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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第二章・冒険者育成教室
24/78

着せ替え人形シャルル

〜週末〜



 この日は訓練も授業も休み。


 あれから目立ったこともなく、三人は平穏無事に学校生活を送っていた。


 そして今日は、シャルルの誕生日プレゼントを購入することになっていた。



「誕生日プレゼントってサプライズでくれるものじゃないの?」


「いつでも俺の部屋にいたらサプライズも何も出来ないだろうが。訓練やら授業やらで時間もねえのに」


「ごめんな、シャルちゃん。ご期待に添えんくて」


「いや、全然いいんだけどさ」


「この方が好きな物を選べて良いだろ」


「シャルちゃん、遠慮はいらんで。バイト代を得たロキ君に敵はおらんから」


「俺頼みかよ」


「甲斐性見してや、旦那さん?」


「いい加減、それも慣れてきたよね」



 シャルルからの初々しい反応がなく、フランはつまらなさそうにしていた。



「で、シャル。どこに向かうんだ?」


「んー、ほんとになんでもいいの?」


「新しい装備とかは勘弁したげて? せめて金貨の範囲で」


「わかってるよ」


「それなら構わない。言ってみろ」


「実はね、私、新しい服が欲しいんだ」



 フランの目がキラリと光った。



「ほんならシャルちゃん、まずはうちのオススメのお店に連れてったるわ」


「え? あ、いや、欲しいのはそういうのじゃ」



 シャルルの声は、フランには届かず。半ば引きずられるような形でシャルルは連れていかれた。


 ため息を吐きつつ、ロキは後を追う。



〜服屋〜



「シャルちゃん、これとかどう? あ、これも良いかも!」



 入店早々、店員をドン引かせる勢いでシャルルに様々な服を宛てがうフラン。


 その系統はどれもフリフリがついた、いわゆるロリータ・ファッションものである。


 フランが毎日着ているような服が、店内には所狭しと並んでいた。ものが物だけにかさばるのだろう。



「まずはー、これっ。着てみて?」


「う、うん」



 気分良く試着を勧めるフラン。まさかここで嫌とも言えず、首を縦に振るシャルル。


 数分後、シャルルは試着室の中から出てきた。



「どう、かな?」


「きゃー! 可愛い! な! ロキ君もそう思うやろ!」


「あ、ああ」



 フランの勢いに、さしものロキも若干引き気味である。


 しかし、その見立てに狂いはない。


 水色がベースで膝丈のワンピースに、同じ丈のエプロンドレス。所々にトランプのスペード、クローバー、ハート、ダイヤが描かれている。そして頭には、動物の耳のような赤いリボン。


 銀髪ではあるが、シャルルの姿は、まるで不思議な国のお姫様のようだった。



「お人形さんみたいやわー」


「えへへ。そうかな」


「ほな、次はこれな」


「はーい」



 煽てられたシャルルは気分良く次の着替えに移った。


 楽しそうな彼女たちに隠れ、長くなりそうだとため息を吐くロキである。


 そして数分後、また試着室のカーテンが開けられた。



「どうどう? 私、これ結構好きかも」


「良いよー! 可愛いよー!」


「そうだな。よく似合っている」



 次の衣装は、ノースリーブで白のブラウスに、黒のスカート。スカートの内側には、白のフリルが大量にあしらわれており、風が無くともスカートは少し上向きだ。ブラウスの襟は大きく、胸のあたりに薔薇の意匠が施されている。



