ミルクの街で下ネタ問答
〜三日後〜
ロキたち四人はミルクの街に到着した。
「んー! 潮風が気持ち良いなぁ!」
「そう? うちはあんまり好きちゃうなぁ」
「お姉さんは好きよ」
「いいからまともな風呂に入りたい。二週間弱水浴びだけという生活はうんざりだ」
「あ、ほんとそれ!」
「ほんまに。ちょっと臭うわ」
「お風呂もあってリーズナブルな良い宿があるのよ。紹介するわ」
「わーい!」
「ガイドさんがおると助かるわ」
フラン、シャルル、ロキは、街へ入ってすぐにある、アイリスが勧める宿に入った。
華美な装飾こそ無いものの、所々に置かれた小物は上品で、気品に溢れた宿である。
「マリアブルクの宿より綺麗だね」
「マリアブルクは観光都市とはちゃうから。どっちかって言うと住んでる人が多いんよ」
「それに比べてミルクは港町だから。外国からもお客さんが来るし、海水浴客も来るのよ。それから、私みたいな商人もね」
「宿は綺麗でなくては、ということか。なるほど」
「えっ、アイリスお姉さん、ここって海水浴場があるの?」
「そうよ。行ってみてはどう?」
「やったぁ! 落ち着いたら行ってみようや、ロキ君!」
「構わんが、シャルも俺も海は初めてだな」
「そらうちもやで。アビスブルクから出たことないもん」
シャルルとフランは期待に胸を踊らせていた。ロキとアイリスは、そんな二人に微笑ましげな視線を送っている。
「そういえば、連れてきて貰ったのは良いけど、アイリスお姉さんはこれからどうするの?」
「確か、荷物もほとんど無くなったんちゃうん?」
「ああ、この街にはね、私が加盟している商業同盟があるのよ。冒険者ギルドと対比して、商業ギルドなんて呼ばれたりするわ。マリアブルクにもあって、お姉さんはそれを目指していたのよ。そこでどうとでもなるわ」
「そうか」
「お世話になったわ。また遊びに来るから、お礼はそのときにね」
「別にお礼やとか、気にせんでええよ」
「一緒に旅が出来て楽しかったし」
「まあ、くれるというなら貰うがな」
「ロキ君!」
「ロキ! 空気読んで!」
「うふふ。また来るわ」
〜翌日〜
「早速来てしまったわ」
「いらっしゃいお姉さん!」
「せっかく来てもらって悪いんやけど、うちらこれから冒険者ギルドで仕事しに行くんよ」
「それなんだけれど、商業ギルドで面白い話を聞いたのよ。冒険者ギルドへ依頼に行ったらしいから、一緒に見に行きましょう」
「お、おう。いやに積極的だな」
「お姉さんでも手伝えそうな内容だったから、これもお礼になるかと思ってね。もちろん、これでも一部なんだけれど」
「気にしないで良いのに」
「でもありがとうな、アイリスお姉さん。早速向かおか」
〜冒険者ギルド〜
「これよ」
「なんやこの依頼?」
「漁業のお手伝いさん募集?」
「今日出航予定だった船に欠員が出たらしいのよ。力自慢なら誰でも良いらしいわ」
「それならロキ君にピッタリやけど」
「なんか違和感あるよね。欠員が出ただけで初心者しかいない冒険者ギルドにまで頼むかな?」
「それに報酬も破格だ。怪しいな」
「そ、そんなことないわ。お姉さんの伝手からだもの。信頼していいのよ?」
「うーん、お姉さんも行くなら大丈夫かな?」
「依頼かてタダでできるわけちゃうし、信頼してもええんちゃう? お姉さんもこう言ってるし」
「俺はこいつ自体が怪しいと思うんだが」
「そ、そんなことは」
「もう、ロキ。疑ってかかったらお姉さんが可哀想でしょ」
「そうやで。三日も一緒に過ごしたんやから、信頼出来る仲になっとるやんか」
シャルルとフランの説得により、ため息を吐きつつもロキは折れた。
アイリスが小さく安堵の息をついたことには、誰も気づいていない。
〜港〜
「よろしくお願いします」
「よろしく頼む」
「おう! 姐さんの頼みだからな! 今日はよろしく頼むぞ!」
一瞬、アイリスの目が開いた。
瞬間、船頭の顔が青くなる。
「姐さんって誰なんですか?」
