筋肉宇宙人VSニンニクましまし軍団の濃厚バスケ対決……!?
前回のあらすじ:必殺の指パッチン(脳チョイチョイ)により、どうにか教室へと侵入。ロコモコ浜田を左遷させ、無事にラジの隣へと着席したパジュ。
ブチ切れ般若顔のラジに迫りくる新たな脅威……それは、野良宇宙人と一緒の『体育の授業』!
二年五組の、ニンニクましましましましの濃厚な新キャラたちが続々登場……!?
では、お楽しみください!
「悪い悪い! 親御さんからの電話で、ちょいと遅れちまった!」
体育教師、盛厚先生の低く野太い声が、ガヤガヤと浮き足立った空気を物理的に押し退け、体育館の四隅まで響き渡る。
灼熱の情熱を表すかのような真っ赤なジャージ上下に、新調したばかりなのか、足元には真緑の運動シューズ。
盛厚先生はトレードマークのスキンヘッドを、まるで新緑の隙間からこぼれる光のようにキラキラと輝かせ、靴をキュキュッと鳴らしながら満面の笑みで生徒の群れへと近寄ってくる。
ちなみに、盛厚先生は、その『思春期学生がいじらずにはいられない』愛らしい姿から、敬意(?)を持って「ピカピカスキンヘッドのもりあっちゃん」こと、『ピカアチュ』と生徒たちの間で密かに呼ばれている。
「……ねぇねぇ、ピカアチュ、またあの赤ジャージだ」
「うわ、本当だ。光る頭に赤に緑、歩く信号機かっての」
「国土交通省のマスコットキャラ、ピカアチュでいいじゃん」
ピカアチュに新たな就職先が誕生した、まさにその時。
入り口のほうから、体育館シューズの片足を突っ掛けたまま、いつもより早足で入ってくるラジの姿があった。
「おい、黒瀬遅いぞ~! よっしゃ、はいはい、全員集合〜!! まずは準備体操から始めっぞ!」
持っていたバインダーをバンバンと軽く叩くと、その音を皮切りに、学生たちがぞろぞろと整列し始める。
ピカアチュの電話対応という、ミラクルスーパーハプニングのおかげで、どうにか遅刻は免れたラジ。そして何より重要な、開校の歴史に残る『ド変態ママキャラ事件』は、理科室の前で捕獲したクソ内弁慶ことパジュにチョイチョイさせ、間一髪で事なきを得た。
「いっち、にー、さん、しー」
「ピッ☆」
「にーにー、さん、しー」
「ピッ☆」
学生たちのやる気のない掛け声と、撞木さながらの極太首から発せられる、ピカアチュの鳴き声のような可憐でピュアな笛の音が、広い館内に反響する。
全員が慣れた手つきで、決まったルーティンのまま機械的に体をほぐしていく中、ラジも気だるそうに二の腕を伸ばしていた。
「…………」
……そういや、あいつ体操服なんて持ってねぇよな。(まぁ、変なマントがついた七分袖ジャージは着てたけど)
ってか、そもそもちゃんと授業に参加してんのか?
腰の運動のついでに左右へと体をひねり、周囲を軽く視界に入れる。
「……あ、いた」
クラスメイトの平井愛子と堀内隆の間にちょっこりと挟まり、戸惑っているのか毎度お馴染みの弁慶顔(口先を尖らせた赤面タイム)を装備して、見よう見まねでぎこちなく左右に揺れるパジュ。
「…………」
……あぁ、あいつ日本の五十音制度のせいで、あそこにブチ込まれたのか。
平井・ファオリオ・堀内。
……とんだ団子三兄弟だな。真ん中だけみたらしじゃなくて、癖の強いバジルチーズってところか。
ラジの脳内にスゥっと出現した『パリを夢見るベレー帽姿の次男団子』。兄弟仲がよろしくなさそうなその団子達をかき消すように、残った違和感の正体を探るべく、肩を回しながら体をそちらへ傾ける。
体操服どころか運動シューズまで完璧に揃えているパジュの胸元。そこに刻まれた『花臣』という見慣れた刺繍を見て、ラジの視線が一瞬左上へと泳いだ。
何かが合致したのか、「あぁ、なるほどね」と少しだけ優しく口元を緩める。そのままスッと前を向くと、また気だるそうに体操の続きへと戻っていった。
「よぉし! 体も盛厚くなってきたところで、前半後半チームに分かれて、盛厚く練習すっぞ!」
ピカアチュの暑苦しい号令が、体育館の温度と湿度を物理的に五度ほど上昇させる。
「先に前半チームは奥でパス練習からの試合! 後半チームは二人一組で柔軟からだ!」
――トントン。
体操が終わり、周りがそそくさとペアを作って散っていく中、その場でぼぉっと突っ立っているパジュの肩を、誰かが優しく叩いた。
「パジュちゃん、一緒に組もう?」
***
ドムッ、ドムッ……!
