第三話 『勇者』天宮 玲が誕生しちゃった件
地球がクエスト化した日いち早くなぜ『勇者』が動けたのか?わかる回です。
真面目回なので少し退屈かもです。
世界が覚醒する一ヶ月前。
「――一ヶ月後、この世界は変わる。」
夢の中だった。
辺りは一面真っ白。
目の前には、深くフードを被った老人が立っている。
その姿は怪しいはずなのに、不思議と恐怖はなかった。
むしろ、どこか懐かしい。
初めて会った気がしない。
「人類は力を手にする。」
「しかし、その力に溺れれば世界は再び滅ぶ。」
「君には人類を導く先導者――『勇者』になってもらいたい。」
「……どうして私なんですか?」
老人は少しだけ笑った。
「君だけが、人を信じられるからだ。」
玲は一つ息を飲む。
「敵は?」
老人はわずかな沈黙のあと、静かに答えた。
「……魔王だ。」
その言葉を最後に、景色が白く溶けていった。
◇◇
「……夢か。」
天宮玲はゆっくりと目を開ける。
妙に現実味のある夢だった。
あの老人の顔は思い出せない。
それなのに、胸の奥だけが妙に温かい。
まるで昔から知っている人のような、不思議な感覚だった。
「……変な夢だな。」
そう呟いた瞬間だった。
自然と口が動く。
「――ステータス、オープン。」
言った本人が一番驚いた。
なぜ、この言葉を知っている?
考えるより先に、目の前へ半透明のウィンドウが現れる。
【ステータス】
体力:999
攻撃:999
防御:999
魔力:999
スキル:勇者 アイテムボックス
「……は?」
思わず声が漏れる。
全部、999。
ゲームならチートだ。
いや、それ以前に――。
「ステータスって何だ?」
夢のことといい、この画面といい、何も理解できない。
だが、一つだけ頭に焼き付いて離れない言葉がある。
「一人では世界は守れない。」
「力を持つ者を集めろ。」
「……仲間を集めろってことか。」
玲は窓の外を見つめ、小さく息を吐いた。
「ギルド……か。」
玲は改めてステータスを開き、表示された『アイテムボックス』という項目に意識を向けた。
「……開け。」
次の瞬間、目の前に小さなウィンドウが現れる。
中には一本の剣と、一つの水晶が収められていた。
水晶には『鑑定の水晶』と表示されている。
どうやら触れた相手の能力を六段階で判定できるらしい。
◇◇
「一ヶ月」
その言葉を思い出しながら、玲はカレンダーへ目を向け、小さく息を吐いた。
もし夢の内容が本当なら、残された時間はあまりにも短い。
スマートフォンを取り出し、信頼できる社員たちへ一斉にメッセージを送る。
『明日、大事な話があります。全員、時間を空けてもらえますか。』
ほどなくして返信が届く。
『なんですか?そんな改まって。』
『了解です。』
『社長がそこまで言うなら行きます。』
◇◇
翌日。
玲の自宅リビングには、白雪ゆあ、一堂みのる、金剛豪の三人が集まっていた。
四人はテーブルを囲み、向かい合って座る。
「今日は、大事な話がある。」
玲は夢で見た老人のこと、一ヶ月後に世界が変わること、自分に与えられた『勇者』という力、そして鑑定の水晶について包み隠さず話した。
話が終わると、部屋は静まり返る。
「……夢の話ですか?」
「社長、熱でもあるんじゃないですか?」
「さすがに信じろと言われても……。」
無理もない反応だった。
玲は静かに息を吸う。
「――ステータス、オープン。」
ピロン。
電子音と共に半透明のウィンドウが現れた。
【ステータス】
体力:999
攻撃:999
防御:999
魔力:999
スキル:勇者 アイテムボックス
「……え?」
ゆあが思わず立ち上がる。
「これ……ホログラムじゃありませんよね?」
豪が恐る恐る手を伸ばす。
「触れない……。」
みのるも目を見開く。
「どうやって浮いてるんですか、この画面……。」
「俺にも見えてる。」
豪の声が震えた。
「じゃあ……夢の話じゃないってことですか。」
玲は静かに頷く。
「俺にも全部は分からない。ただ、一ヶ月後に世界が変わる。それだけは確信している。」
そう言うと、玲はアイテムボックスから鑑定の水晶を取り出した。
「試してみよう。」
最初に豪が水晶へ手を置く。
淡い光が灯る。
【適性:E】
「俺、弱っ。」
思わず豪が苦笑する。
続いてゆあ。
【適性:F】
「最低評価じゃないですか……。」
最後にみのる。
【適性:E】
「普通ですね。」
玲も試してみる。
眩い光とともに文字が浮かぶ。
【勇者】
三人は思わず息を飲んだ。
「……本物なんですね。」
豪は腕を組み、深く考え込む。
「にわかには信じ難いですが……社長がこんな冗談を言う人じゃないのは知っています。」
みのるも頷いた。
「全部を信じるわけじゃありません。でも、本当だったら準備しない方が危険です。」
「問題は、この組織ですね。」
ゆあが手帳を開く。
「何を目指すんですか?」
玲は老人の言葉を思い出す。
『一人では世界は守れない。』
『力を持つ者を集めろ。』
「人を守る拠点を作る。」
「戦うためだけじゃない。」
「情報を集め、物資を管理し、人を助ける。」
「世界が変わった時、人が集まれる場所だ。」
三人は顔を見合わせ、小さく頷いた。
「まずは拠点ですね。」
豪が口を開く。
「使っていないビルがあります。」
「そこを本部にしましょう。」
「食料や医薬品は私が管理します。」
ゆあは素早くメモを書き始める。
「業務用無線も人数分手配します。」
「携帯電話が使えなくなる可能性も考えておきます。」
みのるも静かに口を開く。
「物資の調達と協力会社への交渉は私が担当します。」
玲は三人を見渡した。
「当たれば人が死ぬ。」
「外れれば笑い話だ。」
「だったら俺は、笑い話になる方を選びたい。」
その一言で、三人の表情が変わる。
「……分かりました。」
「社長を信じます。」
「やりましょう。」
玲は静かに笑う。
「ありがとう。」
「この組織の名前は――天宮ギルドにしよう。」
◇◇
二週間後。
空きビルは見違えるほど変わっていた。
入口には新しい看板。
『天宮ギルド』
倉庫には非常食や飲料水、医薬品が並び、廊下には業務用無線が整然と充電されている。
防犯設備も設置され、ゆあは東京全域の地図へ避難経路を書き込んでいた。
豪は建物の最終点検を終え、みのるは最後の物資搬入を確認している。
玲はその様子を眺め、小さく呟いた。
「あと二週間……。」
本当に世界は変わるのか。
その答えは、もうすぐ分かる。
その時、みのるが資料を持ってやって来た。
「社長。」
「もし本当に世界が変わるなら、政府にも連絡だけは入れておきませんか。」
「信じてもらえると思うか?」
「思いません。」
みのるは苦笑する。
「ですが、記録は残せます。」
「世界が変わった後、この拠点を民間ギルドとして認めてもらえるよう、申請だけはしておきましょう。」
玲は静かに頷いた。
「頼む。」
数日後。
『株式会社 天宮ホールディングス 災害対策本部』
その申請書は、政府へ正式に提出された。
この時はまだ誰も知らない。
その一枚の書類が、世界初の政府公認ギルド誕生へ繋がることを。
次回。地球覚醒当日。なぜ『勇者』がインタビューを受けていたのか。勇者目線のドラゴンのお話とギルドがオーク出現をなぜ知っていたのかの話につながります。




