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テュリャテュリャテュリャリャ~! で実家の壁がぶっ飛びました(※深刻な大赤字)

前回のあらすじ:パジュの『ステルスムキムキ・隕石シュート』により、バスケのリングが粉砕! その代償として、ラジは人生初の借金(修繕代30,000円)を背負うことに……。

さらには学校の敷地内に、パジュを狙う謎の不穏な『影』まで忍び寄り――!?


モモック星人と共に過ごす、怒涛の一週間をようやく終えたラジ。

疲労困憊の彼に、果たして平和な週末は訪れるのだろうか……!?


パジュとミルクに馴染み始めた黒瀬家に迫りくる、謎の異形……。

波乱の第7話、お楽しみください!


「ラジ~! お風呂わいてるから、先に入ってくれるかい?」


 一階のリビングから響く修二の緩くのんびりした声で、ラジはぼんやりと意識を浮上させた。

 掛け布団の上に乱雑に横たわったまま、重い瞼を少しだけ開けて、ジッと窓の外へと視線を向ける。


「…………」


……あぁ、もう夜か。


 風呂の催促によって、帰宅してからすでに三時間ほどが経過していることを把握する。

 ラジはグリンッと体を仰向けに寝返らせ、怒涛のような一週間が誇る『俺的ベスト般若顔(はんにゃがお)ハイライト集』を辿るかのように、無機質な眼でぼんやりと天井を見つめた。


「………………」


……今日も疲れたな。いや、今週は、だ。

月曜日に劇画右腕の宇宙人が到来してくるわ、火曜日は屋根に光線ぶっ放されるわ――水曜日は便器が捻じ曲がり、木曜日は水道管ボッキボキ、金曜日は制服袖もぎ取り破滅、テュリャテュリャテュリャリャ~じゃねぇんだよ。


「ラァジィ君! 早く入っちゃってくださ~い」


 下から響く呑気な声に引っ張られるように、ガバッと上半身を起こし、気だるそうに頭をかく。


……ハァ。大体、親父の奇人じみた知的好奇心で招き入れたくせに、なんで俺がノースリーブブラウスで学校練り歩かなきゃなんねぇんだよ。

セクシーゾーン丸出しだぞ、こっちは。


変異もそうだが、脳チョイチョイの出力もだいぶ問題だろ。

今日なんか、ロコモコ浜田の奴「俺のばあちゃんって、モモック星王室直属のシェフなんだぜ?」とかほざいてやがったな……。


お前のばあちゃんは、お前専属の千葉出身・煮物達人だ。勝手に宇宙のどこぞの王室厨房に就職させるな。

そして何で浜田ピンポイントで出力バグ起きてんだよ! 生理的に嫌ってんじゃねぇぞ、可哀想に!!


「……今降りる……」


 修二の呼びかけに届くか怪しい生気のない声で返事をすると、無気力な足取りで一階へと階段を下りる。


***


「ラジ殿、お目覚めですか。随分とお疲れのようですね」

 

 リビングに足を踏み入れたラジに、真っ先に労いの声をかけたのはミルクだった。

 キッチンの前に凛と佇む彼は、夕食に使ったであろう皿を、黒瀬家愛用のヨレヨレ・パイナップル柄ナプキンで丁寧に拭き上げている。


 一方、そのすぐ手前の食卓では、パジュが両手で漫画本をギュッと掴み、ページに穴が開くほどの真剣な面持ちで鎮座していた。顔の半分が隠れるほど本にのめり込んだ険しい形相とは裏腹に、椅子からぶら下がった両足は、彼女の心の内を透かすようにパタパタとご機嫌に揺れている。


