↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/61

15.過去の記憶?

 夜、なかなか寝つけなかった私は、リビングの方までふらふらとやって来た。


 既に時刻は真夜中を過ぎているため、男たちは自分の部屋に帰っている。数時間前まであんなに騒がしかったこの部屋がしんと静まり返っているその様は、物悲しい気分になる。


 窓から外を眺めた。

 月は雲に隠れることなく、夜空にどっしりとその存在を主張している。月明かりに照らされた王城や庭園は幻想的で美しかった。それらはヨーロッパ風の佇まいなので、月と組み合わさると一枚の西洋絵画のようになる。私はこの時間をとても気に入っていた。

 鉄格子さえなければ、もっと素晴らしい景色なのだろうが。


 ここからだと見ることは叶わないが、きっと町の方も美しい姿を見せてくれるに違いない。

 私は町を見たことがないのだが、一体どんな町なのだろうか?やはり王城のように、ヨーロッパ風の町並みだろうか。

 石造りに石畳のような?



 ――あの夢のような、町並み?




 昼間、私は彼らに夢の話をした。

 繰り返し見る夢がある。火山が噴火し、それによって町が崩壊するのだ――と。


 あの恐怖が火山噴火によるものだと気づいた時、まるでポンペイのようだと思った。


 ポンペイとは、南イタリアの巨大な遺跡だ。

 過去、近くの火山が噴火して、一夜にしてそのすべてが灰に埋まったという。また、被害は灰だけでなく、火砕流も発生し、逃げ惑う人々は一瞬にして飲み込まれたとか。

 埋まっただけなので遺跡の状態は良く、今でもたまに遺体が発掘されている。ちなみに映画にもなった。有名な観光地で、いつか旅行してみたいと思っていた場所の一つである。


 夢で見たあの町は、まるでそのポンペイのような悲劇に見舞われていたのである。


 しかも私は、その悲劇を毎晩見る。

 おかげで毎朝嫌な気分と疲労感で目覚めるのだが、ただでさえ昼間の疲労を蓄積した体には毒にしかならなかった。

 毎日こっそりと悲鳴を上げていたが、ついに今日彼らに指摘されるほどの状態になってしまったようだ。



 そしてあろうことか、ジュードによると、あの夢は『記憶なのかもしれない』のである。


 それを聞いた時、妙に納得した。

 確かに、同じ夢を繰り返し見ることなど生まれて初めてだった。どうやらこの世界でもそういった現象はないらしく、あるとすれば何らかの魔法が作用しているとのことだった。

 そうであれば、ジュードが言うように、失われた記憶が戻りかけているという推理が正しいのかもしれない。

 彼らが言うには、私に記憶がないのは、封印が解かれたばかりで記憶の混濁を起こしているとの見解だったのだから。時間が経ってそれが落ち着いてきて、徐々に記憶が戻り始めたという可能性は否めない。



 それにしたって、なぜこの記憶なのか。



 はは、と乾いた笑いがもれた。

 人々が恐怖に怯えた顔が頭から離れない。


 あれが本当に過去の記憶だとして、どう考えても私が引き起こした悲劇じゃないか。

 これこそ、悪女ギルダと言えよう。


 もちろん、噴火は自然災害だ。今回の巨大地震のように冤罪かもしれない。

 だが一番始めに思い出した記憶がこれなのだ。私にとって、一番思い入れが深い記憶だからこそ、思い出したとも考えられる。


 ――分かっている。


 これはあくまでも、仮定の話だ。


 毎晩見る夢が過去の記憶だというのも、仮定の話。この災害を引き起こした原因が私であるというのも、仮定の話。

 被害妄想かもしれない。

 それでも、建国伝説や人々に言い伝えられている国敵・魔女ギルダの姿と並べると、あぁ、だから封印されてしまったのかな、と納得ができてしまう程のインパクトだった。

 恋に敗れた乙女の怒りの炎、何と恐るべし。チート魔女だからこそできる業だ。



 それに、心のどこかであの噴火と私の関係性を認めていた。

 毎朝心が抉られる程の悲壮感に苛まれるのだが、もしかしたらそれは私が起こしたことに対する後悔なのかもしれない。


 とすると、あの噴火は≪災厄≫と関連しているとみて、間違いないのだろう。

 いよいよドラゴン説が濃厚になってくる。

 火山とドラゴンの組み合わせなんて、それこそファンタジーの定番じゃないか。

 大抵のドラゴンは火を吹く。魔女と火を吹くドラゴン。そしてそれを退治する麗しき王子と姫――まぁ我々の場合は異世界の少女だが。

 何だかちょっぴり冒険ファンタジーっぽいが、まさにその展開だ。



 ここでふと、疑問が湧き上がる。

 彼らは一体、どうやって私を倒したんだろうか?


 これは自慢だが、私はすごい魔女だ。

 それはもうものすごく、すごい。チートの中のチートだ。ジュードやアーチーの信奉具合からも分かるが、魔法使いとは比べものにはならないくらい強いし、何でもできてしまう。

 そんな私が、ただの人間二人に、封印とはいえどそう簡単にやられてしまうのだろうか?


