第十七話 現実
ケルベロスは、勇者と対峙した。
うううう。。
低い唸り声を上げている。
「まだ生きていたか。」
たったの一撃だけで、どちらが狩る側なのかはっきりさせた。
こんなに強いのか。
こんなにも強いのか。
俺は拳をギュッと握った。
俺はあまりにも弱すぎる。
シュンッ。
一閃。
黄金の光が一直線に走る。
次の瞬間。
ケルベロスの巨体は真っ二つになっていた
ゴトン…。
「…少年大丈夫か?」
大きな盾を持つ大男は、優しくきいてくる。
俺は安堵と疲れからか気を失った。
◇◇
ここはどこだ?
真っ暗な場所に1人。
「お前はまた誰も守れないのか?」
声が聞こえる。
聞き覚えがあるような。
「誰だよ」
「…。」
返事はない。
「誰だ。」
「まだ思い出せないか。」
「……。」
「まあいい。」
「今はまだ弱すぎる。」
「ここまで来い。」
「俺を殺しに。」
◇◇
「……けぇ!!!」
「…うすけぇ!!!」
「浩介ぇぇえ!!!」
はっと目が覚める。
「どこだ。ここ。」
気が動転しているのか。どこかわからない。
あたりを見渡す。
「ギルドの病室か。」
目の前には、透と目を赤くしたしえるがいた。
「浩介ぇぇえ!」
「よかった……本当によかった……」
しえるは目を赤くしていた。
「さすが、浩介だな!」
「やっぱり俺の相棒だぜ」
「おいおい、少しは、心配しろよ!」
ほんとに透は。
「浩介くん、ごめんなさい……」
「助けに行けなくて……」
「あれは俺のせいだ。」
「俺が弱かったから。」
俺は丸3日寝ていたらしい。
何か夢を見ていたような。
まぁ、気のせいか。
「そういえば、勇者パーティに助けてもらったんだよ」
「俺たち、勇者パーティ呼んだんだ。」
「……そうか。」
なるほど、そういうことか。
ギリギリだった。
もう少し遅かったら……。
……本当に、死ぬところだった。
「ありがとな。」
あれがなければ確実に俺は死んでいただろう。
「ごめん。今日はもう帰ってもらっていいか?」
「お、おう」
「そうですね。」
2人は、帰った。
天井を見つめる。
あの時の光景が頭から離れない。
ケルベロス。
勇者の一閃。
「……俺は、弱い。」
でも本当は、
怖かった。
あの牙。
あの殺気。
思い出すだけで身体が震える。
あのまま勇者が来なかったら。
間違いなく死んでいた。
弱い。
その言葉だけが頭の中で何度も繰り返された。
病室のテレビ
『勇者パーティ、本日だけで三つ目のダンジョン攻略に成功』
『現在、各地のギルドでは勇者パーティへの加入希望者が殺到しています』
画面の向こうでは歓声が上がる。
「勇者!」
「日本の希望だ!」
『SNSでは「日本にも希望がある」と大きな話題になっています。』
……俺とは、違う世界の人間だ。
そして俺は、家に帰った。
翌日
『政府は勇者ギルドへのさらなる支援を正式に決定しました』
キャスターは、嬉しそうに話している。
俺は携帯をみる。
SNSは勇者一色だった。
「勇者すげぇ!」
「これで日本は安心!」
「もう冒険者なんて向いてねぇよ。」
「ゲームの中なら強くなれたのにな。」
とそう言いながら日課のソシャゲを開く。
ログインボーナスを受け取る。
指はいつものように画面をタップする。
……何も楽しくない。
イベントの周回でもするか。
なにすんだっけ。
なぜか頭に入らない。
「ガチャでも引くか」
少し溜まったお金を課金する。
「虹色こいよー!」
ドゥルンドゥルン…。
「銀色か」
「俺は何やってるんだ……」
「ゲームじゃ強くても意味がない。」
あーあ。人生リセマラできねぇーかな。
また画面を見る。
いつもよりも面白くない。
その日一日俺は家に引き篭もった。
そして翌日。
今日もソシャゲに身が入らない。
何もする気力が起きない。
一日中寝ることにした。
翌朝
ピンポーン
「浩介ぇえ!」
「元気かぁー!!」
「英雄が迎えに来たぞぁー!!」
透か。
「飯食いに行こうぜ!!」
「ああ、いくか。」
◇
焼肉でも食べるかと透についていくと、そこは、食べ放題だった。
「おい、病み上がりだぞ」
「大丈夫だって。」
「今日は、俺の奢り」
「まじか」
透なりに気を遣ってくれてるんだろう。
お店に入ると
勇者ギルドのダンジョン攻略で盛り上がっていた。
「勇者やべーな」
「俺も入れてもらえないかな。」
「最強になりたいでござる。」
「これ見て次の迷宮いこうぜ」
「ふぅー。」
「なぁ、透」
「俺、弱いな。」
「知ってる。」
「即答かよ。」
「だって事実じゃん。」
「……。」
「でもさ。」
透は肉をひっくり返した。
「お前、一回でも諦めたか?」
「……。」
「逃げたか?」
「……。」
「ケルベロス相手に最後まで立ってたんじゃねぇのか。」
「そうだな。」
「弱いことって、そんなに悪いことか?」
「いや」
「弱いってさ。」
「強くなる余地があるってことだろ。」
「ああ。」
「弱いってことは、まだ強くなれるってことだろ?」
「ああ。そうだな」
「だろ?」
「わかってんじゃん。」
「自分のいいところは、まだわかってねぇーけど?」
今の俺にそんなのわかるわけない。そう思ったでも。
「誰よりも努力家だろ?」
透は笑顔で言った。
あぁそういえばそうだった。
少しだけ胸のつかえが軽くなった。
それでも。
あの日から。
ケルベロスは、
俺の悪夢になった。




