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「ラジィ! わーの使い魔、『魔魔(ママ)』になれ!」

お読みいただきありがとうございます!


第2話は、嵐の前の静けさ……ならぬ、

大型台風ど直撃の『夕食前の団らんタイム』から始まります。


どうぞお楽しみください!

 カチャカチャ、ジュージュー。


 診察室のそのまた奥にある、黒瀬家のリビング兼食卓。

 そこには、優雅なティーカップの音と、肉の焼ける小気味よい音が、平和な団欒を象徴するように優しく響き渡っていた。


「みんな、今日は特製ハンバーグだよ! いやぁ、ラッキーな日に来てくれたね」


 コンロの前で、白いエプロンをひらひらと揺らし、鼻歌まじりにフライパンを振る修二。


 その無防備な背中のすぐ後ろ。

 食卓には、『未確認生物1(メイン攻撃力)』ことパジュが鎮座し、正面のラジと無言で対峙していた。


 そしてテーブルの端では、『未確認生物2(メインエレガント)』が、まるで英国の王宮にいるかのような手つきで、マイティーポットから紅茶を注いでいる。


「…………」


……ハァ、何がラッキーだ。俺はベスト・オブ・アンラッキーデイだ、馬鹿野郎!

まぁ、とりあえずあの世紀末右腕は、なんとか「収納」? した状態だし、様子を見るに敵意があるってわけでもないか……。


 ラジの視線が、パジュの右腕から全身へとゆっくり移る。


 初めて降り立った地球、そして見知らぬ日本の家に緊張しているのだろうか。

 薄っすらと桜色に染まった頬、少しだけ尖らせた口先、そして不安げに伏せられた長いまつ毛。椅子からちょこんと投げ出された短い足は、落ち着かないのかブラブラと空を切って揺れていた。


「……んで、状況を整理すると、おまえらはその『モモック星』からやってきたモモック星人で、あんたがその第四王女ってことか?」


「はい、まさしくその通りでございます」


 ラジの淡々とした問いかけに対し、いつの間にか横に立っていた老紳士が、スッと音もなくティーカップとお茶菓子を差し出す。


「こちらはパジュ様。そして申し遅れました。私はパジュ様に仕える執事、ミルクでございます。ラジ殿、どうぞミルクとお呼びくださいませ」


 ミルクは胸に手をあて、うやうやしく一礼した。


「……あぁ、ありがとうございます」


 あまりにも自然な振る舞いに、ラジは反射的に紅茶を受け取り、軽く会釈を返した。


「……………………」


………………いや、なに勝手にしっとりと人んちの菓子出してんだよ!!!

あと、さっきからご優雅に不法侵入中だからな?!! 『優雅』さは、別に免罪符じゃねぇぞ!!!


 ラジがミルクを警戒しながらも、受け取った紅茶を一口、飲もうとしたその瞬間――!!


 バンッ!!!!!


 パジュは椅子から勢いよく立ち上がると、両手でテーブルを叩き、ラジを人差し指でビシッと指した。


「ラジィ! わーの使い魔、『魔魔ママ』になれ!!!!」


「…………は?」


「…………」


 パジュは、もう一度大きく息を吸い込むと――。


 パンッ!!!!!