 さらにその対角線上の席では、父の修二が参考書を片手に、雅な手つきで『ソロチェス』に興じていた。


 ミルクの声でラジが下りてきたことに気づいたパジュと修二。だが二人は、それぞれの作業から一切目を離すことなく、つらつらと己の用件だけを並べ立てた。


「ラジィ! この漢字、なんて読む? ……とも?」


「今日の晩ご飯は、トンカツだよ。先にご飯食べるなら、お風呂の蓋閉めてきてね」


「ラジ殿、ご夕食はいかがなさいますか? もし必要であれば、温めなおしますよ」


「……いっぺんに喋んなよな」


 そう気だるそうに呟くと、『我の言葉こそ有益なり集団』の中、唯一ラジを思う優しさ溢れるミルクの言葉にだけ、きちんと返答する。


「ミルクさん、ありがとうございます。でも自分で温めるんで大丈夫っすよ。その……皿とかも自分で洗うんで……ミルクさんはその……休んでてください」


 彼がぺこりと軽く会釈すると、ミルクは「お気遣い痛み入ります」とでも言うように、音もなく完璧な所作で一礼を返してくれた。


 常人と『奇人界隈の常人』の間に、静かで温かい何かが芽生えた時。

 黒瀬家の長からの愛にも応えるべく、ラジは風呂の蓋を閉めに行こうとクルッと体の向きを変えた。と同時に、愛でも何でもない『ただの辞書扱い』質問にも、通りすがりに対応してやるラジ。


 ちょっこりと座っているパジュの背後から、淡々とした声で話しかけた。


「ほら、どれだよ」


「こり。……『とも』、で合ってる?」


「……『きょうてき』、な。なんで『強敵』と書いて『(とも)』って読ませる、そっちの応用編を先に知ってんだよ。『(まん)☆聖書』魂、フル活用じゃねぇか」


 ラジの探求心――もとい、からかい心が働いたのだろうか。

 パジュの左肩越しにスッと左の人差し指を伸ばし、漫画のページにある『宿敵(しゅくてき)』という漢字を指さした。


「じゃあ、これは?」


強敵を友と呼ぶってことは、宿敵はライバル? それか仲間ってところか。


「……こんぶ」



「…………昆布は敵じゃねぇ、友だ。だしが重要なんだよ、日本料理には」


 パジュの放った特大ホームランなのか、それとも空振り三振なのか。全く判断のつかない、その奇妙で珍妙な答えにどっと疲労感が増したラジは、そのまま風呂場へと向かった。


***


 ――チンッ!


 ラジの戻りを歓迎するように、リビングに電子レンジの軽音が響いた。


 温め直したトンカツと味噌汁を取り出し、冷蔵庫からクルトンが散らされた彩り豊かなシーザーサラダを食卓に並べる。

 ほかほかの真っ白なご飯を茶碗によそって、ラジはモモック星人が来てからの指定席――修二の右隣にして、問題の宇宙人の真正面――へと腰を下ろした。


 いつもより豪華な食卓。テレビから流れるバラエティ番組の笑い声と、修二がチェスを指す「トンッ」という硬質な音。

 それらが心地よく混ざり合うリビングの空気は、パジュとミルクという二つの強烈な『異物』が、奇襲からわずか数日にもかかわらず、いまや黒瀬家の日常にすっかり馴染んでいることを物語っていた。


「ミルク。わー、ブラウンポーション! あれ、飲みたい」


 パジュが後ろに控えるミルクにおねだりするため、首を後方へとグンッと投げ出す。


「パジュ、お前なぁ……。ここじゃ王女もくそもねぇんだよ。自分のことは自分でやれ。あと『ブラウンポーション』ってなんだそれ。ただの麦茶だろ。THE・庶民的飲み物を神聖なものに(たてまつ)んな」


「ブラウン! ポーション! ポーション! ポーポーション!」


 パジュは首を再びグンッと定位置に戻すと、椅子からぴょんと飛び降りる。ラジの小言をBGMに、鼻歌まじりで冷蔵庫から意気揚々と麦茶を取り出した。

 食卓に置いてある自分専用のコップになみなみと『ポーション』を注ぐと、今度は洗いたての食器が並ぶ水切りカゴへと手を伸ばす。ちょっとだけ背伸びをして、一個、二個、三個と、全員分のコップを並べ始めた。


 やはり、どこぞの王族の血が脈々と流れている証なのだろうか。辺りをチラッと見まわすと、そこに並んでいたトンカツ用の大きな白い平皿をソーサー代わりに、サッとコップの下へセットする。


