嫌な忘れ物
〜翌日・モンテブルク〜
ロキたち五人は王都を出て、モンテブルクにやって来ていた。
金銭に余裕がある現状では、モンテブルクで一番とも言われる宿に泊まっていた。
「さてと。今日の予定は、リリちゃんのいろいろを済ませるんだよね」
「キャンプ用品とか着替えとかやんな。腕が鳴るわ」
「お手柔らかにお願いします」
シャルルよりも一回り小さい金髪が頭を下げる。
「それにしても、こんな小さい子が魔神の調査なんて、本当に大丈夫なのかしら?」
「国王の勅令は断れないんだろう?」
「それにしたって、こんな可愛らしい娘を先頭に出さんでもなぁ」
「親御さんとか心配してないかな?」
「先程から聞いていれば、失礼ではないですか? こう見えて、私はもう十六ですよ。親に甘える時期はとっくに終わっています」
「そうやって背伸びするところも可愛らしいわ」
「うちらが絶対守ってあげやなあかんわ」
「聞いてくださいよ」
「諦めろ。うちの奴らは人の話を聞かない奴ばかりだ」
「あはは。災難だったね、リリちゃん」
ロキとシャルルの言い草に戦慄するリリであった。
〜アウトドア用品店〜
「リリちゃん、これなんてどうかな?」
モンテブルクは職人の街というだけあって、キャンプ用品一つ取っても意匠が細かく、種類も豊富である。
今選んでいるのは寝袋。リリの意見はそっちのけで、シャルル、フラン、アイリスが各々勝手に選んでいる。
シャルルが持ってきた寝袋は、やけに目立つショッキングピンクのもの。ハート型の刺繍もあって、可愛らしいことは可愛らしいのだが。
「却下だ。どれだけこいつを目立たせるつもりしてやがる」
「ええー。可愛いのに。リリちゃんはどう?」
「ロキ様の言う通り、さすがに目立ちすぎだと思います」
「そっかぁ。じゃあ仕方ないね」
シャルルはとぼとぼと寝袋選びに戻って行った。
次にやってきたのはフラン。手に持っているのは、うさぎを模した着ぐるみのような寝袋である。
「リリちゃんやったら絶対似合うと思うねん! 白が目立つんやったら迷彩もあるで!」
「寝袋に可愛さを求めすぎだろう。迷彩の兎って何だよ」
「もう、ロキ君は文句ばっかしやな。リリちゃんはどう思う?」
「可愛いです」
「せやろせやろ? リリちゃんがこれ着とったら襲う自信あるわ」
「襲われるような寝袋というのはどうなのかしら」
アイリスが苦笑いしつつ、一般的な寝袋を持ってきていた。
「珍しいな。一番フランに同調しそうなものを」
「寝袋に時間やコストをかけている暇はないのよ。あまり目立っても不利になるだけ。それよりも、普段着に手間をかけた方が良いわ。うふふふ」
アイリスは妖しげな笑みを浮かべた。
〜服屋〜
アウトドア用品店では、アイリスの勧めで無難なものばかり選んだ。フランは不貞腐れていたが、アイリスに耳打ちされると目を輝かせていた。
「リリちゃんってどんな服が好きなの? やっぱりフリフリ?」
「いえ、そういうわけでは。ドレスは動きにくいですし。聖女だなんて呼ばれているので、イメージ付けですね。私の仕事服のようなものです。白は好きですが」
「そうなんだ。すごく似合ってて可愛いよ」
「そ、そうでしょうか?」
「うん。仕事服なんて言うの勿体ないよ」
「え、えへへ」
照れたようにはにかむリリ。シャルルの顔にも自然と微笑みが生まれた。
「なんて清楚なのかしら」
「なんやこの光景。尊すぎんか?」
「知らねえよ」
二人の会話を少し離れた位置で覗く三人。
「ふへへ。リリちゃんにこんな服着せたら似合うやろなぁ」
「これなんかも良いわね。リリちゃん、小動物が好きみたいだから、きっと気に入ってくれるわ」
「お前ら、買う気の無いものを試着させるなよ」
「何を言うとんの。こんなコスプレみたいな服、買われることを予想しとらへんて」
「ええ。この品揃えは絶対に趣味で作っているわ。リリちゃんに着られるならきっと本望よ」
「はぁ。まあ勝手にしてくれ」
フランとアイリスが気色悪い笑みを浮かべていると、リリが試着室に入った。シャルルがカーテンの外で待っている。
「どうだ、シャル。良いのは見つかったか?」