「パス! パス! パス!! こっちこっち!!」
「ナイッシュー!! イェーイ!」
「ゴラァ! 浜田、ボールを投げるな! 突き指したいんかっ!!!」
「今日の三限って何だっけ?」
「数学。しかも小テストあるらしいよ」
「え、やってないし! 範囲どこ!?」
体育館の奥で前半チームが放つバスケットボールの重低音(+ピカアチュの雄叫び)と、入口付近でだらつく柔軟組の対照的な声が絡み合う。
そんな学生生活のごく日常の一ページの端っこで。今まさに地球外来生物、モモック星人・第四王女パジュと黒瀬家以外の人間との歴史的初交流――(柔軟体操)が、行われようとしていた。
「パジュちゃん、押すね。痛かったら言ってね」
「……ん」
「…………あ、自己紹介! ごめんね、名前まだ言ってなかったよね……! 私、花臣紬っていいます」
ぺこりと頭を下げると、ゆったりと後ろで一つに編み込まれた黒髪が、体操服の背中で静かに揺れる。少し慌てながらはにかんだその笑顔は、『純潔』や『清楚』といった、この世に存在するあらゆる初々しい単語を具現化したかのような透明感を放っていた。
「……これ『たいそうふく』、あんがちょ……」
「そんな、お礼なんていらないよ……! 転校初日じゃ、他のクラスに知り合いなんていないだろうし。ほら、私、一個下の学年に妹がいるの。ちょうど背丈もパジュちゃんくらいだし。それに、私もよく忘れ物しちゃって、借りに行くの慣れてるから全然大丈夫だよ!」
「…………ん」
花臣は、パジュの背中からそっと手を離し、隣にチョンっとしゃがみこむ。そして、顔を赤く染めて目を伏せている彼女を見つめ、真っ直ぐで柔らかい瞳をふわっと緩めた。
「…………」
ほぉぉぉぉぉ、これが日本の……おんな。
おんな……おんな、女性の人、オンナ。おんなオンナ女おんな女オンナ。
緊張と戸惑いが入り混じり、パジュの脳内で、中高男子校出身の大学デビュー男子さながらの『リオの女カーニバル』が起きている中、綿菓子のように甘い声がその耳に届く。
「えっと……あっ、日本語上手だね! 留学生って言ってたけど、おじいちゃんとかおばあちゃんが日本の方なのかな? えっと、クォーター?」
「…………全員モモック人。あと、今のど乾いてないから……だいじょび。とってもあんがちょ……」
「あぁ、そっか、そうだよね! みんなモモックの方なんだね! (……喉? あ、ウォーターの聞き間違いかな?)」
ピィーーーーーーーーッ!!
趣味のトランペットで鍛え上げられた、ピカアチュの異常な肺活量による『笛波動』が、前半男子Cチームの試合開始を知らせる。
「よっしゃ、ラジいけ〜!!」
「キャアァァァ!!」
男子の野太い応援と女子の黄色い声援に吸い寄せられるように、パジュの視線は花臣の肩越しに、ジッとコートの方へと向いた。
そこには、ダルそうに二、三人を抜き去り、重力を感じさせないステップで余裕のレイアップシュートを決めるラジの姿があった。
放たれたボールは、音もなくサラッとゴールネットを揺らす。
「ラジ、ナイス〜!」
「……声でけぇよ」
仲間からの称賛を素っ気なくあしらい、淡々と首筋の汗を拭うラジ。
「…………ラジ、あれ……上手なのか……?」
不思議そうにぼうっとラジを指さし、奥のコートから隣の花臣へとゆっくりピントを合わせるパジュ。
そこには、頬を上気させ、潤んだ瞳孔をバッキバキのガンギマリに決めこんで、じっとコートを見つめる『学年マドンナ』花臣の姿があった。
「見た?!?!?!?!? さっきの腹筋!!!!!!!!! あのね!!! ラジ君ってね! やる気なしって感じなのに、実はスポーツ万能なんだよ!!!!!」
何かの脅威を感じたのか、伸ばしていた足をスッと正座に正すパジュ。
「足も凄く速いし、あ、この前なんかもね! 怪我した子の代わりにリレーなんか出ちゃってね! めんどくせぇとか言いながら結局ごぼう抜きしちゃってね! それでそれでね! その子がね、ありがとうってお礼言ったらなんて言ったと思う? 『別に、内申のために走っただけだから』って!!!! もうなにそれ! なにそれ! みたいなぁ!!!!!」
パジュの前髪が風圧――いや、凄まじい『LOVE圧』によって後方へと奪い去られ、たまらず体が斜め後ろへと傾いていく。
「……つ……つ……つむ……ぎ……ちゃん、は、えっと……。フィアンセ……いる?」
星の第四王女的な重すぎる発想からか、『彼氏いる?』のノリで生涯の伴侶の有無を聞き出すパジュ。同年代の女の子と初めて交わす恋バナが、嬉しいのか恥ずかしいのか。いつもの弁慶モードとは違う、ほんのり淡くこそばゆそうに頬を染め、伏せた瞳に花臣を映す。
「…………フィアン……セ?」
怒号と歓声が響き渡る場で出会うはずのない、『キャン・ユー・セレブレイト』すぎる単語。
花臣は一瞬ポカンとしたものの、散らばった単語の意味を脳が理解したのか、ボンッと顔を赤く煮えたぎらせた。
その直後――!
