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22/24

【スパイ!?我が家に不法滞在モモック星人が一匹追加☆】そして鳴り響く、未来へのカウントダウン。

前回のあらすじ:ロコモコ浜田とのデート疑惑という大騒動を乗り越え、ついに平和な日常を取り戻したラジとパジュ。

花臣やピ川たちとも打ち解け、今日も楽しい学園生活が続く……かと思いきや。


ラジの脳裏をかすめるのは、占い師に告げられた『死相』という最悪の宣告。


「国王選抜大会」の真実、そして「魔魔の契約」。

パジュの本当の目的を問い詰めようとしたその矢先、モモック星より新たな刺客が舞い降りる……!?


果たして奴は敵か、味方か。

刻一刻と早まる、運命のカウントダウン。


それぞれの想いが交差する、怒涛の第22話スタート!

「黒瀬、もう帰んの?」

「ちょ、お前! 勝手に俺のタオル使うなって!!」

「ラジ、今度は田中たちも誘ってバスケでもしようぜ!」


 あの尾行から、丁度一週間が経った土曜日の午前。サッカー終わりの興奮冷めやらぬ声が、夏特有の青く澄み切った空と真っ白な雲に反射し、その眩しさに負けじと土手に明るく響き渡っていく。


 大声で騒ぎながらベンチへと戻ってくる者。あるいは、ダラダラと着替えを始める者たち。そんな彼らの賑やかさをよそに、ラジは一人、淡々と鞄にビブスやシューズをしまっている。


「ん、あいつらにも声かけとくわ。じゃあな」


 毎月恒例となっている中学の同級生との集まりということもあり、彼は相変わらずの温度のない顔で、サラッとボストンバッグを肩にかける。そして、男子学生特有の騒々しさで返ってくる挨拶には特に振り返ることもなく、片手でひらひらと応えながら自宅方面へと歩き出した。


「ラジ! 一緒に帰ろうぜ」


 背後から彼の左肩をポンッと叩き、横に並んだのは、同じ中学の出身で、今は隣のクラス——六組にいる五十嵐だ。家が近所ということもあり、二人はどうでも良い話題を交えつつ歩を進める。


「……なぁ、五十嵐。お前って、占いとか信じるタイプ?」


「占い? 何のよ?」


「……うーん、人相学?」


「人相学? いや、やったことないからなぁ。ってか、お前こそそんなん気にせんタイプじゃん」


 ラジから発せられた意外な単語を笑って受け流しつつ、五十嵐は軽く右隣を見やる。当の本人はいつも通りの無機質な顔のままだが、その視線はどこか重く徐々に足元へと落ちていく。


「……気になるっつうより……まぁ。なんかこの前、通りすがりの占い師に『死相』が出てるって言われてさ」


「死相?」


 五十嵐は、う〜んと少しだけ考えるように宙を仰ぐと、そのまま右ポケットからスマホを取り出し、何やら親指を動かしている。おそらく、何となくの意味しか知らないその単語について、ネットで調べているのだろう。


「……死相ねぇ。えっと、死相とは『死が近づいている人に表れるとされる特有の顔つきや人相』だってさ」


「……近づいている、か」


「いや、まぁ、こんなん医学的に何の根拠もないんだし、別に無視していいと思うけど。——あっ、でも『近い身内や大切な人への警告』って場合もあるらしいし、不安なら一応親父さんとかに言っとけば?」


 ひと通り内容を確認したのか、スクロールする指を止めた五十嵐は、また携帯をポケットへと戻す。


「……そうするわ」


 心当たり——いや、脳裏に浮かぶ誰かの無邪気な笑顔があったのか。ラジは伏せていた瞳を静かに上げると、帰る方向だけではないその先を捉えるかのように、真っ直ぐに前を見つめた。


 五十嵐と別れ、一人になった今。ズシリと肩に食い込むボストンバッグの重さを和らげるように、右手でしっかりと引き寄せる。それは単なる疲れなのか何なのか、普段よりも少し速度の落ちた足どりで、彼は静かに自宅へと向かっていった。



***



 ——ガチャ、キィ。


「ただい——」


 動物病院の反対側にある裏口玄関を開け、家に一歩足を踏み入れた瞬間——ラジの視界に飛び込んできたのは、奥の診察室へと伸びる廊下から、一直線にこちらへとドタドタと駆け寄ってくる真っ黒で大きな影。


