寒いですからね」
ロキがそんな忠告をすると、フランがこそこそと近寄ってきた。
「ロキ君、一着だけ。一着だけ、あかん?」
「お前のその情熱はどうにかならんのか」
「ならへんから言いに来てんねん。頼むわ」
「はぁ。一着だけだぞ」
「よっしゃ!」
フランはすぐさまシャルルの元へ行き、試着室へねじ込んだ。
「ねぇ、ダメって言われてたじゃんか」
「ええねん。一着だけ許可貰ったから。はよ着替えて。手伝おか?」
「いいよ。もう、ちょっとだけだからね?」
試着室から出たシャルルの格好は、ミニスカートサンタクロース。スカートの裾や半袖シャツの袖口に白いフワフワがついているものの、布面積で言えば変わらない。そればかりか、臍がチラリと覗いている。
「やっぱ冬といえばこれやんな!」
「こんなものどこから引っ張り出してきたんだ」
「もう満足? 着替えるよ?」
「ん、ええよ。というかシャルちゃん、おへその横にホクロあるねんな」
「そういえばそうだったな。昔よりも場所が離れた気がするが」
「ちょっ、ロキ。何で知ってるの?」
「ロキ君とシャルちゃん、ちっちゃい頃からそういうことする間柄やったん?」
「違うよ! 今もしてないよ! ほんとになんで知ってるの?!」
「昔一緒に風呂へ入れられただろう。そのときに見た」
「昔っていつの話? 覚えてないよ?」
「十数年前だ。あの時は三歳だったか?」
「ようそんなん覚えとったな。それだけシャルちゃんの裸は鮮烈やった?」
「三歳児に鮮烈も何もないでしょ。そんなことよりほら、私は着替えるからフランちゃんは選んできなよ」
「新しいコスプレ?」
「冬服!」
〜一時間後・王都〜
女性の買い物は長いものだ。ロキはそれを、散々身をもって体験している。
むしろ、今回は短く済んだと思っている程である。
「これで完全に貯金ゼロね」
「オルタブルクに着いたらまた依頼こなさなあかんな」
「本当、ごめんね。こんなはずじゃなかったんだけど」
「別に責めているわけではないわ。ただ面倒というだけよ」
「楽にお金を稼ぐ方法があれば、苦労はしないのですが」
買い物を終えた彼女らの服装を紹介するとしよう。
まずはアイリス。アイリスに関しては、着るもの全てを一新した。白の長袖ブラウスに、黒に近い紺色のサスペンダースカート。それから黒タイツ。そしてお馴染みの黒マントである。
フランの衣装は、普段と変わらずロリータファッション。それに加えて、今は手袋や耳あて、マフラーを巻いて防寒としている。防寒においてはりりも同様である。
シャルルの防寒対策は、いつもの赤いキュロットスカートにプラスした、厚手の黒ニーソ。ワンポイントとして、そのニーソックスの太もも付近には白い刺繍が入っている。ブラウスも長袖のものに変更した。
「よし。さっさと行って、さっさと依頼をこなすぞ」
「リリ様!」
オルタブルクまで向かうため歩いていた五人の前に、ある青年が立ち塞がった。ロキは当然彼に怪訝な目を向ける。
「リリ様。お久しぶりでございます。覚えていらっしゃいますでしょうか」
「ええ。覚えています。元、婚約者様」
「婚約者?」
「リリちゃん、婚約者おったん?」
「さすが貴族ね。フィアンセの一人くらいは当然なのかしら」
「その元婚約者が何の用だ?」
「婚約の件ははっきりとお断りさせていただいたはずです」
「はい。その通りです。ですが、もう一度だけチャンスをいただきたく貴女様を探していました」
「チャンス、ですか?」
「はい。貴女様に見合う男となれるよう、日々精進してまいりました。この通りでございます」
リリの婚約者を名乗った男は、ある証書を差し出した。
「すごい。Aランクだ。私たちと同じだね」
「うちらは特例として異常な速さで上げてもらっただけやけどな」
「確か、ガラナさんはSランクだったかしら。って、今は関係なかったわ」
「リリ様のランクも同様とお伺いしております。どうでしょうか。もう一度だけ、チャンスをいただけませんか」
「もう一度貴方のことを見たからといって、婚約を戻すとは限りませんよ」
「承知の上です」
婚約者の彼の真剣な眼差しに、リリは息を吐いた。そして、ロキたちを見る。
「申し訳ございません。同行を許可していただけますか?」
「お願い致します」
「はぁ。勝手にしろ。邪魔さえしなければ、俺は構わん」
「ええで。うちもその人の性格とか知りたいし」