グワッシ!!!!
パジュの右腕を勢いよく掴む。パジュが「……およ?」と呟いた瞬間――!
「キャアァァァァァァ!!」
花臣は悶絶の雄叫びをあげながら、湘南〇風ファンばりの腕力と持久力で、パジュをフェスタオルかのように縦横無尽にブンブンと振り回し始めた。
「違うからぁ!! そんなんじゃないからぁ!!! すきとかじゃないからぁ!! ただの小学校からの同級生だからぁ!! いやぁぁぁ!!」
ピィーーーーーーーーッ!!
「よし、次は後半女子チーム、コートに入れ!」
ピカアチュの声が響いた途端、花臣はケロッとした表情でパジュを下ろし、「行こっか」と楽しそうにコートへと進んでいく。
その後ろ姿を、瞬間最大風速60m/sの暴風域を耐え抜いた宇宙人が、呆然と眺めていた。
「…………」
……ちょっと、おしっこちびった……。
***
キュッキュッと体育館シューズが擦れる音と、女子特有の華やいだ声が体育館全体を包み込む。今度は前半チームがパス練習という名の観戦、及び休憩タイムへと移行し、後半チームがコートに入る。
「…………」
……あいつ、何やってんだ。
試合を終えたラジは、入口付近の壁に寄りかかり、腕組みのまま『世紀末物件』を監視していた。
「こりゃ大変なことになっちまったぞ…………!!!」
ラジの左隣から、聞き覚えのある左遷経験のありそうな声。数十分前とは異なる出で立ち――腕と首にギプス、そして頭に包帯グルグル巻きの姿になったロコモコ浜田が立っていた。
「このままじゃ、Bチームに死人が出るかもしれねぇ……」
「…………」
……あぁ、こいつ突き指して保健室行ってたのか。
って、たかが突き指で何でそうなんだよ。そもそも死のゴールテープに今一番近いのはお前だからな。
「Aチームには、バスケ部エースのなっちゃんこと、成川さん。陸上部エースのなっちゃんこと、成川さん。水泳部エースのなっちゃんこと、成川さん。テニス部エースのなっちゃんこと、成川さんがそろってる!」
「成川さん多すぎんだろ! 女子の後半チームほぼ『成川』で、ぎっちぎちじゃねぇか!! ってか、成川の潜在能力すごいな、運動の申し子苗字か!」
「そして最後に、ピザ屋の娘でピザ大好きピっちゃんこと、ピ川さん。このメンバーがそろってんだぞ…………」
「そいつはダークホースでも何でもねぇよ! ただの思春期ピザ好きガールだ! ――って、ピ川ってなんだよ!!!! なんで『ピ』のくせに『なにぬねの』のな行に入り込んでんだよ!!!! 『川』つけたらな行ってルールでもあんのか!!!!」
ラジがロコモコ浜田に怒り呆れ果てていた矢先。試合開始のホイッスルが鳴り響き、視線を奥のコートへと戻す。
「…………」
……まぁいい、ピ川はおいといて。Bチームは未確認・内弁慶宇宙人(変異禁止令、発動中)と、花臣たちか。
あんな運動大好きっ子揃いのAチームが相手じゃ、ボールに触ることもままならねぇだろうな。
フゥ……と軽く息を吐き、冷静に腕を組みなおしたまさにその瞬間。ピカアチュの大大大大怒号エールが、容赦なく鼓膜を突き抜けた。
「ミス・ファオリオォォォォォ!!! ゴウ・ナウ! ゴウ・ナウ!! ハリー・アップ・ハシィールゥー! ハヤァクゥー・ハシッテェ・タマー・トレバイイィィィ!!! トラン・ペットォォォ・ダイスキィィィィィ!!!」
「…………」
……なんちゅう声量だよ。隣の山にでもいんのか、そのミス・ファオリオさんは。
ってか、そもそもなんだよ、ミス・ファオリオって。脳チョイチョイ義務教育の第一章たる留学生設定をしっかり守ってくださってるのは結構だが、最後の方、全部日本語だったからな!?
