【なんのこれしきドン〇西ィィ!燃え上がれ、俺の競歩魂】テクニカル膝下ステップで極秘ミッションをクリアせよ☆
前回のあらすじ:ラジの通う高校に、ついに集結したモモック星のファオリオ兄妹。
ドタバタながらもなんとか平穏を取り繕う日常の影で、ナルシネスの瞳には何やら意味深な光が……。
それぞれの思いを胸に迎えた、週末の朝。
なんとパジュの口から、不穏すぎる爆弾発言が飛び出す!?
「待ち合わせ、してる」
――まさかの、ラジ以外の『誰か』との密会疑惑発覚……!!?
黒瀬家の名誉を守るため、己に緊急ミッションを課したラジ!
果たして彼は、明日の三面記事を免れることができるのか!? そして、パジュの隠されたお熱い目的とは……!?
波乱とシャカシャカの第18話、スタートです!
「ラジィ! ラジィ! ラジィィィィィ!!」
グワン、グワン、グラグラグラッ!!
脳みそを直接シェイクされるような大波の揺れ。その容赦のない満ち引きにより、ラジの意識は眠りの底から強制的に引きずり上げられた。
「………………ッン」
窓から差し込む光で白くぼやけた視界の先――。
重い瞼を開けたそこには、ベッド脇で膝立ちになったパジュの姿が。両腕に全体重を乗せ、老舗うどん屋の大将顔負けの『こね』で、「コシが命」と言わんばかりにラジを激しく揺さぶっていた。
「……朝っぱらからなんだよ、今日は学校休みだろ。もう少し寝る……」
二度寝の誘惑に引っ張られながら、小さい声でそう抗議を漏らすと、ラジはパジュに背中を向けて再び布団の中へ。
流れるように右手で掛け布団を引っ張り上げた、まさにその時――。
「…………ラジィ、駅まで連れてって」
予想だにしなかった単語とあまりに的確な要請に、閉じていた瞳のシャッターがガシャッと勢いよく開く。そのまま、寝癖でボサボサの頭をやんわりとかきながら、むくりと上半身を起こした。
気だるげに目をこすりながら、ベッド脇のパジュを見下ろす。
「…………駅?」
「ん。えき」
「……なんか買いたいもんでもあんの?」
「………………」
「だったら後で一緒に行ってやるから、もう少しあと――」
「待ち合わせ、してる」
ラジの『これで一件落着だろ? はい、二度寝するよ~! あなたも二度寝! 君も二度寝! わ~い!』提案に覆いかぶさるように、パジュの淡々とした予想外なフレーズが乗っかる。
「…………」
……待ち合わせ? パジュが?
これまた予想外の返答に、彼の視線は一瞬、右上を彷徨う。
――その数秒後。まだ半分眠っている脳内検索エンジンが、とある記憶をヒットさせたらしい。
「あぁ」と合点がいった様子のラジは、リラックスしたように首や腕を伸ばして軽くストレッチをしながら、のんびりと口を開いた。
「花臣とピ川だろ?」
……そういや昨日の放課後、どこどこ集合とか話してたな。あれか。
「……………………人と、会う」
パジュは明後日の方向を見つめながら、これまた分かりやすく、尖らせた口先を左右にもじもじと動かしている。おまけに、シーツへちょっこり置かれた指先までが、緊急事態だとでも言わんばかりにパタパタと不規則に踊っていた。
「…………人? 花臣とピ川じゃなくて?」
「ん。ひと」
肯定とも否定とも捉えられる、全人類の誰と待ち合わせしても言い逃れできる、浮気する気満々な『色付きサングラス・襟足遊ばせ男』の模範解答のような返答。
淡々とした言葉と表情のわりに、慌ただしく動く指先と瞳。ラジはストレッチをする自然な流れでその矛盾をスッと視界に捉えると、状況をやんわりと推測する。
「…………」
……言いたくない、言えないって感じだな。
「何時にどこ? ミルクさんとナルシネスは? ……ってか、親父は下にいんのか?」
ラジは現状把握の質問を矢継ぎ早に投げかけながら、気だるそうにベッドから立ち上がる。そんな彼の一挙手一投足を、パジュはベッド脇に座ったまま、ジーッと目で追っていた。
いつものようにカーテンを開け、着ていたTシャツの裾に手をかけた、その瞬間。
ピタッ。
ラジの動きが完全に止まる。そして、シャツを半分捲り上げかけた中途半端な体勢のまま、ゆっくりと首をそちらへ向けた。
ただ、ずっと左斜め後ろに座っているパジュへと、照れ隠しのような少し困った顔でボソッとこぼす。
「………………着替えんだよ。出て行けよな」
「ん、だいじょび」
「何が大丈夫だ、ほら、さっさとしろよ」
「背中くらい、たいじょび。この前お風呂覗いた時、ラジのおしり見た。桃だった」
「………………」
静かな早朝の部屋に「フゥゥゥゥゥゥ…………」と、魂が抜けるような深いため息が響く。 その音と同時に、ラジの目から生気がスッと消滅した。
「…………モモック星では、他人の風呂を覗くのは合法か? 他人の尻見ても無罪放免か?」
「いや、捕まる。おしり、勝手に見たら、だめ。絶対」
……じゃあ、見んなよ!!!!
