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ジャン負け村人転生しようぜ  作者: リア
第二章・冒険者育成教室
22/78

鬼ごっこしようぜ

〜翌週・火曜日・剣術組〜



 訓練場は、いつものように二組に分かれていた。



「貴様ら! 分かっているな! 来週は模擬戦だ! 剣術の誇りにかけて負けるなよ!」



 返事はない。生徒達は皆、ロキに負けた黒髪教官へ不信感を抱いていた。



「問題ないさ。学校長オリバーの息子である、この僕がいればね」


「調子に乗るなよ! 奴らはどんな手を使ってくるかわからん! 剣術の誇りも知らないような奴らだからな!」



 黒髪教官が必死に言葉を発するが、誰も聞く耳を持たない。


 黒髪教官がロキに負けたことに然り、シャルルとフランがロキの元で教授を受けていることに然り。黒髪教官の人気は地に落ちていた。


 黒髪教官は歯噛みする。



「くそっ」


「おや? あれは」



 悔しげな黒髪教官を無視して、白髪少年はやってきた人物に反応した。



〜その他組〜



「良いか雑魚共! 俺のバイト代のために、来週までに仕上げるぞ!」


「そこ言ったらあかんてロキ君」


「一言余計なのがロキだからね」


「しっかし、強くならないと、あいつらを見返せないからな」


「いつまでも馬鹿にされたままじゃあいられねえよな」



 ロキの動機は少し不純だが、それでも生徒達のモチベーションは高い。


 少年二人が代表した通り、今まで剣術組に見下されてきた鬱憤を晴らしたい者が多いのである。



「言っておくが、思い上がるなよ! 今のお前らは基礎が成っただけだ! 向こうは基礎をガチガチに固めている! まともに太刀打ち出来ると思うなよ!」


「おい! 早速気持ちを砕くなよ!」


「それを言ったらおしまいだろうが! どうしろっていうんだ!」


「そう焦るな。一応気休めの策はある」


「気休めなんやな」


「まあしょうがないよね。二週間だもん。基礎が身についただけすごいと思うよ」


「本当はもっとダメ出ししたいんだがな。言っていられる時間もない。あと一週間は全力で付け焼き刃を付けにかかる」



 獰猛な笑みで、周囲に集まった生徒達を見回すロキ。


「具体的には?」


「鬼ごっこだ」


「どうゆうことなん?」


「鬼は俺一人。お前らは全力で逃げろ。さもなくば軒並み地面に這い蹲らせる」


「お前らってもしかして、私たちも?」


「当たり前だろうが。安心しろ。俺は誰よりも速い」


「全然安心出来ひんねんけど」


「頑張って逃げろよ。俺は甘くないぞ。女だろうが関係ねえ」


「何だか嫌な予感がするんだが」


「早いうちに逃げといた方がいいんじゃねえか?」


「じゃあ、十秒後にスタートな。十、九、八」


「え、ほんまにやるん? えっ、シャルちゃん逃げんの速っ! 待ってや!」


「三、二、一」


「あっ、ちょっ、みんな早すぎん?! 待ってうち最後やん! いやぁ!」


「ゼロ。スタートだ」



 ロキが呟くと同時に、フランの視界でロキがブレた。


 次の瞬間、フランの視線は空を向いていた。



「ほへ?」


「すぐに逃げろよ。今度は優しくしねえからな」


「は、はい。わかりました」


「さあ。次はどいつだぁ?」



 獰猛な笑みと共に、またロキは姿をブレさせた。


 別々の場所で、ほぼ同時に「ぐおっ」という声が共鳴する。



「なんなんあれ。見えへんねんけど」


「それじゃあもう一回寝とけ」


「へ?」



 気がつくと、ロキが目の前。正確には、横たわったフランを見下ろしている。


 一秒程度でまたどこかへ行ってしまったが。



「武器でも魔法でも何でも使え! 一度でも良いから避けてみせろ!」


「無茶言うな人外! へぶっ!」


「せめて見える速度で動け! ふごっ!」



 あちこちで面白いほどに人が倒れていく。


 これまで一度も捕まっていないのはシャルルだけだ。



「あぶなっ!」


「やるじゃねえかシャル! 一番弟子なだけある!」