「ラジィ! わーの使い――」


「いや、聞こえてんだわ。しっかりお耳に届いた上での『は?』なんだわ」


 北極熊も凍える、ラジの極寒の視線。

 しかしパジュは、意志は伝わったと判断したのか。「なるほそ」と呟いて、もぞもぞと再び椅子に座りなおす。


「……わーの故郷、モモック星では、半年後に次期国王を決める『選抜大会』が開かれる。だから、良いパートナー、必要」


「…………そのパートナーってやつが、さっき言ってた『魔魔ママ』ってやつか?」


 パジュは目の前の紅茶に両手を添え、猫が水を飲むように顔を近づけて、ズズズ……とすすりながら答えた。


「……ん。魔魔とは、精神エネルギーそのもの。あるじを信頼する、その精神エネルギーを『変異能力』に変換。わー、強くなる。だから魂の伴侶」


「………………」


 ラジが真っ黒な瞳で、フゥ……と静かな深いため息をつく。そして、思考と警戒を再開するように腕を組んだ――その時。


「ラジ、そこの白い、ちょい大きめのお皿取ってくれる? あ、今日は4枚ね!」


「…………」


 こちとらクーリングオフ不可(ラジ予測)の地獄契約、交渉中なんだよ!?!!そう言わんばかりのどす黒いオーラ。

 だがラジは、凄まじい般若はんにゃ顔で修二を睨みつけながらも、スッと立ち上がり、無言で食器棚へと歩き出す。


 食器棚の扉に手をかけたところで、ラジの動きがピタリと止まった。


 激情のままに掴みかけた指先から、ふっと力が抜けた。

 般若の形相だった瞳からフッと熱が引き、代わりに冷静に真意を見定めようとする、探るような色が宿る。


「…………」


 ラジはそのまま動かず、自分の肩越しに背後のパジュをチラッと見た。


 そこには、ラジの張り詰めた脳内とは裏腹に。頬をプクプクに膨らませ、『限定芋ようかん』を、もしゃもしゃと頬張るパジュの姿。


「…………」


…………全くもってよく分からねぇが。

要するに、俺が『魔魔ママ』とかなんとかになって信頼し合うほど……あいつの右腕が筋肉隆々の『世紀末物件』に進化するってことか……?


んで、その国王選抜だのなんだのに出たい、と。……いや、いくらなんでも説明不足にも程があんだろ。


まぁ、とりあえず、よっぽどの事情があって地球に飛んできたってことだけは間違いないか……。


「ラジィ、わーの魔魔になる。強くなる。大会出る。国王になる」


 パジュは小さい手をゆっくりとシュ……シュ……と動かし、さも当たり前かのように説明する。


 その横で、ラジは無言のまま皿を並べ終える。


 すかさず修二から「はい、じゃあ次これね」と渡された丸ごとキャベツ。ラジはそれを受け取ると、まな板の上にトン、と置いた。


 一瞬の静寂。


 先ほど宿った光が、フッと瞳から消え失せる。

 ラジは再び『レジェンド・オブ・漆黒瞳』を呼び戻し、使い慣れた包丁を掴んだ。


 シュシュシュシュシュシュシュシュッ!!!!!!!!!


 残像が見えるほどの真顔高速千切りが、リビングにとどろいた。


「…………」


 …………国王とか大会とか、あいつの事情は気にするな。

 俺は目の前のキャベツ太郎にだけ集中するんだ。うん、それでいい、それだ。キャベツキャベツ。


「ほほ~、すげ。ザクザク戦闘民族。……さぁ、ラジ! 今すぐわーと魔魔ママの契約を結ぶのだ!」


「断る」


 シュシュシュシュシュッ!!!!


 ガビーーーーン!!


 パジュは衝撃のあまり目を見開き、口をあんぐり。頬についていた芋ようかんのカスが、絶望したかのようにポロポロと床に落ちていく。


「…………」


……わーのお願い、速攻拒否……!

モモック星の第四王女なのに……結構強いのに……なんかザクザクしながら……断った……。


 ラジは高速で動く手をピタッと止めると、眉をひそめ、呆れたようにパジュを見やった。


「あのなぁ? そもそも何で俺なんだよ。もっと強そうな奴いるだろ。プロレスラーとか、オリンピック選手とか、ほら、砲丸投げの選手とか」


「ホウガン……? ホウガン、ホウガン……? あっ! 睾丸! 睾丸投げ選手!!」


「いや、睾丸じゃ軽すぎんだろ。だいぶ飛ぶぞ」


「……って、んなもん投げんな!! 取られた人、かわいそうだろうが!! さっさとお返ししろ!!!」


ったく、そもそも、なんで砲丸は知らねぇのに睾丸は知ってんだよ!

モモック星の辞書どうなってんだ!? モモ辞苑か!? モモ辞苑関係者が問題なのか!?!?

『編集長、砲丸より睾丸の方が大事ですよね。体の一部ですから! そっちを先に載っけちゃいましょう』――じゃねぇんだよ!!!


 キャベツを盛り付ける、黒瀬家見習い厨房スタッフ・ラジをよそに。メインシェフ・修二がフライパンを揺すりながら、穏やかに口を挟む。


「パジュちゃん、砲丸投げ選手はともかく、睾丸投げ選手は、そんなに強くないだろうねぇ。重さも砲丸の約600分の1くらいだし、筋肉の使い方が全くの正反対といっても過言じゃないからね。魔魔ママ候補としては、おすすめしないかな~」


 その解説を聞いたパジュは、真剣な顔でコクリと頷いた。


「……ん。なら、睾丸投げ選手、だめ」


「…………」


………ねぇんだよ、そもそもそんな競技はよぉ!!!!

あんのか!? モモック星には、睾丸リンピックがあんのか!? 四年に一度、睾丸の猛者が集まんのかぁ!?!?


