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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第四章・神話の始まり
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女装終了、追跡開始

〜モンテブルク郊外〜



 ロキはカツラを捨て、中性的な格好でホワイトタイガーの魔物と対峙していた。


 髪の長さが違うだけでこうも印象が変わるとは、新人男性二人も驚きである。


 ホワイトタイガーはロキの先制攻撃に対して、急ブレーキをかけることで躱し、少しだけ距離を取っていた。



「また会ったな」


「また貴様か。ちっ。厄介な人間だ」



 虎の身でありながら、器用に舌打ちをする魔物。



「なれば!」


「今度も逃がすと思うなよ」



 また粉塵を巻き上げ、逃走を図る魔物。しかし、回り込まれてしまった。



「どういう手品で逃げているか知らんが、お前を常に視界に入れていれば問題ない」


「くっ。しかし、それは浅知恵だ」



 ホワイトタイガーは粉塵の中を駆け抜け、シャルルの方へ目掛けて走った。



「人質を取ってしまえば良いだけの話よ!」



 魔物はシャルルに爪を立てた。常人であれば、大量出血間違いなしの斬撃。


 しかし、それをロキは棒立ちになって見ていた。欠伸さえする始末である。



「よりにもよって、俺と同等の速さのやつを選ぶなよ」



 ガキンという硬質な音と共に、ホワイトタイガーの爪は逸らされた。


 振り下ろされた魔物の前足。そのすぐ横にいたはずのシャルルは、一瞬のうちに懐へ潜り込んだ。


 ロキに似た、好戦的にも見える笑顔を浮かべて。



「せいっ!」


「なっ!」



 間一髪、魔物は横へ転がることで回避した。砂埃が舞い、美しい白黒の毛皮が薄汚れる。



「貴様もか!」


「あはは。ロキと同列扱いか。凹むなぁ」


「まあ、シャルちゃんはシャルちゃんで化け物やからな。普通の人とは身のこなしがちゃうもん」



 のほほんとした様子で会話する二人。対して魔物は焦りを感じていた。


 そして、そこへ迫るロキの影。



「それじゃあ、一発食らっておけ」


「ぐっ!」



 横っ腹に一発入れた。それだけで、魔物の巨体は数十メートル吹き飛ぶ。



「がはっ」


「まだまだいくよ」



 そこへシャルルの追撃。ホワイトタイガーの魔物も万事休すである。



「くっ。仕方あるまいっ!」



 ホワイトタイガーは切り札を使った。ロキの最高速度さえ超えるようなスピードで、北の山地へ逃げ帰ったのである。



「はやっ。追いつけないよ」


「だが、これで方角は掴んだな。追いかけるか」


「そうやね」



 呆然と立ち尽くす新人冒険者三人を忘れて、ロキたち三人は北へ走り去った。


 ロキのカツラをフランが回収し、シャルルは無論そのフランを背負って。



「何だったんだ、あの人たち」


「まさかあれ、三人共女装じゃねえよな」


「そこじゃねえだろ。俺、あの人たちの動きほとんど見えなかったぞ」


「せめてあの銀髪の娘だけは女の子でいて欲しいな」



 女性への執着が強すぎる彼に、もう一人の彼はやれやれと肩を竦めた。



〜翌日・モンテブルク北〜



「どこまで行ったんやろな、あの魔物」


「体力だけは、人間でも及ばないらしいな」



 キャンプで夜を明かし、ロキたちは走っていた。



「ねえロキ。今日はロキちゃんしないの?」


「しねぇよ。街は離れただろうが」


「もうすぐ山に入るで。シャルちゃん、うちを背負ったままで大丈夫?」


「うん。山というか、けもの道は慣れてるから」


「遊び場が林だったからな。この程度、速度を落とすまでもない」


「山道と林やったら勝手がちゃうんちゃう?」


「まあ、多分大丈夫でしょ」



 楽観的な思考と共に、薄暗い山の中へ入った。


 そんなロキたちのそばで茂みが動いたことに、彼らは気づいていない。



〜十数分後〜



「見通し悪いね」


「勾配がある分、先が見にくいな」


「足元見とかなコケてまうし。シャルちゃん、降りよか?」


「ううん。大丈夫。しっかり掴まってて」



 シャルルが足に力を入れ、ぐっと踏み出そうとしたとき、ロキが呼び止めた。



