表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第四章・神話の始まり
42/78

獣と人と

〜獣神の祠〜



 フランとシャルルがガラナと激闘を繰り広げている頃。ロキは、獣人の案内で獣神の祠に来ていた。



「あいつに先を越されていないかと心配だったが、杞憂だったようだな」



 そこでは、白黒の巨体が横たわっていた。



「人間」


「俺は神だ」


「浅ましい。あの御方を置いて神を名乗るか」


「事実だからな」


「貴様に身の程というものを教えてやろう」



 ホワイトタイガーの魔物は体を起こした。



「今日は威勢が良いな。これまで逃げ回っていたくせに」


「思い上がった人間風情に天誅を与える支度が整ったということだ。覚悟しろ」


「こっちのセリフだ。獣風情が」



 空気は既に一触即発。


 先に動いたのは魔物であった。先日も見せた、ロキを超える速度での行動。


 攻撃が来るかと、篭手を構えたロキであったが、予想は外れた。


 魔物が駆け抜けた先にいたのは、ロキをここまで連れてきた獣人。残っていた弓兵の四人を、ほんの一瞬のうちに喰らったのである。



「呑気に食事とは、良いご身分だなっ!」



 無残に散った四人の命。


 ロキは少し苛立ったように、魔物へ急接近。いつかのように横っ腹へ拳を向ける。


 しかし、その結果まで以前のようにとはいかなかった。



「ぐっ!」



 苦悶の声を漏らしたのはロキ。魔物の爪による攻撃を、どうにか篭手で防いだ。


 残像すら残らないスピードで、魔物はロキの拳を躱し、意趣返しかのように、ロキの横から爪を立てたのである。



「あぁぁ。力が漲る」


「ちっ」



 ロキは不機嫌に舌打ちをした。


 素人目に見ても分かるほど、魔物の力は膨れ上がっている。


 以前、冒険者育成教室校長のオリバーが放っていた、野菜人顔負けの黄色いオーラ。それが紫色に昇華され、魔物の周りで奔流となって流れ出ている。



「冥土の土産に教えてやろう。これが我の魔法、捕食者(イーター)。喰らった者の力を奪い取る魔法だ」


「なるほど。威勢が良いのも頷ける力だ」


「怖気付いたか」


「はっ」



 ロキは魔物の言葉を鼻で笑った。傲慢な姿勢を崩すこともなく、言葉を続ける。



「神は不敗だ。どんな状況でもそれは変わらない」


「ふんっ。不遜な輩よ。貴様はすぐさま殺してくれる」


「かかってこい。獣が」


「冥土の土産ついでに教えてやろう。我は魔神様に創られし神獣、白帝(ヴァイスエンペラドール)である」


「魔神、か。神を前にその名を騙ったこと、後悔させてやろう」


「減らず口を」



 白帝は風を置き去りにして駆けた。巨体に風圧を伴って、ロキへと迫る。


 白帝の爪が神速でロキへ。ロキはそれを拳で迎え撃った。



「しゃらあっ!」



 ロキはなんと、白帝のパワーを凌駕した。体躯に差もあり、そして白帝は魔法の効果で能力が向上しているのにも関わらず。


 しかし、力比べで勝ったとしても、決定打にはならない。ロキが拳に纏っている炎も、白帝のオーラに比べれば微々たるものである。


 何より驚くべきなのは、今の衝突でさえ篭手が壊れていないことである。ロキの拳もそうであるが、反作用というものを知らないらしい。



「たとえ速さで俺を越えていようと、それだけだ。本物の神と、格の違いを見せてやる」



 ロキは立ったまま、クイクイと手を動かした。


 体勢を立て直した白帝は犬歯を剥き出しにして、ロキに襲いかかる。



「甘いと言っているだろう!」



 白帝の爪を、またしてもロキは弾いた。しかし白帝も負けてはいない。一撃で弾かれるのなら何度でも。数で対抗するつもりらしい。



「ぐっ!」


「神の力とやらはどうしたぁ!」



 ロキが捌く速さより、白帝の攻撃スピードの方が速い。ロキは徐々に押され始めた。


 神速の攻防。その均衡が、今、崩れた。



「ぐはっ!」



 白帝の不意を突いた体当たりによって、ロキは高く跳ね飛ばされた。彼が落ちていく方角は、獣人たちの村。



〜獣人の村〜



「ロキっ!」


「ロキ君っ!」