 ラジの脳裏に、ムキムキの屈強な漢たちが、ウォーミングアップで肩を回している光景が浮かぶ。


 その時、ミルクが場を制するように「ゴホンッ」と咳払いを一つ。


「睾丸リンピック選手の話は、そろそろ……。パジュ様、本題を」


「…………」


……あ、あるんだ、本当に。


 盛り付け業務を終えたラジは、ドカッとまた先ほどの席に座る。


「……はぁ、とにかく俺はお前の腕のガソリンになるつもりはない。そもそも人間に、ましてや俺に漫画みたいな特殊能力なんかねぇんだよ。分かったならさっさと帰れ。そのモモック星だかなんとかに」


「ない! 帰るは、ない。わーは、お前を絶対にわーの魔魔にする。第二候補、決めた。第三候補、いない」


 ラジの顔に「はぁ?」とハテナの絵文字が浮かんだ時、紅茶を堪能していたミルクが、渋い声でゆっくりと話し出す。


「モモック星において、病を治す医者は貴族と同等の権威でございます。ましてや、その中でも魔魔を診れる医者は、別格。神の化身と呼ばれ、そのお言葉通り、深き英知と類いまれな精神により、神から選ばれし者と信じられております」


「……ん。修二、日本の魔魔の病気、治してた。神の化身。わー、修二がほしい、だから申し込んだ」


 ドンッ!!!!!


 神聖な会話を断ち切るように、テーブルの中央に置かれたのは、昨日の残りの『肉じゃが』の大皿。


「だから言ったんだよ、『僕は忙しいから、息子のラジにしなよ』ってね! ハハハ。あ、昨日の残りも食べてね」


 笑顔で修二がそう話すと、またくるっとキッチンの方を向き、本日のメインであるハンバーグを盛り付ける。


「……………………」


…………こんのぉクソ親父ィィィィ!!!!


 ラジの脳内で、堪忍袋の緒がブチブチと音を立てて千切れ荒れる。


宇宙人を拾ってきたと思ったら、速攻で息子に貧乏神なすりつけてきてんじゃねぇよ!!!

そもそもあいつが診てたのは、『日本の魔魔』でもなんでもねぇ!! 近所の超絶可愛い柴犬・フー助ちゃんだろうが!!!


「……おい、あとで顕微鏡のレンズ、全部マヨネーズ塗っとくからな」


「あはは、マヨネーズの刑は、小学校5年生以来かな! 後で隠しておかないとね」


 ラジがマヨネーズから、重罪レベル10の『バターの刑』へと罪状を切り替えた、その時。

 二人のやり取りをジッと見ていたパジュが、唐突に口を開いた。


「修二。わーは、今日からぬしを『パパン』と呼ぶ。モモック星の敬愛する父、師という意味をもつ言葉だ。よろしくおねげします」


「パパン殿、本日から宜しくお願い申し上げます。このご厚意、モモック星を代表して感謝致しますぞ」


「…………」


………フン、何が敬愛する父『パパン』だ。

今目の前で、息子にミジンコ以下の野糞認定されてんだぞ。とりあえず、俺がこの貴族風脳筋バカコンビをさっさと追い出して――。


 ラジの思考がピタリと止まる。


……って、待て。今『本日から宜しく』って言ってなかったか?


 恐る恐る修二の方へ体を向けると、彼はテーブルに各自のハンバーグプレートを並べながら、事も無げに言った。


「あ、ラジ。パジュちゃんの荷物、さっき2階の空き部屋に運び込んでおいたから」


「…………」


「さあ、パジュちゃん、そしてミルクさんも早速『いただきます』しましょうか。ハンバーグは熱いうちに食べなきゃだからね~」


「…………」


…………は?


 出来立てほやほや、アッツアツのハンバーグに目を輝かせるパジュ。その首元に、サッと真っ白なナプキンをかけるミルク。


 そして、レースのついた『ラブリーおエプロン』をなびかせながら、修二がいつも通り、炊飯器の横で振り返る。


「ラジ、何盛り?」


「あぁ、普通盛りで」


「……って、なに日常始めちゃってんだよ!!! 宇宙人に、家も俺の人生も侵略されかかってんだぞ!! ハンバーグごときで、ワ~イOK☆ってなるか! ボケ!!!!」


 ラジの絶叫をBGMに。修二は、モリモリ山盛りご飯をコトッと置くと、流れるように席につき、ハンバーグを口に運んだ。


「ングング。ああ、それなら大丈夫。家賃代わりに腕を研究させてくれるっていう約束だから! いやあパジュちゃんの腕、すごいんだよ? 伸縮速度が音速に近いんだ。これを研究できれば、獣医学界に革命が起きるよ」