「おい、シャル。止まれ」


「え? どうしたの?」



 ロキは斜面の先を睨んでいる。フランとシャルルも同様に目を凝らすと、風もないのに茂みが揺れていることに気がついた。



「誰かいるのか!」



 茂みの揺れが激しくなった。図星であるらしい。


 やがて揺れが止まったかと思えば、その茂みから矢が飛んできた。



「うわっ!」


岩石鎧(ストーンメイル)!」


「いきなり攻撃とはご挨拶だな」



 飛んできた矢を、ロキは小盾で防ぎ、フランは魔法でシャルルの分も防いだ。



「シャルちゃん、下ろして」


「うん」


「こんな所に人間が住んでいるとはな。それも、余所者をとことん拒むらしい」


「確かに、弓を使う魔物なんて聞かへんしな」


「にしたって、この攻撃はどうなの?」



 次々と矢が飛んでくるが、シャルルは剣で弾き、フランは魔法と短剣で起動を逸らしている。ロキはその場で踊るように躱していた。



「ロキ、避けるのはいいけど、荷物に当てないでよ」


「わかっている。しかし、いつまで続ける気だ?」


「いい加減無駄って分かってもええもんやけど」



 フランがそう言った途端、ロキの横から矢が襲ってきた。



「ちっ」



 ロキはその矢を首の捻りで躱した。頬の下部が切れ、血が滲んでいる。



「なるほど。前からは陽動というわけだ」


「ロキじゃなきゃ死ぬよね、今の」


「ヘッドショット狙っとったな」


「お前らも周りに気を配れよ」


「了解」



 矢が飛んでくる方向が増えたとて、することは変わらない。落ち着いて対処すれば、三人に躱せない攻撃などないのである。



「さて、このいたちごっこ、いつまで続ける気だ?」


「そら、矢が無くなるまでちゃうの?」


「わかんないよ。いつ増援が来るか」



 いずれにせよ、長期戦になることは間違いない。



「まずは敵の考察から始めるか」


「ちょっ、呑気すぎない?」


「でも、考察もしたくなるやんな。こんなけ攻撃されっぱなしっていうんはさすがにおかしいで」


「来る者全てを拒む理由があるのか?」


「それとも、私たちが人間だと分かってやってるのかな?」


「あっ」



 フランが何かに気づいたように声を出した。



「まさか、獣人やったりする?」


「なるほどな。それは人間を拒むはずだ」


「明らかに殺りに来てるし、そう考えるのが妥当だろうね」


「予想では埒が明かない。茂みでコソコソ弓を引くあいつらに、直接聞いてみるか」



 ロキは、矢が飛んできた方を見つめ、口を開いた。



「お前ら、もしかして獣人か?」


「とぼけんな人間! お前らも俺らを捕まえに来たんやろ!」


「本当に獣人なの?」


「そうや! どの道ここで死ぬお前らには関係あらへんやろ!」



 茂みからそう声が聞こえたかと思うと、矢の雨は一層苛烈になった。四方八方から矢が飛び、ロキたちの命を狙う。



「わわわっ!」


「ちっ、面倒な」


「しゃあないな。うちが一肌脱ぐわ」



 フランはそう言うと、ぴょこんと耳を顕にした。



「見ての通り、うちも獣人や! 攻撃すんのはやめて!」


「人間を引き連れた獣人などいるものか!」


「確かに人間っぽい見た目しとるけど、耳もある獣人やで!」


「奴隷に落ちた獣人か! 人間を引き連れてきた裏切り者が!」


「うちはここの出身でも、獣人を売ったわけでもない! この人らは大丈夫な人らやねん! 反撃もせえへんやろ!」


「信用できるか!」



 そうは言いつつも、同族を守る義理はあるらしく、フランに矢は飛んできていない。


 その分、ロキとシャルルに向かうわけだが。



「その気になればお前らを制圧するのは容易い。それをしないでやっているんだ。敵意がないことはわかるだろう」


「強がりを! この攻撃を浴びて生き残った者なんておらん! はったりに決まってる!」


「そう思うか。なら、証拠を示してやろう」


「はぁあ。せっかくフランちゃんが前に出たのに、結局こういう手段になっちゃうのか」


「まあ、しゃあないで。聞き分けのないあの人らも悪いんやし。人間がしてきたことの方が悪いけど」


「憎き人間! 今にお前の頭をこの矢が撃ち抜いてっ?!」



 獣人の声が途中で途切れた。シャルルがふっと横を見れば、そこにロキの姿はない。


