第二十一話 四層
「少し休憩するか」
透もしえるも疲れている。これから先に行くなら休んだほうがいいだろう。
「ふぅーー!」
「こうすけぇー、さすがにづがれだー……」
珍しく透が地面に大の字になる。
「英雄が床になってるぞ。」
「英雄にも充電時間は必要なんだ。」
「スマホかよ。」
しえるが思わず吹き出した。
少し空気が和らぐ。
「四階層は厳しいか?」
「まだギリいける!」
「しえるは?」
「私も……この層なら大丈夫です。」
疲れは見えるが、まだ余力はある。
「なぁ浩介。四階層ってどんな感じなんだ?」
透が壁にもたれながら聞く。
浩介はメモ帳を開く。
びっしりと書かれた文字。
「うわっ……また増えてる。」
「昨日寝る前にまとめた。」
「勉強熱心か。」
「ゲームは予習八割だからな。」
透は苦笑する。
「今の俺たちなら苦戦しない相手が多い。低級の魔物中心だから、安全にレベル上げできる層だ。」
ページをめくる。
「それと、この層は通路が広い。囲まれやすいから、敵を見つけたら無理に突っ込まず、細い通路まで下がって戦う。」
「なるほど。」
「あと透。」
「ん?」
「お前、敵見つけるとすぐ突っ込むだろ。」
「……。」
「図星か。」
「いや、英雄だから。」
「それを突っ込んでるって言うんだ。」
しえるがクスクス笑う。
「今回は効率より安全優先だ。連携の確認と、ギルドへの報告用に情報も集める。」
「了解、隊長。」
「隊長じゃない。」
「攻略班長。」
「微妙に昇格したな。」
再び笑いが起きる。
浩介はメモを閉じた。
「この先はオーク、オークリーダーが出始める。」
「俺にかかれば一撃だぜ。」
「そのセリフは倒してから言え。」
「サポートは任せてください。」
「あと情報だと、この先の五階層にボス部屋がある。だからここで無駄に消耗はしたくない。」
透の表情が少し真面目になる。
「なるほど。先まで考えてるわけか。」
「攻略は先読みが全部だからな。」
「よし。」
浩介は立ち上がる。
「そろそろ行くか。」
「おっけー!」
「了解です!」
「この通路をまっすぐ行くと分かれ道が――」
ガガガ……。
「来るぞ。」
「了解!」
茶色い肌。
豚のような顔。
巨大な体躯。
オークだ。
「さて、始めるか!」
透は、構える。
「いやまて!」
「透!俺に身体強化だ!」
「試したいことがある!」
「おっけい!!!」
「身体強化!!!!」
ブォンッ!!!
俺の体は、青色の光を纏う。
「そしてしえる岩壁をすぐ撃てるように準備!」
「了解!」
俺は、オークの正面に構える。
グォォォォォ!!
ドドドドドッ!!
地面が揺れる。
「速っ……!」
予想より速い。
一瞬、背筋が冷える。
ここで避け損ねたら終わる。
「浩介ぇ!!」
透の叫びが聞こえる。
ギリッ。
俺はぬかるみを蹴る。
ザッ!!
頬をかすめる風圧。
ズドォォォン!!!
壁が砕け、泥が飛び散る。
「三、二、一……今だ!」
浩介は横へ回避。
ズドォォン!!
オークが壁に激突。
「ここだ!」
浩介は膝へ剣を叩き込む。
ゴキッ。
オークが膝をつき、ぬかるみに手がはまる。
「ここだぁぁぁあ!!!」
グサッ!!
浩介が首へ止めを刺す。
ドシーーッン......
オークは、床に力無く倒れた。
「攻略サイトの情報、やっぱ本物だな……」
成功した……。
攻略サイトの検証通りだ。
でも、一歩間違えれば俺が死んでた。
ゲームじゃない。
「え!!!そんな倒し方あんの?」
達が感動している。
「ふぅ…。あぁ。」
「真っ向で挑まず、弱点をつくんだ。」
「力勝負する相手じゃない。攻略する相手だ。」
俺は呼吸を整えながら喋る。
「すげぇーな。」
工夫で倒す。
この情報がどこまで通じるかだな。
「よし、奥に進むぞ。」
広い通路へ出る。
右へ曲がろうとした、その時。
「透!動くな!」
「え!?」
俺は透を咄嗟に止める。
「足元みてみろ。」
スイッチがある。
「あぶねぇー。」
透は、冷や汗をかいている。
おそらく槍形か、捕獲用トラップだろう。
捕まれば最後オークたちに八つ裂きにされる。
4階層は、その罠にさえ気をつければ案外すんなりいけそうだ。
俺たちは、道なりに進んだ。
通路を抜けた瞬間。
視界が一気に開けた。
天井は二十メートル以上。
湿った空気が肌にまとわりつく。
ポタ……
ポタ……
天井から落ちる水滴の音だけが響いていた。
中央には苔むした大きな岩。
そこから八本の通路が蜘蛛の巣のように伸びている。
「おお……。」
透が思わず息をのむ。
「迷路じゃねぇか。」
「おおおお!こんなに道あんのかよ!」
ゔぅぅ…。
音がする方に目をやると
右側の通路に
紫髪の少年が横たわっていた。
少年の肩には剣で斬られたような傷がある。
「おい!大丈夫か!!」
咄嗟に透は駆け寄る。
「お願い……!」
「助けてください……!」
「まだ仲間が……!」
「まだ生きてるんです!!」
ゴホッ。
血を吐く。
「早く……!」
「プレイヤーキラーに…」
「しえる!ポーション!」
しえるは、駆け寄り急いで少年の口にポーションを注ぐ。
ふと、俺は少年の言葉で頭が止まる。
(PK……?)
これまでの死亡者数の増加。
もしこれが原因なら――
ドクン。
心臓が鳴る。
ニュース。
『低級ダンジョンで死亡者』
違和感があった。
オーク程度で死ぬか?
いや。
ありえない。
罠もある。
囲まれても逃げられる。
普通なら死なない。
なら誰が殺した?
人間。
「そういうことか。」
背中を冷たい汗が流れた。
モンスターじゃない。
人が人を狩ってる。
「何人だ!」
俺は咄嗟に少年に確認する。
「二人です……。」
「レベルは!」
「十五くらい……。」
「剣使いと弓使いです……。」
「装備は?」
「鉄の剣……革鎧です……。」
考える。
レベル十五。
俺たちより格上だ。
真正面からなら勝てない。
だが二対三。
しえるの魔法が決まれば勝機はある。
問題は奇襲されること。
どうする……。
俺の考えていることがわかったのか
透が俺を見てうなづく。
「浩介。いくぞ」
拳を握りしめて、震えている。
透は、誰が見てもわかるくらい怒っていた。
「しえるもいけるか?」
「はい、助けに行きましょう!」
俺たちの敵は、もう魔物だけじゃなかった。
相手は人間。
攻略情報はない。
だから、自分で攻略するしかない。
でも……。
俺は剣を握り直した。
ギュッ。
「透。」
「しえる。」
「ここからはモンスター討伐じゃない。」
「人を相手にする。」
透から笑顔が消えた。
しえるも小さく息を呑む。
「気を抜いたら死ぬ。」
静寂。
水滴が落ちる音だけが響く。
「モンスターは攻略できる。」
浩介が小さく呟く。
「でも、人間は…。」
「…。」
「……行くぞ。」
俺は剣を握り直した。




