サプライズ
〜翌朝〜
やけにツヤツヤとしたフランとアイリスが、部屋から出てきた。互いに出すものを出して、スッキリしたらしい。
「おはよう、シャルちゃん!」
「おあよう、二人共」
元気で揃った二人の挨拶に、シャルルは欠伸混じりに応えた。ロキも連れ添って、である。
「息ぴったりだな」
「そうなのよ」
「身も心もひとつになったって感じやんな」
意外にも、恥じらうことなく普通に会話をする二人。
シャルルはそこへ、好奇心が故に首を突っ込んでしまう。
「その、女の子同士ってどうだったの?」
「お姉さん、凄かったで」
「フランちゃん、良い悲鳴を聞かせてくれたわ」
二人とも、赤く染まった頬に手を当てる。
「へ、へぇ。一応聞くけど、フランちゃんって初めて?」
「当たり前やんか。だから困ってたんやん」
「初めてって、痛くないの? というか、どうやって繋がったの?」
「そら最初は痛かったけどだんだん気持ちよくなっていったで」
「あら? 繋がった?」
「だって、二人とも女の子だから、その、おちんっ、男性器、無いじゃない?」
シャルルのワードに、フランとアイリスは顔を見合わせた。そして、ニヤリと笑う。
「あんな、シャルちゃん。勘違いしてるみたいやけど、うちがやって貰ったんはマッサージやで?」
「へ?」
「あらあら? シャルちゃんは何と勘違いしたのかしら?」
「え、あ、え? でも、昨日」
「あー、気持ちよかったわ、お姉さんのマッサージ」
「良い悲鳴だったわ、フランちゃん」
「アイリスお姉さんがやばい人なのは変わりないけども」
困惑しつつも、ツッコミは冷静なシャルルである。
「で、シャルちゃん。うちらが何してたと思ったん?」
「お姉さんにも是非聞かせて欲しいわ」
「え、あ、う」
シャルルは悟っていた。こうなったフランは、意地でも自分が言うまでこれを止めないのだと。
「せっ、じゃなくて、えと。性交渉?」
「同性で、どうやってやると思ったん?」
「それは、手、で?」
「夜な夜な一人でしているみたいに、かしら?」
「してないよ! フランちゃんもいるんだから!」
「うちがおらんかったらやってるん?」
「やってない!」
結局いつもの通り、赤面して逃げ出すシャルルであった。
アイリスはその光景を微笑ましく見ているが、どこか寂しさも垣間見得る。
〜モンテブルク・街頭〜
「シャルちゃん、どこへ行ったのかしら」
「初めてやな、こんな遠くまで逃げんの」
「気にするほどでもないだろう。どうせすぐに戻って来る」
「そうやね」
「そうなのかしら?」
フランとロキは落ち着いているのに対し、アイリスは若干不安げである。
「少し弄りすぎたかしらね」
「気にしなくても大丈夫だ」
「ほら、帰ってきたで」
視認出来る程度のスピードで、シャルルは帰ってきた。その手には、小さな包みを持っている。
「もう、フランちゃん。タイミングを作ってとは言ったけど、絶対楽しんでたでしょ」
「あはは。でもそのおかげで自然な流れやったやろ?」
「どういうことかしら?」
「何日か前にな。アイリスと別れるときの土産を選んでおいたんだ。シャルルは今それを取りに行っていた」
「え? でも、そんなタイミングあったかしら? お姉さん、いつもフランちゃんとシャルちゃんと一緒にいたけれど」
「お前らが風呂に入っている間、俺が買ってきてやったんだ」
「ロキが選んだものだから、センスが心配ではあるけど」
「うちらが細かく指定したんやし、大丈夫やって。ともあれ、サプライズ大成功やな」
してやったり、と笑顔を咲かせるフランやシャルルに釣られ、アイリスにも笑顔が咲いた。いつもの微笑みとは違う、本物の笑顔である。
「とっても嬉しいわ。ありがとう。開けても良いかしら?」
「ああ」
「きっと似合うと思うよ」
包み紙から出てきたのは、菱形が並んだ形のヘアピン。光に当てたとき、キラキラと反射する。
「付けてみてや」
「どうかしら?」
「うん。やっぱり似合うね」
「ありがとう、三人共。大切に使わせてもらうわ」
「お姉さん、しばらく会えへんけど、うちらのこと忘れんとってな」
「またそのうち会いにいくからね」
「ふふ。そのことだけれどね」
ヘアピンのケースを懐に仕舞ったアイリスは、いたずらっぽく微笑んだ。
