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【ハッピータァイム☆ロン毛の教頭アイドル爆誕】宇宙人の公務員魂をラブザブロックしてもいいですか?

前回のあらすじ:遂にラジとパジュの通う高校に、転校生……ではなく、「教頭」として侵入してきた『無駄発育ロン毛』ことナルシネス。

あろうことか、前任教頭である『ハシィーモト・ヤ・スゥーオ』と、前代未聞のダブル教頭ユニット『WK』を結成し、勤務することに!?


どうにか無駄マッチョ妹を学校に適応させたラジに、コントロール不能の新たな波乱が襲い掛かる!!

果たして彼は、新任ブロンドロン毛教頭と共存し、己の平穏と名誉を守り切れるのか――。


ナルシネスと行く地獄の学校生活・後半戦、スタートです!


「ジュドブリブリは、中がびちゃびちゃ、外がカラッカラ。んで、甘いあじがして――」


 三限目開始前の休み時間。

 賑やかな教室の喧騒に混じって右隣の席から聞こえてくるのは、パジュによる『ジュドブリブリ』の詳細な解説。


 ラジは既に五分は経過したであろう『パジュ・ファオリオのすべらない果実話』を、相槌すら打たず、ただ無言でひたすら聞き流していた。


 体を彼の方へ向け、身振り手振りで一生懸命に説明するパジュ。対するラジは、左手で頬杖ほおづえをつき、顔と体をやんわりとパジュの方に向けたまま、ただ静かに時が過ぎるのを待っている。


「…………パジュ、ジュドブリブリの話は、もういい。なんか聞けば聞くほど、人体から排出されるあの『汚物』がチラつきやがる」


「オブツ? …………もしや、モモック星のフルーツ『オブーツブリブリ』のことか?」


「………………いや、違う。俺はお前の星のブリブリシリーズ果実のことは、一ミリも知らん」


「……? 甘いぞ??」


 パジュが不自然そうに首を傾げた、その瞬間__!


 ガラガラガラッ!!!!!!


 まるで舞台の幕開けを知らせるかのように、教室のドアが凄まじい勢いで開け放たれた。


「ハッピータァイム☆ パジュの~心に狙いを決めて、ラブザブロック♪」


 つやを帯びた甘ったるい美声が響いたかと思うと、声の主であるナルシネスが、真っ白なマントをバサァッ! と派手にひるがえし、ズカズカと教室内へ侵入してくるではないか。


 クラス全体が静まり返ること、およそ三秒。

 迫りくるその男の美貌と溢れんばかりの光に刺激され、その場にいた少年少女たちの『チョイチョイ』済みシナプスが、無事に連結を果たしたのち――。


 次の瞬間には、まるでビート〇ズ初来日のような熱狂と、割れんばかりの歓声が教室を激しく揺さぶる。


「キャァァァ! ナルシネス教頭先生!!」

「教頭先生!! こっち向いて! サイン、サインしてください!!!」

「俺、将来の夢決めました!! ナルシネス先生みたいな教頭になりたいっす!!」

「教頭先生、大ファンです!! 一緒に写メ撮ってくださぃ!!!!」


「……………………」


クソッ、あいつ遂に教室まで来やがった。

……それにしても、凄い人気だな。この世には存在しない『教頭出待(でま)ち』が爆誕してやがる。


しかも何だ、さっきのあの挨拶。風邪薬でお馴染み、著作権ギリギリ挨拶じゃねぇか!


「あなたのラブはどこから?」じゃねぇんだよ! 鼻からでも喉からでもなく、お前の存在そのものがこの学校の『やまい』じゃボケ!


