第二十七話 ソロ攻略
なんだか、物語がのっぺりしてるなぁ。
なんだか飽きてきちゃったなぁ。
ぐっ、ここは、ここは耐えどきですぞ!!
透がいなくなってから、一ヶ月が経った。
朝
ピロン
携帯の通知が鳴る。
しえるとは、たまに連絡を取り合っている。
彼女なりの努力をしているようだ。
おれは鏡を見る。
何かが変わったわけではない。
筋肉が急についたわけでもない。
でも___
「……使える。」
手を握る。
身体強化。
透が使っていた力。
自分もようやく届いた。
ただ、喜びよりも、
「これでやっと戦える」
そんな気持ちだった。
まだ強くならないと。
◇◇
誰もいない練習場。
カンッ。
カンッ。
剣を振る。
以前とは違う。
身体強化。
身体能力を一時的に引き上げる力。
やっと手に入れた。
でも
「……まだ足りない。」
強くなった。
だけど、透がいた時のような安心感はない。
自分がやらなければならない。
そんなことを思いながら
ポーションを飲み汗を拭く。
そして、一息つく。
その瞬間
「そうなんす!まだ足りないんす!!!」
ふと隣を見ると、小柄な女の子が立っている。
赤いボブヘアを揺らす、小柄な少女。
ぱっちりとした丸い瞳に、童顔。
一見すれば、どこにでもいる少女だ。
だが腰には二本のナイフ。
その柄は使い込まれていて、飾りではないことが一目で分かる。
目が合った瞬間、背筋に冷たいものが走った。
「……なんだ、この子。」
可愛い。
なのに、本能が「近づくな」と警鐘を鳴らしていた。
「いやぁ、こんにちわっす!」
「えっと...」
「浩介さんのファン1号っす」
「2号はいないのか?」
「まだ募集してるっす!」
「募集制なのかよ…。」
俺は何が起きたかわからなかった。
◇◇
ギルド
「勇者パーティ、ホワイトゲート12層突破したらしいぞ。」
「早すぎだろ……。」
「グリーンゲートなんて一週間で攻略したって話だ。」
俺はその会話を聞く。
やっぱり遠い…。
おれは、ぎゅっと拳を握る
そして後ろには先ほどの女の子がいる。
「浩介ちゃん」
俺は、声の方向へふりかえる。
「あなた朝からがんばるわね。」
マダムゴンゾウが声をかけてくる。
「師匠。」
「身体強化はどう?」
「まだわかりません。」
「ただ、透が力を貸してくれていると感じます。」
「そうね。」
少し笑う。
「ようやく、冒険者としてのスタートラインに立ったわね。」
浩介は苦笑する。
「まだスタートラインですか。」
「ええ。」
「でも、あなたの場合はそこまで来るのに普通より時間がかかっただけ。」
「だからこそ価値がある。」
「ほんとそう思うっす!」
「ちょっとあんた誰よ。」
「浩介さんのファン1号っす!」
「浩介ちゃん変なのに捕まったわね。」
「そうなんですよね……。」
「失礼っす!」
「失礼じゃないなら何なのよ。」
◇◇
『勇者・天宮玲パーティ、ホワイトゲート12階層到達』
『史上最速記録を更新』
ニュースが流れる。
俺は画面を見る。
「ホワイトゲート……。」
凄い。
流石、勇者。
そう思うはずだった。
でも――
「……あれ?」
なにか違和感を感じた。
おれは首を傾げる。
「どうしたの?」
マダムゴンゾウが聞く。
「いや……。」
おれは画面を見る。
「変じゃないですか?」
「何が変なのよ?」
「勇者って、グリーンゲートは攻略済みですよね?」
「ええ。そうよ。」
「単発ダンジョンも何個か攻略している。」
「そうね。」
浩介は指を折る。
「なら、経験値も戦闘経験も十分あるはず。」
「なのに、一ヶ月でホワイト12層。」
.....。
「……遅い気がする。」
マダムゴンゾウの表情が少し変わる。
「遅い?」
「いや、普通の冒険者から見たら異常です。ありえないくらい速い。」
「でも……。」
俺は画面を見る。
「攻略者として考えるなら、もっと効率化できるんじゃないかって。」
そこで気づく。
自分は何を考えているんだ。
勇者と比べている。
一ヶ月前まで、透に守られていた自分が。
でも___
「俺なら……。」
言葉が漏れる。
「俺なら、もっと進めるのか?」
怖い。
無理かもしれない。
でも。
「……やらなきゃいけない。」
マダムゴンゾウが笑う。
「やっと出てきたわね。」
「何がですか?」
「冒険者の目よ。」
マダムがモニターを見る。
「ダンジョンには段階がある。」
「グリーン。」
「ホワイト。」
「レッド。」
「ブラック。」
画面に4つのゲートが映る。
「あなたが強くなりたい。そう思うならいきさきは....」
「グリーンゲート30階層。」
「F~Dランク冒険者が挑む場所。」
「勇者も……?」
「もちろん通った道よ。」
「ただし、今の彼らはもう次の場所にいる。」
「ホワイトゲート。」
「ちなみに、あなたと同年代の新人でも9階層まで到達している子がいる。」
「今は、もう少しすすんだかしら。」
おれは黙る。
自分は5階。
少し悔しい。
でも__
負けてられない。
透の顔を思い出す。
「英雄なら」