あと、どさくさに紛れて己の嗜好を披露してくんじゃねぇ!!!
——ドォムゥゥゥ!!!!
「おぉーっと、ここでピっちゃんが怒涛の三連続ダンクシュートォォォ!!!」
……ピっちゃん、きっちりダークホースじゃねぇか! ちがうとかいってごめん!!
「やっぱ運動前にはピザだよね〜」
シュートを決めた直後、ゴール下で当たり前のようにモッモッとピザを頬張るピっちゃん。
「…………」
……いや、どっからピザ出してきてんだよ。あんな油まみれのもん、直でポッケに忍ばすな!!
ってか、ピザを運動前のバナナ感覚で食すな! 絶対消化に悪いだろ、胃袋までダークホースかっての。
「クソォォォォ! このままじゃ……花臣さんたちが……なっちゃん軍団の餌食に……! 俺たちに出来ることは何もねぇのかよっ!!!!」
ピっちゃん率いる『成川特殊部隊』の無双状態を前に、悔し涙を流して床に崩れ落ち、バンバンと拳を叩きつけるロコモコ浜田。
だがラジは、そんな『単純明快・無駄涙男』こと浜田には一瞥もくれず、訝しげに眉をひそめていた。彼の視線の先には、コートの中でただぼぅっと人とボールの行き来を眺めているパジュの姿があった。
「…………」
……あいつ、さっきからずっと突っ立ってんな。運動が不得意ってわけじゃ無さそうだし……。
口先が尖ってねぇってことは、弁慶タイム(内弁慶状態)じゃねぇだろうし。なんだ? ……腹でも痛いのか?
……いや、待てよ。
…………もしかしてあいつ、そもそも『バスケ』を知らねぇのか?
「うわっ! 今ヌルッてした!! なに、油!?」
ピザの油でギトギトになったボールを成川軍団がファンブルした隙に、すかさず花臣がこぼれ球を拾う。
「はい! パジュちゃん!!」
ッパシ!!
飛んできたボールを胸で受け取ったパジュは、一瞬ボールをジッと眺め、そのまま無造作に視線を手元からスゥっと前に上げた。
その視線の先に、奥の入口付近の壁に寄りかかっているラジの姿が不意にすっぽりと映り込む。
ラジは組んでいた腕を静かにほどくと、パジュにだけわかる程度の小さな動きでシュートのジェスチャーを送った。
『(おい、いいからあそこに放り込め)』
小さくコクッと頷くと、パジュは再び目線を落とし、ボールの感触を確かめるように両手で『もぎもぎ』と弄りだす。
「そのボール、いただくわ!!!!」
「そのボール、頂きピッツァ!!!」
次の瞬間。成川軍団が誇る二大猛者――バスケ部エースのなっちゃんと、ピザ界の巨匠ピっちゃんが、パジュの持つボールを目掛けて猛然と左右から襲い掛かってきた。
「…………なせばなる、なさねばならぬ、なにごとも」
パジュがぽつりと小声でつぶやく。
頭上から覆い被さるように、二つの影が飛びかかってきた――まさにその瞬間。
(第6話へ続く)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
歩く信号機こと「ピカアチュ」先生から始まり、運動の申し子苗字こと「なっちゃん軍団」、そして真なるダークホースのピ川さん。
なぜか突き指で死の淵にいる重症のロコモコ浜田が実況する『珍・体育の授業』は、いかがでしたでしょうか。
(ちなみに、ピ川さんとロコモコ浜田は同じ中学出身だそうです)
【読者の皆様へ、ラジから切実なお願いです!】
「花臣さんと腕相撲で負ける自信しかない」
「ピカアチュの怒号エールに背中押されたい」
「ピザは、ピザじゃなくてピッツァって言う派です」
……と、少しでもクスッとしていただけましたら!
ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】にし、ラジへの応援(※ピっちゃんへのピザ代のお布施)をお願いいたします!
ブックマークへの追加も大変励みになります!
皆様の応援が、パジュのシュートをゴールへ導く最強のパワーになります!!!
明日も【18:00】に更新予定です! お楽しみに!




