美少女転校生はウホウホ・ボスゴリラにリボン付き?!
前回のあらすじ:早朝の『世紀末ママチャリカーレース』の末、なんとか学校へと辿り着いたラジとパジュ。
しかし、平穏を愛するラジにとっての「本当の地獄」はここからだった……。
ついに美少女モモック星人(※中身は片腕世紀末女)が、無防備なクラスメイトたちの前に!!
「ねぇねぇ、昨日推しの配信みたぁ?」
「見た見た! ってか、あの髪色マジで詐欺じゃない??」
「こいつ、昨日部活でさ――」
「おい、言うなって! 浜田、そいつ押さえろ!!」
「うわっ! やめろって!」
二年五組。朝のホームルームが始まる前の教室には、どこにでもある平和で騒がしい日常が広がっていた。
そんな喧騒のなか。後ろから三番目、窓際の席についた黒瀬ラジは、まるで背骨を抜き取られたかのように、絶対的な無気力と沈黙をもって机に突っ伏していた。
結局、あの『早朝・世紀末ママチャリカーレース』は、白熱のデッドヒートの末、国道大通りの直前までもつれ込んだ。
さすがに人目につく大通りへの突入はマズい。その一点において、ついにラジの理性が白旗をあげた。
要するに彼は、この絶望的な状況に観念し、パジュにあのダンプカー並みの劇画腕をシュゥゥと『収納』させ、大人しく学校まで案内するハメに陥ったということだ。
案の定、校門には見事に『脳チョイチョイ済み』となり、完璧に仕上がった状態の校長が、満面の笑みで出迎えにきていた。
結果として、あの野生宇宙人は無事に(?)学校……いや、中枢である職員室への潜入までをも、あっさりと果たしたのである。
「…………」
……ハァ、どうせあいつのことだ。
教室のドアをぶっ飛ばしたり、大声でギャグかましたり、銀河級のおてんばを発揮して『紅白歌合戦のトリ』並みにやりたい放題しやがんだろうな……。
ガラガラガラッ!
引き戸が開く乾いた音と共に、「ペタ、ペタ」と気の抜けるスリッパの音を鳴らしながら担任の中岡先生が入ってくる。
胸元でゆらゆらと揺れているのは、父の日に愛娘から貰ったというお気に入りのネクタイ。その柄は、この世の負の感情を全て吸い寄せると噂の、圧倒的なまでの幾何学模様だ。
狂気の連続着用『十七日目』の記録は、今日も無事に更新されたようだ。(なお、このせいで一番前の席の田中くんは、重度の幾何学模様恐怖症を発症している)
「はいはいはい、みんな席について〜。朝のホームルーム始めますよ〜。今日はやること多いから、はい静かに静かに〜!」
「先生! 俺、三者面談の紙失くしたんですけど! どうすればいいですか?!」
「あ〜、なら後で職員室に取りに来てください。……っと、その前に。今日はみんなに『嬉しいお知らせ』があるぞ〜!」
中岡先生の呑気な予告に、静まりかけていた教室が一気にワッと色めき立つ。
「えっ、なになに、もしか一限自習!?」
「せんせ~い、数学の小テストなしにしてくださ~い!!」
「もしかして、今日の服装検査なくなったんじゃね?!」
そんな無邪気なお祭り騒ぎをよそに、ラジはゆっくりと体を起こし、気だるそうに頬杖をついた。これから登場する『サプライズ世紀末』とは全くの無縁だと主張するかのように、静かに窓の外へと視線を逃がす。
「…………」
……フン、何が嬉しい知らせだ。『人類最終決戦・開幕ゴング』の間違いだろ。
ったく、のこのこと同じクラスにまで侵入してきやがって。
あの『筋肉ダルマ宇宙人』をここまで連れて来た責任は負うが、それ以上の面倒を見るつもりは一切ねぇからな。
「はいはい、静かに! えっと……なんていったかな。えっと……あっ『ファオリオさん』! そうそう、ファオリオさん入っておいで〜」
ガラガラガラ……
遠慮がちに引き戸が開き、柔らかいブロンドと淡いピンクが溶け合った髪をふわふわとなびかせながら、おずおずと教室に入ってくる一人の美少女。
