調理実習~バターもち~
……不快になったらすみません。
中学2年最後の調理実習。
最後なのでグループごとに「好きなものを作っていい」という特典。
グループも男子3女子3と決まっていなく、好きな人同士で組んでいいとの事。
まずは最近よく話すPと、Pの親友Lちゃん、そして私の友達M氏。
Pは好意を寄せているDを「一緒に作ろ~」と引っ張って来る。
それにくっ付いてきたDの親友。
女子4人。男子2人。
まさかあんなことが起こるとは――――。
誰も、思っていなかっただろう……。
*****
好きなものを作っていいという事なので何を作るか話し合った。
皆同じ小学校仲間だったので、誰がどの程度の腕前かは分かっているつもりだ。
難しいのを作るか?
簡単なのを作るか?
他の班はカレーの応用でシチューや、いろんなクッキーを作るようだ。
さて、我が班はどうしようか??
あれこれ意見を言っても全然決まらなかった。
班長の私は困った。
何を言ってもPが反対するのだ。
「……もぅPが決めなよ。」
私は面倒くさくなった。
そう一言投げると、Pはおもむろに
「ホットケーキとバターもちにしよう!!」
「「「「「バターもち???」」」」」
「いやいやいや、ちょっとまって!!!」
私は待ったをかけた。
「調理実習にホットケーキはないでしょう???私たち中学生だよ??そんな、小学生の調理実習でもあるまいし…。」
「だったら、ホットケーキに果物やナッツ入れて、生クリームを添えよう?」
「いやいやいやちょっと。果物とかナッツとかって高いんだよ??予算オーバーです!」
私は困惑した。
2時間もある調理実習でホットケーキとか阿保か!?と思っていた。
そこへLちゃんが、アイディアを出した。
「バナナならそんなに高くないんじゃない?」
Lちゃんはなんて優しいんだろう。
Lちゃんはグラタンとかケーキを作れるほどの腕前を持っている。
バレンタインでもないのに、お弁当の日にクッキーを手作りして皆にふるまってくれたりする、本当に良い子だ。
そんなLちゃんの優しさにほだされた私は、「バナナホットケーキか…。」と思いながらGOサインを出した。
ホットケーキでは点数を貰えないので、Pが言う「バターもち」も作ることにした。
「てか、バターもちって何??」
「知らないの?」
(知らないから聞いてんだろ!!)
私、「知らないの?」って言ってくる人苦手です。
その一言いらないよね??と思います。
「○○屋さんで売ってるんだけど、見たことない??」
「あ~あれか、食べたことはないなぁ。」
他のメンバーも食べたことが無いようだった。
バターもちを知っている私と、DとDの親友がバターもち班になり、P、Lちゃん、M氏がホットケーキ班になった。
先生に提出する、作り方や買い物リスト、予算案は私とM氏で作った。
一番困ったのはバターもちの作り方だ。
私は母に頼んで○○屋まで車で乗せてもらい、初対面のおばさんに作り方を教えてもらった。
こねるのに力がいる料理らしい。
部活に断りを入れてから、放課後にパソコンで一般的な作り方も検索した。
(まだ一般にPCは普及していない。携帯とPHSが入り乱れていたころ。)
Dに「そんなに立派に書かなくてもいいと思う。」と言われたが、「班長だし。」と素っ気なく答えた。
そうしてやっと作り方を作成し、コピーをして全員に配った。
「目を通しておいて、間違っていたら言ってね。」と―――――。
*****
調理実習当日。
私はサッサと作り始めた。
もちと少しの水を耐熱容器に入れ、電子レンジでチンをする。
水を捨てたら、柔らかくなったもちに砂糖を入れてよくこねる。
更に溶かしたバターを加え、再びこねる。
こねてこねてこねまくる。
電子レンジの過熱が足らなかったのか、もちは少し硬かった。
私がもちと格闘しているとき、M氏とLちゃんはバナナやナッツを砕き、Pはホットケーキの種を作り、DとDの親友は二人で生クリームを泡立てていた。Dは相変わらず「うおぉぉぉぉぉ!!!」とうるさい。
まぁうん。無駄のない采配だ。
さすが私!!と思っていた時だった。
「ちょっとCちゃん!!!何作ってるの!???」
Pの叫び声が聞こえた。
「何って……バターもちだよ?」
「こんなのバターもちじゃないよ!!グジャグジャじゃん!!!汚い!!」
Pの声で、班のメンバーどころか、クラスの皆が私の方に目を向けた。
(汚いってなんだよ…。皆見てるし……!!!!)