 ラジが怒りと諦めと、怒りと怒りを含んだ冷めきった表情で、教室の惨状さんじょうを眺めている中、ナルシネスは群がる生徒たちを引き連れ、パジュの席へと突き進んでくる。


「パジュ~♡ マイ・フェーバリット・パジュ~♡やはりパジュは、スウィーティーだ! こんな干し草教室にいても、相変わらず麗しのメリーゴーランド! あまりのキュートing形に、兄上は目が回りそうだ☆」


 取り囲む生徒たちの熱気に負けぬほどの、キラキラしたまばゆい笑顔でパジュを見つめるナルシネス。


 彼なりのもうひと押しのサービスなのだろうか、右手をピストルの形にして「バキュンッ☆」という効果音が聞こえてきそうなあざといポーズを披露。さらに極めつけのウィンクまでそっと添えて、全力でお届けする。


 ……が、ふと視界の右端に何かが映り込んだ瞬間、その優雅な表情が歪みに歪み、劇的に凍りつく。

 そう、奴の視界にはパジュ以外映っていなかったのだろうが、愛しき妹の左隣で、死んだ魚のような目で座っている憎っくき天敵ことラジの存在に、今さら気づいたのである。


「…………おぉ、パァードゥン・タイム……。リアル・ダークネス!! リアル・モースト・キング・オブ・メチャクチャ・ダークネス!!!」


 何かよろしくない速報でも聞いたかのように、顔を青ざめさせ、一瞬ふらりと体勢を崩す。

 周りの生徒が心配して駆け寄りかけた、次の瞬間――。


 そのサファイアの瞳にギッと力を込め、自らを奮い立たせると、「我が妹は、我が守らずして誰が守る!」とでも言わんばかりの気迫で、天敵へと勢いよく、かつ堂々と指を突きつけた。


「おい、貴様! そこのラジ・ブルーチーズよ! 一体そんな所で何をしているのだ!!!!」


「……授業受けてんだよ」


「授業だと?! 全くもってふざけおって! ここは『そんなこと』をする場ではない!!!!!」


「……する場なんだよ。あと、人を勝手に発酵させるな。発酵させるにしても、ヨーグルトとかあんだろ、なんで臭いチーズの代表格なんだよ。遠回しにくせぇって言いてぇのか」


 ラジは冷ややかな目で、淡々と返答する。


「許さん!!!! 断固として抗議する!!! 貴様は速攻『教頭室』へと去るがいい!!!」


「…………なんでてめぇに許し貰わなきゃなんねぇんだよ。こっちは一年前に、受験という名の修羅をくぐり抜けてここに座ってんだよ。あと、教頭は降格じゃねぇから。全国の教頭先生に失礼だろうが」


「っふん! いくら泣き言をわめこうと無駄だ! お前のようなノッティング虫は、干からび舞茸(まいたけ)(じる)学校にでも転校するん――」


 ラジの言葉はおろか、正論、根拠、さらには倫理。その全てをオール無視した、ナルシネスによる『己の自由解釈・返答』がその場に排出されようとした――まさに、その時。

 それまで黙っていたパジュが、ぼそりと口を開いた。


「兄上、教頭先生かっこいい。あと、マント、似合う」


 その一言の効果は、絶大だった。

 パジュの無垢むくな称賛を耳にした瞬間、ナルシネスの表情から「怒り」の感情が完全に消滅。あろうことか頬を赤らめ、恍惚こうこつとした表情で両手を広げて天を仰ぎだした。


「アァァァァァァァァ☆ ウレシネス! ギガントハピネス! でらサンクス!!!」


 ナルシネスは、目の前にいたラジの「ラ」の字も忘れたかのように、溢れんばかりの光と花びらをき散らしながら、マントをひるがえしてその場でクルクルと回り始めた。

 そして、取り巻きの生徒たちもなぜか嬉しそうに涙を浮かべ、感動の拍手を送っている。


「……………」


………こいつ、嬉しすぎると『しょこたん語』になるのか……。

 

……って、なんでモモック星人がそれ知ってんだよ!! 

行ってんな? そっち(モモック星)に『2ちゃんねるの住人』行ってんな!?!?


てめぇがギガントハピネスなら、こっちは『激おこぷんぷん丸』からの『ムカ着火ファイヤー』じゃ、ボケ!!!

 

あと最後の「でら」は、しょこたん語のオーラに身を包んだ、ただの名古屋弁だ!(ちょっと似た雰囲気あるから、わかるけど!)


