兄と牛丼
兄は学生の頃、某有名牛丼チェーン店でアルバイトをしていた。そのおかげで、どうやら牛丼を作れるらしい。
「口だけなら何とでも言えるわ(あざけり気味)。実際に作って見せてもらうまでは納得しないし(笑)」
炊事に関しては全く手を触れない兄。(掃除はする。)
(今まで家の台所に立ったことがないと言うのに「牛丼は作れる。」とは何事か。片腹痛いわ!)
上から目線で兄を挑発すると、
「そこまで言うなら作ってやる。」
何かに火が付いたようで、兄は気合いを入れてスーパーに牛肉を買いに行ったのだった。
*****
台所に立つ兄を観察する私。
気合いで料理が作れるのなら苦労はしない…。
今まで包丁を握っている姿など見たことない…。
ただただ心配だった。
兄は玉ねぎを野菜かごから取り出し、皮をむき始めた。
頑張ってむいている。
頑張って…。
「なぁC~?玉ねぎの皮むきにくいんだけど。どうやったら早くむけるんだ??」
そうですよね。
そのままむくのは大変ですよね。
傍観してて、ごめんなさい。
「根っこの部分をザクッと切るんだよ。あと、私は上も切っちゃうけど。」
玉ねぎって、根っこと角の部分を両方切り落とす人と、根っこの部分だけ切り落とす人に分かれますよね。調理実習の際によく話題になりました。
実際にザクッと玉ねぎを切り、兄に渡す。
兄は「サンキュー。」と言って作業を再開する。
(マジ大丈夫かよ……。)
私の心配はMAXになり、ウザイくらいの近距離で兄の様子をうかがった。
玉ねぎの皮をむき終わった後は、包丁でスライスしていく。
スライス……。
「やばい!!目が痛い!!!」
慣れていない兄は、玉ねぎから染み出る硫化アリル様の猛襲に苦しんだ。
「こんなに痛いのか?!涙がとまらん。」
そして私を振り返る。
「お前いつも平気な顔して切ってるけど、どういう事??」
「知らんがな。」
裏技も何も使っていないが、一応いつも通り説明した。
「玉ねぎの皮むいたら、水に1回くぐらせてる。上と下から出る汁で手がかゆくなるから。」
そう言ってまな板と包丁、玉ねぎを水でサッと洗い流し、兄に渡す。
「おぉ、さっきより大分ましだ。」
兄は玉ねぎの細切りを再開する。
再開するが……それにしても包丁を持つ手がぎこちない。
とうとう私のおせっかいモードが炸裂した。
「包丁の持ち方、危なっかしい!!自分の持ちやすいように持っていいんだよ!!!ちなみに私は柄と刃の背中部分を掴んで切ってる!刃が安定するからな!!」
こうだこう!!と実践する。
兄はちょっと「お、おぉ…。」と引いていた。
こちらとしては(まだ玉ねぎなのかよ!!)とツッコミたいのを我慢してるんだ。察しろ。
その後、兄はゆっくり玉ねぎを2玉切り終え、やっと調理に入った。
めんつゆやカツオ出汁で割り下を作り、玉ねぎを入れて一煮立ちさせる。
玉ねぎが柔らかくなったら、ショウガやニンニクをお好みで入れ(チューブタイプを適当にいれる)、牛肉を入れる。
牛肉は火を通し過ぎると固くなるので、火が通ったらお終い。
「できたぞ~。」
「え?!玉ねぎ切っただけ…。調理はやすぎ……。」
「だから注文した後、出てくるの早いんだよ。」
「すげ~……。」
どんぶりにご飯をよそい、牛肉と玉ねぎ、つゆをかける。
男性陣は卵をトッピングした。
匂いだけでわかる。
これはうまい。
家族4人で食卓を囲んだ。
「へ~。うまいもんだな。」
「俺だって作れるんだよ。」
「玉ねぎで悪戦苦闘してたくせに。」
「……すごいじゃない…。」
牛肉が固くなく、ほどよくほぐれていく。
玉ねぎの甘さがつゆに溶けている。
兄が適当にいれたニンニクやショウガも、主張が強すぎず、なおかつアクセントになっている。
「牛丼って、こんなにおいしいのか……。」
玉ねぎでモタついていた事など吹き飛んでしまうほどおいしかった。兄が得意げにしているが……いや、これは天狗になってもいいだろう。御見それいたしましたお兄様!!
ひょんなことから始まった牛丼作りだったが、終わり良ければ総て良し。食べ物に罪はない。
これにて一件らくちゃく!!
……のはずがなく。
「……お母さん。これ何?」
「牛丼よ。」
「いやいやいや、親子丼を鶏肉じゃなくて牛肉にしただけでしょ。」
「材料は一緒じゃない。」
「見た目?!!香り??!!親子丼だよね??!」
「牛肉だから牛丼よ。」
「もう、どこにツッコミを入れればいいの……。」
「細かい子ね。腹に入れば同じでしょ。」
「も。勘弁してくれ……。」
そして、牛肉は火を通し過ぎていた為、固くなっていた。
我が家が牛肉より豚肉の方が好きなのは、豚肉は火を通し過ぎても大丈夫だからだと思う。
父と兄は特に文句も言わず、淡々と『牛丼』を食べていた―――。




