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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第三章・東方見聞録
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神の所有物

〜マリアブルク・路地裏〜



 耳はおろか、恥部まで晒されようとしているフランと、スキンヘッドの大男を屋根の上から見下ろすロキ。



「なっ! どうしてここが!」


「虱潰しに探した結果だ。もう少し周りに気を配ることだな」


「何を言っている! マリアブルクがどれだけ広いか知っているのか!」


「ああ。だからこんなにも遅くなった」


「んー! んー!」



 フランに希望の表情が現れた。



「はっ。そんなにこの奴隷が大事か。ならお前の大切なものをここで奪ってやるよ!」


「奴隷? 馬鹿を言うな」



 スキンヘッドが手を動かそうとしたが、その瞬間にはロキは既にそれを押さえていた。


 スキンヘッドはフランのズボンからも手を離し、慌ててロキの手を払った。そのまま殴りかかったが、ロキはそれをバックステップで躱す。



「こいつは俺の大切な大切な友人だ」


「友人? 獣人がか。はははっ! 面白い冗談だ!」



 笑ったスキンヘッドの首元スレスレを高速でナイフが通った。


 いや、スキンヘッドの首の皮を一枚剥いでいる。


 ナイフはそのまま通りに出て、他には誰にも当たらず壁に突き刺さった。通りで悲鳴が上がる。



「殺されたいか?」



 ロキは、これ以上ないほどの殺気を放っていた。およそ神を自称する者が放つとは思えない。


 スキンヘッドは震え上がった。膝が笑っている。


 しかし、彼はまだ諦めていなかった。フランの腕を掴み、通りに向かって放り投げる。



「っ!」



 投げられたフランを上回るスピードで、ロキはスキンヘッドの上を越え、通りに出た。そのままフランを抱き留める。


 そこでロキはフランの口元のテープを剥がし、縄を解いた。



「ロキ君! ロキ君ロキ君ロキ君!」



 途端に、フランはロキの首元に抱きつく。



「離れろ、フラン。それから耳を隠せ」


「耳? あっ!」



 慌ててフランが耳を隠したが、もう遅い。獣の耳は、衆人監視の元に晒されていた。



「隠れてた獣人をどうしようと勝手だろうがよぉ! 首に傷なんざ付けてくれやがって!」



 そこでスキンヘッドは叫んだ。周りの人間に、出来るだけ聞こえるように大きく。


 そのせいで、周囲の敵意はロキに向いた。



「誘拐犯が。よくそこまで口が回るな」


「誘拐? なんの事だ? 俺は隠れていた奴隷を引っ張り出しただけだぜ?」



 ロキはフランを抱えあげた。



「所有者のいない奴隷だ。ちょっと手荒に扱っても構わねえよなぁ? どうせ獣人は人間様の道具なんだからよぉ。その上性奴隷としての手解きまでしてやったんだ。なぁ? 獣人の小娘」