「ラジ殿ぉぉぉぉ~!!」


 迫りくるそれは、そう、どこからどう見ても『モ』から始まり『ク』で終わるあの星臭が漂いまくる、奇妙な衣服を身にまとった見ず知らずの青年だった。


「………」


「へへっ! お帰りなさいませ! さぁ、そちらのお荷物を!」


 そのボストンバッグをこちらへ放って下さいと言わんばかりに床へサッと両ひざをつき、愛嬌たっぷりの満面の笑みで両手を広げているその青年。ピチピチのノースリーブから突き出た腕は、しなやかで美しい筋肉に包まれており、バッキバキに割れ散らかした腹筋が服の上からでも見て取れる。


 その圧倒的に強固な肉体とは相反する、ラジへと服従を示すかのような姿勢。だが、そんな屈託のない笑顔を向けられているこちらは、彼とは全くの赤の他人だ。なんなら今この瞬間が、完全なる『初めまして』である。


 この異常すぎる状況が引き起こす強烈なハウリングが、ラジの危機察知能力ならぬ、奇人察知能力を本能的に刺激し、極限まで冷え切った真顔と必殺・他人行儀を呼び起こしたのは言うまでもない。


「……いえ、大丈夫なんで」


 お出迎えと気遣いへの一応の感謝なのか、ラジは軽くペコッとお辞儀をしつつ、こちらへと伸びたウェルカムの両手をスッと右にかわす。


 その流れのまま、得体が知れないだけにとどまらない、恐らく宇宙人であろう相手をなるべく刺激しないよう細心の注意を払いつつ、付け焼き刃では絶対に習得できない『激むず・飄々(ひょうひょう)ステップ(早足ver)』で、二階の自室へと続く階段を高速で駆け上がっていく。


 ——シュタシュタシュタ。


「………」


……いやいやいや、なんだあいつ。

誰だこいつ以外なんにも出てこねぇくらい、誰だこいつすぎんだろ。


ってか、あいつ絶対モモック関連だろ! なんでまた勝手に新たな宇宙人が召喚されてんだよ!!

人様のお家にコンビニ感覚でフラッと立ち寄ってんじゃねぇぞ?! 『とりあえず飲み物でも買っとく?』じゃねぇんだよ!!!


 勢いそのままに自室へと避難したラジは、どうにか死守したボストンバッグをドサッと床に置く。

 パジュ達が住み着いてからというもの、部屋のドアは常に開けっ放しだ。背後の気配に、やはり気付いていたのだろう。彼は小さなため息とともに、そちら——問題のドアの方をゆっくりと見やる。


「「………………」」


……うん、いる~~~~~~~~~~~~。


ずっといる~~~~~~~~~~。ずっと見てる~~~~~こっち。


 そう、そこに立っていたのは、相変わらず満面の笑みを浮かべてこちらを見つめるピチピチノースリーブ男だ。これ以上踏み込む気はないらしく、彼はドアの沓摺から一歩も中へは入らず、後ろで手を組んだまま忠犬のように静かに待機している。


「………………」


……クソッ、何だこいつ。


 ラジの視線が、敵の実態を調査するかのように、男の頭からつま先へと冷静に落ちていく。パジュやナルシネスの淡く透き通るようなブロンドを基調とした毛色とは異なる、柔らかくも芯のあるグリーンの髪の毛。

 高い位置で一つに結い上げられたその束は、ポニーテールというより、もはや肉食恐竜の力強い尻尾を連想させた。


 オリーブのような深い緑の瞳を温かく細め、こちらを見つめる彼。身長二メートルは超えるであろう美なる身体を強調するかのように、上半身はぴったりと張り付いた黒のタンクトップをまとい、下は裾の絞られたダボッとしたズボンを穿いている。さらに、鍛え上げられたその腕と背中には、なぜか天女の羽衣のようなものが巻き付いていた。


