状況確認
〜一週間後・王都〜
真っ白く、明るい部屋の中。それもベッドの中でロキは目を覚ました。
「ここは?」
「ロキっ! よかったっ!」
目を覚まして、白い天井の次に写ったのは、シャルルの白い髪と肌、それから紅い目であった。その紅い目の周りは、泣き腫らしたのか、赤くなっている。
どうやらシャルルは、ロキが寝込んでいたベッドの横でずっと看病をしていたらしい。
「フランちゃん、ロキが目覚めたよ!」
「んぅ? ロキ君? ほんまや! ロキ君!」
シャルルが、彼女の向かいで眠っていたフランを起こした。
すぐさまロキは、寝転がったままでも両手に花の状態となる。二方向から抱きつかれ、ロキは体を起こすこともできなかった。
「あ、ごめんロキ! 痛くなかった?」
「あ。ごめんな、病み上がりやのに」
「問題ない。それより退け。重い」
「ちょっと! 女の子に重いなんて失礼だよ!」
「でも、ほんまにいつものロキ君みたいで安心したわ」
ロキは左手をついて上体を起こした。
「どこか痛むところはない?」
「どっか記憶が飛んでたりせえへんか?」
「気絶する前のことは覚えている。確か、白帝とやらに左手を喰われて」
ロキは今ついている左手を見た。目を擦ってもう一度見た。
感触を確かめるために触ったり、にぎにぎしたりもした。
「腕が戻っている?」
「すごいでしょ? この国で一番凄腕の回復魔法士の、聖女って呼ばれてるに魔法をかけてもらったんだよ」
「あれは回復というか、もはや再生やったわ。ほんま、世の中には凄い人がおるもんやで」
「俺が倒れてからはどうなったんだ?」
「ロキ、それより先に国王陛下のところに行かないといけないの。色々と話があるんだって」
「歩ける? 肩貸そか?」
「問題ない。それより、何用だ?」
「私たちも聞かされてない。三人一緒に来て欲しいんだって。あ、それからガラナさんと」
「げっ。あの人も来んの? うち、あの人トラウマになってんねんけど」
「あの人の方が私たちを怖がってると思うよ。だって腕を刺されて地面に埋められたんだもん」
「お前ら、そんなえげつないことしてたのか」
「あはは。まあ、この話もおいおいにしとこか。まずは王城へ行くで」
〜王城〜
人類の叡智が結集して出来た建物の最上階。そこに、ロキ、シャルル、フラン、ガラナ、そしてアイリスが膝をついていた。
そこへ入場するのは、国王とその妹、姫である。
「面を上げよ」
「はっ」
五人は恭しく国王と目を合わせた。
「この度は依頼を達成してもらってありがとうございます」
「お兄ちゃん国王陛下、言葉遣いを直してください」
「もう良いだろう。これから何度か顔を合わせるようになる仲だ。気兼ねなく話させてくれ。貴方達も、それで良いですか?」
「は、はぁ」
ペースが狂う国王たちである。
「さて、来ていただいたのは他でもありません。あの白帝と名乗る魔物の件です。無属性魔法、尋問の使い手に調査をさせました」
「尋問は、秘密にしていることも喋らせることが出来る魔法なんだよ」
姫が補足する。
「しかし、それでも奴は口を割りませんでした。いえ、言えることだけを言ったという感じですね。その内容は、奴の主人、魔神とやらが復活の準備を始めているということです。どうして街を襲ったのかと聞くと、魔神の復活に必要な条件を満たすためだと。それ以上に話すことはせず、舌を噛み切って自殺しました」
「こんなことも言っていたよ。クククッ。強化の無い我は神獣四天王の中でも最弱。良い気になるなよ人間共。って」
「そこで。貴方達に再び依頼がしたいんです。シャルルさんとフランさんから話は聞いています。強化有りの白帝を倒したあなた方に、魔神の調査をお願いしたい。可能であれば、神獣四天王の残りも打倒し、更には魔神も。魔神とやらの目的は分かりませんが、良くないことは明らかです」