「……追いつきます。」
「その顔なら大丈夫そうね。」
マダムは、笑う。
「ただ、勘違いしないこと。」
「グリーンゲートは簡単ではない。」
「変化するダンジョンだから。」
「地形も、魔物も、攻略方法も変わるわ。」
「昨日勝てた方法が、今日通じるとは限らないわよ。」
俺は頷く。
そして思い出す。
仲間を失った場所。
自分が何もできなかった場所。
だからこそ。
「行きます。」
「うっす!」
◇◇
巨大な緑色の扉
グリーンゲート。
以前、一度入った場所。
でも今は違う。
逃げるためではない。
強くなるために入る。
おれは拳を握る。
「……行ってきます。」
「ちょっとあなた死んだら許さないわよ。」
「死んだら怒られるんですか?」
「もちろん。ポーション代がもったいないもの。」
緑色の巨大なドアをそっと開く。
ギギギ
門をくぐった瞬間。
体がふわりと浮く感覚。
視界が緑色に染まり___
次の瞬間。
土を踏みしめる感触が足裏に伝わった。
「……。」
見上げる。
空は見えない。
何十メートルもありそうな巨木が頭上を覆い、枝葉の隙間から細い木漏れ日だけが差し込んでいる。
生ぬるい風が頬を撫でる。
湿った土の匂い。
草が擦れる音。
どこかで鳥が鳴いた。
だが、その静けさが逆に不気味だった。
「前と違う……。」
五層まで来た時の草原は跡形もない。
マダムの言葉が蘇る。
『変化するダンジョン。』
その意味を、ようやく理解した。
◇◇
ガサッ。
左の茂みが揺れる。
反射的に剣へ手を伸ばす。
息を止める。
一歩。
また一歩。
草をかき分けるように現れたのは___
緑色の肌。
黄色い瞳。
錆びた短剣を握るゴブリンだった。
「身体強化。」
ブワッ.....。
青色の光を纏う。
熱が全身を駆け巡る。
筋肉が軽くなる。
地面を蹴る。
ドンッ!!
一瞬で距離を詰める。
ゴブリンが驚いたように目を見開く。
「遅い。」
ザンッ!!
剣が肩口から斜めに走る。
血飛沫。
ゴブリンは声を上げる間もなく倒れた。
息を吐く。
「……いける。」
身体強化。
確かに強くなっている。
その瞬間。
ガサッ。
また音がした。
右。
後ろ。
正面。
ガサガサガサッ!!
茂みが次々と揺れる。
一体。
二体。
三体。
四体。
五体。
「……っ!」
「おい、うそだろ....。」
さっきまで静かだった森が、一気に牙を剥いた。
透なら前に出る。
しえるなら後ろから魔法。
今は全部一人。
透の声が聞こえたような気がした。
「逃げるぞおおおお!!!!」
「うぉぉぉぉぉぉあ!!」
背を向けて全力で走る。
枝が腕を引っ掻く。
「うっ...」
木の根につまずきそうになる。
「あぶねっ....!」
後ろから、
ギャギャギャッ!!
耳障りな叫び声。
「うぉぉぉぉぉ!!!!!!」
振り返る余裕もない。
肺が焼ける。
ようやく大岩の陰へ滑り込み、息を潜めた。
ゴブリンたちの足音。
カサッ。
カサッ。
すぐ近くを通り過ぎる。
汗が頬を伝う。
心臓の鼓動だけが異様に大きく聞こえた。
数十秒。
いや、一分か。
永遠にも感じる時間。
やがて足音は遠ざかっていった。
「……はぁ。」
その場に座り込む。
「ソロって……こんなにきついんすかね。」
聞き覚えのある声がする。
「え?」
「え?」
「なんでお前は、ここにいるんだよ…」
「見学っす!」
「遠足じゃないんだぞ!」
「おやつは持ってきてないっす。」
「.....。」
「浩介さんだけ、他の人と違うっす。」
「何が違うんだ?」
少女は少しだけ考える。
「……うまく言えないっす。」
「でも、他の人とは何か違うっす。」
「……。」
「面白そうだったっす。」
「ちょっと、ちょっとだけまってくれ」
ノートを取り出す。
魔物の数。
動き。
距離。
地形。
全部メモする。
浩介は小石を投げた。
カツン。
「よし....」
ガサッ。
二体。
「……違う。」
舌打ちし、すぐにノートへ書き込む。
『音が大きすぎる』
今度はもっと近くの木へ。
コツン。
一体だけが顔を上げた。
「……来た。」
身体強化。
ブォーン....
青い光を纏う。
足元がえぐれる。
ドンッ!!
ゴブリンが短剣を振る。
ギィン!!
剣で受け流す。
体勢が崩れた一瞬。
「そこだっ!!」
ザンッ!!
ゴブリンは、その場に力無く倒れ込む。
「……そうか。」
ノートを見る。
一体ずつ誘導可能。
書き加える。
「効率が悪かったんじゃない。」
「戦い方が悪かったんだ。」
「これなら、俺でも…いける...!!」
「いけるっす!!!!!」
ガサガサガサッ!!
「……。」
「……。」
「……。」
「また増えたっす。」
「……。」
「逃げるっす?」
「逃げる。」
「全力っす?」
「超全力だ。」
「了解っすーー!!」
「逃げるぞぉぉぉ!!」
「置いてかないでほしいっすーー!!」
「走りながらしゃべるなぁぁぁ!!!」
おかしい。絶対におかしい。
ソロ攻略のはずなのに、
開始早々パーティメンバーが一人増えていた。