ゴゴゴゴゴ……と地を這うような静かな怒りを必死に押し殺し、ラジは顎をクイッとドアの方へ動かす。無言の「出て行け」だ。
その圧力をなんとなく感じ取ったのか、パジュは不思議そうな顔で立ち上がると、トテトテとドアの方へ歩き出す。そしてドアノブに手をかけ、部屋を出る間際に、くるっとラジの方へ振り返った。
「心配するな、良いおしりだったぞ。戦闘民族のような」
パジュは淡々とそう言い残すと、タッタッタと軽快に階段を降りていく。
「………………」
……そうか、良い尻だったのか。
――じゃねぇんだよ!!!!!!!!
こちとら尻コンディションは、一ミリも心配してねぇんだわ!!?!?!
ってか、なに勝手に男子高校生の貴重な生尻見てんだよ! 覗くな! 見んな!! 感想を述べるなぁ!!!!!!
あとなんだ、「戦闘民族のような尻」って! 俺の尻は、そんなバッキバキのガッチガチじゃねぇ!!
そもそも朝っぱらから、人体部位『お尻様』に想いを馳せさせんな!!!!
「ラジィ、もう出るか?」
彼の脳内で『ムッキムキ戦闘民族の尻』が大量再生される中、一階から聞こえてきたパジュの静かなる催促。寝起きの人間を微塵も顧みないタイムリミットに、ラジは無理やり思考を切り替える。
「……今行く」
そう短くぼやくと、Tシャツをバサッと脱ぎ捨て、速攻で準備へと取り掛かった。
***
土曜日の早朝八時に駅前という、浮かれたお出かけなのか、緊急招集なのか、正体不明の待ち合わせのため、慌ただしく家を出た二人。
パジュが指定した場所である、この街の主要駅へと向かう道中。道路脇の住宅の塀をタッチしながら、トテトテとご機嫌に歩く彼女の背中を見つめ、ラジは黙々と思考を巡らせていた。
「………………」
……服は、この前親父が大量に頼んでた通販のワンピース。
オシャレしてお出かけ、ってわけでもないか……。
……かと言って、普段着にしてる俺のお下がりってわけでもないし。
ラジの視線の先でふわりと揺れる、淡い黄色のチェック柄ワンピース。軽やかに進む足元には小さな白いサンダル。そして肩にかけたポシェットが、まるで子犬の尻尾のように、左右にパタパタと遊んでいる。
特別なお出かけか、もしくは単なる用事か。その微妙なラインの恰好と『待ち合わせ』という単語。結びつかない点と点への違和感を再確認するよう、ラジは二、三歩、大股で歩き、パジュの右横に並ぶ。
そして、いつも通りの温度でポケットに両手を突っ込んだまま、上半身をグイッとかがめてパジュの顔を覗き込んだ。
「んで、俺は駅まで送って、そのまま帰ればいいわけ?」
「……ん」
「帰りはどうすんの? パジュ、お前、道分かんねぇじゃん」
「……送って、もらう。その人に」
パジュは、覗き込んでくるラジからプイッと顔を背けるように視線を斜め下へ外し、『前からそこの造りが気になってたんですよ~!』とでも言わんばかりに、何の変哲もない住宅の塀を凝視する。
そしていつも以上に口先を尖らせ、頬に大きく『動揺』と書かれた真顔のまま、淡々と足を進める。
「「…………」」