「国王の勅令ということかしら?」
「その通りです。よろしくお願いします」
国王の命令とあっては逆らうことも出来ず、五人は頷いた。
それを満足そうに見た国王は、明るく言った。
「では、あなた方のこれからを決めてしまったお詫びをしましょう。白帝捕縛の報酬も兼ねて」
国王が指を鳴らすと、何故か宰相が、金群のピラミッドを運んできた。その段数は七段。合計にして百四十個である。
「この度の依頼の報酬と、それから支度金です。是非これで装備を整えてください」
「こ、こんなに?」
「太っ腹やなぁ」
「一体はミルクの街で討伐してくださったようですから、白帝よりも強いとされる神獣があと二体残っています。危険な旅となるでしょう。そこで、国王権限であなた方に聖女を同行させます」
「この腕を治した奴か。会ってみたいと思っていた」
「でも、大丈夫なんですか? 聖女様がいなくなっては、この国の医療は」
「問題ありません。彼女一人失っただけで倒れるような、やわな政治はしていませんから。聖女様、お入りください」
ロキたちが入室したのと同じ扉が開いた。
「失礼致します」
「こいつが?」
ロキが疑問を持つのも無理はない。
扉から現れた彼女の背は低く、顔立ちも童顔。金髪でふわふわした髪は腰のあたりまで伸びており、肌は白く、精巧で可愛らしい人形のようである。
衣服もまた純白。控えめなウエディングドレスとでも表現しようか。裾を引きずるようなことこそ無いものの、清純さを象徴するようなロングスカートである。また、その至る所にフリルがあしらわれており、頭にティアラを乗せればお姫様と言って何ら違和感がない。
「聖女などと、大層な呼び名はおやめください、国王陛下。私の名はリリ。リリ・クラージュです」
「というわけで、クラージュ家の末の娘、リリさんです」
あどけない見た目の割に、大人びた言葉遣いである。生まれと素質から、そうならざるを得なかったのであろう。
「この六人で、魔神の調査、もしその目的が国を害するものであれば討伐をお願いします」
「発言よろしいでしょうか」
「なんですか、ガラナさん?」
「僭越ながら、国王陛下の命令に異を唱えたく存じます」
「理由を聞かせてください」
「魔女殿、ロキ殿、シャルル殿、聖女殿、そして私めがその依頼を受けることは納得出来ます。しかし、そこの桃髪は獣人です。獣人風情に国王陛下の勅令など分不相応かと存じます」
そう発言し、ガラナは宰相と目を合わせた。
「その通りでございます、国王陛下。獣人など、この空間を共有しているというだけで吐き気がします」
明らかな嫌悪感を滲ませて、宰相は言った。
「うち、キレてもええ? 軽くこのお城をボコボコにしたいんやけど」
「フランちゃん、落ち着いて」
小声でシャルルがフランを宥める。そんな彼女らには目を向けず国王は首を傾げた。
「そうですか? 見た目は人間と変わりませんが」
「騙されているのです、国王陛下。私は見ました。この女が獣の耳を携えていたところを」
「この国の法律で、獣人は奴隷行きと決まっているではありませんか。即刻捕らえて奴隷商に売り飛ばしましょう」
ガラナと宰相は初めから手を組んでいたらしい。
国王は苛立ちを顔に出さなかったが、隣の姫は訝しげな視線を二人に向けていた。
「はぁ」
ここで、国王とロキのため息が重なった。国王は二人の態度に呆れてであるが、ロキのため息は。
「このままガラナが何も起こさなければ、もっと有意義なことに使えたはずなんだがな」
「何のことだい?」
「国王陛下。依頼の報酬、一つ忘れていないか?」
シャルルがロキに敬語を使うよう言おうとするが、国王がそれを手で制した。
国王はロキの意図を察したようで、語調を明るくして言った。
「そう言えばそうでしたね。僕がどうにか出来ることなら、何でもしましょう」