「うん。あのドレスよりは動きやすくて、尚且つリリちゃんに似合うと思うよ。いやぁ、可愛い女の子の服を選ぶのって楽しいね」
「ああ。あいつらも楽しそうにしていた」
「あはは。あんまり過激なのは置いてないみたいだから大丈夫だと思うけど、何を引っ張ってくるかわかんないからね」
そんな話をしていると、試着室のカーテンが開いた。
「どうでしょうか?」
「うん。やっぱり無難に似合ってるね」
「あまり変わらないように思えるが。買うならもっと違うものにしたらどうだ?」
リリが試着したのは、白のワンピース。先ほどのドレスより丈も短く、フリルも少ない。
脚を露出することに若干の抵抗感があったようだが、その恥じらいがまた可愛らしい。
「ロキ様は、お気に召しませんか?」
「い、いや。そんなことはない」
苦言を呈したロキであったが、上目遣いに見つめられては形無しである。
「お。ロキがタジタジだ。珍しい」
「うるせえ」
「リリちゃんはロキキラーだね。よーし、次行ってみよう」
次にリリが試着したのは、黒いキャミソールにロゴの入った白いダボシャツ。合わせたのは、デニム生地のクロップドパンツ。
「大人っぽいっていうか、ちょっとチャラすぎかな? どう思う、リリちゃん」
「可愛いと思いますが、私には少し似合わないような」
「そうか? 可愛らしいと思うが」
「か、かわわわ」
「リリちゃん、もしかして褒められ慣れてないの? こんなに可愛いのに?」
「男の人に褒めてもらう機会がなかなか無くて、ですね。その、少し恥ずかしいです」
恥ずかしそうにカーテンで顔を隠すリリ。シャルルが鼻を押さえた。
「萌えが鼻から出そう」
「やめておけ。リリ、さっさと着替えろ」
「ちょっと待ってもらおか。リリちゃん、次はこれ着てな」
「え、あ、はい」
リリはフランから服を受け取り、カーテンを閉めた。
「フランちゃん、ちゃんと選んだよね?」
「当たり前やんか。うちが今までちゃんと選ばんかったことがある?」
「水着のときとか酷かったけど」
「あれはあれで、一個はまともやったやんか」
「二着渡してたみたいだけど、あのときみたいな選び方してないよね?」
「さぁ、どうやろな」
「すごく不安なんだけど。リリちゃん、着たくなかったら着なくて良いからね」
「い、いえ。そういうわけには」
リリはそう言ってカーテンを開けた。
「さすが、何でも似合うわ」
「おぉー。これくらいなら良いじゃん。可愛いし」
「しかし、普段着にはならんだろう」
「はい。それに着にくいです」
リリが着たのは、いわゆる巫女服。和風な服装と、金髪碧眼の彼女とのアンバランスさが一層魅力的に映る。
「買う気は無いんですよね、これ」
「やっぱ素敵やわ。ほな、次行こか」
「いつものことだけど、ファッションショーだね」
「着替える方は大変だろうな」
ロキとシャルルはリリに同情した。しかし、同情したところでフランの勢いは止まらない。
リリは再びカーテンを開けた。
「最っ高やわ。やっぱ金髪ときたらメイドさんやんな」
「やっぱりフランちゃんはミニスカートの方を選ぶよね。ギルドマスターのところで見た人はロングだったけど」
「たしかに、着せたくなるのはわかるな。可愛らしい」
「あ、ありがとうございましゅ」
紺のワンピースに白のエプロンドレス。そして、何と言っても白のニーハイソックス。
「リリちゃん、そこでちょっと一回転してくれへん?」
「はい。こうですか?」
「ぐふうっ! 可愛い。そしてエロい! 見た? あのガーターベルト! スカートとの絶対領域も合わせてめっちゃエロいと思わへん?」
「え、えろっ。そんなこと、大声で言わないでください!」
「あぁ。隠さんとってや。謝るからぁ。もうちょい堪能さして」
リリは顔を赤くしてカーテンを閉めた。そこへアイリスが現れる。
「リリちゃん、お姉さんが選びに選んだこれ、お願いできるかしら」
「は、はい」
「おいアイリス。それ、見るからに布が少なくないか?」
「言うたらあかんて。リリちゃんが着てくれへんくなるやろ」
「リリちゃん、どうか無理はしないでね」
アイリスは服をカーテンの下から入れた。