「実は、お姉さんの変わりを用意しておいたの」
「どういうことだ?」
「どういうこと?」
「どういうことなん?」
三者三様、驚いたように間抜けな顔をする。
「これよ」
アイリスが取り出したのは、小さい人形。決して精巧とは言えない出来だが、アイリスを模してあることはわかる。
「お姉さん、子どもじゃないんだから」
「そうやで。気持ちは嬉しいけど、うちらを子供扱いしすぎやわ」
「ふふふ。それが違うのよ。シャルちゃん、それを持って少し離れてもらえるかしら? 出来るだけ遠くね」
「え? うん。わかったけど」
頷いた後、シャルルは風になった。
「そろそろいいかしら。あーあー、シャルちゃん、聞こえる?」
「お姉さん、何しとるん?」
「こんなところから聞こえるわけがないだろう」
「それが聞こえているみたいよ。シャルちゃん、聞こえたら右手を上げて」
ほとんどタイムラグ無しで、遠くのシャルルは右手を上げた。
「ありがとうシャルちゃん。戻ってきて良いわ」
「お姉さん、これどういう仕組みなん?」
「ふふふ。これはね、お姉さんの魔法、通信電波を利用して作った通信機よ。これで離れていても会話が出来るわ」
「返答はアイリスにだけ聞こえるというわけか」
「ええ」
そこへシャルルが戻ってきた。
「さすがお姉さん。すごいね」
「そうでしょう? こればかりは自信があるわ」
「うちにもその才能分けて欲しいわ。うちも新しい魔法とか使ってみたい」
「ふふ。フランちゃんも、歳を重ねれば出来るようになるわ」
「おいアイリス、それは墓穴じゃないか?」
「良い男たるもの、都合良く聞き逃すものよ」
暴論である。
「さて。通信機も渡したことだし、ここでお別れね」
「うん。またね、お姉さん」
「次会ったら魔法教えてな?」
「ええ。またね」
手を振り、現在復旧中のゲートへ歩き出そうとして、アイリスは振り返った。
「そうだ。今日の午後、またあの白黒の魔物が来るわ。今度は取り逃がさないようにね」
「助かる」
「お安い御用よ。それじゃあね」
今度こそアイリスはゲートを迂回し、ミルクの街へと帰って行った。
「さて、じゃあ一旦宿に戻ろっか」
「そうやね。今はまだ朝早いけど、これから人が活動しだすやろうし」
「おい待て。まさか」
「行こっか、ロキちゃん」
「あんまり低い声で喋ったらあかんでロキちゃん」
「昨日は冗談でやったはずだろ! 今日はやらんぞ!」
「今日もやるに決まってるじゃん」
「この辺りの街におる間はな?」
「ぐっ」
なんとしても魔物を捕まえて、一刻も早く女装生活を抜け出したいロキであった。
〜正午ごろ・モンテブルク郊外〜
「はぁ。張り込みは良いが、ここでまでこんな格好をする意味があるのか?」
「あるって。うちら向こうから顔バレとるし、変装する意味はあるよ」
「大丈夫、ロキちゃん可愛いよ」
「だからそういう問題じゃあないんだが」
ロキはまたため息を吐く。
「それよりロキちゃん、あんま喋らんとって。せっかく見た目綺麗やのに」
「そうだよ。黙ってればアイリスお姉さんと肩を並べられるんだから」
「それはアイリスに失礼じゃないか?」
「本当のことだもの、仕方ないわ」
「うわっ! 何回聞いても、人形から声出てくんのビックリするわ」
「アイリスお姉さんも認めてることだし、ロキはこれから喋ったらダメだよ」
「理不尽だ」
そうは言いつつも、言われたことを守るロキであった。
モンテブルクの外壁周辺でそんな無駄話をしていると、ゲートから出てくる一団がロキたちの視界に入った。
「あれ、初心者冒険者っぽいね」
「あんな初心者オブ初心者みたいな格好の人らっておんねんな。驚きやわ」
彼らの装備は木製中心。武器こそ金属で出来ているが、防具などは良くて皮である。
一団の構成は、男性二人に女性一人。期せずして、ロキたちと反対の構成である。
「お姉さん、魔物が来るまで時間あるやんな?」
「ええ。そのはずよ」
「ちょっとあの子らの様子見とこうや。どうせそれまで暇なんやし」
「いいね。先輩として、後輩を陰から見守ろう」
自分たちだって冒険者になりたてと言えばそうであるのだが、そんなことはお構い無しに彼らを見守るシャルルたち。見守るというより、監視のようである。
