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第十五話 弱者

十五話行きましょう


ドクン。 


鼓動が響く。


ドクン。

嫌な予感がする。


「……。」


黒い扉が、ゆっくりと開いていく。


ギギギギ……。

漏れ出した黒い靄が床を這う。


その瞬間。


全身の毛が逆立った。


本能が叫ぶ。

逃げろ。


そう思った時には、もう遅かった。


ドゴォォォォン!!


「がっ――!」


視界が真っ白になる。


何かが見えないほどの速さでぶつかった。


体が宙を舞う。


壁へ叩きつけられる。


ドガァン!!


肺の空気が一気に押し出された。


「かっ……!」


息ができない。


痛い。


痛い痛い痛い。


何が起きた。

何に殴られた。


見えなかった。


それでも。


立て。

立たないと死ぬ。


震える足に無理やり力を入れる。


「うぁぁ……!」


立てた。


奇跡だった。


骨は折れていない。


いや。


折れていないこと自体がおかしい。

そんなことを考える余裕もなく。


「くそっ!」 


剣を抜く。


「来いよ……!」


震える手で構える。


ブォォォォン!!


次の瞬間。


剣が弾き飛ばされる。


カラン……


「あ……。」


剣が。


俺の手から離れた。


届かない。


終わった。


俺は全力で駆け出した。

タッ!!

タタタタタタッ!!


「……曲がり角。」


一本道じゃ追いつかれる。


迷わず右へ飛び込む。


細い通路。


「ここなら……!」


あれだけ速いなら細い通路じゃ速度が落ちるはず!


そう思った。


ドゴォォォォォン!!


「は……?」

壁ごと吹き飛んだ。


瓦礫が雨のように降る。


「そんなのありかよ!!」


それでも走る。


後ろは見ない。


見たら終わる。


ドゴン!!

ドゴォォン!!


背後で壁が砕ける。


迷宮全体が揺れた。


砂埃が降り注ぐ。


「くそっ……!」 


速い。

速すぎる。


近づいてくる。


ブォォォォォン!!

耳を裂くような風圧。


すぐ後ろだ。


「うわぁぁぁぁ!!」


右へ飛び込む。


ドガァァァン!!


さっきまでいた場所の壁が粉々に砕け散る。


石片が背中に突き刺さる。


痛い。 


でも止まれない。

止まったら死ぬ。


走れ。

走れ。

走れ。


肺が焼ける。

足が悲鳴を上げる。

それでも止まれない。


前方に大きな岩柱が立っている。


「これなら視界が切れる!」


柱の陰へ滑り込む。

息を殺す。

……。

……。


聞こえない。 


「助かった……?」


後ろを振り返る。


……いない。


「どこだ……?」


ゾクッ。


ブォォォォォン!! 


岩柱ごと消し飛んだ。


「うわぁぁぁぁ!!」


石の破片が頬を切る。


ウォォォォォォッ!!


雄叫びが迷宮を震わせた。

ビリビリと空気が震える。


恐怖で涙が滲む。 


「なんなんだよ……!」

「なんなんだよあいつ!!」


また曲がり角。


滑るように左へ飛び込む。


次の瞬間。 


ドゴォォォォン!!


曲がりきれなかった何かが壁へ激突した。


迷宮が大きく揺れる。

天井から岩が降る。 


ゴゴゴゴゴ……


崩れる。

迷宮そのものが壊れ始めていた。


「はぁっ……はぁっ……!」


息が続かない。

足がもつれる。

それでも。

生きたい。

死にたくない。


「誰か……!」

「助けてくれぇぇぇぇ!!」



叫んでも返事はない。


走る。


泣きながら走る。


転びそうになりながら走る。

ただ、生きるためだけに。


前方で通路が二つに分かれていた。


右か。

左か。


考える時間はない。


「左だ!」


飛び込む。


その瞬間。

後ろで、

ドゴォォォン!!

敵は右へ突っ込んだ。


走る。

走る。

走る…。


音が聞こえない。


「撒いた……。」


思わず足を止める。


聞こえない。


さっきまで響いていた足音が消えた。


「……助かった?」


荒い息を整える。


肩が震える。


「はぁ……はぁ……。」


助かった。


そう思った。


その瞬間。


ドクン。


心臓が嫌な音を立てた。


「……え?」


嫌な予感。


ゆっくり顔を上げる。


天井。


ミシ……


ひびが割れる


ミシミシ……


「まさか――」


ドゴォォォォォン!!


天井を突き破って降ってきた。


「うわああああああ!!」


全力で走る。


背後の音が消える。



「はぁ……!」

「はぁっ……!」 


肺が焼ける。

喉が痛い。

足が重い。 


「くそ……!」

「動け……!」


足がもつれる。

転ぶ。

ゴロゴロッ!

膝を擦りむく。


「いっ……!」


立て。

立て。

立て。


足元に砕けた岩。


「うわっ!」


ズルッ。


体勢を崩す。


顔から地面へ。


ドサッ!!


「くっ……!」


立て。


立て。


早く!


ブォォォォォン!!


髪を掠める風圧。


あと一瞬遅ければ死んでいた。


「嫌だ……」

「死にたくない……」

「母さん……」


ドゴォォォォン!!


天井に巨大な亀裂。 


ミシ……

ミシミシ……


「やばい!」


ゴゴゴゴゴ!!


岩が落ちる。


一本。


二本。


十本。


迷宮全体が悲鳴を上げる。


「うわあああ!!」 


走る。

横に飛ぶ。

後ろを見る。


さっきまで走っていた通路が完全に埋まっていた。 


「……なんだよこれ。」


崩れた通路。

巨大な岩。 


「通れない!」


振り返る。


岩


前。


敵。


後ろ。





『怪物』


「終わった……。」


すると横に人ひとり通れる亀裂。


「ここだ!」


身体をねじ込み、無理やり潜り抜ける。


服が裂ける。


肩を擦る。


血が流れる。


後ろでは、

ドゴォォォォォン!!


岩そのものが粉砕される。

「ありえない……。」


遠くに光。


「出口か!!」


全力で走る。

近づく。


「しまっ……!」


右足が動かない。


力が入らない。


膝から崩れ落ちる。


ドサッ。


「はぁ……!」


「はぁっ……!」


肺が苦しい。


酸素が足りない。


立て。


立て。


立て。


震える足に力を入れる。


ピクリとも動かない。


ズシン……


ズシン……


近づいてくる。


「やめろ……。」


涙が勝手に溢れる。


「来るな……。」


ズシン……


ズシン……


「嫌だ……。」


「死にたくない。」


「まだ死にたくない……!」


ようやく足が動いた。


そこは、開けた広間だった。


「はぁ……はぁ……。」


息が切れる。


その瞬間。

浩介の体が凍りついた。


広間の中央。


何かが立っていた。


いや。


"立っている"という表現すら違う。


あまりにも巨大だった。


「……おい。」


「嘘だろ。」


そこには――。

さぁ、どうなる

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