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【悲報】黒瀬家に『ダンプカーひとひねり片腕世紀末女』がブチ落ちてきた

はじめまして、苑吏よかと申します。

本日から『パジュ魔魔!』の連載をスタートいたします!

少しでもクスッと笑っていただけたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします!

 世の中には、『拾っていいもの』と『悪いもの』がある。


 道端に落ちている十円玉は、まぁいい。正味、一万円くらいなら、まだ情状酌量の余地がある。捨て猫だって、うちが動物病院ということもあって、正直日常茶飯事だ。


 だが――あれは違う。あれだけは、絶対に拾っちゃダメだ。


 ***


「……ただいま」


 ウィン――。


 学校帰り、真っ暗な道に光る看板『黒瀬動物病院』の自動ドアをくぐった少年――黒瀬ラジは、人生初の光景に体が硬直した。


 待合室の長椅子。そこにはいつもの常連である柴犬のフー助も、肥満気味な三毛猫のゴマもいなかった。


 代わりに座っていたのは、あまりにも場違いな二人組。


 一人は、白髪のオールバックに燕尾服えんびふくを完璧に着こなした、絵に描いたような老紳士。毛一本の乱れもなく、背筋をピンッと伸ばして座っている。


 そしてもう一人は、豪奢なレースを身にまとった、フランス人形のように整った顔立ちの美少女。


 瞬きのたびに音がしそうなほど長い睫毛まつげに、意志の強そうな猫目。淡いブロンドにピンクが溶け込んだグラデーションヘアは、まるで綿菓子のようにふわふわと腰まで届いている。その頭上には、プクンと大きなお団子が二つ、可愛らしくまとめられていた。


 それだけなら、「コスプレの撮影帰りか?」で済んだかもしれない。だが、その少女の右腕は、完全におかしかった。


 大事なことなので、もう一度言う。


 完全におかしかった。


 ドゥクン、ドゥクン、プシィ……! プシィ……!


 さも当たり前かのように「スン」とすましているが――華奢きゃしゃな左腕とは裏腹に、右腕だけ重機のようにパンッパン、ブッチブチに膨れ上がっている。


 地を這うような「ゴゴゴゴゴ」というオーラすら見え、極太の血管はドゥクドゥクと波打ち、あろうことか「シュワ~」と不気味な蒸気まで噴き出していた。


 ワンピースの右袖は無惨にもビリビリに裂け、そこだけ人類最終決戦の真っ只中。


 その右肩から先は、もはや「作画崩壊」なんてレベルでは済まされない。某世紀末漫画を彷彿ほうふつとさせる、完全なる『劇画右腕』だ。


 その右腕一本の質量に耐えかね、鉄製の長椅子はミシミシと悲鳴を上げ、今にも『ひでぶ』寸前だった。


「…………」


 ラジは、待合室で起きている惨状さんじょうをコンマ数秒で脳内処理。スッと瞳から生気を消し去ると、無言のまま、静かに足を3歩、外へと戻した。


 ウィン――。


 自動ドアが閉まり、強制的に遮断される『世紀末・オブ・圧倒的世紀末』。夏の虫の声がジジジジと響き、穏やかな夜風が頬を撫でる。


 ラジは肺一杯に日常の空気を吸い込み、網膜に焼き付いた『肉弾戦の国家代表女』と『エレガンスの申し子爺』の残像を、脳内キーボード高速連打で速攻delete(消去)する。


「フゥ……、もう夏か……」


 頭上に輝く『黒瀬動物病院』という見慣れた看板を見上げ、聖母のような慈愛じあいに満ちた微笑みで、指差し確認を行う。


(よし。……さぁ、さっさと晩飯でも食って、サッカー見て、寝るか)