 周囲の嫌悪の視線がフランへ向く。



「このまま俺の奴隷にしてやろうか?」



 スキンヘッドの態度に、フランがロキの服をギュッと掴んだ。



「こいつは俺のものだ」


「あ?」


「所有者のいる獣人に手を出したんだ。わかっているよな?」


「はん! 首輪も付けていない奴隷があるか!」


「奴隷ではない。俺の女だ」


「は?」



 ロキ以外の全員が唖然とした。



「ははははっ! 馬鹿な奴だ! 獣人との婚姻は禁止されているんだぞ? この無法者が!」


「何とでも言うがいい」



 そう言って、ロキは凶悪な殺意を撒き散らした。



「神の所有物(もの)に手を出したこと、後悔させてやる」


「はっ。言ってろ! すぐに兵士が来る!」



 ロキはそっとフランを立たせた。



「十秒だけ待っていろ」



 その次の瞬間、ロキはスキンヘッドの眼前に現れた。



「それだけあれば、お前を殺るには十分だ」


「なっ!」



 ロキは、スキンヘッドの武装した腹を殴る。


 スキンヘッドは、胴当てにロキの拳の型を付けて、路地裏の奥深くへと吹き飛んでいった。


 もはや生死はロキの知る所ではない。



「神を害するなんぞ百年早い」



 決めゼリフの後は、逃走。



「フラン、しっかり掴まっていろ」


「う、うん!」



 ロキはフランをお姫様のように抱えながらも、常人からは見えないような速度で逃走した。



〜宿屋〜



 ロキは、フランをお姫様抱っこしたまま、窓から部屋へ入った。



「はぁ。面倒事に巻き込んだな。悪かったっ?!」



 ロキの部屋の床に立たされたフランは、ベッドにロキを押し倒した。


 フランはそのまま、ロキの胸に顔を押し付けて、涙を流した。安堵の涙を。



「今回は全面的に俺が悪い。好きなだけ俺の体でも服でも使え」



 ロキは押し倒されたまま、優しくフランの頭を撫で続けた。



〜数十分後〜



 フランの涙は止まった。今はロキの胸板に顎を乗せ、ロキの目に視線を合わせていた。



「ロキ君、ありがとうな」


「気にするな。友人のためだ」


「あれ? うち、ロキ君の女になったんちゃうん?」


「いや、あれは。ちょうど良い言い回しがあれしかなかったんだ」


「ふーん」



 フランはいたずらっぽく微笑むと、ロキの肩を掴んで耳元へ口を寄せた。



「ちょっとときめいとったのに」



 フランはロキから顔が見えぬよう、肩越しにベッドへ顔を埋めた。



「お前、そういうことはズボンのシミが無いときに言えよ」


「あっ!?」



 フランは耳までどころか、身体中真っ赤になった。



「ご、ごめんなロキ君! うちすっかり忘れとって!」


「わかったから、風呂でも入ってさっさと着替えろ。俺はシャルを探してくる」


「ロキ君も着替えといて? うちの、その、おしっ、こ。付いとるから。洗濯しとくわ」


「ああ。頼む」


「ぴゃっ! ロキ君ここで脱がんといて!」


「ここ以外のどこで脱げと」


「うちが出てってから! わかるやろ普通!」



 フランは自分の部屋へ駆け足で戻った。



〜さらに数十分後〜



「フランちゃーん!」


「きゃっ!」



 帰ってきたシャルルは、ロキも驚くようなスピードでフランに抱きついた。



「ごめんね! 私が気づいていれば!」


「ええんよ。しゃあないことやって」


「ロキ、ちゃんとあいつ吹っ飛ばしたよね!」


「ああ。今回ばかりは死ぬ可能性もあるくらいだ。その程度までしか手加減していない」


「よし、グッジョブロキ!」


「なんかうち、急にシャルちゃんが怖くなってきてんけど」


「安心しろ、元々こういう奴だ」


「尚更安心出来ひんわ!」


「まあいい。こいつの狂人具合は置いておいて、これからの行動についてだ」


「とりあえず、街からは出ないとね」


「ああ。既にフランの顔は見られている。噂が伝播するのも時間の問題だ」


「ごめんな、うちのせいで」


「違うよ。今回の件は私たちの因縁が悪いんだから。フランちゃんは気にしないで」


「向かう先はこのまま東で良いか? そこでほとぼりが冷めるまで待とう」


「いいんじゃない?」



 普通に首肯するシャルルに対し、フランは微笑んだ。



「ええよ。うちはロキ君の所有物(おんな)やから、どこへでもついていくで」


「え?」


「おい、あれはその場の」


「でも、口に出してもうたもんな? 神は約束を大事にするんやろ?」


「どどどういうこと?」


「ロキ君な、うちを助けるときに「こいつは奴隷じゃない、俺の女だ」って言って助けてくれてん。ほんま、惚れてまうやろー! って」


「え、そんなこと言ったの?」



 ロキは黙って頷いた。



「かっこよかったわ。うちのために周りの全員敵に回して」


「ふ、ふーん」


「おい、シャル? なんだか顔が怖いぞ」


「そらそやで。これは完全な浮気やもん」


「どこがだよ」


「うちを籠絡したところや」


「いや、だからあれは本意じゃねえし、シャルとも別に夫婦じゃねえよ」


「でも、言うてもうたもんな?」


「ぐっ」


「そんな嫌そうな顔せんでも。何も悪いことないで?」



 楽しそうに笑うフランと、奥歯を噛むロキ。シャルルは涙目である。



「ろ、ロキもこう言ってるんだし、その発言はなかったことにしようよ!」


「それでもうちは聞いてもうたし。シャルちゃんがロキ君から手を引いてくれたら、ロキ君はうちのものになって幸せやねんけど」


「おい、所有関係が変わってるぞ」


「ロキ君は黙っとき」


「私だって、昔ロキからプロポーズされたもん!」