 黄金の回転が最高潮に達し、教室中が薔薇の幻覚に包まれた、その時。


 キーンコーンカーンコーン♪


 無情にも、三限目開始のチャイムが校内に鳴り響く。


 ――ピタッ。


 高速回転していたナルシネスが、物理法則を完全に無視して瞬時に静止する。そして、乱れた髪一つない完璧な笑顔を浮かべると、パンパン! と小気味よく手を叩いた。


「はい、みんな席について! 授業の開始だ☆」


「………………」


……………切り替え、はや。教員だ。あいつ、やんごとなき「教職員」だ。

実力で教頭まで成りあがったかのような、風格さえ感じるぞ。


 ラジがその『謎のベテラン感』に圧倒され、ロン毛バフもあってか、ナルシネスが「腐ったミカンの方程式」で有名な某ロン毛の『〇八先生』に見え始めた、まさにその瞬間――。


「はい、みんな席についてー」


 新任教頭の奇妙奇抜な『ブロンド高速回転』など道端の石ころか何かのようにスルーし、真顔中の真顔で現れた数学担当・竹田(たけだ)先生。

 その淡々とした号令により、クラスメイトたちはハッと夢から覚めたように、ぞろぞろと各自の席につきはじめた。

 


***



「はい、じゃあ号令から」


「起立、礼。よろしくお願いします」

「「「……ぉねがいしゃ~す」」」


 数字や公式といった煩わしさへの拒否反応が、そのまま形になったかのような気だるげな挨拶。その気の抜けた声を皮切りに、三限目の数学の授業が静かに開始される。

 

 ――が、その中でただ一人。

 誰よりも希望に満ち溢れた素晴らしい発声で、「よろしくたもーれアモーレ☆」と謎の挨拶を決める教頭こと、ナルシネス。


 ガタガタと生徒たちが着席するドサクサに紛れ、彼は教室後方に遠慮がちに立てかけられていた副担任用のパイプ椅子を持参し、パジュとラジの席の間にドンッ! と設置する。

 そして、さも大ヒット映画を作りあげたその道何十年の大御所監督のごときふてぶてしさで、堂々と着席したではないか。


「はい、じゃあ前回の続きからで、四十二ページを開いてください。この大問二はね、公式を使って___」


 シンッとした教室に、淡々と授業を進める竹田先生の声が広がる。


「…………」


…………いや、なに普通に授業進めてんだよ!!!


 ラジは教科書を開きかけた手をピタッと止め、『こちらの異常事態に気づいて下さいよ』と言わんばかりに、ゴゴゴゴゴ……と地響きすら聞こえそうな真っ黒な瞳で、教壇の竹田先生をガン見する。


……先生!!!!! 現在、俺の右視界・八十%が、モモック星のファオリオ兄妹に占拠されてんだよ!!

教科書の『大問だいもん』より、こっちの『大問題』を見ろぉぉぉぉぉ!!!


 ラジの心の絶叫とは裏腹に、ブロンド教頭の同席という異質な空間でさえもサクサクと授業を進める、精神安定・極太(ごくぶと)心臓の竹田先生。


 その絶対的な平常心の前に抗議を諦めたラジは、静かなる威嚇いかくの矛先を、すべての元凶である右隣のロン毛へと向けた。

 『平常マシーン竹田』、そしてクラスメイトたちの授業を妨害しないよう、極限まで声をひそめて牙をむく。


「………おい、何してんだよ。さっさと職員室戻れよな」


「フンッ! これも立派な教頭の仕事だ」


 ナルシネスは心外だとばかりに、プイッと顔を背ける。


「…………」


……ったく、何が教頭の仕事だ。

どうせこいつのことだ。ミルクさんと一緒に一通り学校見学でもして、満足した末に、本来の目的であるパジュのところへ戻ってきたってところだろ。


「朝からハシィーモトと、書類整理に稟議書への押印作業、そして顧問となった園芸部花壇の土壌管理に追われていてな。ようやくさっき終わったところだ」


「…………………………」


…………ごめん。疑って本当にごめんなさい。


 ラジの黒い瞳から、スッ……と威嚇が消え、代わりに深い懺悔ざんげと申し訳なさが宿る。


 脳裏に浮かぶのは、マント付きのきらびやかな純白スーツの上から、教頭にのみ着用が許された『事務用アームカバー(紺色)』を装着し、用務員用の麦わら帽子を被ってスコップ片手に汗を拭うナルシネスの姿。