「パパン! この『はんばーぐ』、もう1個食べる。いいのことか?」


「はい、どうぞ。あ、食べた後は心拍数も測らせてね(ニコニコ)」


「ラジ殿、よろしければこの『でみぐらす』というソースのレシピを拝借できますか? パジュ様のお口に合うようで、これはモモック星に持って帰らなければと」


「…………」


…………終わった。

『奇人×脳筋×エレガンス命』の最悪フォーメーションが爆誕してやがる……。

(しかも、ご飯……アルプス山脈級のモッリモリじゃねぇか……)


……神様、もし本当にあんたがいるんなら、今すぐあいつらの頭上に雷でも隕石でも何でもいいから落としてくれ。

いや、もういっそ鳥のフンとかでもいい! テンション下がるなんかを速攻落としやがれ!


「ングング、ラジ、どぅひた? 元気がないなら、わーがモモック星の特急ギャグ3連発でも披露するか?」


 自信満々といった感じで、パジュが勢い良くガタッと立ち上がった。


「……いや、だいじょ――」


「コマネチング・ロング・モングゥゥゥゥゥ! からのラッセンがスリスリ~! そして最後にチクショッキング~!!!」


 パジュが某・白塗り芸人〇梅太夫を彷彿とさせる、全力の切れ顔をキメる。


 ヒュウ~…………


(冷ややかな突風の音)


「……………………」


……神様。

テンションが下がるなんかを落としてくれとは言ったが、正解は多分これじゃねぇ。


 完全に黒瀬家の主導権(?)を握られたラジは、深く、深くため息をつくと。冷めかけたハンバーグと、目の前にそびえ立つ白米のアルプスを、無言で崩し始めた。


「…………」


……まぁいい、ここは一旦引くのが得策だ。


 ラジは自分に言い聞かせるように、ハンバーグを口へ運ぶ。


……パジュとかいうあの女は、親父のただの研究材料。俺は関わらなければいいだけの話だ。

親戚の国宝級クソ! パワータイプクソ! マッチョガキ! クソ! が遊びに来たと思えばいい。


 ラジの脳内に湧き上がる感情を、平和な夕食と共に胃のへ一気に流し込んだ。


 そして「何も見えてない」「何も起きてない」。そう顔に書いてあるような『虚無の真顔』で、空になった食器を流しに置く。


「食器、食い終わったら流し台な。後で洗うから」


 ちょうど修二に聞こえるような声量でボソッと言い放つと。背後の『イカれフォーメーション』の笑い声には目もくれず、ラジはサッサと無言で二階へと去っていった。


 ***


 それから、2時間後。


 皿洗いやら学校の課題を終え、シャワーを浴びたラジは、自室のベッドへ倒れ込んだ。


「…………」


……ふぅ、やっと終わった……。


 そう安堵あんどして目を閉じた、その時だ。

 隣の部屋から、キャッキャと楽しげな声が壁を突き抜けてきた。


「パパン! いくら家が狭いとはいえ、わーをハト小屋に案内とは……ひどいぞ……!」


「ハハハ。これでも、ラジの部屋よりは広いんだよ」


「…………」


……俺はこの17年間、てめぇのハト小屋以下の部屋に住んでんだよ! あ~快適! 快適!!!!


 ラジは現実と音を遮断するように、布団を頭までバサッ! と被った。


 明日になれば、全部夢になっている。そう信じて目を閉じた彼の期待は、翌朝、けたたましい破壊音と共に打ち砕かれることになる。


 あの『片腕世紀末女』が、ラジの高校生活を――。

 文字通り『物理的』に粉砕しに来ることを、この時の彼はまだ知らない。


(※ちなみにこの後、不安になりすぎて深夜3時までスマホで『宇宙人 追い出し方』などを検索したラジであった)





最後までお読みいただき、ありがとうございました!


パジュの衝撃の提案……もとい、奇人変人フォーメーションから繰り出される脅迫(?)はいかがだったでしょうか。

ちなみに四年に一度の『モモック星:睾丸リンピック』は、来年開催予定だそうです。


次回、本日最後の更新となる第3話は【本日 19:00】に投稿予定です!

世紀末な女子高生宇宙人・パジュが、ついにラジの学校へ……!?


もし少しでも「笑った!」「睾丸リンピック観戦を希望したい」「モモ辞苑がほしい」と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】をポチッと押して評価していただけると、執筆の、そしてパジュのハト小屋拡張のための最大の活力になります!

ブックマークもぜひ、よろしくお願いいたします!

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