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第二話 ソシャゲ課金のために薬草を摘みに行く

くろねこドリルです

「ふぁぁ……もう朝か」


昨夜は期間限定イベントに備えて、ソシャゲの育成をしていたせいで寝不足だ。


眠い目をこすりながらリビングへ向かう。


「浩介、ニュース見た?」


朝食を並べながら母さんがテレビを指差した。


「ん? まだ」


画面には、昨日から続くダンジョン関連のニュースが流れている。


『全国各地で発生したダンジョンについて、政府は冒険者制度を本格的に――』


「学校、休みにならないかしらねぇ」


母さんは心配そうに呟いた。


「大丈夫じゃない?」


大人たちがこぞってモンスター討伐に参加しているおかげで、今のところ大きな被害は出ていないらしい。


世界は大変なことになっている。


……でも、俺にはあまり関係ない。


「じゃ、行ってきます」


「気を付けてね」


母さんに見送られ、俺はいつも通り学校へ向かった。



教室に入ると、予想通り話題はダンジョン一色だった。


「昨日ゴブリン倒した!」


「俺、レベル上がったぞ!」


「新しいスキル覚えた!」


そんな会話を聞き流しながら、俺はスマホを取り出す。


まずはログインボーナス。


これだけは世界が変わっても欠かせない。


「おっはよー! 浩介!」

聞き慣れた声と共に、透が勢いよく教室へ入ってきた。


「おはよ」


「聞いたか?」


「何を?」


「金だ」


「……は?」


思わずスマホから顔を上げる。


透は満面の笑みを浮かべていた。


「金が稼げる」


「何の話?」


「聞いて驚け。モンスターを倒さなくても、俺たちは冒険者になれる」


「いや、急に詐欺師みたいなこと言うなよ」


「失礼な。俺は健全な情報屋だ」


「自分で言うか」


透は得意げにスマホを見せてくる。


「ほら、これ」


画面にはギルドの掲示板。


そこには薬草採取の依頼情報が載っていた。


「ダンジョン周辺に薬草が出現してるらしい。それをギルドに売れば金になる」


その瞬間。


俺の頭の中に、現在開催中の限定ガチャが浮かんだ。


あと二万円。


それだけあれば天井まで届く。


「……放課後、空いてるか?」


「やっぱり食いついた!」


透がニヤリと笑う。


「さすが廃課金戦士。金の匂いには敏感だな」


「誰が廃課金戦士だ」


「先月、限定キャラ引くために食費削ってた奴」


「……」


否定できない。


「まあいいじゃん。世界が変わっても趣味は大事だぜ?」


透は親指を立てる。


「ちなみに俺は新しい剣買いたい」


「お前もじゃねぇか」


俺たちは顔を見合わせる。


目的は世界を救うことじゃない。


課金資金と装備資金を稼ぐことだった。


放課後。


俺と透はスマホで薬草の採取場所を探していた。


「どこがいいかなぁ」


「ダンジョンから少し離れた場所でいいんじゃね?」


「確かに。危険も少なそうだし」


まだ開拓されていない場所なら、薬草も残っているだろう。


「じゃあ行くか」


透と二人、西区に発生したダンジョン方面へ向かった。



「ここか」


俺と透が辿り着いたのは、西区にある小さな森だった。


ダンジョンが発生した場所からは少し離れているためか、周囲には人の気配も少ない。


「本当にここで大丈夫なのか?」


俺が聞くと、透はスマホを片手に自信満々に頷いた。



「大丈夫大丈夫。俺の情報網を信じろ」

透は自信満々に胸を張る。


「ちなみに、その情報網って何?」


「冒険者掲示板、SNS、あと昨日知り合った冒険者のおっちゃん」


「最後だけ妙に生々しいな」


「情報収集は足で稼ぐ時代だろ?」


「いや、絶対お前暇なだけだろ」


「失礼だな。俺は世界の最先端情報を追っている」


「昨日は何してた?」


「三時間くらい掲示板見てた」


「暇人じゃん」


俺は周囲を見渡す。


「……っていうか普通の森だな」


「だな」


木々が生い茂り、鳥の声が聞こえる。


世界にダンジョンが現れたなんて嘘みたいな、いつも通りの自然風景だった。


「ほら、あった」


透が足元を指差す。


そこには小さな緑色の葉をつけた植物が生えていた。


「これが薬草?」


「らしい」


「ただの草にしか見えないけど」


「ゲームでもそういうもんだろ」


確かに。


名前が表示されなければ、ただの雑草にしか見えない。