 シャルルがロキの着地点へ先回り。降ってきたロキをどうにか抱き留めた。



「ゴホッゴホッ」


「ロキっ! 大丈夫?!」



 見るからに大丈夫ではない。ロキは口から血を吐いていた。顔もどこか青い。



「少しばかり内臓をやられた。人間の体はヤワで困る。ゴホッゴホッ」


「無理しないでっ。何があったの?」


「あの白黒、人間を喰って強くなるらしい。俺を案内した獣人が全員食われた」


「そんなっ」



 シャルルの後からついてきた、リーダーの彼女と、彼女に背負われたフランの顔が青ざめる。



「ロキ君っ、大丈夫なん?」


「まともに動ける状態では無いが。フランこそ大丈夫か?」


「大変だ。ロキが他人の心配してる。これは本格的にやばいかも」


「おい」


「あはは。うちもちょっと動かれへんかも。全身傷だらけや。しんどくてかなわん」


「ならシャル、少し頼まれてくれ。あいつは直ぐにでも追い打ちに来る。それまでにな」


「わかった。何をすれば良い?」


「動かれへんけど、魔法はまだ使える。うちにも出来ることあったら言うてや」


「俺にも手伝わしてくれ。皆の仇を取らなあかん」


「良いだろう。手伝え」



 ロキはシャルルに肩を支えられて立ち上がった。



「さて。神を嘲ったこと、後悔させてやる」



 そして、ロキは不敵に笑んだ。


 その数十秒後。獣人の村に、白帝が現れた。



「遅かったな。ご自慢の魔法はどうした?」


「無駄な力の使用は好まぬ。貴様を追うだけのことに、力を使うまでもない」


「温存なら温存と、そう言ったらどうだ。もし途中で切れたら俺に負けるから、使うに使えなかったんだろう」


「人間。図に乗るのも大概にせよ」


「図星を突かれて怒るなよ」


「とことんまで我をコケにするか、人間。良いだろう。貴様には即刻、死をくれてやる」



 白帝は飛び出した。ロキに向かって爪を突き立てる。


 先程も食らって、苦渋を舐めたはずのロキであったが、攻撃を受け流すその口元は笑っていた。


 なぜなら今回は、手塩にかけてきた弟子が横槍を入れるからである。



「貫通!」


「ぐぬっ?!」



 白帝の胴体に風穴が空いた。



「人間っ! 卑怯な手をっ!」


「卑怯なものか。お前も一緒だろうが。むしろこれでも足りないくらいだ。何人もの力を奪いやがって」


「ぐぬぅっ」



 白帝は紫のオーラを集積させ、傷口を塞いだ。そればかりか、完全に修復してしまったらしい。代わりに、オーラは全て消えてしまったが。



「これでご自慢の魔法の効果も無くなったな。シャル、やれ」


「うん。わかった」



 シャルルの姿が消えた。否、そう錯覚するほどの速度で動いたのである。


 このシャルルの攻撃を、白帝に避ける術は無い。はずであった。



「きゃっ!」


「愚かな人間よ! 我は一人分だけ力を残しておいたのだ! あの死体の山を喰ってしまえば元通りよ!」



 勝ち誇ったように笑い、白帝はシャルルを上回る速度を出した。ガラナに殺された獣人たちの死体へ急接近する。


 しかし、白帝は疑問に思わなかった。死体が一箇所に纏められている不自然に。


 白帝は死体に歯を突き立てた。その瞬間。



「ごめんな獣人さんら! 岩石槍(ストーンランス)!」



 死体を貫いて、地面から鋭い岩石の槍が白帝の口内を襲った。


 この死体は、リーダーの彼女が泣きながら一箇所に集めておいたのである。


 茂みに隠れたフランが謝った通り、死体に鞭打つ行為ではあるが、効果は覿面。


 最後の一人分を使い切った白帝は傷を治すことも出来ず、鮮血を撒き散らしながら悶えた。



「ゴホッゴホッ。上手くいったな。シャル」


「うん。わかってるよ。逃がさない」



 また血を吐いたロキの指示を受け、シャルルは剣を構え、白帝へと突き進んだ。


 白帝は悶えるのを止め、奥歯を噛み締めた。



「クソがあぁ!」


「貫通!」



 シャルルと白帝が交差した。


 白帝の胴体から後ろ足にかけて鮮血が飛び出す。しかし、シャルルに外傷は無い。


 ただ、その代わりに。



「貴様を喰らえばっ!」


「ロキっ!」


「ロキ君っ! 避けてっ!」



 シャルルとフランが叫んだ。