 ラジは深く頷くと、何事もなかったかのように、再び自動ドアのスイッチを踏んだ。


 ウィン――。


「…………」


 状況は、1ミリも変わってなかった。


 そこには――『ダンプカーひとひねり片腕世紀末女』と、『身だしなみパーフェクトヒューマン(爺さんver)』が鎮座している。


 二人は、やはりさも当たり前かのように前だけを見つめ、診察の順番を待っていた。


「おや、もしかして、ご子息様のお帰りですかな?」


 自動ドアの前で棒立ち、改め『絶望立ち』になっているラジに気付いたのか、老紳士がすくっと立ち上がり、静かに頭を下げた。


「パジュ様、あの方が修二殿のおっしゃっていたご子息様のようです」


「……ん。この男か…………」


 老紳士の声掛けにより、片腕世紀末女――パジュと呼ばれた少女が、きゅるんと潤んだ強気な猫目で、値踏みするようにジトッとラジを睨む。


「…………」


 ラジは、この変態御一行様が何かを発しようとするのを察知し、ご近所さんに挨拶するかのような、『The・礼儀&建前』全開の無愛想さで、ペコリと頭を下げた。


 そして次の瞬間――。


 有無も言わさず猛スピードで受付を通り過ぎ、マッハの速度で奥の診察室へ。そのままの勢いで、ドアを全力で蹴破った。


「親父ィィィィィィィィッ!!!!」


 診察室の中では、ヨレヨレの白衣を着た黒髪眼鏡の男――ラジの父親である黒瀬修二が、ニコニコしながら顕微鏡を覗き込んでいた。


「ラジ、おかえり。もぉ、声が大きいよ。動物たちが驚くでしょ?」


「驚くのは俺だ!!!!!! なんだよ、あの待合室のバケモンは!!! バッキバキのブッチブチだったぞ!?!? なに勝手に『未確認マッチョ』お招きしちゃってんだよ!!!!」


 ラジの高速まくし立てと剣幕に、修二はやっと顕微鏡から目を離し、眼鏡を指先でクイッと上げる。そして、相変わらずの穏やかな笑顔で言った。


「あぁ、彼らのことかい? 夕方、近くで凄い爆発音がしてね。見に行ったら裏の空き地に落ちてたんだよね。ハハハ」


「……………………」


……この奇人クソ野郎がぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

なに野良犬みたいなノリで世紀末生物、拾ってきてんだよ!!!! 明らかに人類の範疇を超えてんだろうが!

あんなのに襲いかかられたら、ベッキベキ、ボッキボキ、ブッキブキのへっしゃへしゃだ、ボケェェェ!!!!


 ラジの瞳に静かなる怒りの炎がブワッと燃え上がる。対照的に修二は、『スーパーで醬油が10円安く買えたよ』くらいの、どうでもいいテンションでタラタラと話し続けた。


「それでね、女の子の方が右腕にすごい炎症(?)を起こしてたからね、獣医としてほっとけないでしょ」


「…………いや、まぁそりゃそうだけど……。って、あれのどこをどう見たら炎症なんだよ! 普通に国家滅ぼすレベルの『健康ゴリゴリ・ホッカホカマッチョ』だろうが!」


「いやあ、面白いんだよラジ。彼女、自分の意思で細胞の密度を変えられるみたいでね。しかもモモック星とかいうところの第四王女らしいよ。ハハハ」


 修二は軽く笑うと、再び顕微鏡へと視線を戻し、独り言のようにゆっくりと口を開いた。


「――まぁ、それは置いといて。今日のサッカー、ちゃんと録画予約しといてくれた?」


「ハハハじゃねぇんだよ!!!」


 ラジの怒りボルテージが、静かに、かつ確実に上昇していく。


「こちとらこんな状況で、優雅に球の観戦してられるほど、肝っ玉息子じゃねぇんだわ! さっさと…………警察、いやどこだ、JAXAか!? NASAか!? なんか宇宙系の、未確認生物系の、どこぞのお偉い『英単語・4文字機関』に突き出しやがれ!!!!!」


 ビッキ! ボッキ!! ビキビキビキィィィィィ!!!!!