「うおっと。こいつぁ秘密なんだった。すまねえな」
「顔色が悪いが、大丈夫か?」
「問題ない、問題ない。ははは」
「船酔いですか? 休んだ方が良いんじゃあ」
「問題ないってばよ。さっさと乗り込みな。出航すんぜ」
多少船頭の語尾がおかしくなりながらも、船は特にトラブルなく出航した。
「さて、ここだ。引き上げるぞ。手伝ってくれ」
「力仕事のようだな。俺がやろう」
「今更だけど、うちらみたいな非力な女の子ばっかり来てよかったんかな?」
「まあ大丈夫だよ。ロキが四人分の働きをするから」
「おい、俺頼みか」
「姉ちゃん達には、選別の作業を手伝ってもらうからよ。ちょっと待っててくれ。おい、兄ちゃん、一気に引くぞ」
「ああ。良いだろう」
特に掛け声も無く、ロキが思い切り腕を振り上げた。
まるで一本釣りかのように、海から網が上がってきた。それをロキがキャッチ。見事なロープ捌きである。
「これで良いのか?」
「お、おう。次のポイントへ行くから、その間に姉ちゃんたちで選別を頼む。魚の色毎に水槽を分けてあるからよ」
「はーい」
選別の作業では、シャルルの速度が異常だった。まるで高速道路のように、魚たちが船の上を移動する。
そしてフランは、その選別に間違いが無いかのチェック。スキルを存分に生かした作業であった。
アイリスはその姿を見るばかり。心做しか、トレードマークの笑顔が引きつっている。
「シャル、次行くぞ」
「はーい。って何それ」
ロキが手に持つ網には、口元が赤いイルカのようなものが外から食いついていた。若干グロテスクな見た目をしている。
「おい兄ちゃん! 今すぐそれを海に戻せ!」
「船頭さん、何なんあれ?」
「あいつはグラトニー。何にでも齧り付いて食べちまう海の魔物だ。船に上げたが最後、船員全員が食われちまう。今はこんなにか弱い女の子がいるんだ。何としても上げちゃなんねえ」
焦る船頭の元へ、シャルルが近づいた。
「船頭さん、あれって殺しちゃえば問題ないでしょ?」
「え? あ、お、おう」
船頭さん、美少女シャルルの突然のブラックな発言に引き気味である。
「ロキ、そのまま持っててね」
「ああ。俺に当てるなよ」
「当てないよ」
シャルルは細剣を鞘から抜いた。
「おい姉ちゃん! 殺すったって、そいつの皮にゃどんな業物でも弾かれちまう! いいからリリースしちまえ!」
「貫通」
シャルルがスキルの名を口にし、剣を振るう。すると、直接は当たっていないはずなのに、グラトニーとやらに風穴が開いた。
実は貫通というスキル、刀身の倍ほどまで効果が出るのだ。
バチャンという音と共に、その死体が海に墜落した。シャルルが返り血さえ浴びていない剣をしまうと、死体はやがてプカプカと浮き上がる。
「えぇ」
「さて、作業を再開するぞ」
船頭は唖然としていた。その時の間抜けな顔と言ったら、アイリスとフランが思わず吹き出すほどである。
〜昼過ぎ〜
「お疲れさん。いやぁ助かったぜ。あとの選別はこっちでやっとくからよ。上がっていいぜ」
「はーい。じゃあこの証明書にサインをお願いします」
「二人のおかげで楽ちんやったな、アイリスお姉さん」
「ええ、そうね。お姉さん、ずっと暇だったわ」
アイリスは肩をすくめた。
「おっとそうだ。報酬の他にこいつ、貰ってってくれ」
「何の魚ですか?」
「さっきのグラトニーの切り身だ。見た目はアレだが、案外美味いんだ。食べてみてくれよ」
「ええんですか?」
「あれを水揚げできたのは姉ちゃんのおかげだからな。是非持って帰ってくれ」
「ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をするシャルルの隣で、ロキは欠伸をした。
「楽な仕事だったな」
「はっはっは。普通の漁師でも時間がかかる作業なんだがな。漁師の才能があるんじゃないか?」
「ダメだよ、ロキ。私と一緒に冒険者してくれないと」
「分かっている。今更鞍替えなどしない」