その頑なな意志と、小さな拳に込められた緊張を見やり、ラジは「ふぅん」と息を吐く。
「……了解」
彼は短くそう答えると、パジュの視界を遮らないようスッと上体を戻す。そして、隣を歩く彼女のこわばりを解いてあげるように歩幅を緩め、少し後ろから黙って駅へと付き添った。
***
「今日勝ったら、次どことだったっけ?」
「次は多分、北高じゃない?」
「いや~この歳になると膝が痛くてね~、登山なんか大丈夫かしら」
「なぁに言ってんのよ、森さんまだ若いわよ~」
週末の朝。駅前のロータリーは、平日のような張り詰めた緊張感から解放され、これから始まる今日への期待とまばゆいほどの活気に満ち溢れていた。
そこには戦闘服に身を包んだ会社員の姿はなく、代わりに目につくのは、ジャージ姿の部活生や、お出かけ前の家族連れ、そしてのんびりと歩く老人たち。
ケタケタと響く学生たちの楽しげな笑い声に、バスの排気音がプシューと気だるげに重なり、穏やかな休日の空気が、駅前一帯をふんわりと包み込んでいく。
そんな温かくも柔らかい雑踏の中――パジュの足が、唐突にピタッと止まった。
「……ここまでで、だいじょび」
パジュは真顔のままくるりと振り返ると、三歩後ろを歩いていたラジに向けて、右手を真っ直ぐ突き出した。
その小さな掌をビシッと彼の胸元に向け、これ以上の進行を『言葉』と『物理』の側面から完全にストップさせる。
「……ここ、ね」
そこは、本来の待ち合わせ先である駅前階段、もとい『二階改札へと続く大階段の前』からは、まだずいぶん距離のあるロータリー広場だった。
寝起きから道中、そして今の今まで、一貫して揺るがない彼女の瞳。
それを見たラジは、お役目終了といったいつも通りの無表情で「じゃあ」と軽く手をあげる。そしてサラリと背を向けると、また来た方向へと歩き出した。
パジュは遠ざかるその背中を、淡々とかつ監視するようにジィーッと見つめ、彼が人混みの中に小さく消えていくのを静かに見届ける。
雑踏に紛れて完全にその姿が見えなくなると、また何事もなかったようにくるっと前を向き、そのまま待ち合わせ場所である駅前の階段へと向かっていった。
ラジはそのまま家に帰った――と思いきや。
さて、その問題の彼は今、どこにいるのか? そうです、そうです。彼は、帰っちゃいません。
なんせ相手は、コーヒーの苦さに驚いて変異する『破壊力MAX・おっちょこ宇宙人』だ。ましてや『待ち合わせ』などという、数週間前に宇宙カプセルで地球にぶっこんできた奴に似つかわしくないお浮かれ単語をチラ見せされては、何を安心してのうのうと家になんぞ帰っていられようか。
彼には、速報ニュースや明日の三面記事から黒瀬の名誉を守り抜き、昼のワイドショーで『坂〇忍』さんに「モモハラだよね~? これ!」と糾弾される未来を防ぐため、全身全霊でパジュを無事家に帰還させる使命があるのだ。
ゆえにラジが帰宅せず、パジュを見張ることは火を見るよりも明らかであり、ごく自然の摂理といえよう。
では、少し時間を巻き戻して――ここからはラジの視点でどうぞ。
――キュルキュルキュルルルッ!