教卓の横に立った彼女は、初めての学校にひどく緊張しているらしい。いつもの強気な猫目にはポワンと水が張り、潤んだ瞳を囲むように頬は桃色に染まっていた。必死に平常心を保とうとしているのか、口先は相変わらず「にゅっ」と尖らせたまま、ぷいとそっぽを向いている。
そして、その指先で腹部の服――『ミルク特製』の絶望的なオーダーメイドジャージをギュッと摘まみ、つま先は落ち着きなくピコピコと居場所を探している。
――シ~ン。
学生時代のビッグイベントである『転校生』の登場。そのはずなのに、教室にはなぜかピンと張り詰めた静けさが漂っている。
その妙な沈黙に違和感を覚え、窓の外へ逃がしていたラジの視線が、自然と右――教卓のほうへと引き寄せられた瞬間。
「っうわ、マジか!!!!!!」
「超可愛い!!!!」
「えっ、ハーフ??」
「いや、ガチの外国人でしょ!」
「目でっか!!!」
一瞬の硬直ののち、教室は堰を切ったような盛大な歓声に包まれた。あまりの美少女っぷりに、クラス全員の脳の処理が数秒遅れたのだろう。
だが、その称賛の嵐は、すぐに『別の疑問』へと色を変える。
「でも何あの恰好……マント付きジャージ?」
「……ってか髪色やばくない? あれ自毛?」
「エクステでしょ、てか校則違反じゃん」
「あの目って、マジもん? カラコンだめじゃね?!」
「……つぅか、そもそも何人だ?」
「…………」
……あぁあ、だからついてくんなって言ったんだよ。
熱狂は一瞬にして冷め、教室は不穏な空気に飲み込まれるように、どんどんざわつき始める。
針の筵に立たされたパジュを、ラジは遠くの窓際の席から、なんとも言えない表情で見つめていた。
「…………」
……ハァァァ、黒瀬家のミジンコ三銃士は気付いてないだろうが、そもそもあいつが『腕』を抑えただけで、人間社会――ましてや学校なんかに溶け込むなんてのは、無理すぎんだよ。
人間のDNA概念を土足(大型犬のフン付き)で踏み散らすあのフェアリー感、エルフ感、乙女ちっくルンルンラブリー感は、どう足掻いても説明がつかねぇだろ。
【ラジの心の天使:キュルラジっち】
『ラジくん! パジュちゃんが困ってるんじゃない? 早く助けてあげなよ!』
【ラジの心の悪魔:ダーキングラジっち】
『キャハハハ! いいね〜! やっぱりこうなるよね〜!!!! この空気に耐えかねて帰るんだな! 帰れ! っそれ、帰れ〜!!』
「……(パチン♪)」
「はいはい、静かに〜。じゃあ、ファオリオさん自己紹介いい?」
「……モモック星から来ました、第四王女のファオリオ・パジュです。どうぞよろしくリングモング……」
パジュが首だけペコっと下げたと同時に、教室にワッと歓声が響き渡る。
「なんだ留学生か〜!」
「モモック星ってヨーロッパらへんなんだっけ? オシャレ〜」
「小さい島らしいよ〜」
「西洋人形って感じで、超かわいい!!」
「ってか俺、去年の夏休みに行ったぜ、モモック星! 飯が美味かった記憶があるわぁ〜」
さっきまでの不穏な空気とは一変して、教室には穏やかで華々しいウェルカムオーラがぶわっと広がる。まるで隣町から来た美少女転校生を受け入れるかのような、温かい微笑みと拍手がパジュを包み込んでいた。
「…………は?」
ラジは目をキョトンとさせ、思わず頬杖からガクッと姿勢を崩す。
「…………」
…………なんだこの空気。
あいつ今、明確に『モモック星』って言ったよな? しかも王女だぞ?!
なに『お馴染みの転校生』みたいなノリで、未確認宇宙人を同級生にしちゃってんだよ!?!
(しかも、最後の奴に限っては、完全になんかの記憶が改ざんされてんだろ)
…………待て、まさかこいつ!
ラジの脳裏に、自己紹介前にパジュが鳴らした『パチン♪』という軽快な指の音が蘇る。
『チョイチョイデジャヴ in マイスクール』だとっ!??!