俺たちは適当にしゃがみ込み、薬草採取を始めた。



しばらくして。


「結構あるな」


「お、またあった!」


透は薬草を見つけるたびにテンションが上がっていた。


「今日だけで金持ちじゃね?」


「この程度で金持ちは安いな」


「違う違う。この調子なら毎日来れば月収数十万ぐらいいくんじゃね?!」


「皮算用にも程がある」


「俺もう将来会社辞めるわ」


「まだ高校生だろ」


「じゃあ就職しない!」


「親が泣くぞ」




透は満足そうにリュックへ薬草を詰め込んでいる。


俺も黙々と拾っていく。


「これだけあれば結構な金になるんじゃないか?」


「だな。限定ガチャ、間に合うかも」


「それ重要だな」


世界の危機より、今はそっちの方が重要だった。



そう思って、再び薬草へ視線を戻す。



少し離れた場所では、数人の初心者冒険者がモンスターと戦っていた。


「くそっ! 動きが速い!」


相手は小型のゴブリン。


初心者向けとはいえ、初めて戦う人間には十分脅威だった。


「任せろ!」


弓を持った少年が後方へ下がる。


「援護する!」


狙いを定め、矢を放つ。


しかし。


「しまった!」


ゴブリンが直前で動いた。


矢は標的を外れる。


そして――


ヒュンッ。


一直線に森の奥へ飛んでいく。


その先には。


薬草を摘んでいる浩介がいた。


「危ない!!」


冒険者が叫ぶ。


だが。


浩介は反応しない。


矢の存在すら気付いていない。


「……あ」


浩介は突然しゃがみ込んだ。


「こっちの方が葉っぱ綺麗だな」


ただ、目の前の薬草を摘んだだけだった。


その瞬間。


ヒュッ。


矢が頭上を通り抜け、後ろの木に深々と突き刺さる。


ドスッ。


「…………」


冒険者たちは絶句した。


「今……」


「避けた?」


誰かが呟く。


「あいつ、矢を見てもいなかった」


弓を持った少年が青ざめる。


「避けたんじゃない」


「あれは……」


「当たらなかったんだ」


まるで最初から、そこに矢が通らないことが決まっていたかのように。


浩介は何も知らず、薬草を袋へ入れる。


「透、こっち結構あるぞ」


「お、マジか!」


透が駆け寄ってくる。

ふと、木に刺さった矢を見る。


「あれ?」


「ん?」


「誰か狩りでもしてたのか?」


「じゃね?」


「危ねーな。」 


「ほんとだな。」


二人はそれ以上気にも留めず、

また薬草を摘み始めた。



ギルドへ戻り、薬草を換金する。


受付のお姉さんは、薬草を確認して何度も首を傾げていた。


受付のお姉さんが急に顔を上げた。


「失礼ですが…。」


「はい?」


「採取場所、西区の小森林ですよね?」


「そうです。」


受付は隣の職員を見る。

「やっぱり…。」


「どうしたんです?」


「つい十分ほど前、あの周辺でオークの目撃報告が複数入りまして…。」


「え?」


透が固まる。

「マジ?」


「遭遇しませんでした?」


「……いや?」


浩介と透は顔を見合わせる。


「草しか見てないな。」

「俺も。」


受付のお姉さんは黙った。


「薬草の鑑定が終わりました…。」


「ありがとございます」


俺は薬草を見る。


普通の草にしか見えない。


「まぁ、普通の草にしかみえないよな」


「うん。」



俺は、即答した。



買い取り金額は、一人二万二千円。


俺と透は顔を見合わせる。


「よっしゃ!」


これで限定ガチャが回せる。


最高の日だ。


その頃。

ギルド本部。


「現場には戦闘痕がありません。」


「死体も?」


「ありません。」


「血痕は?」


「ありません。」


「……つまり」


「説明がつきません。」


職員たちは顔を見合わせた。


誰一人として、その現象を理解できなかった。






◇◇◇


その頃帰宅した浩介は、いつものように涼しげな顔をしていた。


「よし。」

買い取ってもらった金をチャージする。


「これで天井まで届く」


世界は大変らしい。

でも今の俺には、

限定キャラの方が大問題だった。



その頃――。


黒い鏡に、西区の森が映る。

森の中を無数の影が駆け抜けていく…

それを見た男は静かに目を閉じる。

「……」

その男は、そっと鏡を消した。

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