豆腐とたまご
いつの事だったか、ある占い師がよくテレビに出演していた。
土星人とか火星人とか。そんな感じの占いだった。
その占い師はテレビの終盤、ある料理を作っていた。
それは、さいの目に切った豆腐を卵でとじ、砂糖醤油で味付けをしたシンプルなものだった。
出演者たちは「おいしい」「いける」などと称賛していた。
私たち家族はテレビを見ながら言った。
私「豆腐に砂糖醤油とか、まずそう。」
兄「どうせおべっか使ってるんだろ。」
姉「ありえな~。見た目も無理。テレビってやらせ多いよね~。」
母「…………。」
私「プリンに醤油かけたのと絶対同じだよね。」
兄「んだな。」
姉「都会の人って絶対舌が馬鹿になってるとしか思えない……。」
母「…………。」
真っ向から全否定をした私達。
番組が終わった後は速やかに布団に入り、すやすや眠ったのだった。
それが悪夢の始まりとも知らず――――――。
*****
「ただいま~。あ゛ぁ~~~はらへった~~。」
手洗いうがいをした後台所に向かう。
(今日はなんだか香ばしい匂いがする……何だろう??)
食卓に上がってあるフライパンのふたを、パカっと開けた。そこには――――。
(…………うそだろ………。)
「ただいま~。」
「!!」
兄が帰ってきた。
私は反射的に玄関へ走った。
「お?なんだ?出迎えとは気味が悪い……。」
「お、おおおおかえりー!!!!ちょいっっ!早く来い!!」
「はぁ?」
私は兄を引っぱった。ぐいぐいぐいぐい引っ張った。
「疲れてんだからやめろって~~。」
「やばいんだって、マジやばいのよ!!!」
台所にたどり着くと、兄はフライパンを覗き込んだ。
兄はしばらく無言になり、その後静かに手洗いに向かった。
もうお気づきでしょう。そうです。その通りです。
あんなに酷評したのだから、やってみるなどしないと思っていました。
私だったらしません。もし興味本位を起こしたとしても、まずは自分の分だけ作ってみて、おいしかったら皆にふるまう。そういう手順が必要だと思うんです。特に創作料理に関しては……。
「ねぇ母さん……。どうして作ったの……?」
「簡単そうだったから。」
「味見した?」
「してない。」
母は、現在進行形で『味見をしない』。
何なんですかね、これ。固有スキルか何かですか??
堂々と「味見してない」と言えるこの根性。本当におそれいります。
「まぁまぁC。美味しいかもしれないぞ??」
そう言って兄は、それを皿に分けて一口食べた。そして、きっぱり言った。
「くそまずい。」
「さっきの台詞は何だったんだ―――――!!!!!??」
「やばい。吐きそう……。」
「トイレ!!!トイレに行け!!!!」
兄はトイレに行かなかったが、水をガブガブ飲んだ。
「……俺は義務を果たした。後は漬け物で食べる。」
兄は使った皿を一度水で洗い流した。「汁」を落とすためだ。
私も意を決して一口食べた。
義務。これは義務だと言い聞かせて。
(ん?…あれ?兄が言うほど…………!!!????まっっっず!!!!!!!)
後から何かがやってきた。
豆腐のまめまめしい風味を、土足で踏みにじる砂糖醤油。
豆腐にみたらし団子の餡がからむならまだ良いかもしれないが、そこに何故かいる玉子。何から何まで不協和音。奇跡の起こらない不協和音。
私も急いで水をガブガブ飲んだ。
「あんた達失礼でしょ!テレビではおいしいって言ってたでしょ!」
「テレビだから!バラエティだから!!てか、母さんも食べてみろよ!?」
母は一口パクリと食べた。そして――――――。
「お母さんは食べられる。」
「ど~ぞど~ぞ食べてください。」
ご飯と漬物を食べながら、兄が言う。
「責任もって食べてください。俺はもう食べません。」
「私も無理……。きっと姉ちゃんとお父さんが食べてくれるよ……。」
私と兄は、漬け物をいつも以上に食べて、ご飯をかきこんだのだった―――――。
*****
<姉の場合>
「信じらんない……。こんなにまずいの初めて食べた……。」
兄と私と同じく一口でダウン。
どうなる!!??豆腐を一丁使っているから、まだまだ量が残っているぞ!?
<父の場合>
「またお母さん、変な料理を作ったのか??」
父は昨日の番組を見ていない。
ひと口ふたくち食べたあと―――
どばっっっっ!!!っと醤油をかけた。
その後、半分まで「豆腐玉子」は減った。
そして――――――。
「もう2度と作るなよ。」
そう言ってフライパンを手に持ち、玄関から外に出る。
コーンポスター(生ごみ入れ)に中身をぶちまけ、家に戻ってきた。
いなご以来の必殺『捨てる』が発動された。
これは相当おかんむりだ。
兄弟誰もが恐れおののいた。
恐れおののいたのに――――――。
この悪夢は、あと2回繰り返される。
「失敗は成功のもと」と言って2度目が訪れ、「3度目の正直」と言って3度目が……。
2回目の時、父は言っていた。
「2度あることは3度あるって言うからな、母さんはあともう一回作るぞ。」
……父は、本当に母をよく理解している。
母は本当に、いい人と結婚したと思う。うん。
今日も我が家はさわがしい。
繰り返される悪夢。ナイトメア……なんでしたっけ……。
兄と私は「デジャブww」と何度も玄関のやり取りをしていました(笑)