校長だけじゃねぇ、このクラス、いやこの学校全員の脳まで『チョイチョイ』しやがったな?!?!!!
瞳に怒りという名の炎をボワッと滾らせ、静かなる威圧を放つラジ。すると、その冷めた熱気を感じ取ったパジュと、一瞬だけバチッと目が合った。
(……おい、お前また『チョイ』っただろうが!! 勝手に他人様の脳、チョイるんじゃねぇ!!!)
だが彼女は、『チョイチョイ? なんの擬音ですかい? そんなこと、あたしゃ知りませんよ』と言わんばかりのすまし顔で、スーーッと不自然に目線を逸らす。そして、誰も入ってくるはずのない教室の扉を、ただひたすらに眺めている。
「えっと、ファオリオさんは、初めての日本だから、みんな仲良くお願いしますよ~。あ、ファオリオさん、そっち誰もいないからね?」
中岡先生の呑気な声は誰の耳にも届かない。クラスはパジュという留学生(?)の話題で持ちきりとなり、その異様な熱気は一向に冷める気配がなかった。
「モモック星っていっても結構近いぜ? 特産品の煮物もめっちゃ美味かったしぃ?? でっかい遊園地とかもあって? 俺の地元? みたいなぁ??」
顔面の穴という穴をフガフガさせながら、犬歯をちらつかせて大声で何かをほざく、ラジの右隣の浜田。
彼は立ち上がって椅子に片足をかけ、全身でいつぞやの記憶をアピールしている。
ちなみに、そのクルクルの天パを活かしたシャレオツ風ヘアは中学時代の野球部の反動らしく、駅前で一番オシャレな美容室の二軒隣にある、『街で3番目にオシャレな美容室』で切ってもらっているらしい。
「…………」
……浜田、お前は一回落ち着け。
てめぇの去年の夏は、千葉のばあちゃん家で梨の収穫を手伝ってただけだ。
その特産品の煮物とやらも、ばあちゃんお手製の愛情たっぷり煮物だ(美味かったなら良かったな)
「海とかもめっちゃ綺麗でぇ? あと煮物、めっちゃ美味しいしぃ?? モモック星、マジで人生で一度は行っとくべきっつーか??」
「…………」
……いや、あいつの『脳チョイチョイ』の出力、浜田ピンスポットでダメージ強すぎんだろ!!!
大事な家族旅行が捏造記憶に汚染されてんじゃねぇか! かわいそうに!!!
……でも、あの自慢げな顔、ちょっと腹立つな。
あいつハワイ行ったら絶対アロハシャツ着て、ビーサン&サングラスでロコモコ丼とか食うタイプだろ。(……あとお前、煮物めっちゃ好きだな)
ラジが氷河期の到来を知らせるような冷めた目で浜田を見つめる中、クラスの盛り上がりを鎮めるように、中岡先生がパンパンと手を叩いて場を制した。
「はいはい、みんな静かに〜! じゃあ、どこに座っても――」
「先生! 先生!! パジュさんの席はどこっすか!?!」
……チッ、クソ調子乗りロコモコ浜田め! 余計なこと聞いてんじゃねぇよ。
変に目立ってお前の近くにあいつが来てみろ。そうなれば、左隣の俺まで『ハッピーセット』で、芋づる式にパジュのご近所さんになっちまうだろうが!
大人しくしてやがれ、この腐れアロハポーズめ!