 ラジの怒号に被さるかのように、診察室に何かの激しい粉砕音が響き渡る。背後から聞こえるただならぬ気配に、ラジはバッと振り返った。


 そこには――。


 診察室のドアには四方八方の特大ヒビが入り、本来あるはずの「引き戸」や「押し戸」といった概念をぶっ壊す、『ひねり上げ戸』となって、何かが侵入してきていた。


「…………わー、すんごい待った。診察の順番、おねげします」


 右肩から下が『超合金の塊』と化した、身長150cmほどの少女が、トテトテと診察室に入ってくる。


 彼女はラジの横を通り過ぎると、診察台の前に置かれた飼い主用の丸椅子に、ちょっこりと座った。そしてその後ろに、さっきの老紳士がスッと立つ。


 見慣れた診察室が、一瞬にして異様な圧迫感に包まれる。ラジは本能的な『生命の危機』を感じ取り、喉を「ッゴク」と鳴らした。対する修二は、キャスター付きの椅子を「シャッ」と軽快にスライドさせ、のうのうと片腕世紀末女の真正面に陣取った。


「よし、どれどれっと。あ、ミルクさんも立ってないで、座ってください~」


「…………修二殿、お気遣い感謝いたします」


 ミルクと呼ばれたその老紳士は、重厚かつ凛々しい口調で軽く会釈をして、パジュの右側――つまり、あの『劇画右腕』がある側に、ちょっこりと座った。


「…………」


…………何だ、この状況? こいつら本当に診察待ちだったってことか……?

確かに、敵意は無さそうだけども。 ってか、あの人、すっげぇ狭そう…………。


 ラジが、ミルクの『物理的な使用可能空間』への心配を募らせる中、修二の指示により、パジュは「ん」と短く唸り、ドンッと診察台に右腕を乗せた。


 ブゥゥゥゥン――――――!!!


 その瞬間。まるで『ゾウの足』を鼻先で振りかぶられたような凄まじい風圧に、ラジと修二の髪は、ぶわっと一瞬にして『強制オールバック』へ。


「……………………」


……この世紀末女め。なに勝手に黒瀬ファミリーを『サイヤ人風』にしちゃってくれてんだよ!!!


ってか、隣のミルクさん危なかっただろうが! 『スン』とした顔されてるけど、絶対に今、内心心臓ドッキドキだからな!?!?


 ラジが心の中で絶叫する横で、老紳士は優雅にハンカチで頬のすすを拭い去る。


 そして、次に起こる予期せぬ『爆発』や『暴走』に備えるため、全ての元凶であるパジュをギッとにらみつけた。


「……んッ、…………ふぅー、ふぅー……」


 腕のかすり傷に消毒液がしみるのか、パジュは顔をポワッと赤く染め、小さな口をすぼめて、傷口に一生懸命息を吹きかけている。


「…………」


………………『炎症』って、この怪我のことか。


 ラジは、「ふぅ」と短く息を吐くと、診察台の数歩後ろにあるパイプ椅子を引き寄せた。ドカッと腰を下ろし、膝にひじをつく。


 そして、どこか呆れたような、それでいて観察するような眼差しで、ジッとその治療風景を見届け始めた。


 ***


 ペチンッ。


 修二が、パジュの腕の最後の傷跡に絆創膏を貼り終える。


「はい、これでお終いっと。パジュちゃん、次、地球に着陸するときは、もっと気を付けないとダメだよ?」


「…………ん。宇宙船の操縦、結構難しかった。……次からは、シートベルト、ちゃんとする」


「…………」


…………無視だ、無視。こいつらの会話はスルーするんだ。


 ラジは虚空を見つめ、心を『無』にした。


「宇宙船」だの「着陸」だの、こいつらの異常性をいちいちチェックしてたら、こっちの精神が削られる。


今はとにかく、さっさと治療を終わらせて、元のお国――いや、お星に帰ってもらうことが最優先だ。とりあえず穏便に、かつ丁重に、帰還を促すのみ!!!


