第二十二話 PK
PK戦闘始まります。
「透」
「ん?」
「絶対に先頭を走るな」
「え?」
「相手は人間だ」
一歩、足を進める。
「モンスターみたいに正面から来るとは限らない」
「……」
「待ち伏せしてくる」
透の表情から、いつもの軽さが少し消えた。
四層を抜ける。
その先にあったのは、今までとは明らかに違う空気だった。
湿った空気。
薄暗い通路。
そして.....
ドン。
目の前に、大きな扉。
五層のボス部屋。
……なのに。
扉が、少しだけ開いている。
「……しえる」
「は、はい」
「インビジブル」
「インビジブル!」
シュゥゥゥ……。
身体が青白い光に包まれる。
認識阻害。
姿そのものが消えるわけじゃない。
だからこそ、冒険者相手にどこまで通用するのかは分からない。
「俺が様子を見る」
小声で言う。
「透、いつでも出られるように」
「了解」
ゆっくりと。
音を立てないように。
扉の隙間から中を覗く。
__いた。
二人____
部屋の中央付近に剣士。
その少し後ろに弓使い。
二人の足元には、倒れた冒険者が三人。
ボスの姿は、もうない。
「……」
扉をくぐり、数歩だけ中へ入る。
俺は物陰に身を潜め、様子を窺った。
二人は、何かを漁っている。
装備。
アイテム。
ポーション。
……死体から。
背筋に、冷たいものが走った。
俺はチャットを開く。
『二人いる』
『大丈夫そうだ』
『合図するまで動くな』
二人が話している。
「いやー、大量だぜ」
「そうだなぁ!」
「やめられねぇー!」
男が拾ったアイテムを掲げる。
「ボスに同行してぇ」
「一緒に倒し切った後にやれば__」
ニタァ。
「簡単だよなぁ!!!!」
……こいつら。
「汚すぎるだろ……」
ボスを一緒に倒す。
その言葉で安心させる。
そして、討伐直後。
一番油断しているところを殺す。
「……」
俺は拳を握った。
その瞬間。
剣士の男が__
ニヤリ。
「……?」
嫌な予感。
ゾクッ。
背筋を悪寒が走る。
いつの間にか、剣士は俺の背後まで回り込んでいた。
「まず__」
「浩介!!!!!」
「__いっ!!」
透が叫ぶ。
ガキィィィィンッ!!
「バリアブルアタック!!」
間一髪。
男の剣を盾で受け止める。
「おいおい!」
ギリギリギリッ!!
盾越しに、腕が痺れる。
「防がれちゃ世話ねぇーぜ!」
「しえる!!」
「はい!」
「ストーンウォール!!」
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
地面が隆起する。
石壁が男と弓使いの間を一気に遮った。
剣士だけが俺たちの前に取り残される。
「なっ!?」
「よし!」
分断した。
だが__
「……おいおい」
男が笑う。
「なんでスキルの効果発動しなかったんだよ、って顔してんなぁ」
「……!」
「わりぃーけどよ」
男が、自分の目を指差した。
「こっちには鑑定があるんだよ」
「鑑定……?」
頭の中で情報が繋がる。
インビジブルは決まっていた。
なのに、気づかれた。
だったら__
「道具に使った鑑定が……俺にも適用されたのか」
「ご名答」
「くそっ……!」
完全に想定外だった。
男がニタニタと笑う。
「いい顔するじゃねぇか」
指を折る。
「一、二……三か」
俺。
透。
しえる。
「三対二」
男の口角が上がる。
「お前ら、弱そうだなぁ」
……舐められてる。
でも。
問題はこいつだ。
弓使いを分断できた。
先に剣士を落とす。
「透!」
「了解!」
「身体強化!」
ドンッ!!
身体が一気に前へ出る。
ダダダダッ!!
「しえる!ストーンウォールで弓のやつを拘束!」
「はい!」
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
石壁が四方から伸びる。
「くそっ!」
弓使いが壁を叩く。
「出られねぇ!!」
「よし!」
これで__
「ラビットステップ」
一瞬で俺たちの視界から消える。
「……は?」
次の瞬間。
俺たちの左側へ回り込んでいた。
ピュンッ!!
「っ!」
横。
ピュンッ!!
後ろ。
速い。
「透!一旦引け!!」
「了解!」
ガキィン!!
ギィンッ!!
透が盾を構え、攻撃を受けながら後退する。
「なんだ、この速さ……!」
視界から消える。
一瞬。
次の瞬間には別の場所。
高速移動。
スキルか。
「しえる!」
ピュンッ!!
