第六話 初のダンジョンで親友のスキルがつよすぎる件
透のスキルがどんなものかわかりそうな。そんな六話です。
ギギギ……。
重々しい音を立て、ダンジョンの扉が開く。
黒くゴツゴツした岩肌。
壁に埋め込まれた鉱石が、ぼんやりと辺りを照らしていた。
「……。」
透がゆっくり前に出る。
両手を広げ、深呼吸を一つ。
「──諸君。」
「誰に話しかけてる。」
透は腰に手を当て、人差し指を天井へ突き上げた。
「今、この瞬間から伝説が始まる。」
「観客いないぞ。」
「未来の冒険者たちが語り継ぐんだよ。『英雄・透、初めてダンジョンへ降り立つ』ってな。」
「黒歴史になりそうだな。」
透は気にする様子もなく、ダンジョンへ向き直る。
「こんにちはー! ラスボスさーん! 今から倒しに行きまーす!」
……。
ヒュー……。
風が吹いただけだった。
「返事がない。留守か。」
「魔物が営業時間あるわけないだろ。」
「ブラック企業だな。」
「何の話だよ。」
「よし、行こうぜ浩介! 今日で俺の冒険者人生が始まる!」
「俺たち、まだ初心者だけどな。」
「初心者じゃない。」
「?」
「"未来の最強冒険者"だ。」
透は歯を見せ、これ以上ないほど爽やかな笑みを浮かべた。
「言い方変えただけじゃねぇか。」
今日の依頼は二つ。
・ゴブリン討伐
・スライム討伐
さっさと終わらせて帰ろう。
……そういえば、今日のデイリーまだ終わってないな。
先日、東区ではオークが現れ、西区でもオークが確認された。
……まさか、このダンジョンにもいたりしないよな。
俺は腰に下げたギルド支給の剣と、包帯を確認する。
「忘れ物は……なし。」
「なぁ、浩介。」
その一言で嫌な予感がした。
「松明って持ってきた?」
「……ない。」
「だよな。」
透は頭を抱えた。
「ギルドで買っとくんだった……。」
「一回戻るか?」
「いや、それは英雄として恥ずべき行為だ。」
「何言ってんだ、お前。」
二人は同時にポケットへ手を入れる。
「「スマホだ。」」
「文明最高。」
壁の鉱石のおかげで思ったより明るい。
暗い場所だけ照らせば十分そうだ。
そう思った、その時だった。
ぴょん。
ぴょん。
青いゼリー状の魔物が跳ねながら近づいてくる。
「浩介!」
「おう!」
二人同時に剣を構える。
「来た! 第一村人……じゃない、第一魔物!!」
「魔物だな。」
「こいつを倒せば俺も今日から英雄だ!」
「スライム一匹で?」
「英雄は最初、スライムから始まるんだ。」
「聞いたことない理論だな。」
「見てろ浩介。」
透は剣を構え、大きく息を吸う。
「我が魂よ──」
「長い。」
「……。」
「いくぞ!!」
「ただのスラッシュ!!!」
ズバッ!
剣は確かに一度しか振られていない。
だが次の瞬間──
ズバッ。
ズバッ。
ズバババッ!