「何回かマックススピードは見てるからねっ! 目を凝らせば見えるしにゃっ! 他の人も狙いながらだかりゃっ! 間隔は開いてるもんぬっ!」


「シャルちゃんには負けれられへんわっ! ふぎゃっ!」


「躱し方が甘いぞフラン!」


「なぁ! また青空ぁ!」



 フランはムキになって、またすぐ立ち上がった。



「フランさんもシャルルさんも、なんであれが見えるんだよ」


「直でロキの訓練を受けるとああなるんじゃないか?」


「しゃべってないで動け」


「ふぎゃっ!」



 哀れな少年たち。立ち上がって即座に転がされた。



「なぁ、俺、今一瞬あいつの動き見えたぜ」


「俺もだ」


「これ、もうすぐ避けられるようになるんじゃね?」


「マジか。ロキに勝てるのか?」


「甘く見すぎだ」


「へぶぅ!」



 ゆっくりと、だが確実に目は慣れてきているらしい。



〜数時間後・寮舎・風呂場〜



 フランとシャルルは泡を全身に塗りたくっていた。



「あーもう。ロキ君のせいで全身砂まみれやわ」



 悪態をつきながら、フランはシャルルの背中をゴシゴシ。



「そうなりたくなかったら、もっと避けろってことなんだろうけど」


「あんなん無理やって。ほぼほぼ瞬間移動やん」


「初めて見たらそう思うよね」


「言っとくけどシャルちゃんも大概人外な速度してんで」


「私はまだ見えるでしょ」


「見えるは見えるんやけどな。あんだけ速かったらロキ君の瞬間移動かてそら避けれられるわ」


「それが、そうでもないんだなぁ。今日だって何回転ばされたかわかんないし。速さ関係なく単純に慣れだと思うよ」


「シャルちゃんは何回かこの訓練やったことあるん?」


「あるよ。昔は楽しかったけど、今は砂が鬱陶しいなぁ。おかげで反射神経が良くなったのは確かだし、やった方が良いとは思うけど」


「みんなだんだん見えるようになっとったしな」


「凄い成長だよね。まともな型を覚えるのもそうだけど」


「羨ましいわ。はい、交代」



 シャルルの背中をお湯で流し、フランは泡のついたタオルをシャルルに渡した。そして先ほどまでシャルルが座っていた風呂椅子に座った。


 シャルルは、その背中をゴシゴシ。



「でも、一番見えてたのはフランちゃんだよ。初めてとは思えないくらい」


「そら、うちはスキルがあるもん」


「へぇ。それって言ってもいいの?」


「今は他に誰もおらんし、シャルちゃんにやったらええよ。うちのスキルにはな、知覚強化っていうのがあんねん」


「あ、私は反応強化があるよ」


「それでロキ君の動きも捉えられるんやと思うけど」


「スキルって言われても実感湧かないよね」


「そうやなぁ。何とか強化っていうのは、いつでも発動してるスキルなんかもしれへんね」


「他には他には? 全部見せっこしようよ」


「んー? しゃーないなぁ。シャルちゃんのも教えてや?」



 シャルルはフランの背を流し、二人して湯船へ。



属性:地


スキル:短剣術、魔力、知覚強化、緊急回避



「魔力? 魔力って何?」


「使える魔力量が多くなるんやって。ようわからんけど」


「そうなんだ。あんまり魔法使わないからよくわかんないけど、魔術師向きなんだろうね」


「緊急回避もようわからんスキルやなぁ。今まで発動したことないかも」


「緊急ってぐらいだし、相当のことがないと発動しないんだろうね」


「うちはもう全部教えたで。シャルちゃんのスキルは?」


「私は未開放があるの。他は細剣術と貫通と反応強化。あと瞬足と」


「瞬足かぁ。そら速いわけやなぁ」


「フランちゃん、未開放ってどういうものか知ってる?」


「全然。今初めて聞いたわ」


「そうなんだ」


「というかシャルちゃん、めっちゃスキル揃ってるやん。細剣を使うために生まれてきたみたい」


「あはは。ロキにもそう言われたことある。でもフランちゃんも一通り揃ってるよね?」


「うん。まあ。こうやって安定しとるしね。ありがたいわ」


「私もロキも戦闘用のスキルばっかりなんだけど、日常生活用のスキルってあるの?」


