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第二十五話 焦燥

数ヶ月前、透が死んだ後に戻ります


透が死んだ後に遡る。


透の葬儀が終わった。


焼香の匂い。


静かな読経。


泣き崩れる家族の姿。


その光景だけが、何度も頭の中で繰り返される。


俺は何も、何もできなかった。


今も隣にいると錯覚する。


「なぁ!こうすけぇー!!」

そんな声が聞こえてくるような気がする。

だが、透は隣にいない。


それから数日。


朝、目が覚める。


「学校か……」


ベッドから起き上がれない。


カーテンの隙間から朝日が差し込む。


いつもなら透から「遅刻すんぞ!」と連絡が来る時間だった。


ピンポンが聞こえない。


電話も来ない。


スマホは静かなままだった。


俺はいまだに現実を受け入れられなかった。

学校へ向かう。


教室では誰かが笑っている。


先生はいつも通り授業を進める。


黒板を見ても文字は頭に入らない。


「佐川、ここ分かるか?」


「……え?」


クラスが少し笑う。 


何を聞かれたのかさえ分からなかった。


世界は何も変わっていない。


なのに__俺だけが止まったままだった。


昼休み。


教室はいつも通り騒がしい。


パンを食べながら笑う奴。

スマホで動画を見ている奴。


その中に、透の姿だけがない。


いつもなら__


「こうすけぇ!パン一口くれ!」


そんな声が飛んできたはずだった。


気づけば俺は、もう一本買ってしまったパンを見つめていた。


「……あ。」


もう、分ける相手はいない。


世界から色が抜け落ちたように見えた。


気づけば窓の外をぼんやり眺めている。


いつもなら横からうるさく話しかけてくる透はいない。


「あー……」


気づけばため息ばかりついていた。


放課後。


信号待ち。


赤信号が青に変わる。


人の流れに合わせて歩く。


前を歩く高校生たちが笑っている。


「昨日のダンジョンさー」


そんな会話が耳に入る。


思わず足が止まる。


透も、あんな風に笑っていた。


「英雄になる!」


そう叫んで。


胸の奥が痛んだ。


いつもより長い帰り道。


重い足取りで家へ帰った。


机の上にはスマホ。


いつものようにゲームを開こうとする。


アイコンを押そうとして、指が止まった。


結局、そのままベッドへ倒れ込んだ。


何もしたくない。


何をしても楽しくない。


時間だけが、ゆっくりと過ぎていく。


「……何やってんだ、俺。」


静かな部屋で、ぽつりと呟く。


母さんが夕飯を呼ぶ声が聞こえる。


「今日はいい。」


それだけ答えてまた部屋に戻る。


腹は減っているはずなのに、何も食べる気になれなかった。


どうしてこんなに。


この世界に色がないんだ。


どうしてこんなに静かなんだ。


何も見えない。


何も聞こえない。


「.....」


その時だった。


『浩介、お前って努力家じゃん。』


透の声が聞こえた気がした。


『諦めなかったんだろ?』


あの日の笑顔が浮かぶ。


「……そうだよな。」


透なら。


きっと立ち止まらない。


「諦めない。」


浩介はゆっくりと立ち上がる。


制服の上着を羽織り、玄関の扉を開けた。


夕暮れの街は妙に静かだった。


蝉の鳴き声だけが耳に響く。


「なぁ、俺はどうしたらいい?透」


答えは返ってこない。


ギルドへ向かう道。


何度も透と歩いた道だった。


コンビニ。


公園。


交差点。


どこを見ても思い出ばかりだった。


「なぁ、帰りに肉まん食おうぜ。」


そんな何気ない一言まで思い出してしまう。


「……ほんと、うるさかったな。」


自然と笑いそうになって。


その笑顔はすぐ消えた。


一歩、また一歩。


重たい足を前へ運ぶ。


透が見たかった景色を。


透が目指した未来へ。


今度は俺が歩いていく。


向かう先は___ギルドだった。


◇◇


ギルド内は活気に満ちていた。


次の冒険へ向かう冒険者たちが行き交う。


モニターではニュースが流れている。


『またダンジョンで死亡者___』


誰かがぼやき、誰かが笑う。


けれど、その声は俺には届かなかった。


景色は相変わらず色を失ったまま。


「佐川さん……」


受付嬢が何か言いかける。


けれど、何も言わなかった。


その表情だけで十分だった。


それでも____。

俺は一人、練習場へ向かう。


誰もいない練習場。


木剣を一本手に取る。


ずっしりとした重さが掌に伝わる。


「......」


振る。


空を切る。


もう一度。


振る。


透なら、ここで笑っていただろう。


「遅ぇぞ!こうすけ!」


そんな声は、もう聞こえない。


それでも俺は剣を振り続けた。


もう一度。


振る。


また振る。


息が乱れる。


腕が痛い。


それでも止まれない。


強くならなきゃ。


もう、誰も失いたくない。


木剣を振る。


一回。


十回。


百回。 


腕が悲鳴を上げる。


手のひらの皮が擦れて痛い。


それでも止まれない。


止まったら、また誰かを失う気がした。


止まることが、一番怖かった。


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人は来るかもね、曇らせと償いだから、
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