「そうそう、席だよねぇ……。ファオリオさんは黒瀬くんの家でホームステイしてるみたいだし、まぁ初めての日本で不安もあるだろうから……」
そう言うと、中岡先生は少し困ったように顎を撫でながら――大方、最初から定めていたであろうラジと、一瞬バチリと目を合わせた。
「うん、黒瀬くんの隣でいいかな。浜田くん、君は空いてる掃除用具入れの前の席ね」
「…………え、俺?」
「…………」
浜田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
……嘘だろ、浜田……! お前には大概うんざり中のうんざり中のうんざりだったが、あの『未確認・マッチョダースベイダー』が隣に来るくらいなら、お前のクソさをもっと愛せばよ……かっ……た……。
悲しみに暮れ、肩をがっくりと落として呆然と机を見つめる浜田。
そしてその横で、同じく無言のまま、机の端をジッと見つめて固まるラジ。
美少女転校生という、学生生活で誰もが一度は味わってみたい甘い蜜に包まれた教室の中に――中岡先生のネクタイでも吸い込めないほどのジトッとした絶望の空間が、彼らの周りにだけ漂っていた。
「ねぇねぇ、愛ちゃん。あの二人って、付き合ってるとかじゃ……なかったよね……? そんなに離れるの嫌なのかな……? あの『高嶺の花』の黒瀬くんが、なんであんな奇行種(?)と……」
「…………黒瀬くんって、結構『珍味』好きなんだ……」
パジュの正体、そしてラジの悲痛な胸の内も知らない後ろの席の女子たちの間で、あらぬ噂が立ちかけた、まさにその時。
無機質なチャイムが鳴り響き、波乱に満ちた朝のホームルームは強制的に幕を閉じた。
***
かくして、浜田は涙目で掃除用具入れの前へと左遷され――ラジの右隣には、ついに『それ』が鎮座した。
パジュの机の周りには、あっという間にクラスメイトがわっと集まり、あれよあれよという間に記者会見状態になっていく。
「ねぇねぇ、黒瀬くんの家でホームステイしてるって本当??」
「黒瀬くんとは、どういう関係なの?」
「黒瀬くんの部屋の匂いってどんな感じ!?」
「黒瀬って寝るときはパジャマ派? それともパンイチ派!?」
ラジとパジュを交互に見つめる、らんらんとした視線。その全員の顔面には、もはや隠しきれない『興味津々』の文字が、極太のフォントで浮かび上がっていた。
「……ハァ」
こういう熱い視線は彼にとって日常茶飯事なのか、ラジは気だるそうに小さくため息をつく。
「…………」
……まぁ、そりゃこうなるよな。同級生が同級生と、しかも転校してきた奴と一緒に住んでんだ。
それが異性となりゃ、そりゃ気になるのも当然だろ。(俺にとっちゃ、ウホウホ・ボスゴリラにリボン付けたくらいの程度だが)
俺ん家でホームステイ中の外国人って設定なんだろうけど、ったく、ややこしい設定にしやがって。
……はぁ。まぁ野次馬なんざ、二、三日ほっときゃいつか飽きんだろ。
廊下から聞こえてくる「黒瀬~! 売店行こうぜ」という声にガタッと立ち上がりつつ、パジュを囲む人混みの隙間から、横目でチラッと彼女を視界に入れる。
お得意の口先をにゅっと尖らせた『ぬ』 のような表情で、採れたてのトマトのように顔を真っ赤に染めている。そして、ピシッと揃えた膝の上の小さな手が、まるで呼吸しているかのようにもじもじと動いていた。
「…………」
……あいつ、家では天井ぶち破るわ、しょうもねぇギャグかますわでうるせぇのに、ここじゃ借りてきた猫ちゃん状態だな。
……そういうキャラ設定か……?
「黒瀬〜! はやく行くべ!!!!」
同級生の声に「あぁ」と返事をして歩き出そうとした、まさにその時。
震えるような、聞き覚えのある声がそっとラジの耳に触れた。
「えっと……えっとぉ…………、ラジはわーの……魔魔でぇ……」
――その瞬間。
「……ママ?」
「えっ? ママって、お母さん的なこと……?」
「……やだ、黒瀬くん……パジュちゃんに自分のこと『ママ』って呼ばせてるの……?」
華やいでいた教室の空気が、『青天の霹靂』を具現化したかのようにピタッと止まった。
「えぇぇぇぇ??? 黒瀬ってそういう趣味あんのぉ?? 変態じゃぁぁん!!! 俺もラジママって呼んじゃおっかなぁ〜〜????」
ミスター調子のりサーファーロコモコこと『浜田』が、大声でからかいの言葉を放り投げた――まさに直後のことだった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!! シュゥゥゥゥゥッ……!