「……あの、すいません。ひとつだけいいですか」


 ラジは、入口にそびえ立つ『味方疑惑』の強靭宇宙人を前に、相手の友好性に一縷の望みをかけ、必要最小限の交流を試みる。


「えっと……お名前は?」


「はいっ! 自分はギルルガと申します!」


「あぁ、どうも。……えっと、あの、ギルルガさんは、モモック星から来たってことで大丈夫ですかね?」


「はいっ! 自分はモモック星からっす!」


 モモック星から来たという言質が取れた今、無駄にこちらへ懐いている様子も相まって、もはや何も恐れることはない。ラジは静かに頷くと、家のモモック星人たちは今外出しているから居間で待っていてほしいこと、そして自分はシャワーを浴びるので特にかまう必要はない旨を事務的に伝え、そのままお風呂場へと向かった。


 ——シャーーーーー。


 浴室のすりガラスの外に、待機・ウィズ・ピチピチノースリーブ男。


 ——ゴロゴロ。


 ベッドの上で漫画を読むラジの部屋の前に、待機・ウィズ・太ポニーテール男。


「…………」


……いんな、ずっと。


 ラジの居間への誘導は虚しく、なぜか満面の笑みで彼を見守り続けるギルルガ。一方、その異様な視線を徹底した真顔で『無』として処理するラジ。もはや恐怖すら覚える、両者一歩も譲らぬ面(つら)の皮(かわ)対決がここに勃発していた。


「ハッピータァ~イム☆干し椎茸の申し子ミニハァ~ウスよ!!」


 そんな何とも言えない空気を切り裂くように、ナルシネス流のただいま、つまり黒瀬家在住のモモック星人たちの帰還を知らせる声が、一階から明るく響き渡る。


「今日も素晴らしいステップだったな、あのマチダーヌは!」


「ミルク、わー、お腹すいた」


「では、昨日パパン殿が作って下さったカレーを温めなおしましょう」


 帰宅と同時にガヤガヤといつもの騒がしい日常が開始される一階。対して二階には、全くそれどころではない地球人が一名。

 ギルルガと名乗るこの男を勝手に招き入れたであろう『根本原因たち』へと事情聴取を行うべく、ラジは当然のように背後に奴を従え、淡々と一階の居間へと降りていった。


「では、ラジ殿をお呼びに——おやおや、ギルルガさん。こちらへいらしていたのですか?」


「へへっ! お久しぶりっす」


 不法侵入を斡旋した罪人(疑惑)たちを尋問すべく、居間の入口で仁王立ちするラジ。そんな彼と背後のギルルガに気付いたミルクが、遥か遠くの星を跨いできたとは思えない、まるで休日に会社の同僚と近所の祭りでバッタリ遭遇したかのようなテンションで、サラッと挨拶を交わす。


「あの、ミルクさん。とりあえずこの方の説明してもら——」


「ノッティング!!!! ノッティング・トゥルー!!!!! お米が足りぬぞ!!!!!」


 ラジの至極真っ当な質問を、ナルシネスの甘い美声が大音量でかっさらっていく。居間奥の角にて炊飯器を覗き込んでいる様子から、どうやらお昼のカレーに使う白米の残量を確認していたらしい。


「いや、だから、まずこの状況を説明し——」


「カレーにホワイティーライスが無いとは言語道断! さっそくスイ・ハン・キンをセッティング・フォーエバーだ!!!」


 ギルルガなど見飽きた風景だとでも言うように、ナルシネスは国を揺るがす大事件に直面したかのごとき深刻な顔つきで、お茶碗一杯分だけ残ったお米をすくい、丁寧にラップで包む。そして空になった炊飯窯を小脇に抱えると、米びつのある別室へと高速で消えていった。


「…………」


……いや、聞け? 一回聞け?

あいにくこっちは人間、地球人でして、どう考えても『 ライス < ノースリーブ宇宙人 』なんだわ?!?!


あとなんだ、スイ・ハン・キンって!! 炊飯器だろうが!!!

勝手にチン・ギス・ハンみたいに呼んでんじゃねぇぞ!! 炊飯器はお米の英雄ですからじゃねんだよ、ボケ!!!