 ラジが己の浅はかさと、ロン毛宇宙人の異常なまでの『公務員魂』に打ちひしがれていると、竹田先生の事務的な声がその思考を断ち切った。


「え〜、じゃあ、この大問四と五を解いてみてください。とりあえず五分考えてみて、それでも難しいなら横の人に解説してもらってください。解説ってのは、理解してないと出来ないですから」


 竹田先生の相変わらずドライな指示が飛び、淡々と授業が進んでいく。


 新任とは思えない仕事量をこなすスーパー宇宙人教頭への労いなのか。――ラジは隣に鎮座する『黄金の障害物』ことジャマシネスを視界から完全シャットアウトし、諦め混じりの真顔でスッと教科書へ視線を落とした。


 ものの数分でスラスラと解き終えると、コト……と静かにシャーペンを置く。


 すると、それを見計らったかのように、教室のあちこちから「ここどうやるの?」「あー、分かんね」といった、心地よい程度のざわめきが生まれ始める。


「…………ラジィ」


 隣から聞こえてきたのは、鈴を転がすような小さなSOS。


 パジュは困ったような、不安なような……よく分からないしかめっ面を浮かべ、彼をじぃっと見つめる。

 おずおずと縮こまった人差し指で、自分の教科書をトントンと叩いている様子から察するに、どうやら大問につまずいてしまったらしい。


 その一連の流れが彼らの日常であるかのように、ラジは無言でパジュの方に体を傾け、迷いなく腕を伸ばす。と、同時に。


 ――スッ。


 配慮なのか、気まぐれなのか。二人の間に座っていたナルシネスは、冷艶な顔で腕と足を優雅に組みなおしつつ、そのままパイプ椅子の背もたれへと深くのけぞった。


「これとこれを最初にかけて、その後に昨日習った公式に当てはめる。あとはこのまま計算するだけだ」


「……………これとこれを………かける??」


「いや、こっちの三と六を掛け算すんだよ」


「……………………公式、これ?」


「そこまだ習ってねぇから、公式は四十ページだ、四十」


 ラジの解説を受け、口先を尖らせて一生懸命に数字と格闘するパジュ。その様子を見やりながら、彼は傾けていた上体を起こし、自分の机へとスッと向き直る。


「フゥン……。ジパングの数学は、我々の使うモノとは全く異なるようだな」


 二人の背後から教科書を覗き込んでいたらしいナルシネスが、不思議そうに呟く。


「我々の使うモノ?」


「あぁ。我々モモック星人は、『モモ算』を使うからな☆」


 ラジは「はぁ?」といった表情で、右肩越しにふんぞり返っているナルシネスを冷ややかに一瞥する。


「ふぅん、その様子だと知らぬようだな? 我々は、基本的にモモ算の『ウィッシュの段』を使うぞ☆」


「…………」


……なんだその、国民的女優と結婚したロック歌手の決めポーズが浮かんでくる段は。

地球の掛け算でいう、一の段とか二の段的なやつか?


「では問題だ☆ 1ウィッシュ × 1ウィッシュは?」


「………………は? 1ウィッシュだろ」


「ハハァ〜ン、ノッティング! 9ウィッシュだ!! こんな簡単な問題も解けぬとはな! 貴様にはやはり、干からび舞茸汁学校への編入をおすすめしよう!! クククク」


「……………」


……クソ野郎が!!! どういう計算式で1×1が9になんだよ!!!!!!


ってか、『舞茸汁学校』を馬鹿にすんじゃねぇ!!

てめぇこそ『名古屋味噌カツ・ボリューミー高校』にでも転任しやがれ!!