「そやシャルちゃん、これ付けて」


「え? フランちゃん、こんなのどうして」


「ええから。きっと似合うわ」



 言われるがまま、シャルルは鏡を見て何やら取り付けた。そしてもう一度振り返る。



「シャルちゃん笑って。出来れば口を開けて」


「こう?」


「ええで! 完璧やわ! スーパー美少女ヴァンパイアの完成!」



 フランがシャルルに付けさせたのは、鋭い八重歯。銀の髪に紅の瞳が合わさって、言葉の通り吸血鬼のようである。


 さらに煽てられ、調子に乗ったシャルルは手を怪獣のポーズにし、ロキに近寄った。



「食べちゃうぞぉ」


「むっ」



 八重歯を見せるように口を開け、身長の関係上ロキから見れば上目遣いでのこのセリフ。


 一般人であれば卒倒するレベルの凶悪なコンボである。


 それをロキは、口を真一文字にして耐えた。口角が無理やりにでも上がろうとピクピクしているが、これ以上調子に乗らせないために我慢。



「シャルちゃん、可愛すぎやわ」


「フランちゃん! 鼻! 鼻!」


「おっと。つい溢れ出てもうたわ」



 フランは鼻を拭うと、また次の服を持ってきた。



「次はこれな!」


「あの、フランちゃん。私が欲しいのってこういうのじゃな」


「次は何を着せよかなー」



 シャルルは完全に着せ替え人形になっていた。


 渋々着替えるシャルル。



「もおシャルちゃん何着ても似合うわぁ」


「ありがとう」



 次にシャルルが着たのは、袖口の広いドレスシャツに、赤いスカートを合わせたもの。そして、一番の特徴は同じく赤い頭巾。


 童話の中から出てきたような愛らしさである。



「ほな、次はこれとー」


「ロキぃ。助けてぇ」


「頑張れ、シャル。俺にはフランの情熱を止められない」


「そんなぁ」



 結局、そのあと一着も買わないのに、何十着も着せられたシャルルであった。



〜数時間後・別の服屋〜



「なんや、シャルちゃんが欲しかったんってオシャレ重視の服とちゃうかったん?」


「そうだよ。そういうのって高いし、動きにくいもん」


「ほな、うちが動きやすくてなるべく可愛い服選んでくるわ」


「うん。お願いね」



 フランは店を物色し始めた。その間に、シャルルはロキへ話しかける。



「ごめんねロキ。つまんないでしょ?」


「ああ。女の買い物は長いと聞いていたが、ここまでとはな」


「どれが良いか決まってから呼んだ方が良かったかな」


「いや、そんなことはない。それはそれで面倒だ。それに、フランが選ぶ服はどれもお前に似合っている。見られて良かったと思うくらいにな」


「え?」


「二度は言わんぞ」



 シャルルはサッとロキに背を向けた。赤くなった顔を隠すために。



「お待たせ。試着室行こかって、シャルちゃんどうしたん?」


「さあな」


「な、なんでもない!」


「せやけど顔赤いで?」


「ロキのせいだよ」


「正直に言って何が悪い」


「正直にって。〜!」



 声にならずに悶えだしたシャルル。顔はさらに赤くなっていた。



「ロキ君の。ふーん、だいたい分かったで。後で詳しく聞かせて貰おかな」



 フランはニヤニヤしだした。



「い、今は試着でしょ。はい、行くよ」



 フランが選んだ服をひったくり、シャルルは試着室へ入る。


 試着室の前に立つフランとロキには、中から深呼吸の音が聞こえていたのであった。



「どう? 私は良いと思うんだけど」


「ええやん! 可愛いで!」



 シャルルが着たのは、紺色のミニスカートと半袖シャツの組み合わせ。学校の制服のような組み合わせである。



「おいシャル。ミニスカートは難しいんじゃなかったのか」


「大丈夫。今はシャルちゃんが中に履くズボンを用意してくれたんだ。ほら」


「あ、シャルちゃん」



 シャルルがペラリとスカートをめくった。


 ロキの目に飛び込んできたのは、この間シャルルが手に取っていた赤いセクシーな下着。白い肌とのコントラストが、とは言っていられない。



「シャルちゃん、そのズボン、そこに掛かってるで」


「え、じゃあ」


「いいからスカートを下ろせ。あと叫ぶなよ」



 試着室に入る前以上に顔を真っ赤にして、シャルルはスカートを押さえた。



「シャルちゃん。大胆やね」


「忘れてぇ!」



 シャルルは試着室のカーテンを勢いよく閉めた。


 ロキとフランは、中からの呻き声に苦笑するのであった。



「シャルちゃん、これとかどう? これやったらシャルちゃんの勝負下着隠れるで」


「たまたまなのぉ。これしかなかったのぉ」


「持っている時点で大概だと思うが」


「ロキは忘れてよぉ」



 衣擦れの音がカーテンの向こうから聞こえる。



「シャルちゃん、もうええ?」


「うん、いいよ」