 次々と獣人の苦悶の声が響く。次第に、シャルルに飛来する矢の数も減っていった。



「神を害するなんぞ百年早い」



 ついに、一本も矢は飛ばなくなった。


 ロキが茂みから出てくると、その背後には悶絶する獣人たちが連れられていた。



「頬に傷は出来てるじゃん」


「細かいことを気にするな。禿げるぞ」


「何その恐ろしすぎる言葉」


「それよりロキ君、ちゃんと手加減したやんな?」


「ああ。この間フランにしたのと同じ手刀だ」


「それ、安心できるの?」


「それは置いとくとして、とりあえず武器を取り上げよか」


「ああ」



 彼らが手に持つ弓を回収する。



「なんか、女の人が多くない?」


「そうだな」


「嫌な予感がするし、目が覚めても聞かへん方がええと思うで」



 辺りに散乱している矢も集めようかというとき、彼ら。彼女らは目を覚ました。



「人間っ! 俺たちをどうする気や!」



 口火を切ったのは、先程も反駁していた獣人のリーダー格。犬のような耳と尻尾が生えている。俺という一人称ではあるが、女性である。



「だから落ち着いてや。なんも危害を加えたりせえへんって」


「もう加えられたやんけ!」


「どこも痛くないだろう。いつまでも攻撃され続けていては埒が明かないから、武装は外させてもらった」


「私たちも武器は置くから、話を聞いて」


「ぐっ」



 抵抗は不可能だと、リーダー格の彼女は力を抜いた。


 代わりに、倒れていた一人が急に立ち上がり、ロキに向かって接近。矢を剣代わりに切りかかる。



「やあああ!」


「無駄なことをするな」


「きゃあっ!」



 弓の扱いは達者でも、剣の扱いは素人らしい。


 ロキはあっさりとそれを躱し、子どもから玩具を取り上げるかのように矢を奪った。



「はぁ。まずは話を聞けよ。縄で縛ることもしていないんだ。この意味が分からないほど馬鹿じゃないだろ?」


「俺らの体目当てとちゃうんやったら、何が望みや」


「言い方どうにかならない?」


「うちら、でっかい魔物を追いかけてきたんや。白黒でフサフサで、牙とか爪とか生えとるやつ」


「なんやて?」



 犬っぽい彼女は訝しげにロキたちを見た。



「この辺りへ逃げていったはずなんだが、何か知らないか?」


「知らん」



 彼女だけは、強い眼差しでロキたちを見つめてきた。しかし、他のメンバーは、皆一様に目を逸らしている。



「なんか知っとるみたいやな」


「知らんわ!」


「魔物なんぞ匿ったところで意味は無いだろうに。なぜ嘘を吐く?」


「嘘ついてへんわ!」



 凄い剣幕である。それに対し、彼女の背後は、諦めたような顔つきの者ばかり。


 その中の一人が口を開いた。



「お望みのことは何でも話しますから、どうにか見逃してはもらえませんか!」


「なっ、おい!」


「まだ幼い子どもがいるんです! どうか、どうか!」


「はぁ。勘違いしているみたいだが、さっきから言っているように、お前らをどうこうしないし、ここのことを国にも言わない。神は約束を守るものだ。その代わり、少しだけ情報提供を頼めるか?」


「はい!」


「だそうだが?」


「ぐっ。我が身可愛さにこの地を捨てようっちゅうんかっ」


「はぁ。まだ俺たちのことを疑うのか。もう大多数は俺たちに傾いているようだが」


「ぐぬぬ。わかった。情報を提供しよう」


「理解が良くて助かる」


「ただし条件がある」


「何だ?」


「お前の横にいる獣人をこっちへ。そいつに情報を提供する代わり、しばらく人質になってもらうで」



 リーダー格の彼女はフランを指さした。



「うち? 別にええけど」


「良いだろう。ただし、フランに手を出せばそのときは、分かっているな?」



 威嚇として、ロキは殺気を放った。次は殺す。そう脳髄に刻み込まれたことであろう。



「わ、わかった。そいつをこっちへ」


「行ってくるな、二人とも」


「襲われそうになったらすぐに帰ってきてね」


「俺たちは麓でキャンプでもしておく」


「うん、わかった。ほな、また後でな」



 フランは獣人たちに連れられ、山の奥深くへ入っていった。

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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