スライムの体に遅れて無数の斬撃が走った。
「え?」
真っ二つどころか、八つほどの塊になって地面へ崩れ落ちる。
コロン、と魔石が転がった。
「……斬撃が増えた。」
「ん?」
「いや、今、斬撃増えたよな?」
「あ?」
透は首をかしげる。
「気合い入れたらいっぱい斬れた。」
「そんな適当な理由あるか。」
俺は転がる魔石を拾いながら、さっきの斬撃を思い返す。
剣は一度しか振っていない。
なのに、斬撃は明らかに増えていた。
「これが……バリアブルアタック。」
「いや、ただのスラッシュだって!!」
◇◇◇
無事スライムを数体倒した俺たちは、依頼の本命であるゴブリンを探して歩いていた。
一本道だと思っていた通路は、途中から三方向へ枝分かれしている。
壁には誰かが残したのか、剣で刻んだ矢印のような傷。
「先輩冒険者が付けた目印かな。」
「おっ、じゃあ左だな。」
「なんで?」
「主人公は左ルートって決まってる。」
「そんなルール聞いたことない。」
俺は壁の傷を見つめる。
……違う。
矢印じゃない。
剣で斬られた跡だ。
しかも、新しい。
「透。」
「ん?」
「これ、多分昨日か今日についた傷だ。」
「マジ?」
「剣の切り口が新しい。」
透も少しだけ表情を引き締めた。
その時だった。
ザザッ……。
奥から何かを引きずる音。
ピタ。
ピタ。
「……いる。」
自然と声が小さくなる。
耳を澄ます。
二体。
いや……
三体。
「透。」
「分かってる。」
その瞬間だった。
ヒュンッ!!
「──しゃがめ!」
理由なんて分からなかった。
気づけば叫んでいた。
透は反射的に身を沈める。
キンッ!!
ゴブリンが投げたナイフが、透の頭上をかすめて壁へ突き刺さった。
「あっぶねぇ……。」
「……なんで分かった?」
「俺にも分からん。」
本当に分からない。
ただ、透を"今しゃがませないと危ない"
そうなぜか確信しただけだった。
三体のゴブリンが飛び出してくる。
一体は棍棒。
二体は錆びた短剣。
「左!」
俺が叫ぶ。
透は迷わず左へ踏み込む。
ガキィン!!
棍棒を受け流し、そのまま回転。
「身体強化。」
透の足元が砕ける。
一歩でゴブリンとの距離を詰めた。
「ただのスラッシュ!!」
ズバッ!!
ゴブリン一体の腕を切る
「ギャァァ!!」
ゴブリンが悶絶の声を上げる。
しかし腕を失ったゴブリンが、なおも棍棒を振り下ろしてくる。
「しつこっ!」
一瞬だけ透が押される。
残る二体も同時に飛びかかる。
「後ろ!」
俺は、思わず叫んでいた。
透は振り向きもせず剣を払う。
「……バリアブルアタック。」
ブォンッ。
剣先が鞭のように伸びた。
「え?」
二体。
同時に首が宙を舞う。
ゴトリ。
残った一体は仲間を見捨てるように踵を返し、奥へ向かって走り出した。
「バリアブルアタック。」
剣身がギギギッと音を立てて伸びる。
刀身は一直線に変形し、一瞬で一本の槍へと姿を変えた。
「逃がすか!」
すかさず透は、槍を力一杯投げる。
グシャ…。パタン…。
これで三体。
透がニヤニヤしながら近づいてくる。
「どう?どう?」
「いやぁ……ついに始まっちゃうか。」
「俺の伝説。」
「だから始まる前に終わらせるな。」
「三体じゃ物足りねぇ。」
「初心者が言う台詞じゃない。」
俺は転がるゴブリンを見下ろす。
……こいつ、本当にDランクなのか?
そして帰り道。
少しだけ迷い別のルートを通っている。
透がどんどん前に進む。
「待て。」
「どうした?」
「……いや。」
「なんとなく嫌な感じがする。」
わからない。だが、とても嫌な感じがした。
「また勘?」
「多分。」
「じゃあ信じる。」
「こっちにいこう」
ガシャン!!
槍の罠が作動。
「うわっ!!」
「お前、勘良すぎない?」
「俺も意味分からん。」
しばらく歩くと
見知った巨大な扉が見えた。
「出口だ!」
「助かったぁー。」
透は大きく伸びをする。
「いやぁ。」
「俺の初ダンジョン、大勝利だったな。」
「迷ったけどな。」
「……。」
「それは言うな。」
浩介たちは、気づいていなかった。
闇の中で、一対の紅い瞳がゆっくりと開く。
その視線は、確かに二人を捉えていた。