しばらくして、ゆっくりとカーテンが開く。
「これはさすがに、恥ずかしいです」
「カーテンはそのままで良いわ。少しだけ見させてもらうわね」
リリが少しだけ開けたカーテンの隙間に、団子のように四人が重なった。
「ふはっ!」
「想像以上の破壊力ね」
「ロキは見ちゃだめ」
「手で目を隠すな。それをされるくらいなら退く」
白のチャイナドレス。それが今、リリの身につけているものである。チャイナドレスと言っても、丈は膝元までしかない。その上、腰のあたりまでスリットが伸びている。
「腰あたりまで切れてるのに、パンツの紐が見えないんだけど、もしかして?」
「ええ。下着は履かせていないわ。その方が扇情的でしょう?」
「さすがお姉さん! よう分かっとる!」
「こ、これ以上見ないでください! 恥ずかし過ぎます!」
リリはニヤニヤする女子たちを押し出し、カーテンをシャッと閉めた。
「あら残念。そうそう、次の服は水着だと思って。下着は履いても良いけれど」
「お前、今度は何を着せるつもりだよ」
「それは見てのお楽しみよ。うふふ」
「こ、これを着るんですか?」
「サイズは合っているはずだけれど」
「いつ測ったんですか!」
「目でちょっと。お姉さん、そういうの得意なのよ」
「さすがお姉さん。憧れるわ」
「ごめんね、リリちゃん。うちの女性陣が」
「それ、お前も入ってるぞ、シャル」
今度も同じように、カーテンがゆっくりと開いた。しかし、開いたのは目一つ分。また同じように、女子三人が団子になる。
ロキは思った。傍から見てこんなにシュールな光景があるだろうかと。
「ふおぉぉ」
「ねえお姉さん、さっきからずっと、フランが奇怪な声を漏らしてるんだけど」
「可愛いでしょう?」
「いや、可愛いけどさ」
最後に試着したのは、モコモコした生地で出来た水着のようなサイズの代物。限界ギリギリまで短く作られたスカートと、スポーツブラと大差ないトップス。
羊をエロ可愛くデフォルメしたような、そんな愛らしさである。
「終わりです! アイリス様の選んだ服はもう金輪際着ません!」
「えぇ。エッチくて可愛ええのに」
「夜の男も女も皆揃って悶絶するわよ?」
「エッチなのはいけないと思います!」
少ししか開いていないカーテンを、リリは音を立てて閉めた。
「ほなシャルちゃん、真面目に選ぼか」
「最初から真面目に選んでよ」
「まったくです!」
〜冒険者ギルド〜
リリを怒らせながらも、どうにか普段着を買い揃えたロキたちは、冒険者ギルドへやって来ていた。
冒険者ギルドでは、貸金受付だけでなく、銀行としての役割も担っているのである。
「金群百個も持っとったら危なっかしいもんな」
「盗まれる危険はないと思うけれど」
「このメンツだしね」
「しかし、持ち運びに不便ですから」
「口座は俺名義で良いか?」
「ええで」
ロキは受け付けへ向かった。
「口座の開設を頼む」
「承りました。本人証明ができるものを提出お願いします」
「ああ。これで良いか?」
ロキはアビスブルクで作った身分証を手渡した。
それと同時に、ロキは嫌な記憶を思い出した。
「聞きたいことがある」
「何でしょう?」
「シャル! ちょっと来い!」
「何?」
「俺たちには借金があったはずだ。それがいくらか調べてくれ」
「承りました。そちらの方も、身分証を提出お願いします」
「あったね、そんなの」
今まで一銭も返していなかったが、ここでようやく思い出したようだ。
「これだけあれば返せるよね」
「二人分でだいたい金群四十個ある。二年かそこら借りっぱなしだったが、返せないことはないだろう」
二人は知らない。これが盛大なフラグであることを。
「二人合わせて、金群百個です」
「は?」
「え?」
「金群百個です」
ロキとシャルルは呆然自失となった。冷や汗がダラダラを流し、手元の金群を取り出す。
「すみません、これで払います」
言ってしまった。ロキとシャルルの新たな借金生活が、今始まる。
お読みいただきありがとうございます。
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