シャルルはロキの返答に笑みを深めた。それに機嫌を損ねた者が一人。
「ロキ君はうちと冒険者を続けてくれるんやもんね」
「私のためだよ!」
「はぁ。どっちでもねえよ、面倒くせえな」
「あらあら、うふふ」
「おいおい、羨ましいねぇ兄ちゃん」
この後、ロキは散々船頭にからかわれた。
〜ミルク・街頭〜
「うわ、港から離れると生臭いね」
「はよお風呂入ろうや」
「あの宿のお風呂って広かったはずよね? お姉さんも一緒に入って良いかしら」
「もちろんだよ! 背中流しっこしようね!」
「アイリスお姉さんの立派なおっぱいを見るチャンスやね」
「あらあら。ご期待に添えるかしら?」
「お前ら、そんな話は俺がいないときにしろよ」
「何? ロキ、おっぱいの話に気まずくなっちゃってるの? それともお姉さんの裸を想像して興奮した?」
「ロキ君も可愛ええところあるやんか」
ニヤニヤと笑うシャルルとフランに、ロキはため息を吐いた。
「お前ら、下ネタに関してオープンになったよな」
「そうかもね」
「うちとシャルちゃんで色々見せあったもん」
「ちょっ、その言い方語弊があるよ。一緒にお風呂入っただけでしょ」
「ん? 語弊? 裸の付き合い以外にどんな語弊があるんかな? うちに教えて?」
「うえっ?! それは、その」
「ほらほらどんな?」
「お、おな、おな、に」
「んー? もっと大きな声で言うてみ?」
シャルルは真っ赤になって俯いた。
そして、真っ赤な顔のまま視線をアイリスに合わせた。
「アイリスお姉さん、何をしたらおっぱいがそんなに大きくなるの? 教えて欲しいんだけど」
「逃げたな、シャルちゃん。もぉ、まだまだ初心なんやからぁ」
フランは舌なめずりをしたが、追い討ちはする気がないようだ。少なくとも下ネタでは。
「むふ。シャルちゃんは大変やろなぁ。うちはそこそこあるし、これから成長もするけど」
性悪な笑みで別タイプのからかいをするフランに、シャルルの堪忍袋の緒が切れた。
「フランちゃん、覚悟してね」
「え、ちょっと待って。ごめん。謝るから。刀抜くんやめて?」
「貫通」
「いやー! うちが切り身にされてまうー!」
アイリスが、フランを追いかけるシャルルの前に立ちはだかった。
「こーら。喧嘩はだめよ?」
「むぅ。でもフランちゃんが」
「フランちゃん、謝りなさい」
「でもシャルちゃんも」
「謝りなさい?」
フランの表情が一瞬で青くなった。かと思うと、すぐに赤みが差して、ぺこりと頭を下げた。
「ごめんな、シャルちゃん」
「う、うん。私もちょっとやりすぎた、よ?」
肩透かしを食らったかのような表情で、シャルルも頭を下げた。
「いつもはなんだかんだと難癖をつけて引っ張るくせに、いやに殊勝な態度だな、フラン。アイリスに何をされたんだ?」
頭を上げたフランは、顔が赤く、少し息が荒い。
「アイリスお姉様の表情、めっちゃ怖かってん」
「それでどうしてそんなに興奮しているんだ」
「お姉様のあのキッツい目、ゾクゾクするねんて」
「フランちゃんってそっちの気があるよね。もしかしてドMなの? えー変態じゃん」
ここぞとばかりにシャルルが攻め立てる。
「そうみたいやわ。やからロキ君、うちを罵倒して?」
「断る。近寄るな生臭い」
「断りつつちゃっかりやってくれるんやね。でもあんまり興奮せえへんなぁ」
「フランちゃん、それでいいの?」
まさかの事態に、シャルルはもはや引いている。
おかげで、喧嘩という雰囲気でも無くなってしまった。
「ほらほら、皆でお風呂に入りましょう。お姉さんも裸の付き合いに入れて?」
空気を戻すため、アイリスが手を叩いた。
「あ、うん」
「はーい」
アイリスに対し、フランとシャルルの混沌とした雰囲気を打ち消す力があるのではと期待するロキであった。
お読みいただきありがとうございます。
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