「食後はティーでござりまする~」


 内弁慶の「う」の字も忘れたパジュは、ひょっとこみたいに口を曲げたふざけ顔で、スススっとミルクにカップを差し出した。

 両手でその『麦わら帽子』シルエットティーを(うやうや)しく受け取ったミルクは、「……嬉しゅうございます」と、感極まったように深く顔を伏せた。


「パジュちゃん、ありがとう」


 修二がいつもの穏やかな笑顔で受け取る傍らで、ラジもまた、差し出された巨大なセットを手にする。


「……サンキュ(ものの数秒で圧倒的に洗い物が増えたが、まぁいいか)」


***


 リビングにいる地球人二人と、外来生物たるモモック星人二人が、またそれぞれの関心事へと心を向ける。ラジの箸先が皿に当たるカチャカチャという音だけが、心地よく刻まれていた。

 

「あ、パジュ。一昨日の古文の小テスト、0点だっただろ?」


「……ちげます」


「嘘つくな。隣の席だから、見えんだよ。顔、真っ青だったぞ」


 モモック星第四王女としてのプライドはあるのか。目の前のラジに動揺を悟られまいと、パジュは読んでいた漫画本の陰へと、出していた目とおでこをスススッとより一層深く沈めた。


「あと、昨日の課題、来週の月曜までだからな。ちゃんと提出しろよ」


「……ラジの……見して」


「……はぁ、自分でやれよな。じゃないとまた0点だぞ。ってか俺はもう提出したから、答えなんて覚えてねぇよ」


「…………」


 パジュは漫画本に埋もれたまま、何かをぶつぶつと呟く。


「何だよ。……教えてやるけど、一回は自分で解いてからだからな」


 ラジが「教科書持って来いよ」と言いかけた、その瞬間。

 それまで水中――ならぬ『漫画中』にいたパジュがバッと顔を浮上させ、肺がはち切れんばかりに「すぅぅぅぅぅ……」と深く空気を吸い込んだ。


「わーモモック星人だから、古文なんてわかんないもんにありけり! いとおかしぃぃぃぃ!!!!」


 ドッゴォォォォォォォォォォォンンンンンン!!!!!!


 パジュがその場に立ち上がり、星人としての雄叫びを上げた、まさにその瞬間。

 テレビ横の壁が外側から爆発したかのように弾け飛び、居間に巨大な風穴が空いた。


「「………………」」


 もうもうと舞い上がる砂埃と、ヒュ~……と虚しく吹き込む夜風。

 ポッカリと空いた巨大な風穴の向こう――不気味に揺らぐ土煙の奥に、得体の知れない『()()()』の影が、静かにこちらを見つめていた。


(第八話に続く)


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


怒涛の月〜金曜日をテュリャテュリャテュリャリャ~と乗り越えたラジ。

今日もどうにか学校から帰宅し、遂に週末前の平和な夕食かと思いきや……まさかのアグレッシブにリビングの壁・大・爆・発!!

ゴールリング(3万円)に続き、今度は実家の壁が物理的に吹っ飛びました。黒瀬家の残高が着々と擦り減っております……。


(ちなみに、本編で語られた『制服の袖もぎ取り事件』のビハインドは以下の模様です)


ラジ「移動教室の時に、廊下歩いてたらいきなり後ろから両袖もぎ取られました」

パジュ「廊下、ホコリで鼻もぞもぞした。おっきいクシャミしたら、鼻水でちた」


ラジ「だからって何で人の袖引きちぎんだよ!」

パジュ「だって、ティッシュ、もってない」


ラジ「…………いいか? 鼻水が出ようと何だろうと、前を歩く人様の袖をもぎ取って鼻をかむな。わかったか?」

パジュ「ん、りょ」


【読者の皆様へ、ラジから切実なお願いです!】


「自分、こんぶ嫌いなんで宿敵と書いてこんぶって読んでます!」

「便器ねじ曲がり事件のビハインドも知りたい」

「我が家でも『麦わら帽子』シルエットティー、導入します」


……と、少しでもクスッとしていただけましたら!

ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】にし、ラジへの応援(※崩壊した壁の修繕費のカンパ)をお願いいたします!

ブックマークへの追加も大変励みになります!


皆様の応援ポイントが、ラジの借金地獄を救い、明日を生き抜く希望になります!!!


次回、第八話に続く! お楽しみに!


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