「じゃあ」
軽く手をあげ、来た方向へと足を進めるラジ。二歩、三歩、十歩、二十五歩、五十歩と別れ際と同じ歩幅、速度で淡々と前へ進む。
「………………」
……目の前に噴水広場か。
となると、大体ここら辺で俺の後ろ姿は、見えづらくなってくるはず……。
彼の視線が左肩越しに、元居た場所――もとい、パジュと別れた方向を軽く捉える。
そこを行き交う人々の輪郭が、ぼんやりとしか見えない距離感。ラジの予想通り、どこぞの『視力特化型・ガチンコ槍部族』でもない限り、人混みの中で彼をはっきりと捉え続けることは難しいだろう。
「…………」
よしよしよし……これで一定の距離は稼げた。
あいつらとの生活で、モモック星人の視力が人間並みってことは実証済みだ。
現にナルシネスなんかこの前、「夕方になると目がかすむなぁ」とか宇宙人初の中年戦士みたいなセリフをほざきながら、お持ち帰り残業(稟議書作成)してたしな。
あとはこのぼんやり見える俺の背中を、パジュの視界から自然に見失わせつつ、かつ、あいつを至近距離で見張るための隠れ蓑がひつ――。
表向きは淡々と歩くラジの脳内に、数十歩前に過ぎ去った「ある物」がパッと浮かび上がる。
そう、彼の身体をすっぽりと隠し、相手からは見えずとも、こちらはパジュをしっかりと視認できる完璧な代物。
駅前にそびえ立つ、地域愛の爆弾にして皆様の情報網――『掲示板』である。
「………………」
……これだっ!!!!!!!!
その画期的な閃きを、報道の神が後押しするかのごとく。絶妙なタイミングでスクランブル交差点の信号が赤に変わり、彼に最高の足止めを与えた。
瞬間的に開かれるラジの脳内マップ。
まず大まかな作戦はこうだ。本来、ここから自宅へ帰るには、目の前のスクランブル交差点を真っ直ぐ突き進み、噴水広場を通り抜けていくルートとなる。
しかし真の目標は、自宅ではなく、愛の情報網こと『駅前の掲示板』。
となれば、ここを直進せずに左折して小道へ入り、駅横のビルの外周をぐるっと大回りして、死角から駅前の掲示板へとスライディングしなければならない。
「…………」
信号待ちというごく平凡な日常を背景に、ラジの脳内は5Gならぬ『82G』の超速度で、目標地点までの最適解を導き出していく。
その処理工程と連動するように自然と腕が組まれ――完成したパズルに、ひとつ致命的なピースが欠けていることに気付いたのか。不意に右手がスッと口元へと運ばれる。
「………………」
……あの掲示板に行くとなると、この信号を渡らずに、このまま左折。
人混みに紛れて、左手に曲がればいけるか……?
……いや、冷静に考えろ。
鉄板を練り消し感覚でひねり潰す肉弾戦の使者こと、あの『カタコト油断させ・ムキビキ宇宙人』だぞ?
視界がぼんやりしていようがなんだろうが、ある程度は確認できるこの距離で、俺を見張っていないはずがない。
それに、多少人はいるにしたってこの時間だ。姿を隠すにはまばらすぎる。
流石に、あいつだって今来たこの道を覚えてないってことはねぇだろうし……。
……クソッ! どうにかして次の青信号で、上手く左折しねぇと!!!
現在時刻は七時四十五分。
目的地である愛の情報網『掲示板』に辿り着くまでに、ラジがクリアすべきミッションは主に二つだ。
【ミッション・ワン:左折の偽装】
背後からの監視をかいくぐり、怪しまれずに左へ曲がる大技――すなわち『ステルス・レフトターン』の成功。
【ミッション・ツー:タイムリミット】
パジュが待ち合わせ人と合流し、どこかへ行ってしまう前にあの掲示板へと到着すること。
さらには、その待ち合わせ相手が八十%以上の確率で日本人だと仮定すれば、『五分前行動』を重んじる恐るべき大和魂を考慮せざるをえない。そこから逆算すると、ラジに残された猶予はあと十分ぽっちしかないのだ。
パジュに悟られぬよう『ステルス・サセツング・ターン』を華麗に決め、ビルの外周を昇天間際のセミのごとく駆けずり回り、死角から『キャプテンラジ』ばりの高速スライディングで掲示板裏へとゴールする。
そう、彼は今、立ちはだかる過酷なミッションをくぐり抜け、『ミッション・ラジ・ポッシブル:ラブインフォーム・ダンジョン編』を十分以内に突破せねばならないのだ。
ラジの脳内にポッシブル系でお馴染みのあのBGMが『デンデンデン~、デンデ、デンデ~♪』と壮大に鳴り響いたと同時に、スクランブル交差点の信号が一斉に青へと切り替わった。
歩き出す人の流れに合わせるよう、彼の足も一歩、二歩と、不本意ながら前進していく。
「…………」
……ックソ、どうにかしてこの信号を渡らずに左折しねぇと!