床下から突き上げるような、聞いたこともない地響き。
バチバチッ! と火花を散らした蛍光灯が、チカチカと悲鳴をあげて一斉に消え落ちる。窓の外では、さっきまでの青い夏空を飲み込むように、どす黒い暗雲が不気味な渦を巻いて迫っていた。
「…………」
……ッ!!! まさか…………この『ステーキ臭』は!!!!!!!
雲が太陽を覆い、教室がフッと暗転した瞬間。
ラジは弾かれたように、匂いの発生源へと動き出した。
『ママ』というクール男子高校生にあるまじきお辱めワードに凍り付くクラスメイトたちをかき分け、その中心にいるパジュの姿を見つけ出す。
「パジュッ!!! ちょっとこっち来い!!!!!」
すでに不穏な『ジューシー白煙』をシュゥゥゥ……と吹き出し始めているパジュの右腕へ向かって手を伸ばし、ガッと掴む。
そのまま廊下を猛ダッシュし、階段を一段飛ばしで駆け上がり――誰もいない屋上の重い扉を、思い切り蹴り開けた。
バァァァァァンッ!!!!!
屋上に到着するなり、ラジはその右腕をバッと手放し、膝に手をついて肩で激しく息をした。
「ハァ……ッ、ハァ……!」
顔を上げると、視線の先には息ひとつ切らしておらず、きょとんとした顔でこちらを見つめるパジュの姿。
事の重大さを全く分かっていないような彼女を、ラジは一日ぶりの般若顔で睨みつけ、グッと迫った。
「…………てめぇ、転校初日で勝手にバトル・ロワイアル始めてんじゃねぇ!! ハァハァ……『変異』ダメ! 絶対メッ!!!」
屋上猛ダッシュの疲労と『伝説の変態』というレッテル、および校舎『消滅』未遂事件により、ラジの語彙力は完全に崩壊していた。
「……フン。ラジ、侮辱した」
「ハァハァ……何がだよ」
「モモック星の第四王女である、わーの魔魔、馬鹿にした。ちとばかし、分からせるだけだ」
不機嫌そうなパジュの心を表すかのように、その右腕はすでに成人男性ほどの太さに腫れ上がり、ドクドクと血管が不気味に脈動している。
その異様な姿のせいで、対照的に白く細いままの『左腕』が、やけに痛々しく見えた。
「……いいか、パジュ。明日も登校したいなら、学校では絶対に『変異』禁止だ! この学校にいる間は、何があっても、絶対に、その『世紀末腕』を出すな! わかったか?!」
「無理ング。悪いことは、悪い。侮辱の罪、星だったらこんなもんじゃ、すまん。……それに何か問題、脳をチョイチョイすればいい。これだけ」
「ダメだっつってんだろ!!!! 学校爆破してチョイチョイなんかしてみろ、記憶がクソねじ曲がって、このままじゃ浜田がモモック星生まれになんだろうが!!!」
「断るったら断る!!! わーの自由権利!!!!!!」
そう叫ぶなり、パジュはプイッとそっぽを向き、不満げに口を閉ざした。
「…………」
屋上に、両者一歩も譲らぬヒリついた空気が流れる。
「……使い魔ってのは、主と信頼を分かち合う『魂の伴侶』だって言ったよな?」
ラジの切れ長の目が、スッと冷たくパジュを射抜く。
「こんな簡単な約束も守れないような自分勝手な奴とは、絶対に死んでも契約しねぇ。俺に契約を要求するんなら、パジュ、お前から筋を通せ。できねぇなら、モモックかなんだかにさっさと帰れ」
冷たくそう言い放つと、ラジはパジュに背を向けた。そして、一切の迷いがない足取りで真っ直ぐに屋上の扉へと歩き出す。
「……だって……だってだって……あいつがラジのこと…………」
背後から漏れたのは、ふてくされたような、駄々をこねるような、か細く震える声。
ラジは扉の前でピタッと足を止めると、自分の左肩越しに、チラッとパジュを見る。
「…………」
普段は強い意志を感じさせるチャームポイントの猫目が、今はしょんぼりと伏せられ、教室での涙目とは違う、今にも溢れ出しそうな『水の結界』を張っていた。
そして、お決まりのように口先をにゅっと尖らせながら、異形に膨らんだ右腕を、必死に細い左手で押さえつけ、グッとうつむいている。
「……ハァァァァァァァ……」