「そうか。なら、奴隷に関する一切の差別を禁止し、人間と同様に扱うこととしてくれ」
「なっ?!」
「そのようなこと、出来るはずがない! いったいどれだけの不利益を被ると思っている!」
「しかし、出来ることは何でもと言ってしまいましたし。法律を整備し直すということで良いですか?」
「ああ。構わん」
宰相の反駁を無視して、国王とロキの間でトントン拍子に話が進んでいく。
「これでフラン様が依頼を受けるに当たって問題は無くなりました。何か文句がありますか?」
トドメに国王は宰相へ問いかけた。宰相は言い淀み、それ以上は何も言えなくなった。ガラナも同様である。
「それでは、話は以上です」
国王は退出した。謁見の間には、ロキたち六人と宰相だけ。
「ちっ」
宰相は舌打ちをして出て行った。残されたのは六人。
「獣人なんぞと組む気は無い。俺は勝手に行かせてもらう」
死亡フラグのようなセリフを残して、フランとロキを睥睨してからガラナは退出した。
「勝手にどうぞ! ベロベロべー! あいつほんま腹立つわ!」
「うふふ。仕方ないわ。年寄りは頭が堅いもの。いつまでも因習に縋っていたいのよ」
「お姉さん、久々に会ったけど、毒舌増してない?」
「それよりも、何故アイリスがここにいる?」
「当たり前じゃない。人形越しにシャルちゃんの悲鳴が大音量で流れたんだもの。心配にもなるわ」
「そう言えば、あそこらへんの会話全部お姉さんに漏れとったんやな」
「最終的に皆無事だったみたいで良かったけれど」
「それもこの子のおかげだね」
「ああ」
親しげに話す四人の中に、入れないでいる少女が一人。四人の視線が彼女に向いた。
「改めまして、リリ・クラージュと申します。これからよろしくお願い致します」
「礼を言う。腕を治してくれてありがとう」
「私からもありがとう」
「うちからも」
「お姉さんからも」
「い、いえ。職務を全うしただけですので」
リリは褒められることに慣れていないらしい。赤くなって恐縮している。
「可愛ええなぁ。ちょっと抱きしめてもええ?」
「だ、抱き? ええ? 初対面ですよね?」
「困っているところも可愛いわ。抱きしめるのも仕方ない可愛さね」
「はみゅっ?!」
「あ、お姉さんずるいわ」
前からアイリスの双峰、背後からフランのなだらかな山に挟まれて、リリはじたばたともがいていた。
「お姉さんもフランちゃんも、ほどほどにね。お姉さんは、仕事は良かったの?」
「いいのよ。勅令じゃあ仕方ないわ。代わりも置いてきたし、いざとなれば連絡手段だってあるもの」
「なんも心配はあらへんってこと?」
「そういうこと。むぎゅー」
「それ以上はやめろアイリス。リリが窒息する」
ロキは小柄なリリの体から、アイリスとフランを引っペがした。
「大丈夫か? 悪いな。うちの痴女共が」
「ち?!」
「誰が痴女やの」
「そうよ。お姉さんはリリちゃんがあまりにも可愛いから、抱きしめたくなっただけなんだから」
「お姉さん、そのセリフは犯罪臭がするよ」
シャルルがアイリスにツッコミを入れると同時に、アイリスはリリの異変に気がついた。
「あら? リリちゃん、赤くなってどうしたのかしら?」
「もしかして、痴女ってワードが原因やったりする?」
リリの顔はより赤くなった。
「え、もしかしてビンゴ? うち、割と冗談のつもりで言うたんやけど」
「いくら幼いとはいえ、シャルちゃんより初心な反応をする娘がいたなんて、いじめがいがあるわ」
「やめて! リリちゃんには手を出さないで! こんな純粋な子に!」
「たしかに、シャルより純粋だな。痴女ごときで顔を赤らめるなんて」
「ま、またっ!」
「ロキまで虐める側に回らないでよ!」
リリが羞恥心で目を回すまで、このからかいは続いた。
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