なぜか『汁校(じるこう)』の肩を持つラジの脳内で、ウィッシュポーズが二つ、あのロック歌手の笑顔付きで高速再生される。


「…………ッ!!! あー、そういうことね、そういうことだな?!?! ウィッシュポーズの指が三本だから、3×3で9ウィッシュだな!?!?!」


「じゃあ、『1どんだけ × 1どんだけ』は、指が一本だから『1どんだけ』か?!?! あぁん!?」


「…………き、貴様、なぜIKKOの段を知っている?! 使うのか、こっちでも!?」


……ねぇよ!!!!!!! あってたまるか、そんなキテレツお笑い段!!!


どういう理論で成り立ってんだ、ウィッシュの段とIKKOの段!!!

いるな、絶対にいるな?! モモック星の数学界に『テレビっ子2ちゃんねらー』がいんな?!


 ラジの目に再び静かなる怒りが満ちた時、「……できた」というパジュの声で我に返る。


「はい、そこまで。答え合わせするんで、各自席に戻ってください。はい、静かに静かに~」


 パジュからノートを受け取るため伸ばしかけた腕に、竹田先生の淡々とした号令が重なる。元の静けさを取り戻す教室の雰囲気に合わせるように、ラジは手を引っ込め、パジュもまた自然と黒板を見つめる。


「…………」


……ったく、あのボリューミー味噌カツ野郎のせいで、無駄に時間くったじゃねぇか!!


まぁ、いいか。あのパジュのことだ。こっちの数学もてんで苦手で、どうせ間違ってんだから、帰ったら家で見てやればいいし。


 頬杖をつき、『今度の小テストの範囲ってどこからだっけ?』などと、やんわり意識が飛んでいたラジの耳に、サラッと竹田先生の声が届く。


「じゃあ、前回は平井までいったから。今日は、ファオリオと堀内。前に、出て解いてみて。解説までよろしくお願いします~」


「…………」


……………ッ!!?!!!?!?!


 竹田先生の口から発された、絶対今じゃない『ファオリオ』という単語に、ラジはカッと目を見開き、硬直する。

 バッと勢いよく右を向くと同時に、真っ青な顔をしたパジュが、バッ! とノートを開き、ラジに見せつける。


 そこには、でかでかとヒヨコの絵が描いてあった。


「………………」


……………あの「できた」は、ヒヨコの絵ができたってことか。


そして下手だ………。


 状況を全て察したラジの目から、スッと生気が消える。

 対するパジュは、カッ! と限界まで目を見開き、今にも泡を吹きそうな顔で教科書を凝視するやいなや、無駄にページをバタバタとめくっているではないか。


 授業中に席順、もしくは出席番号順で当てられるなど、学生にとっては通過儀礼に過ぎない。

 しかし彼女はご存知の通り極度の内弁慶であり、ましてや外国人ならぬ、外星人。武力は優れてはいるものの、来日数週間で地球人の前に立ち、注目を浴びるなどという行為は――これこそが人体の美だと言わんばかりに、全裸に蝶ネクタイ一丁でコンテンポラリーダンス大会に出場するレベルの()()なのである。


「はいはい、別に間違えていいから~。はい、ファオリオさんと堀内くん、早く前に~」


「え~、マジかよ~」


 クラスメイトの堀内が、めんどくさそうに席を立つ。

 パジュもまた、その大きな瞳に水が張ったように、溢れんばかりの緊張と真っ青な顔で、立ち上がろうと腰を浮かせる。


 一連の流れをただ黙って鑑賞していたナルシネスが、助け舟を出すかのごとく、竹田先生に向かって「ソーリー!」と右手を上げかけた――その瞬間。


 ガタッ!