私は困惑と同時に言いようのない恥ずかしさに襲われた。
努めて冷静になろうとゆっくり息を吸い、相手に聞こえるくらいの声で言った。
「何言ってるの……?私、作り方パソコンで調べたんだよ?これで合ってるの。形は後で成形するから―――。」
「そうじゃないよ!!私が言ったバターもちは、フライパンにバターをひいて、焼いて、しょうゆをかけて食べるやつ!!!」
私は声が出なかった。
それは……確かにバターもちだが、調理実習にふさわしい「バターもち」ではないだろう?????それよりなにより……!!!!!!
私はふつふつと沸き上がった怒りを止められなかった。
ガンッ!!!!
持っていた耐熱容器を強くテーブルに置いた。
「私、作り方の紙渡したよね!!??間違ってたら言ってねって言ったよね!!???買い物リストも見せたでしょ?????見てなかったの????」
言葉の途中で涙が流れてきた。
心の中は荒れ狂っていた。
(Pがバターもちと言ったから、作り方を尋ねに言ったし、放課後わざわざ先生に頼んでパソコンを使わせてもらったし、作り方も領収書も、買い出しも、今日まで材料を保管したのも私だ!!!運んだのだって……!!!なんで文句を言われないといけない!!!???)
しかも悲しいことに、今「作り方が違う」と言う事は、彼女は作り方の紙を見ていなかったということだ。当事者の徒労も時間も、彼女にとってはどうでもいい事。買い出しの為に、それぞれが時間を割いたことも興味がない事。そのどれにも関心がなかった事が、悔しくて悔しくてたまらなかった。
「ふざけるなよ!!!???お前みたいなやつ見たことも聞いたこともねぇわ!!!??このろくでなしが!!!勝手にしろ!!私はもぅ作らないからな!???」
私は憤然としたまま、近くの椅子を持ち上げ、家庭科室の扉近くに椅子を置き、皆に背を向けた。
(私の班は、家庭科室の扉近くのテーブルを使っていたので、そんなに離れてはいない。)
他の班はそそくさと作業を再開させていた。
私の班に先生が来たが、Pに何と言うか言葉を考えているようだった。
友人M氏は、そっ……と何も言わず、私の側にいてくれた。
私は嗚咽をこらえて、ハンカチで目を押さえた。
その時――――――。
「あ。これうめぇぞ!!?」
(何――!?)
バッッと振り返ると、Dが制作途中のバターもちを一口食べていた。
「俺、この味好きだなぁ。ほらお前も食べてみろ」
Dは自分の親友に、スプーンで「バターもち」をすくい、渡す。
親友は一口食べたが、何の反応も示さなかった。
Dは思いっきり親友の背中をたたいた。
「馬鹿馬鹿お馬鹿……!!無理して食べなくていいから……。」
私はゆっくり持ち場に寄った。
「俺はこれでいい。皆が食べないなら俺が食う。」
「何言ってんの…。いいから。そんなことしなくていいから……。本当はおいしくないんでしょう……?」
「おいしい。」
「うそ。」
「うそじゃない。」
私は涙があふれた。
今度はさっきとは違う。
あたたかい涙だ。
「俺、これ食べたいなぁ~。だからさ、最後まで作って?」
私は答えられなかった。
泣きすぎてのどの奥がひくひくしていたからだ。
Lちゃんも隣に来てくれ
「私はちゃんと作り方見てたよ。これで合ってるよ。だから、自信もって?…ね?」
(Lちゃん!!!!!!!)