上手く紛れられる何かが――。
迫り来るタイムリミット、そして容赦なく減っていく青信号の点灯時間に焦る彼の目に、斜め右方向からこちらへと向かってくる集団が映った。
シュッ! シュッ! サッ! サッ!
「…………ッ!!」
……あれは、北高の競歩部!?!
ベリーベリーショートパンツと、シャカシャカ・タンクトップが擦れる音。
そう、ラジの目に飛び込んできたのは、縦二列・横四列にきっちりと並んで前進してくる、北川高校男子競歩部の集団だ。
朝練の最中なのだろうか。素人には到底真似できない『テクニカル膝』を使いこなし、目にも留まらぬ素早い足の動きで、一心不乱にこちらへと向かってくるではないか。
「…………」
これは、チャン――いや、無理だっ!!!!!!
あの方たちに紛れ込むのは、無謀すぎる!!!
競歩部特有の細身なシルエット。ラジのスラリとした体躯なら、あるいは死角に潜り込めるかもしれない。だが、何よりも懸念すべきは、あの集団に完全同化するには、彼の中の『競歩魂(ウォーキング・スピリッツ)』を呼び起こさねばならないことだ。
……いや、いけるか?!?! いくか?!?! いくのか俺!!!?!
ックソ!!!! いけたとして、紛れるならあの『テクニカル膝下・真っ直ぐステップ』は必須!!!
俺の中に眠る、熱き競歩魂ぃぃぃぃ!!!!! 踏み出せぇぇぇぇぇ、俺のゴー・ストレートひざぁぁぁぁぁ!!!!!!
ザッ! ザッ! ザッ! ザッ!
人生初の『ウォーキング・スピリッツ』を緊急招集しようとした高ぶりのせいか。焦りだのなんだので完全に己を見失いつつあるラジの視界に、今度は左斜め前から、地響きを立てて迫り来る屈強な男集団(縦二列・横四列)が飛び込んできた。
業務用の大型冷蔵庫を彷彿とさせる屈強な肩。その上半身は、日々の試練の賜物といわんばかりの凄まじい分厚さだ。
「…………ッ!!」
……よっしゃ、これだっ!!!!!!
あのアメフト部に紛れて――って、アメフト部……じゃねぇ!!!!?!?!?
本場アメフト選手のような強靭なモリモリ上半身を支えているのは、『ランウェイは私のものよ』と言わんばかりの、パリコレモデル級のスリム・オブ・スリムな下半身。
さらには、きっちりと分けられた七三ヘアスタイルに加え、秀才の鋭い目をより一層際立たせる銀フレームのスクエア眼鏡が、異様な光を放っている。
「…………」
……なんだあの『文武両道』から生まれてきた男たちは。
右斜め前から迫るシャカシャカ競歩部。そして左斜め前から迫り来る、強いのか弱いのか全く区別のつかないパワーハーフ集団。
青信号のタイムリミットが刻一刻と迫る中、左右の列がスクランブル交差点の真ん中で一瞬、クロスするように重なり合う。
「………………ッ!!!!!!!!!!!!!」
……今だ!!!!!!!!
走れ!!!!!!!!!!!!!!!
その重なり合い、すれ違う『パワー・シャカシャカ』の行進へと、猛ダッシュで駆け寄るラジ。
疑惑・アメフト部が誇る屈強な上半身。そして、彼らのスリムな下半身の隙間をピタリと埋める、競歩部の『テクニカル膝』から繰り出される華麗なステップ。
二つの列が交差した瞬間、互いの弱点(隙間)を完全に補い合うという奇跡のフォーメーションが組み上がり、上下無敵の完璧な肉の壁――パジュの目を完全に欺く、絶対的な死角が爆誕したのである。
シュシュシュシュシュ!!!
ラジは大真顔のまま物凄い勢いで、その肉の壁――北高が生み出した奇跡のフォーメーションへと一心不乱に駆け込んだ。
このままあの集団に回り込んで、左折したらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
おんどりゃぁぁぁぁぁぁ!!! なんのこれしき、ド〇小西ィィィィ!!!!!!!!
グリンッ!!!!!!!!!