「ギルルガ、何か話しある。だから来た。そうのこと、だな?」


 ナルシネスがドタバタと去った今、シンッと静まり返った居間に、パジュの落ち着いた声がぽつり、ぽつりと落ちる。


「はい。自分はパジュ様にお伝えすべき急報があり、こちらへ参りました」


 ギルルガは、先ほどまでの軽い声色とは打って変わった、二トーンほど低い、それでいて柔らかい声でそう告げた。

 そして彼女へ忠誠を誓うように、サッとその場に身を沈めて片膝をつくと、すでに食卓の定位置に座っているパジュを見つめ、言葉を続ける。


「国王選抜の件でございますが、情勢の逼迫に伴い、期日が早まるとの情報がございました。まもなく委員会の者が、その仔細を携えて、こちらへ現れるはずかと」


「……父上の、様子は?」


「ご安心くださいませ。国王陛下の御容態は、パジュ様が当星を発たれてより、目立った揺らぎはございません」


「……そう、か」


「はい。幸いにも小康を保っておいでですが、選抜の期日が前倒しとなれば、玉座を狙う候補者たちが色めき立つのも時間の問題かと思われます」


 締まりの緩い水道からシンクへと、タンッ、タンッと水滴の落ちる音が静寂を打つ。

 ギルルガの言葉を受け、パジュは何を思っているのか。彼女はいつもと変わらぬ真顔のまま、ただジッと食卓を見つめていた。


「ことを、進めるとき」


 短くそう呟くと、彼女はゆっくりと視線を動かす。その先には、入口の柱にもたれかかり、ギルルガの左横で一連の流れをただ黙って見守っていたラジの姿があった。

 

 一瞬、二人の視線が真っ直ぐに交錯する——が、すくっと立ち上がったギルルガの大きな肩により、その交差は静かに閉ざされる。

 そしてそのタイミングを図ったかのように、診察を終えたであろう修二とナルシネスの足音が、廊下の向こうから賑やかに響いてきた。


「……パパン殿もお仕事終わりでお疲れでしょうから、そろそろお昼の支度に取り掛かると致しましょう。ラジ殿、ギルルガさんも、どうぞお席へ」


 張りつめた空気をふわりと解きほぐすような、ミルクの優しく温かい声。席へと促す彼の手振りに導かれ、ラジはパジュの正面、いつもの定位置へと腰を下ろした。


「ミルクさん、自分も手伝うっす!」


「ありがとうございます。では、サラダ用のお野菜を切って頂けますか?」


 背後で和やかにキッチンに立つ二人とは対照的に、食卓で真正面に向かい合うラジとパジュ。無駄な言葉を交わさない、いつも通りの時間。表情さえもいつも通りの無機質なものだが、決して交わることのないその視線は、それぞれ別の方向を静かに見つめている。


 そう、彼らの瞳は、押し寄せる未来を測るかのような、深く重い思考の色へと染まり始めていた。



(第23話に続く)


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


モモック星よりやってきた新たな青年、ギルルガ。

彼がパジュに伝えた報告からは、何やら不穏な空気が漂っていますね。


それを静かに見つめるラジの胸中には、果たしてどんな想いが渦巻いていたのでしょうか。


ちなみに、午前中のモモック星人三人衆は、動物病院の常連客であるお喋りエアロビモンスター『オシャエア町田』さんに連れられ、エアロビクス教室で汗を流していたそうです。町田さんに溺愛されているナルシネスは、毎週ミルクさんと共に通っているのだとか。


本編で残りのお米を深刻に気にしていたナルシネスは『肉まん柄のレオタード姿』。ミルクさんに至っては『骨柄のレオタード』を着ていたことになります(笑)。

(当然、修二がネットで注文した代物です。パジュは今回が初参加だったため、Tシャツに短パンでした。変なレオタードを着せられなくて本当に良かった……本当に心から良かったです)


【 読者の皆様へ! ラジから切実なお願いです 】


「家の近くのコンビニで骨柄レオタード姿のおじいさんを見たけど、通報しなくて良かったです」

「私も毛量すごくて、太ポニーテール女です」

「パジュちゃんとラジには、ずっと笑っていてほしい」


……と、少しでも思っていただけたそこのあなた!

ぜひページ一番下の【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】にしてくださると嬉しいです。


ブックマークの追加や、毎話のいいねも、作者とラジの生きる希望になります!


次回、ついにパジュの口から国王選抜大会の全貌が語られる。

迫り来る運命を前に、ラジは魔魔の契約を結ぶのか。そして、この騒がしくも穏やかな日常に終わりは訪れてしまうのか——。


それぞれの想いと未来が交差する第23話、お楽しみに!


※次回は【来週木曜日の18時】に更新予定です!

(執筆の進捗によっては、その次の月曜日にズレ込む場合がございます……!)


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