「竹田先生」


 そこには、いつもの気だるげな様子で手を上げ、サラッと立ち上がるラジの姿があった。


「彼女……ファオリオさん、まだ日本語不慣れなんで、代わりに俺が解いてもいいですか?」


「あぁ、そういうこと。別にいいですよ、誰でも。どうせ挙手制にしても誰もやらないから、出席番号で適当に当ててるだけなんで」


 竹田先生の許可が下りるやいなや、ラジはパジュやナルシネスを見ることもなく、スッと黒板へと歩き出す。


 チョークを手に取ると、サラサラと完璧な解答を記述し、流れるように解説。そして何事もなかったかのように、自分の席へと戻っていった。


「え~と、ここのXが……」


 もう一人の指名者である堀内が、たどたどしく解説する声が響く中。

 パジュは左隣に座るラジへ、そっと視線を向ける。当の彼はすでに頬杖をつき、相変わらず淡々とした様子で黒板をボーッと眺めていた。


 視線に気づいたのか、ラジの黒目がわずかに右へと動く。


「………ちゃんと授業きいとけ」


 聞こえるか聞こえないかのギリギリの声量で、それだけをぶっきらぼうに放つ。


「…………ん」


 パジュはそう短く呟くと、前を向き直し、ノートに描いた「下手なヒヨコ」を急いで消しゴムでこすった。

 そして、薄っすらと桃色に染まった頬と、少し潤んだ瞳をまっすぐ黒板へ向け、忙しくシャーペンを走らせる。まるで、ラジが書いてくれた完璧な解答を、一文字も漏らさぬよう丁寧に書き写すように。


「…………」


――フゥン。解せぬ男だな。


 一生懸命な小さい背中と、飄々(ひょうひょう)とした大きな背中。

 ナルシネスは腕を組み、パイプ椅子の背もたれに体重を預けながら、視界の先に並ぶその二つの背中を交互に見つめた。


「はい、全然ちがいます。座っていいですよ」


 堀内のたどたどしい解答を一刀両断し、竹田先生の淡々とした解説が響き渡る二年五組。


 ナルシネスはふとその喧騒から意識を切り離し、そっと窓の外を見つめた。その瞳には、この平穏な教室の風景ではなく、もっと遠い()()を見据えるような、重い光が宿っていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


それにしても、出勤早々から新任とは思えない仕事量をこなすナルシネスの公務員魂には驚かされました。

宇宙人初の『W教頭 兼 園芸部顧問』という肩書きに恥じない、素晴らしい勤務態勢です。


さてさて、ラジとパジュの関係も少しずつ形になってきた傍らで、ある意味それをただ傍観しているナルシネス。

彼の最後の視線は、一体何を意味しているのか……?


ちなみに以下は、ナルシネスが顧問となった園芸部の阿部さん(部長)と西山くん(副部長)からのコメントです。


Q.ナルシネス教頭が顧問になってどうですか?


阿部さん「そうですね、最初は驚きました。ずっと顧問無しでやってきた部活だったので、いきなり教頭先生が来るってなると、ちょっとなんか気が引けますよね」


西山くん「ノー顧問からの教頭は、流石にちょっとキツイですよね(笑)。でもナルシネス教頭、毎日部活に来て肥料や水やりとかも率先してやってくれるんですよ。この前なんか『オリジナルのラメ入り麦わら帽子』と『レース付きアームカバー』をみんなにプレゼントしてくれました」


阿部さん「『この星の蚊はノッティングだ、ラジ蚊と名づけよう』ってちょっと怒ってたのが印象的でしたかね。今は園芸部全員、ナルシネス教頭のことが大好きです。ラメ入り麦わら帽子はちょっといらないですけど」


【読者の皆様へ! ラジから切実なお願いです】


「平常マシーン竹田から数学を習いたい」

「俺/私の実家は、干からび舞茸汁校の近くです」

「上司からの指示を『部長~の心に狙いを決めて、ラブザブロック♪』したい」


……と、少しでもクスッとしていただけたそこのあなた!

今後の『モモック星の数学界の発展費用』として、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】にして応援していただけますと幸いです!


ブックマーク登録や、毎話の「いいね」、ご感想も、作者とラジの生きる希望になります!


次回、パジュが謎の待ち合わせ?! 尾行するスパイ・ラジに次々と襲い掛かる『奇妙な刺客』を突破し、奇天烈ミッションをクリアせよ!!


※次回は【木曜日の18時】に更新予定です! お楽しみに!


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