「リリちゃんの婚約者として相応しいか、じっくり見させてもらうわ」
「リリちゃんが良いなら良いんじゃないかな」
「ありがとうございます」
〜オルタブルク〜
リリの元婚約者を加えて六人。オルタブルクの街へと入った。
オルタブルクの街は、他の大都市と比べればのどかである。露店で賑わうということもなく、工業が発展しているわけでもない。
強いて言うのであれば、この街の特徴は牧畜である。市場には肉類が多く出回っており、それを使った料理を売りにして店を構える者もいる。
「さて、依頼をこなすぞ。まずは金銭面を解決する」
「はーい」
「なんかええ依頼あるかな?」
「難易度の高い討伐があると嬉しいわ」
「どんな依頼でも上手くこなしてご覧にいれましょう」
意気揚々と掲示板を見回す。
「良いのがあったで」
「どれどれ? クレイスネークの討伐?」
「確か大型の魔物だったかしら」
「この周辺の農地で、家畜を餌にして繁殖しているそうです」
「岩石のような硬い鱗を持つ魔物です。農民では太刀打ち出来るはずもありません。刃が通りにくいため、厄介とされる魔物です。昼間は洞窟に潜んでいることが多いと聞きます」
「博識ですね、お兄さん」
「リリちゃんにええとこ見せようと頑張ってるんやね」
「微笑ましいわ。うふふ」
「からかってやるなよ。さっさと行くぞ。それに決まりだ」
依頼に悩む時間さえ勿体ないと、ロキは即決。クレイスネークの討伐依頼を受けた。
〜オルタブルク郊外・洞窟〜
ロキの魔法を光源に、洞窟内を進む六人。
「クレイスネークが潜む洞窟まで教えてくれてラッキーだったね」
「依頼主さんも相当困っとったみたいやな。住所特定するくらい」
「スパッと解決して、明日の分の宿代くらいまで稼ぎたいわ」
「皆様、クレイスネークは厄介な魔物です。気を引き締めてください」
「リリ、大丈夫だ。ヘマはしない。クレイスネークの動きはそこまで速くないんだろう?」
「はい。僕が読んだ本ではそう書いてありました」
「今更そんな魔物に遅れをとる私たちじゃないよね」
「姿を消して襲ってくるくらいせえへんと、うちらはやられへんで」
それをフラグだと思ったのか、クレイスネークがフランのそばの壁を突き破って襲いかかってきた。
「岩石槍」
しかし、クレイスネークがフランへ向かう間のわずかな時間で、フランは魔法を発動した。
飛び出したクレイスネークの下から、岩石で出来た鋭い槍が伸びる。その槍はクレイスネークの鱗と一瞬せめぎ合ったが、すぐにクレイスネークの鱗を破砕した。
「なっ?!」
驚く元婚約者の彼を他所に、今度は別のクレイスネークがシャルルへ飛び出した。
「貫通」
結果は言わずもがな。シャルルのスキルはクレイスネークの頭部を貫通した。
「はぁ。雑魚だな」
そして、無謀にもロキに向かったクレイスネークは、ただ一発の殴打でピクリとも動かなくなった。
「お姉さんは参加せえへんの?」
「こんな洞窟で魔法を使ったら、みんな感電するわ」
「うわぁ、それはやだなぁ」
「嫌だで済むのか? 最悪死ぬぞ」
のほほんとした調子で会話をしながらも、次々と襲い来るクレイスネークを蹂躙するロキたち。
「凄いです。さすが、国王陛下に選ばれた方々」
「ぼ、僕にもあれくらいのことはっ」
元婚約者の彼が前線に出る。しかし、壁を突き破って出てきたクレイスネークに虚をつかれ、傷を負った。
しかし、彼もAランク冒険者の端くれ。傷は最小限の切り傷。かつ即座に反撃。彼の戦鎚はクレイスネークの胴にヒビを入れた。が、それだけ。狙ったのが頭でもなければ、それでは倒せない。
「くっ」
「回復」
「ありがとうございます、リリ様」
「いえ。ご健闘を」
元婚約者の彼は、照れたように笑んだ。ただ、その笑みには少しだけ陰が差していた。
「ふぅ。粗方終わったね」
「重そうな魔物やな。持って帰るの大変やわ」
「はぁ、はぁ、凄まじい方々ですね」
「これほどとは思っていませんでした。この分であれば、アレクサンドラ様もさぞお強いのでしょう」
「ええ。仮にも東の魔女と呼ばれているもの。けれど、本当に、あの三人は別格よ。私で及ぶかしら」
「安心しろ。お前も十分規格外だ」
少なくとも、安心できる案件ではない。
「まだ、僕は諦めません」
撤収作業を始めている中、元婚約者の彼は誰にも見つからないように拳を握りしめた。
お読みいただきありがとうございます。
アドバイスなどいただけると幸いです。




