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大根とはちみつ

月日が経つのが早すぎて、びっくりです。

母が風邪を引いた。

姉が「大根のはちみつ漬けが良いんだって!」と言って、なんか作った。



*****



姉は台所に立ち、大根を手に取り細切りにする。

細切りした大根を密閉容器に入れたら、はちみつを大根がひたひたになる程度までそそぐ。


姉の手によって、惜しげも無く大根の上にかけられていくはちみつ達。ひたひたになるまで……。ひたひたになるまで……。



お姉ちゃん。国産はちみつってちょっとお高いんですよ?そんな惜しげも無く使わんといて……。それに、はちみつの瓶詰めって、店から家まで運ぶまでそこそこ重いんですよ??それ買ってきたの私なのよ??



しかし姉は善意で作ってくれているので、不遜なことは言えなかった。

そうこうしている内に「大根のはちみつ漬け」は完成した。


「しばらく置いてから、食べてね。」


と言うことだった。

夜の21時頃、母の咳がひどくなってきたので、さっそく少し食べることになった。


「お母さん。どう?」

「う~~ん。」


姉が真剣な顔で母に問いかけた。


(おいおい。速攻で効き目があるならお医者さん泣くぞ。)


私と兄は、ちょっと遠くから呆れながら2人を見ていた。


「(だいたい、はちみつは喉に良いんだから、効くのは当たり前じゃないか??)」

「(Me to だよ。大根入れる意味が分からん。)」


ひそひそと話す私達。

父が台所にやってきて、好奇心から大根をひとつ掴んで食べた。


「え……!」


なにやら不穏な声が父から漏れる。


「(なになに…?どうした父よ?)」

「(嫌な感じだ…。)」


姉と母と父は、台所でしばし沈黙していた。

そして聞こえ始める話声。


「大根は……食べなくてもいいかもね。」

「そんなもったいないこと出来ないわよ!」

「うん。咳に効くならお母さんは食べた方が良いね。お父さんはいらないかな。」

「そんな…お父さんも食べて。」

「お父さんは風邪ひかないから。」

「お母さん1人でこんなに大根食べられないわよ。」

「え―――。」

「父さん。母さん。無理しなくていいから……。」


どこからどうツッコミを入れて良いのか分からぬ不毛な会話に、私と兄は目をそらした。その日は結局、そのまま冷蔵庫にはちみつ大根はしまわれた。そして、3日間かけて母と父が頑張って消費したのだった。


ちなみに私は少しだけつまみ食いをした。

民間療法って凄いですね。昔の人には本当に頭が上がりません。


初めて食べたはちみつ大根は、うがい薬のような味がした――――。



*****



数年後。

母の咳が1ヶ月続くので、姉が家に来てはちみつ大根を作った。


「ちょっとお姉ちゃん?!前回不評だったの忘れたの??!」

「大丈夫大丈夫。今回は大根の上の方を使うから!!!」


大根の青い方(上の方)は甘いと言うが……あんまり変わらないのでは??


「いやいやいや。そんな差異は関係ないから。無理だから。」

「大根も新鮮なのだから大丈夫だってば。」

「成功例もないのに大丈夫とか言われても、説得力ないからね??!」


前回の不評の事を考慮してか、姉は作る量を少なくした。

しばらく置いてから、咳がひどくなってきた夜にやはり母ははちみつ大根をしょくした。


「あら。甘いわね。」


母のその一言で姉はガッツポーズを決めた。

父も「大根の使い方で変わるもんだなぁ。」と呟いた。


それを離れたところで見ていた私と兄。


「(なんで姉ちゃんは自分が先に味見しないんだ?)」

「(私も思った。なんか実験台みたいだよね。)」


善意の行為なのになぜか釈然としない……。

しかし当人たちはハッピーのようだから、水を差すようなことは避けた。


それから姉は「母が風邪をひいた」と聞くと、ここぞとばかりにはちみつ大根を作りに来る。年々作る手際が良くなっているが、味の方は保障できていない。何故なら大根の量、はちみつの量はいつも適当だからだ。


……適当。だからだ。



そろそろ味が固定してもいいような気もするのだが……。

いえいえ。善意を無下むげにしてはいけませんね。


ちなみに父や兄が風邪をひいたとき、私は『生姜はちみつ』を作る。

何故かと言うと、


「「絶対はちみつ大根は作らないでくれ。」」


言明げんめいされているからだ。







…お姉ちゃん。いつもありがとう。

※姉は里帰り出産準備中で、家にいました。

姉の産休が終わるまでは、しばらくおいしいご飯を食べていました。姉の「あれ食べたい。これ食べたい。」と言う要望を、出来る範囲で全て叶えていました。叶えていたので、ずいぶん料理レベルが上がった時期でした。


……赤ちゃんの世話って大変ですよね。ご飯食べた気がしない。

でもあの笑顔に癒される。疲れ吹っ飛ぶ。

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