「おい、なんの話だ。ややこしくするな」


「私が世界一強くなるまで訓練してくれるってこれ、プロポーズだよね?」


「ちげえよ」


「くっ。やるなシャルちゃん」


「何がやるんだよ」


「ロキと一緒にいる時間は私の方が長いんだから、私の方がロキのお嫁さんにふさわしいよ!」


「でも明言されたんはうちが初めてやもん!」


「おい、俺はどっちとも結婚なんぞする気はないぞ」


「うるさい! この女たらし!」


「ロキ君は諦めてどっちか娶り! さあ、選んで!」


「えぇ」



 ロキは追い詰められていた。他ならぬ、パーティの二人に。


 困り果てていたロキのところへ、ノックの音が響いた。



「お客さん、ちょっとお話があるんですけどね」


「あ、やばいよ。女将さん、噂を聞きつけたのかも」


「いかにも噂好きっぽい人やったもんな」


「仕方ない、逃げるか」



 ロキはこれ幸いと、ガラッと窓を開けた。



「ほなロキ君、乗せてって」


「だめ! フランちゃんは私が持っていく!」


「えー。うちロキ君の所有物(おんな)やから、ご主人様に持ち運ばれたいなぁ」


「断る。シャル、頼んだ」


「任せて」



 ロキは急いで窓から出た。そのまま屋根伝いに高速でゲートへ。



〜マリアブルク・郊外〜



「兵士にはまだ気づかれていないようでよかったな」


「ねえフランちゃん、冷静になったら、私すごいこと言ってたと思うんだけど」


「奇遇やな。うちも同じこと思っとったわ。一時の気の迷いかもしれんのに、結婚とか」


「やっと気づいたか」


「対抗相手がおるって怖いな」


「この話は保留ってことにしよう。ロキ、騒がしくしてごめんね」


「でも、もしロキ君が望むっていうならそのときは、ロキ君の女にしてくれてもええで?」


「えっ。じゃあ私も!」


「そのくだりはもういい」



 疲労感を顔に滲ませ、ロキはため息を吐いた。



「シャル、そのままフランを背負って走れるか?」


「うん。毎日鍛えてるんだから、そのくらいわけないよ」


「なら出来るだけ進んでおくぞ。途中の村かどこかまで行かないと食料がない」


「シャルちゃん、ごめんな。ロキ君と代わってもええで?」


「気にしないで。これも訓練の一種だから」



 些細なところで、小さな火花が散っていた。



〜夕方〜



「よし、ここらで野宿にしておくか」


「ふーっ。疲れたよ」


「無理せんと、うちをロキ君に渡せばよかったのに」


「これも訓練だから。全然問題ないよ」


「お前らそのくだりいつまで続ける気だよ。ついでにフランはキャラが変わりすぎだ」


「うち、好きなことには真っ直ぐやねん。まだこの気持ちが本物かわからんけど、それでも今はロキ君のことが好きやから」



 フランはロキにはにかんだ。美少女の微笑みは様になるものである。



「にしたって変わりすぎだよ。今まで普通の友達してたじゃん。急に肉食系になっちゃって」


「そんな変わってる? 今までも、シャルちゃんにはガツガツいってたやんか」


「え? それってもしかして」



 たった一言で、フランとシャルルのバックに百合の花が咲いた。



「まあでも、今はロキ君一筋やけどな」


「え。私、フランちゃんになら良いかなって思ったのに」



 シャルルの必殺技、涙目で上目遣い。最近覚えた悩殺テクニックに、フランは見事に釣られた。



「シャルちゃん、ごめんな。うちが間違ってたわ。やっぱり最初の見立て通りシャルちゃんがうちの運命の人なんや!」


「えへへ。フランちゃーん」


「シャルちゃーん」


「なんだこの空間」



 美少女二人が謎の展開で抱き合い、ロキは置いてけぼりである。



「フランちゃん、私一筋?」


「うんうん! シャルちゃん一筋やで!」


「手のひら返しも甚だしいな」


「じゃあフランちゃん、ロキのことはもういいよね?」


「あっ、それは!」


「私一筋だもんね?」


「いやぁ、うちはどっちも好きやからなぁ」



 ロキの修羅場が、一瞬にしてフランの修羅場に変わった。



「世の中、どっちも好きじゃいられないんだよ。さあ、選んで」


「うぐぐ」


「お前らわざとやって楽しんでるだろ」



 付き合っていられないと、ロキは野営の準備に取り掛かった。



〜夜〜



 フランの修羅場は就寝前まで続いていた。



「やっぱりうちはロキ君が好きやで!」


「ふーん。私は二の次なんだ」


「おいシャル、お前までキャラが変わってるぞ」


「ロキ君は好きやけど、やっぱりシャルちゃんも好きやねん! これが不誠実なんは分かっとるけど、好きなもんは好きやねん!」



 ハーレム系主人公のようなセリフである。


 しかし、シャルルはそれに満足したようで、フランに手を差し出した。



「良いよ。フランちゃん。覚悟は伝わった。これからも友達でいよう」


「おい、お前面倒くさくなって終わらせようとしてるだろ」


「でも、ロキのことに関しては、一旦保留ね。私もフランちゃんも、まだ気持ちの整理がついてないから」


「うん、わかった。これからもよろしくな」



 フランはシャルルの手を取った。



「はいはいハッピーエンドハッピーエンド。さっさと寝るぞ」


「はーい」



 フランとシャルルの声が見事に被った。


 微笑み合う二人に、険悪なムードは一切ない。



「女って信じられねえな」



 ロキは二人の演技力にため息を吐いたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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