静かな屋上に響いたのは、今日一番の、深く長い溜息。
ラジはパジュに背を向けたまま、観念したかのように首をうなだれさせ、粗っぽくその場に腰を落とした。
そして、背中越しにポツリとこぼす。
「……守れるっつうなら、『契約』……一ミリくらいは、考えてやるよ」
ラジの言葉に、顔をバッと上げるパジュ。
空を覆っていた暗雲が嘘のように晴れ、まばゆい太陽の光がパァァァァッと屋上へ一気に差し込んでくる。
「ん!!!! わー、約束する!!!!!!」
爽やかな初夏の風が吹き抜ける中、パジュは満面の笑みで、しゃがみこんだラジの横へとてとてと駆け寄った。
そのまま隣にちょこんとしゃがみ込むと、首を傾げてラジの顔を覗き込む。
「ラジ、お前怒ると、結構こわいな」
「……うるせぇ。お前はその『内弁慶』治してから言え……!」
泣きべそをかいたせいで少しだけ赤くなった鼻先と、まだ濡れている長いまつ毛。
それを至近距離で見てしまったラジは――誤魔化したのかなんなのか、フイッと顔を背ける。
「…………」
……こいつ、頭は相当沸いてっけど、案外かわいいところもあんのかもな……。
そんな、らしくもない思考がラジの脳裏をよぎった、その刹那。
キーンコーンカーンコーン♪
カラッとした一限目の予鈴が、屋上、そして学校全体に響き渡る。
「……ッ! やべ、一限目体育だ!! パジュ、走る――」
チャイムの音にハッと我に返り、勢いよく片膝を立ててパジュの方を振り向く。
だが――さっきまで隣にいたはずの彼女の姿が、ない。
ドドドドドドドドドド!!!!
遠ざかっていく、地鳴りのような超高速の足音。
そしてラジの視線の先には――丸型から『ほっそいボールペン』のようにひねり潰され、うっすらと白煙を上げている屋上扉のドアノブ。
すべての状況を把握したラジは、真顔でスッと立ち上がった。
その瞳に、ブワッと怒りの炎が宿る。冷徹な激高オーラにより、うっすらと髪の毛さえもメラメラと逆立っていた。
……ッあんのクソ世紀末!!! あいつの魔魔なんか死んでもなるかぁ!!
ゆらゆらと憤慨オーラを漂わせながら、『細ボールペン・ドアノブ』へと近づくラジ。
それを親指と人差し指でつまもうとした、その時。
「…………」
……っていうか、俺、まだ変態ママキャラのままじゃねぇか!!!!
一限目の体育のため、そして何より、黒瀬ラジ本人の名誉を守るため。
パジュの指パッチンを一回分、己の社会的地位と引き換えに奪い取ると心に誓い、全速力で地を蹴る。
……なに一人すっきりした顔で解決してんだよ!!!!!
待ちやがれクソ弁慶! ラストチョイチョイしてから行きやがれぇぇぇ!!!!!!!!!
ラジはウサイン・ボルトもびっくりの脚力で、パジュの後を追い体育館へと向かった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
パジュの転校初日から『伝説の変態』という不名誉な称号を与えられ、挙句の果てにはテンプレート調子乗り男こと、ロコモコ浜田との怪しい関係説まで浮上してしまったラジ……。
果たして、彼の社会的地位が回復する日は来るのでしょうか。
(ちなみに、ロコモコ浜田が『街で3番目にオシャレな美容室』で髪を切る理由は、「おしゃれ過ぎると緊張しちゃうから」だそうです)
【読者の皆様へ、ラジから切実なお願いです!】
「パジュのステーキ臭で白飯かちこみたい」
「ラジとロコモコ浜田カップルを応援したい」
「自分、ドアノブ修理できるっす!」
……と、少しでもクスッと思っていただけましたら!
ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】にし、ラジへの応援(※ドアノブ修理代のお布施)をお願いいたします!
ブックマークへの追加も大変励みになります!
皆様の応援が、パジュの右腕をパンプアップさせる(明日の更新の)最強のプロテインになります!!!
明日も【18:00】に更新予定です! お楽しみに!