「はぁあ。せっかく小間使いみたいな依頼から抜け出したのに。小物の相手しかできねえのか」
「文句言うなよ。俺たちならすぐにAランクまで行けるだろ」
どこかで出会ったことがあるような雰囲気の新人男性二人である。一人だけ、マフラーをして魔女帽を目深に被った暗い雰囲気の女性がいるのだが、二人の後ろから特に会話に参加せず黙々と歩いていた。
「さて。お前の出番だぞ」
「探知魔法だ」
新人女性はこくりと頷くと、本当に小さく、誰にも聞こえない声で詠唱を行った。
しばらくすると、新人女性は振り返り、ロキたちが隠れている木を指さした。
「そこか!」
「よぉし。とっ捕まえてやる!」
ロキたちは焦った。しかし、なんのことは無い。特段悪いことをしていたわけでもないのである。
「勘違いさせてもうたみたいやな」
「ごめんなさい。私たち、魔物じゃないんです」
素直に姿を表したシャルルとフラン。新人女性はレーダーが反応を失ったように、手を下ろした。
「おぉぉ」
「美男美女とはこのことか」
男性二人は、シャルルとフランのコンビに見とれていた。そしてロキは、まだ木陰から出ていない。
「初心者っぽさが出とったから、心配で見とったんです」
「こんな街道沿いなら大丈夫ですけど、森とかに入るなら油断しないでくださいね」
「ご忠告、どうもありがとう」
「ちなみに、その子は?」
男性の一人が、目ざとくロキを見つけた。しぶしぶ、ロキは木陰から出る。
「おおお!」
「ふつくしい」
ロキの女装に、二人はすっかり魅了されているようだ。
ロキの姿には、今まで興味を示さなかった女性も興味を示し始めた。
喋ることを禁じられたロキと、しばらく見つめ合う。
「ちょっと、ロキちゃん。何してんの?」
ロキと彼女は、謎のシンパシーを感じているらしい。握手をし、互いに頷きあった。
「よく分かんないけど、仲良くなったの?」
コクリ。ロキは頷く。シンパシーだけでなくテレパシーも感じているのだろうか。
「よく分からない交信は置いておいて、お嬢さん方、どんな御用でここに?」
「もし良ければ、この後お茶でもいかがですか?」
わざとらしいキメ顔で、男性二人が誘ってくる。少し後ろにはパーティメンバーの女性がいるのにもかかわらず。
「えーと、ごめんなさい。私にはこの人がいるので」
「シャルちゃん、それって」
「やっぱりかぁ。ちくしょー! イケメンが羨ましい!」
「まだだ。まだ、そちらのお嬢さんはどうだろうか」
ロキは、あえて表情を変えずに、フランの側へ寄り添った。
「なっ?!」
「ハーレム状態、だと?!」
男性二人に、雷でも落ちたかのようなエフェクトが現れた。
実際は、男に言い寄られる経験に悪寒を感じたロキがフランに助けを求めただけであり、性別的にもめちゃくちゃであるのだが、そんなことを二人は知る由もない。
「くぅ! 実にけしからん!」
「世の中理不尽だ!」
嘆く二人。そんな二人の背後から、より大きな絶望が迫っていた。
「あ」
声を発したのは、今まで一言も喋っていなかった新人女性。何かに気がついたようである。
「来たみたいやね」
「うん。嘆いてるところ悪いけど、この人たちには避難しててもらおっか」
「この二人、お願いできます?」
女性はこくりと頷いた。そして、嘆き叫ぶ二人にビンタをし、現実へ連れ戻す。
「いてぇ!」
「何すんだよ!」
「いいから逃げて。巻き込まれるよ」
「うちら、人を守りながら戦うんは得意とちゃうねん」
「お嬢さん方、いったいなんのはな、し?」
「あれ、どう見てもやべえよな」
男性二人は、あまりの光景に呆然としていた。
何やら白い物体が、高速で近づいてくる。新幹線のようなスピードで。トラウマレベルである。
「に、逃げろおおお!」
「お嬢さん方も早く!」
「ああ、うちらは大丈夫やで」
「気にしないで逃げて」
「いや、そういうわけにも!」
「あれ? さっきの美しい女性は?」
彼らはロキを見失っていた。無理もない。なぜならロキは。
「らあっ!」
カツラも外し、男らしい雄叫びを上げて、接近する白い物体に拳を向けていた。
お読みいただきありがとうございます。
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