大根とはちみつ
月日が経つのが早すぎて、びっくりです。
母が風邪を引いた。
姉が「大根のはちみつ漬けが良いんだって!」と言って、なんか作った。
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姉は台所に立ち、大根を手に取り細切りにする。
細切りした大根を密閉容器に入れたら、はちみつを大根がひたひたになる程度までそそぐ。
姉の手によって、惜しげも無く大根の上にかけられていくはちみつ達。ひたひたになるまで……。ひたひたになるまで……。
お姉ちゃん。国産はちみつってちょっとお高いんですよ?そんな惜しげも無く使わんといて……。それに、はちみつの瓶詰めって、店から家まで運ぶまでそこそこ重いんですよ??それ買ってきたの私なのよ??
しかし姉は善意で作ってくれているので、不遜なことは言えなかった。
そうこうしている内に「大根のはちみつ漬け」は完成した。
「しばらく置いてから、食べてね。」
と言うことだった。
夜の21時頃、母の咳がひどくなってきたので、さっそく少し食べることになった。
「お母さん。どう?」
「う~~ん。」
姉が真剣な顔で母に問いかけた。
(おいおい。速攻で効き目があるならお医者さん泣くぞ。)
私と兄は、ちょっと遠くから呆れながら2人を見ていた。
「(だいたい、はちみつは喉に良いんだから、効くのは当たり前じゃないか??)」
「(Me to だよ。大根入れる意味が分からん。)」
ひそひそと話す私達。
父が台所にやってきて、好奇心から大根をひとつ掴んで食べた。
「え……!」
なにやら不穏な声が父から漏れる。
「(なになに…?どうした父よ?)」
「(嫌な感じだ…。)」
姉と母と父は、台所でしばし沈黙していた。
そして聞こえ始める話声。
「大根は……食べなくてもいいかもね。」
「そんなもったいないこと出来ないわよ!」
「うん。咳に効くならお母さんは食べた方が良いね。お父さんはいらないかな。」
「そんな…お父さんも食べて。」
「お父さんは風邪ひかないから。」
「お母さん1人でこんなに大根食べられないわよ。」
「え―――。」
「父さん。母さん。無理しなくていいから……。」
どこからどうツッコミを入れて良いのか分からぬ不毛な会話に、私と兄は目をそらした。その日は結局、そのまま冷蔵庫にはちみつ大根はしまわれた。そして、3日間かけて母と父が頑張って消費したのだった。
ちなみに私は少しだけつまみ食いをした。
民間療法って凄いですね。昔の人には本当に頭が上がりません。
初めて食べたはちみつ大根は、うがい薬のような味がした――――。
*****
数年後。
母の咳が1ヶ月続くので、姉が家に来てはちみつ大根を作った。
「ちょっとお姉ちゃん?!前回不評だったの忘れたの??!」
「大丈夫大丈夫。今回は大根の上の方を使うから!!!」
大根の青い方(上の方)は甘いと言うが……あんまり変わらないのでは??
「いやいやいや。そんな差異は関係ないから。無理だから。」
「大根も新鮮なのだから大丈夫だってば。」
「成功例もないのに大丈夫とか言われても、説得力ないからね??!」
前回の不評の事を考慮してか、姉は作る量を少なくした。
しばらく置いてから、咳がひどくなってきた夜にやはり母ははちみつ大根を食した。
「あら。甘いわね。」
母のその一言で姉はガッツポーズを決めた。
父も「大根の使い方で変わるもんだなぁ。」と呟いた。
それを離れたところで見ていた私と兄。
「(なんで姉ちゃんは自分が先に味見しないんだ?)」
「(私も思った。なんか実験台みたいだよね。)」
善意の行為なのになぜか釈然としない……。
しかし当人たちはハッピーのようだから、水を差すようなことは避けた。
それから姉は「母が風邪をひいた」と聞くと、ここぞとばかりにはちみつ大根を作りに来る。年々作る手際が良くなっているが、味の方は保障できていない。何故なら大根の量、はちみつの量はいつも適当だからだ。
……適当。だからだ。
そろそろ味が固定してもいいような気もするのだが……。
いえいえ。善意を無下にしてはいけませんね。
ちなみに父や兄が風邪をひいたとき、私は『生姜はちみつ』を作る。
何故かと言うと、
「「絶対はちみつ大根は作らないでくれ。」」
と言明されているからだ。
…お姉ちゃん。いつもありがとう。
※姉は里帰り出産準備中で、家にいました。
姉の産休が終わるまでは、しばらくおいしいご飯を食べていました。姉の「あれ食べたい。これ食べたい。」と言う要望を、出来る範囲で全て叶えていました。叶えていたので、ずいぶん料理レベルが上がった時期でした。
……赤ちゃんの世話って大変ですよね。ご飯食べた気がしない。
でもあの笑顔に癒される。疲れ吹っ飛ぶ。