 しかし、立っているのがやっとのロキにそんな力は残っていない。ただでさえ白帝の動きは素早いのである。



「ぐああっ!」



 ロキはどうにか、足に力を入れて避けた。


 しかし、避けきることはできなかった。



「ロキっ!」


「ロキ君っ!」


「がああっ! ああっ!」



 ロキは左腕を喰われていた。地面に血を垂れ流し、叫び喚くロキ。



「ロキっ! ロキっ! しっかり!」


「ぐっ! シャルっ! 俺の事はいい! 早く、あいつをっ!」


「あかんっ! 回復してまう!」


「ぐははははっ! これで逃げるだけの力は稼いっ?!」



 白帝は笑ったが、そのすぐ後、突如苦しみ始め、もがき出した。



「がっ! がはっ!」



 白帝がのたうち回る度に、砂埃が立ち込める。


 やがてその砂塵が収まったとき、シャルルの目に映ったのは、白目を向いて倒れた白帝だった。



「死んだの?」


「いや、息はあるみたいやけど」


「ぐっ。はは。神を害するなんざ百年早い」


「その怪我で何言ってるの! 早く治療しないと!」


「おい、包帯だ。使え!」


「ありがとう。ええの?」


「死にかけの人間。それもこいつを倒した人間を放っておけるか! さっさと止血してやれ」


「ありがとうございます。ロキ、体動かすよ。ロキ。ロキ? ロキっ!」



 失血が故か、ロキは白帝の気絶を見届けると、意識を失った。



〜天上界〜



「よお親友。大変みたいだな」


「ここは。ああ、そういうことか」


「おっと、勘違いすんなよ。別にまだ死んじゃいない。敢えて言うなら死にかけってとこだな」


「ならいつもの空間にしろよ。こうも花があると勘違いもするだろうが」


「失敬失敬。しかし、ここまで体を張るとはな」


「体を張ったつもりはない。まったく、人間の体は弱くてかなわん」


「腕を一本無くして、体を張ったつもりはない、ねぇ。随分と向こうにご執心みたいだな」


「何せ、向こうは勉強が必要ない。これほど俺に合った暮らしは無いさ。お前もどうだ?」


「遠慮しておく。だけど、そこまで言うなら話を聞かせてくれよ。ぶっちゃけ、好きな子とかいんのか?」


「はぁ? 俺たちは神だぞ。恋愛感情なんて世俗的な物があるわけがないだろう」


「おいおい、人間の三大欲求を忘れたのか?」


「富と名声、それから何だったか?」


「馬鹿野郎。ひとつも合ってねえよ。食欲、睡眠欲、性欲。それが無い人間はいないらしい。つまり、村人に転生したお前にも性欲があるってことだ。性欲があるということは、恋愛感情だってセットのはずだろう」


「なんかグイグイ来るな、おい」


「人間の恋愛事情なんて、神の娯楽の最たるものだろう」


「そうだったのか」


「で、どうなんだ? お前の周りの女の子たちは」


「ふむ」


「気になる子とかいないか? 恋愛感情を手に入れた気分を教えてくれよ」


「そうは言うが、これといって明確な心情などないぞ」


「とりあえず周囲の構成だけでも教えろよ。今はどうなってる?」


「村人を辞めて冒険者になった。周りはいつもシャルルとフランがいる。この間まではアイリスもいたな」


「それでそれで? 気になる奴はいるのか? 性行為はしたか?」


「いねぇよ。してねぇよ。あいつらは仲間。友達だ」


「へぇ。俺以外に友達」


「意外そうな顔してんじゃねえよぶっ飛ばすぞ」


「悪い悪い。あれだけ人間がいれば、友達も出来るわな」


「はぁ。それより、今回のここは長くないか?」


「そりゃあ、瀕死状態だからな」


「どのくらい戻れないんだ?」


「長くて一週間。短くて数日だな。その間に最高位創造神様に挨拶でもしてきたらどうだ?」


「クソ親父に挨拶なんざ、誰が行くか」


「相変わらずツンツンだな。家を出てもうすぐ二十年になるってのに」


「神の二十年なんて、人間の二年だ。家出にしちゃ短いだろうよ」


「そういうもんかね。ま、好きにしろよ」



 それからロキは天上界で、親友の彼と語り合った。


 人間世界の自分の体がどうなっているかなど、考えもせずに。

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