「そらあるんちゃう? 鍛冶スキルがどうとかよう聞くで」



 立ち上る湯気を見つめ、シャルルは息をついた。



「料理スキルとかあったら欲しかったなぁ」


「未来の旦那さんに美味しい料理を作ってあげたいん?」


「別にロキのためじゃないよ? 私のためだって」



 上手く平静を装って答えたつもりのシャルルであったが。



「ロキ君って言った覚えはないんやけどなぁ?」


「あ。そ、それは」


「やっぱり結婚を前提としたお付き合いしてんの? ねえねえ」


「そうやってからかうから口から出るんだよ!」


「でも否定はせえへんのやろ?」


「知らない! もう出るよ!」


「待ってやシャルちゃん。うちも出るー」



 シャルルの頬は赤く染まっていた。決してそれは風呂の熱気のためだけではないだろう。



〜六日後・その他組〜



「いいか! 明日は本番だ! 昨日は体調を整えておくように言ったが、今日は最終調整を行う! 最後の鬼ごっこだ! 覚悟しろよ!」


「うわぁ、ロキ、気合い入ってるな」


「まあ、収入が決まるからな。その方が俺たちにとっちゃ都合が良いだろ?」


「十、九、八」



 連日続いていたように、ロキのカウントダウンが始まった。


 しかし、誰もそれで慌てふためかない。


 ゆっくりとした足取りで、ロキから目を離さないように距離を取る。



「三、二、一、スタートだ」



 ロキの姿がブレたが、倒れた者は数名。


 他の者は全て、ロキの初動を捉えて避けたのだ。



「よっしゃあ!」


「お前の方には行ってねえだろ!」


「でも見えてんぞ! ほらきた!」


「慣れってすげえな! うおっと!」


「やるじゃないか! 雑魚は成長が早いな!」



 いつの間にか、みな初回のフラン程度には避けられるようになっていた。シャルルに至っては、捕まることの方が稀である。



「分かっているな! 敵から一瞬でも目を離すなよ!」



 そう言いながら、ロキは訓練場を縦横無尽に駆け巡る。


 視線で追いきれなくなった者から順に転ばされるのだ。



「敵の次の動きに集中しろ! 出来なきゃ死ぬからな!」



 時折、ロキは思い出したように停止する。そして予備動作を少しだけ付けて再び姿をブレさせるのだ。



「ははっ! 余裕余裕!」


「見える、見えるぞ!」



 実はロキ。初日に比べて若干スピードを落としているのである。その理由はというと、生徒達に自信をつけさせるため。



「ハッハァ! ロキ先生もこうなりゃちょろいな!」


「ヒャッハー! ほらほら当ててみろ!」


「全部避けきってから言え」



 ロキが忠告するも、しかし。少し手を抜いた速度では少年二人を捕らえられないのも事実。



「ほーらほーら!」


「鬼さんコチラー!」



 少年二人は調子に乗っていた。これ以上ないくらいにロキを煽っている。


 ロキはイラついてしまった。何か後悔させてやらねば気が済まない。



「じゃあこれでどうだ?」



 ロキは砂埃と共に姿を消した。



「は?」


「消えた?」



 少年二人、その他の生徒達も皆呆然としていたが、シャルルとフランだけが青空を見上げていた。



「反応したのはフランとシャルだけか。不甲斐ねえな」


「どこだよ!」


「まじでどこ行きやがった!」



 ロキの声は聞こえるが、どう見回しても見つからない。


 ロキの嘲笑が響いた。



「上だ」


「なっ!」


「うっそだろぉ!」



 ロキはブレーキで起こした砂埃に乗じて、上空に飛んでいたのだ。その高度、およそ十五メートル。


 驚愕に目を見開いた少年二人の目の前へ着地。



「次は集中しきれよ」


「ふぎゃっ!」


「無理だろぉ!」



 少年二人の悲鳴が訓練場に響いた。


 明日模擬戦の、今日この頃である。

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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