「……今のちょっと悪役っぽかったな……」


 ――エヘン。話を続けよう。

 よくよく思い出してみると、あの建国伝説にはどうやって魔女を倒したかが描かれていなかった。あったのは『少女は男と協力して、女を封印し』という何ともざっくりとした内容だ。

 実は王族は、魔女をも凌駕する魔法の使い手なのだろうか?それとも、異世界の少女に何かしら特別な力があるのだろうか?たとえばそう、こういう話でよくあるのは聖女だが――聖なる力、とか?


「……おえっ」


 間違っても、“愛の力”とかそんなふざけたことだけは止めてほしい。

 だが、愛に敗れた私が、“真の愛の力”で封印されるなど、ありふれたロマンス小説のようであり得そうな話だ。実に不愉快だが。


 まぁ、何はともあれ私はチート魔女で、そのうえ恐ろしいドラゴン(仮)を従えているのだ。そう簡単には殺られるはずがないのだから、もっとこう……王家の秘宝の聖剣のようなものが秘密裏にあるのかもしれない。




 さて、かなり話が逸れてしまったので、そろそろ当初の夢の話に戻ろう。

 

 過去の記憶かもしれないと教えられた後、それを裏付けるために、夢の町が実際にあったものかどうかの確認が始まった。

 具体的には、私が見た町の建物の様子や人々の容貌、服装についての確認だ。


 私は頭をフル回転して質問に答えた。彼らは火山噴火についてはその存在自体知らないようなので、その辺りから推測するしかなかった。

 ただ、すぐには判断できないので、持ち帰って調べてくれるとのことだった。

 始終苦い顔をしていたので、彼らのなかである程度答えが出ていそうな気もするが。



 ふふ、と笑いが込み上げてくる。

 記憶がすべて戻ったらどうなるんだろうか。


 あれが過去実際に起きたことだとすると、この国の周りを囲っている山々は火山ということになる。

 この国は山々により交通網が一切遮断されているので、噴火したらもれなく全国民が死を迎えることとなるだろう。あっという間に真っ赤な溶岩の湖の出来上がりだ。


 ジュードたちは、山々が火山なのかどうかも調べることにしたようだった。しかし、彼らに火山の知識はない。そこで私も、山の一部を元に調査に参加することとなった。

 正直、火山の調べ方など分からないが、天才的なジュードの頭脳と私の魔法があれば何かしら手がかりは掴めるだろう。



 ――本当に、火山なのだろうか。



 そうであるならば、あの山に≪災厄≫が眠っているのかもしれない。


 とりあえず今日のところは、詳細がはっきりしないのでいつも通り寝てもらって構わないと言われた。

 そうしてその後は普段通りに四人で過ごし、今に至るというわけだ。



 恐らく、今晩も同じ夢を見るだろう。

 おかげで眠るのが怖かった。


 もしかしたら翌朝目が覚めた時には、すべてを思い出しているかもしれない。

 私は、過去を受け入れられるだろうか。


 そう思うとなかなか寝つけなくて、夜中を過ぎてもふらふらしていた。

 けれど、さすがにそろそろ寝ないとダメだろう。明日だって仕事はある。以前よりも薬の生成作業は慣れてきたとはいえ、寝不足の頭では細かい作業は上手くこなせない。


「……はぁ、何か飲もう」


 キッチンへ向かって、ホットミルクを用意した。一口含むと椅子に腰を下ろし、テーブルにぐったりと上半身を投げ出した。



 悪役をやると決めたのに、すぐに心が折れる。

 決めたというのは強がりで、ただ自分に言い聞かせているだけなのかもしれない。前世で「今我慢すれば」とひたすら自分を騙していたあの頃と何も変わっていない。


 好き勝手する妹と比べられ、『あの子と違って貴女は頼りになるわ』という枷に囚われてしまい、「いい子でいなきゃ」という責任感に押し潰されそうな毎日ーー。

 それが今や「悪役にならなきゃ」に変わっている。ただ、それだけ。


 なんにも、変わっていない。


「……綺麗ねぇ」


 食卓の上の例の青い花はいつ見ても美しい。今日は小ぶりの花がたくさんついているものだった。相変わらず名前は分からない。

 どの時間帯でも枯れることなく堂々と咲いているので、どうやら魔法がかかっているらしかった。誰が用意したものかは聞いていないが、恐らくジュードだろう。まず、アーチーではない。それだけは言い切れる。本人に聞いたらきっと照れてしまうだろうから、私はその優しさに心のなかでいつも感謝していた。



 ――突然、ピカッと強い光が視界に入り込んだ。



 不思議に思って上体を起こし、辺りを見回した。光は絶えず室内を明るく照らしており、しばらくしてそれが、例のアレから発されるものだということが分かった。


 ドキリと心臓が鳴った。

 それは、()()()だったからだ。

 初日に見つけた、私――ギルダと同じ姿をした彼女が映っていた、あの鏡だ。



 誘われるままに近づくと、そこには情けない顔をした私が写って――いなかった。


「!」


 鏡には、あの日のように自信たっぷりに笑った彼女の姿があった。


 彼女は私に向かってひらりと手を振った。

 心臓がほんのりと熱を帯びた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。