 ラジが必死に自分への言い聞かせを行っている横で、治療を終えた修二は「いやぁ、それにしても立派な腕だ! どれどれ~」と、楽しそうに聴診器をその『劇画右腕』に当て、ノートに何かをメモしている。


 一方、消毒の痛みから解放されたパジュは、夢中で研究している修二をチラリと見て、その後――右奥にいるラジの方へ、ゆっくりと視線を動かした。


 バチッ。


 二人の視線が、真正面から交差する。


「…………お前が、ラジ」


「……何で俺の名前知ってんだよ」


「修二から、聞いた」


 パジュは、にゅっと口先を尖らせ、右腕に夢中で周りが見えていない白衣の男を指さす。


「この修二という男、物凄いオトコ。その息子、ラジ。相当な力、ある。今すぐ、わーに見せてみろ」


「…………はぁ? 何をだよ」


……緊張してんのか? 随分とたどたどしい感じだな。

子供みてぇっていうか、外国人……いや、外星人か。


 ラジが眉をひそめると、パジュは真剣な眼差しで淡々と話す。


「日本人、誰でもできる。あの光の弾…………」


 パジュは左手をサッと突き出すと、『さぁ、試し撃ちしてみろ』と言わんばかりに、人差し指をチョイチョイと動かして挑発した。


「『かめはめ波』、わーに撃ってみろ」


「…………」


 ラジは『無』の境地に達した顔で、ゆっくりと立ち上がった。そして、机の上の診察ノートを手に取ると、事務的な口調で静かに告げた。


「親父。この患者、筋肉の前に、脳の検査したほうがいいぞ。地球外生物初の『アース級・中二病』を患ってらっしゃる」


「……アース・ギュ・チュニビョ? ……………………その技、知らん」


 初めて聞く単語なのか、パジュは残念そうに首をブンブンと振った。


「…………」


「でも、わーは『漫☆聖書』で見た! 日本人という民族、分身したり……えっと、えっと、空飛んだり…………、手からビーム出したり、する! 日本人、強い!! 戦闘種族!!!!」


「…………………なんだその『つのだ☆ひろ』みたいな聖書は。聖書じゃなくて、ただの漫画だろうが。いいか、よく聞け。フィクションだ、漫画は全部フィクションなんだよ!!」


 すると、パジュはハッとして、絶望したように目を見開いた。


「…………『フィクションダ・マンガハ・ゼンブ・フィクション・ナンダヨ』……?」


「あぁ、そうだ。フィクショ――」


「…………その技も、知らん…………」


 自分の知らない技が次々に出てきて、漫☆聖書オタクのプライドがズタズタに引き裂かれたのか。パジュは「ガクッ」と悲しそうにうなだれて、首をブンブンと振った。


「……………………」


 ラジの瞳から、フッと「希望」という名の光が消えた、その瞬間。


「皆様、お紅茶の用意が出来ました。こちらへどうぞ」


 いつの間にか姿を消していたミルクの、渋く通る良い声が響いた。どうやら、診察室奥のリビングでティータイムの準備を整えたらしい。


「よし、じゃあ、みんな行こうか」


「……ん」


 ひらりと立ち上がる修二の後を、さも当たり前かのように、トコトコとついて行くパジュ。


「…………」


…………あ~、リビングね、リビングにあげちゃう感じね……。


 宇宙人の不法侵入って、NASAの管轄かな…………ははは……。そんなことを考えながら、ラジは死んだ魚のような瞳で、トボトボとリビングへ向かう。


 これから始まるのは、地獄の『エレガンス世紀末ティータイム』。


 この「片腕世紀末女」の襲来により、黒瀬ラジの平穏な生活が、ベッキベキ、ボッキボキ、ブッキブキのヘッシャヘシャに破壊される音が、高らかに聞こえた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


初日ということで、この後【18:10】に第2話、【19:00】に第3話を連続で投稿いたします!


もし「面白かった!」「パジュの右腕に殴られたい」「ラジを温かいその腕で抱きしめてあげたい」と少しでも思っていただけましたら、ページ一番下にある【☆☆☆☆☆】をポチッと押して評価していただけると、毎日の執筆とパジュの右腕のパンプアップの最大の励みになります!

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それでは、すぐ後の第2話でお会いしましょう!

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