「危ない!!」
「__っ!」
透の声。
しえるに向かって剣が走る。
間に合わない。
俺は咄嗟に飛び込んだ。
ガキィンッ!!
剣を弾く。
パリィ。
……透の動きを見ておいてよかった。
「ほう」
男が笑う。
「やるじゃん」
その瞬間。
ヒュンッ!!
「……!」
頭上。
矢。
「スナイプアロー!!!!」
「透!!」
「おっけ!」
「バリアブル__」
「おっと」
ザンッ!!
剣士が透へ切り込む。
「させねぇよ」
「しえる!避けろ!!」
無理だ。
間に合わない。
しえるは、咄嗟に杖を構える。
「ファイアボール!!」
ゴォォォッ!!
火球が飛ぶ。
ドォン!!
空中で矢を撃ち落とした。
「ナイス!!」
……まずい。
攻め込めない。
剣士が速すぎる。
俺たちが攻撃すれば避ける。
透が近づけば切り込まれる。
しえるが狙われれば守るしかない。
どうする。
どうやって倒す。
考えろ。
相手の動き。
攻撃頻度。
スキル。
距離。
……。
「お前、うざいなぁ!!」
ピュンッ!!
「__っ!」
来る。
速い。
「オラァッ!!」
ザンッ!!
「……!」
身体を捻る。
ヒュンッ。
空振り。
「は?」
もう一度。
「おりゃぁ!!」
ザンッ!!
ヒュンッ。
また。
当たらない。
……なんでだ。
俺は攻撃を避けた。
いや。
違う。
避けたんじゃない。
……当たらない。
「……」
何が起きてる?
いや、今は、考えるな。
どう倒すか。
俺の位置。
剣士の位置。
透。
しえる。
そして__
石壁。
……。
「……これか」
視線を動かす。
弓使いを閉じ込めている石壁。
俺たち。
剣士。
「……そういうことか」
分かった。
「透!」
「おっけ!」
透が振り向く。
「バリアブルアタック!」
ギギギギギ……!!
青い光が剣を包む。
剣が__
槍へ。
「おりゃぁぁぁ!!」
ブンッ!!
槍が一直線に飛ぶ。
「そんな攻撃__」
男が身体を捻る。
「当たらねぇよ!」
……違う。
当てるんじゃない。
「透!」
「ん?」
「バリアブル!盾!!」
「了解!」
飛んでいる槍が――
ギギギギギッ!!
巨大な盾へと変形する。
「なっ!?」
俺は走った。
ダッ!!
「間に合え……!」
ダダダダッ!!
盾が落ちる。
俺が追う。
「なんだ!?」
男が振り返る。
「よしっ!!」
ガシッ!!
落ちる前に、空中で盾を掴む。
その勢いのまま体重を乗せた。
「うおおおおおっ!!」
ドゴォン!!
男の身体を盾ごと押し潰す。
「は……?」
動きが止まった。
今だ。
「しえる!!」
「はい!!」
「俺に向かってファイアボール!!」
「えっ!?」
「早く!!」
「は、はいっ!」
「ファイアボール!!」
ゴォォォォォッ!!
「おい!!!」
男の顔が引きつる。
「やめろ!!!」
炎が迫る。
「やめろォォォォォ!!!!!」
「エンチャント!!」
ゴォォォッ!!
盾が炎を纏う。
「うぁああああああ!!!」
炎が男を包み込む。
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
「……っ」
焦げた臭い。
肉の焼ける臭い。
やがて。
静かになった。
「……ふぅ」
荒い息を吐く。
「……勝った」
「浩介……」
「まだだ」
俺は弓使いを見る。
石壁の向こう。
「しえる」
「はい」
「ストーンウォール」
俺は静かに伝えた。
「……はい」
ゴゴゴゴゴゴゴッ。
壁が__
さらに狭まる。
「ま、待て!」
「おい!!」
「話し合おうぜ!!」
ドンッ!
ドンッ!
石壁を叩く音。
四方の石壁が、容赦なく迫る。
「俺たちは……。」
男は必死に押し返そうとする。
ミシッ……
グチャッ。
「…。」
声が消えた。
しえるが、目を逸らす。
俺も何も言えなかった。
ただ。
焦げた臭いだけが残っていた。
「……あぶなかった」
透が、息を吐く。
「どうなることかと思ったぜ」
「……ああ」
俺は頷く。
五層。
初めてのPK。
俺たちは__
勝った。
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