肉の壁を完璧な盾にして、華麗なる『サセツング・ターン』を決めたラジは、そのまま超高速でビル脇の小道へと猛ダッシュする。
『新幹線のぞみ』ならぬ『超特急ラジミ』となって交差点を疾走する中、すれ違いざま、ある通行人の声が彼の耳に届いた。
「ねぇ、ねぇ。あれって北高のそろばん部だよね?! 初めて見た~」
「え~? あ、本当だ。あの肩はそうだわ」
「………………」
……そうか!!!!!
あいつらのあの屈強な肩は、魂を込めたそろばんのひと弾き、ひと弾きがもたらした過酷な試練の賜物……。
雨の日も風の日も室内でただひたすら盤面に向かい、重すぎる珠を弾き続けた『努力の結晶ショルダー』だったのか……!!!
彼の中で長きにわたるアメフト部疑惑が無事に晴れた、その瞬間。
交差点の信号が青点滅から赤へとパッと切り替わると同時に、ラジはどうにかビル脇の小道へと滑り込んだ。
「……ハァ、ハァ、ハァ……」
パジュの監視の目が届かない、ビルの影。焦りと疾走の疲れを、肩で荒く息をしながら吐き出しつつ、ラジは最終目標地点へと繋がる次なるステップへと脳を切り替える。
かくして、【ミッション・ワン:左折の偽装】を北川高校のマイナー部活の皆さまの多大なる協力(?)によりクリアしたラジ。
現在時刻は――七時四十九分。彼に残されたタイムリミットは、残り六分。
目の前には、薄暗い道路脇の小道こと『ダークネス・スモール・コ・ミィーチ』。
「…………」
……あとはこのビルの外周を突っ切って、駅前の掲示板に戻るだけ。
北高の競歩部、そしてそろばん部改め『ショルばん部』。あいつらの奇跡のクロスは絶対に忘れねぇ。
ありがとう、北高。ありがとう、みんな。
Shoulder for all, All for Shoulder、ショルダーはみんなのために、みんなはショルダーのために――。
ラジは覚悟を決めたように拳を握りしめ、その切れ長の目を一層尖らせる。
果たして彼は残された時間でビルの外周を駆け抜け、目標である駅前の掲示板へと見事スライディングを決められるのか。
パジュと愉快な仲間たちの不在をいいことに、名もなきボケの刺客が次々とラジの行く手を阻む『ミッション・ラジ・ポッシブル:ラブインフォーム・ダンジョン編』――怒涛の後半に続く。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
遂にラジによって立ち上げられた『パジュムキムキ対策本部』。
あの案外したたかなパジュの監視を、北高のマイナー部活フォーメーションで逃げ切るとは……ラジもなかなか賢いですね(笑)
次なる壁『ダークネス・スモール・コ・ミィーチ』では一体何が待ち受けているのか。
迫りくるタイムリミット、そして忘れがちな本題である「パジュの待ち合わせ相手」とは、果たして一体誰なのでしょうか……。
ちなみにショルばん部は、『全国高等学校ビジネス計算競技大会』団体戦で三年連続一位に輝いているそうです。
以下、北高ショルばん部のモットーを調査してきました。
ショルばん部・部長の松林くん「ショルばん部のモットーは、『ショルも木から落ちる』『ダーの上にも三年』です。どんな簡単な計算でも、冷静に肩からはじくことを意識しています」
【読者の皆様へ! ラジから切実なお願いです】
「パジュから尻コンディション診断を受けたい」
「自分も通勤・通学のときは、競歩魂を呼び起こしてる」
「わが校のそろばん部が、北高に予選で負けたらしい」
……と、少しでもクスッとしていただけたそこのあなた!
北高のシャカシャカ競歩部とショルばん部の【遠征費用】として、ぜひページ下部の評価から【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】にお願いいたします!
ブックマーク登録や、毎話の【いいね】も、作者とラジの生きる希望になります!
次回、パジュの待ち合わせ相手が登場……!? まさかのお熱い展開……!?
果たしてラジは、『ミッション・ラジ・ポッシブル:ラブインフォーム・ダンジョン編』を見事にクリアできるのか!?
※次回は【月曜日の19時】に更新予定です! お楽しみに!