 出てきたシャルルが履いていたのは、赤いミニスカート。それから、黒のニーソックス。上は白いブラウスで、余計な装飾はほとんどない。


 フランは今更ながら、シャルルがいつも鎧を着ていることに気がついたのである。



「おい、またスカートか。今度はズボンを履いているんだろうな」


「履かしてへんけど大丈夫やで。ほら」



 今度はフランがシャルルのスカートの裾をつまみ上げた。しかし、先程の破廉恥な下着が姿を現すことはない。



「ちょっとフランちゃん! 怖いからやめてよ! さっきの軽くトラウマになってるんだから!」


「あはは。ごめんごめん。でもこんで証明されたやろ?」


「そうだな。まさか股下で繋がっているとは思わなかった」



 フランが選んだのは、キュロットスカート。ロキの言う通り、股下で繋がっているが、外見はスカートという代物である。


 いつも履いている短パンと、見た目が少し違う以外で何か違うのか、と言われると弱いのだが。


 女の子は、そんな些細な違いも重視するらしい。



「これ良いよね。これにしよっかな」


「おっとシャルちゃん、まだ決めんのは早いで?」


「おい、まだやるのか」



 ロキは辟易していたが、フランの勢いは止まらない。


 シャルルの次のコーディネートは、黒のキュロットスカートに白のシャツ、それからデニムのジャケットで、少しボーイッシュに。


 花柄のロングスカート、へそ出しのシャツ、パンクなチョーカー、チェックのカチューシャなどなど。様々なスタイルやアイテムを取っかえ引っ変えしていった。



「ねえフランちゃん、これ違うんじゃない?」


「そう? 似合っとるけど」


「そういうことじゃなく」



 だんだん衣装の中には、ナース服やミニスカのサンタ服など、コスプレ地味たものまで加わり、シャルルの着せ替え人形ぶりはさらに加速した。



「シャル、お姫様だな」


「ねえそれ馬鹿にしてない? というか、どうしてこんなドレスがここに。よく試着させてもらえたね」


「店員さんもこんな可愛い子に着てもらえて喜んどったで」



 シャルルが最後に試着したのは、純白のドレス。同じく純白の髪も相まって、眩しいほどに美しい。


 どこかの貴族の令嬢や、はたまた新婦に見られそうなほど、豪華なドレス。それに見劣りしないシャルルの美貌もさすがである。


 これに化粧など加えてしまったらどうなるのかと、末恐ろしくなるほどだ。



「ふぅ。以上がうちのオススメコーデとオススメアイテムやけど、どれか気に入ったんある?」


「んー。迷うなぁ。ロキはどう?」


「俺に聞くのか」


「旦那さんの意見を聞きたい乙女心やで。答えたり」


「私一人じゃ決められないから、ロキの意見も聞かせて欲しいってだけだよ。誰が奥さんか」


「ふむ。赤色のあれとかどうだ?」


「キュロットスカート?」


「そう。それだ」


「あ、私もあれが良いと思ってたんだ」


「夫婦で意見が()うたね。なら決定?」


「そうだな。あのときのフランのコーディネート一式だ」


「え、そんなに? いいの?」


「誕生日プレゼントに糸目はつけない。十分予算内だ。気にするな」


「ありがとう、ロキ!」



 積乱雲も吹き飛びそうな明るい笑顔で、シャルルはロキに感謝の言葉を送った。


 ロキは照れくさそうに頬をかき、会計へ向かう。


 青春の一幕であった。



〜アビスブルク・教会前〜



「ロキ君って信徒やったん? 初耳やわ」


「いや、そんなことないよ」


「じゃあなんでお金払ってまで教会に?」


「なんか、お友達と話すんだって」


「どういうこと?」


「さあ?」



〜天上界〜



「よう」


「久しぶりだな親友。元気か?」


「ああ。天上界に比べれば、こっちの暮らしは快適だ」


「そうかそうか。それは何よりだ」



 コロコロと愉快そうに笑う親友の彼。



「親友よ。ちょっと雰囲気変わったな」


「そうか?」


「少しだけ、楽しそうだ」


「そうかもしれないな」



 天上界ではいつも不貞腐れたような表情だったロキが、このとき初めて微笑を浮かべた。


 ニヤニヤとする自称親友の彼の視線に気づき、直ぐに引っ込めてしまったが。



「最近、変わったことはないか?」



 雑な話題転換である。



「そうだな、特には。天上界は今日も平和そのものだぜ」


「そうか。それは何よりだ」


「強いて言うなら。最高位創造神様は今日も忙しそうだ」



 ロキは少しの間だけ黙った。



「そうか。それは何よりだ」



 それだけ言うと、天上界との繋がりは途切れてしまった。

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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