友人M氏は、私と目が合うと、ゆっくり頷いた。
私は言葉の代わりに何度も首を縦に振った。
DがPに向かい合った。
「お前さ~。調理実習なのに、そのバターもちは無いだろ。」
「……。」
「あいつ、わざわざ○○屋に行って作り方聞いてきたんだぞ?それでも十分なのに、パソコン室で調べるし。提出物も請け負って、買い出しした材料も保管して…。それなのに……。……お前は何した?買い出しもすっぽかして……寒い中皆ずっと待ってたんだぞ?その時の皆の気持ち……考えたことあるのかよ??」
静まり返る家庭科室。
無言のPに対して、Dは静かに怒った。
「もっと周りのこと考えろよ…。お前、無神経すぎるぞ…。」
「……………ごめんなさい。」
「…俺に謝ってどうすんだよ!?謝る相手間違ってるだろ!!」
私は驚いた。
Dが本気で怒ったのを初めてみた。
もちろん皆もそうだっただろう。
Pは小さい声で私に「ごめん」と言った。
私は何も言わなかった。
***
私は、Dが怒っていたときの言葉が頭に引っかかった。
(なんでそんなに私の行動知ってるの??違う意味で恥ずかしいんですけど…?)
それと同時に、自分の事をひそかに見守っていてくれたことに感動した。
この頃の私は、クラス委員、委員長、部長、コンマス、役職を頼まれ過ぎ、しばしば過呼吸を起こしていた。役職だけでなく、総合学習の部門別の発表代表、男女雇用機会均等法フォーラムへの参加も促されており、ピアノのグレード試験、勉強…。中学2年の冬はすさまじい忙しさだった。
心が休まる時間がなかった……。
―――過呼吸を起こした時、Dは直ぐに紙袋を持ってきてくれていた。
私は自分の状況を、ちゃんと理解できていなかったのだ。
だから今回、Dはしつこいくらいに「無理してないか?」「頼って欲しい」と声をかけてきていたのだ。
わざわざ朝、私の家に来て、調理実習の材料運びに来るほど―――……。
(……知らないところで、こんなに心配してくれていたのか。)
私は全然気づかなかった。
誰かに見守られていることが、こんなにも心地よいとは知らなかった。
…………私は、彼と同じことが出来るだろうか……?
出来る人間になれるだろうか?
(…………なりたいな……。)
私の心に一寸の光が射した。
その光に照らされて、心はぽかぽか温かくなった。
***
その後、滞りなく「バナナホットケーキ~ホイップ添え~」と「クルミ入りバターもち」は出来上がった。
ホットケーキは各自の皿に分けたが、バターもちは大皿に盛り、真ん中に置いた。
Dは「うめぇ!」と言いながら何個も食べたが、Pは1個食べただけだった。
中学2年最後の調理実習は、私の中でしょっぱい思い出で有り、甘い思い出となった。
そして、私が教育関係に興味を持つきっかけを作ったのだった―――。
*****
~教室にて~
「いやぁ~ドラマのワンシーンみたいでしたね~。」
教室の机に方杖をつき、ニヤニヤしながらM氏が言う。
私は終始無言。
「Dってあんなこと言うんだね??顔に似合わずだけどww」
うん。びっくりしました。
彼にあんな行動力と気転があるなんて。
「でさ、Dかっこよかったね??Cちゃん??」
うん?まぁかっこよかったかな??
私は眉を寄せながら、首を傾げる。
「で。どうするんですか???」
どうするとはなんだ。
というか君。キャラがいつもと違うぞ!!
君は教室で静かに本を読むのが大好きな本好き少女だろ!?
「なんか。すごくグイグイ来ますね。」
「グイグイしたくなるでしょ!!」
「……黙秘します!!!」
「え~~~き~に~な~る~~~。」
「やめて!!私のHPはゼロよ!!!」(たくさん泣いたからね。)
本当に、今まで以上に凄かったな。
何なんだもぅ。
釈然としない思いでいっぱいになった。
大人になってから○○屋にM氏と行った時に、この出来事を二人で思い出して「なつかし~!」と言っていたらM氏が気づいたんです。「最初にPが○○屋のバターもちって言ったのに、当日に違うって言ったのおかしくない?」
……本当だ。あの時は興奮していたし、丸く収まったから気づかなかった……。
え、どゆこと。やめて。軽くホラーだわ。
Pちゃんが私に近づいたのは、Dが目当てだったと知った時は悲しかったです……。
書いている最中、Dの事を思い出して泣いちゃいました……。




