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第二十六話 執念



練習場。


カンッ。


カンッ。


カンッ。


剣を振る。

ただ、それだけだ。


魔物はいない。


先生もいない。


教えてくれる人もいない。


だから、自分で振るしかなかった。


だが、誰かがそれを見ていた。何も言わずに。


カンッ。


カンッ。


カンッ。


朝。


学校へ行く前に振る。


授業が終わればギルドへ向かう。


カンッ。


カンッ。


カンッ。



夜になるまで振る。


腕が震える。


手のひらは裂ける。


潰れた豆から血が滲む。


それでも止めない。


止めたら。


透との約束まで止まってしまう気がした。


翌日も。


その翌日も。


雨の日も。


汗で服が張り付く日も。


誰もいない練習場で。


ただ一人。


剣を振り続けた。


何をしたらいいかわからない。


でも、今は、これしかない。


一人それを見続ける人がいる。

「......,」


ギルドへ来た冒険者たちは横を通り過ぎる。


「あいつ、またいる。」


「意味あるのか?」


「才能ないやつが頑張ってもな。」


「あの人また...」


鼻で笑って通り過ぎる。 


浩介は聞こえていた。


全部。


それでも剣を振る。


受付の職員だけは違った。


「あの子……また今日も。」


「少し休ませた方が……。」


心配そうに見つめる。


それでも浩介は止まらない。


カンッ。


カンッ。


カンッ。


何日も。


何週間も。


やがて――


レベル11。


「……。」


「1しか……。」


剣を握る手が震える。


「これだけやって。」


「1しか上がらないのか。」


唇を噛む。


「やっぱり……。」


「俺には才能ないのかな。」


「まだいけるだろ?」

誰かにそう言われた気がした。


「まだだ、もっと...」


その姿を、

少し離れた柱の陰から見つめる人物がいた。


「ふふ。」

「面白い子。」


数日後。


浩介は、いつものように剣を振っていた。

カンッ。


カンッ。


カンッ。


手が痛い。


腕が軋む。


それでもやめない。やめられない。


やめてはいけない。


足が震える。


それでも


カンッ。


カンッ。


カンッ。


気が遠くなる。


目の前がぼやける。


力が抜ける。


足が震える。


それでも振る。


カンッ。


剣が手から滑り落ちる。


「まだだ……。」


拾おうと膝をつく。


指先に力が入らない。


視界が暗く染まる。


「まだ……。」

ドサッ。


その瞬間。


「おっと...」


誰がに支えられる。


「そんなになるまで、一人で頑張らなくてもいいのよ。」

「休むのも仕事の内。」


誰がに優しく声をかけれる。


「これを飲みなさい。」


ポーションを口に注ぎ込まれる。


傷がたちまちいえる。


目を凝らすと

そこには、派手な服を身にまとった人が立っていた。


「あなた、透ちゃんのお友達よね?」


「……はい。」


「毎日見てたわ。」


その人は浩介を頭から足まで眺める。


「才能は……ない。」


「てんでダメ。」


浩介は苦笑する。


「ですよね。」 


「でも。」


マダムは口元を緩めた。


「あなた、嫌いじゃないわ。」


「その目だけは死んでない。」

「誰かを守るために強くなろうとしてる。」

「その執念は嫌いじゃないわ。」


一歩近づく。


「私が鍛えてあげる。」

「ただし、地獄よ?」


浩介は迷わなかった。 


「お願いします。」


マダムは満足そうに笑う。


「いい返事。」


「ついてらっしゃい。」


◇◇

ギルド練習場


俺は構える。


「武器はなしよ。」


「構えなさい。」


「はい!」


「キューティストレート!」


ドゴォッ!!


「ぶっ!」


「避けるんじゃないわ!」


「えぇ!?」


「よけないのよ!」

「魂で受け止めなさい!!」


「は、はい!」


「ビューティキック!!!」


俺は吹き飛ぶ。


「キューティストレート!!」


ドゴォッ!!


俺は壁まで吹き飛ばされた。


肺から空気が一気に抜ける。


「がはっ……!」


息ができない。


体が言うことを聞かない。


「立ちなさい。」


震える腕で床を押す。


立ち上がる。


「もう一回。」


「はい。」


「ビューティキック!!」


ドゴォン!!


また吹き飛ぶ。


膝が砕けそうになる。


それでも立つ。


「もう一回。」


「はい。」


「あなた……。」


マダムが目を細める。


「普通なら三発で帰るわよ。」


何度も。何度も。


「あなた!ほんとに人間.....?」

「透ちゃんでもこんなに耐えられなかったわよ。」


「.......」


しばらく沈黙が流れる。


「そうね。」

「あなたやりたいことをやってみなさい」


「は、はい!!」


「身体強化!」

……

何も起きない。

「もう一回!」

……

失敗。


浩介は立ち上がる。


足は震えている。


腕も上がらない。


それでも拳を握る。


「身体強化。」


何も起きない。


「もう一回。」


失敗。


「もう一回。」


失敗。


「もう一回。」


……


マダムゴンゾウはため息をつく。


「ダメ。」


「今のままじゃ全然ダメ。」


浩介は肩を落とす。


「……やっぱり俺には才能がないんですか。」


「ええ。」


「才能はないわ。」


間を置いて、マダムは笑う。


「でも違うわ。」


「あなた、頭では理解してるわよ。」


「でもね、何より心が動いてない。」


「身体強化は筋肉を強くする魔法じゃない。」


「自分の限界を超えたいという意志を、魔力に変えるスキルよ。」 


「……」


「あなたは何のために強くなるの?」 


浩介は答えられない。


「迷宮を攻略するため?」


「違う。」


「ランキングを上げるため?」


「違う。」


「じゃあ何?」


沈黙。


ふと、透の最後の姿が浮かぶ。


『英雄になる!』


あの日、無邪気に笑っていた透。

あの笑顔は、もう戻らない。


浩介は拳を握る。


「……もう。」 


「もう誰も死なせたくない。」


「俺のせいで。」


「俺の目の前で。」


「誰も。」


マダムゴンゾウは微笑む。


「そう。」


「その想いを忘れないこと。」


「スキルは才能だけじゃない。」


「才能がある人はいる。」


「努力できる人もいる。」


「でもね。」


「最後まで強くなる人は。」


「想いを捨てなかった人よ。」


「わかったらもう一度やってみなさい。」


「身体強化。」


何も起きない。


「もう一回。」


失敗。


「もう一回。」


失敗。


「もう一回。」


……


「違う……」


「身体強化。」 


何も起きない。


「違う……。」


透が身体強化を使った瞬間。


あの時、体を流れていた熱。


魔力が巡る感覚。


「……そうか。」

「そうだったのか。」


全身の奥で、何かが弾けた。

ブワッ――。


足元から青白い魔力が噴き上がる。


空気が震えた。


マダムは笑った。


「透ちゃんと同じ光だわ。」


「才能はまだない。」 


「でも。」


「諦めの悪さは、一流ね。」


その日。

浩介は初めて、自分の力で一歩前へ進んだ。


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