【グッドモーニング☆ 干し柿&カイワレ大根たちよ!】ピチピチ学園に『アラサー・ロン毛・ド変態』が紛れ込むのは無罪ですか?
前回のあらすじ:パジュの変異(ボブ〇ップの残像)を隠すため、己の尊厳を完全に投げ打って『ソーセージ・ブンブン乱舞』を披露したラジ。
自身の「キャラの死」という大きな犠牲を払い、絶体絶命のピンチを切り抜けた二人は、夏の夕暮れに少しだけその距離を縮めるのだった。
魂の演舞を終え、ようやく平穏な日々が戻る……かと思いきや、黒瀬家にまたしても不穏な空気が。
早朝から姿を消したナルシネスとミルク。果たして彼らは一体どこへ?!
虎視眈々と準備を進めていた「あの作戦」がついに始動する!
波乱の第16話スタートです!
「ラジ、おはよう。パン焼いてあるよ」
修二の挨拶にコクンと頷き、まだ半分眠った顔で目をこすりながら、ラジはトボトボと朝の食卓についた。
いつも通り、修二はコーヒー片手に新聞を読み、向かいに座るパジュもまた、お気に入りのはちみつトーストをもぐもぐとほおばっている。平日の朝の見慣れた光景だ。
「……パジュ、今日は珍しく準備早ぇな」
手元のコーヒーに食卓の牛乳を注ぎながら、既に登校準備を整えているパジュへと声をかける。
「ミュルク、パサパヤクゥ、ポポデファレダガラ」
「……あー、飲み込んでから話せ」
口いっぱいに食べ物を含んでリスのようになっているパジュを横目に、ふと辺りを見渡す。そこでラジは、いつもいるはずのミルクとナルシネスの姿がないことに気が付いた。
「…………」
……珍しいな。
いつもならこの時間、ミルクさんがパジュのタケノコ族ヘアを梳いているはずだけどな。
それに、ナルシネスもそろそろ起きてくる頃だ。
ラジの動く視線に気付いたのか、修二が「……あぁ」と新聞からひょっこりと顔を覗かせた。
「ミルクさんとナルシネス君なら、早朝からどっか出かけていったよ」
「早朝から? どこに?」
「さぁ? マントだ椅子の準備だとか言って、バタバタと出かけていったねぇ」
「……マントに椅子?」
ラジは少し考えるように、首をコテンッと傾けた。
「僕もよく分からないけど、なんだか楽しそうだったよ。まぁ、初めての日本だし、そりゃ見て回るところも多いでしょ」
「…………」
……観光かなんかか? まぁ、よく分かんねぇけど、俺たちが学校に行っている間、あいつらもそれなりに楽しくやってるってことか。
この前も、親父に日本の医療について質問したり、診察を遠くから見学してたしな。
モモック星の第一王子として、何かしら勉強することでもあるんだろ。
……黒瀬家のシーツさえ無事なら、どこで何をしていようと大した問題じゃねぇ。
「ほら、パジュさっさと食え。準備できたら行くぞ」
ラジは、自分のトーストをじっと狙うパジュの視線に気づき、半分ちぎって彼女へと渡す。パジュが通算二・五枚目のトーストをもぐもぐと頬張る中、ラジも残りのトーストを口に放り込み、コーヒーで流し込むと、慌ただしく登校の準備に取りかかった。
***
カラッとした太陽と、学生たちの真っ白なシャツが輝く朝のグラウンド。
全校集会のため、各学年、クラスごとに整列した背中は、朝だというのに早くも汗でじんわりとにじんでいる。
「なぁなぁ、今日の部活って室内?」
「いや、普通にグラウンドだろ」
「暑すぎじゃない? 全校集会とかマジ無理」
「うち、今日前髪事故ってない? ゆかぴ、あとでアイロン貸して~」
開始の号令まで、学生たちのヒソヒソ声があちこちで波打つ。ラジも気だるそうにボーッと立っていると、前に並ぶ「か行」の規律が、体をスッと後ろに傾け、ひそめた声で話しかけてきた。
「黒瀬くん、黒瀬くん。あのぉ、真夏の朝に全校集会とか本当に迷惑ですぅ。そう思いませんかぁ?」
「……だな」
「これぇ、多分僕の予想なんですけどぉ、『転校生』の紹介だと思いますぅ」
「転校生?」
「さっき職員室の前で偶然聞こえたんですけどぉ、新しい生徒が来たみたいですよぉ?」
「ふ~ん、でも何でまた、全校集会なんかでわざわざ――」
……………………。
……っまさか!?!?!?
彼の脳内で何かと何かが繋がったのか、心臓が大きく跳ね上がる。ラジは半開きだった目をガッと開き、獲物を探す獣のように辺りを勢いよく見回す。
「…………」
……この転校生パターン……。絶対にそうだ。
これまでの経験上、「モ」から始まり「ク」で終わる、『ハチャメチャしても許してちょ☆惑星』関連の仕業だ!
探せ、探すんだ!! このピチピチ青春の群れの中に、場違いな『アラサー・ロン毛・ド変態ブロンド』が紛れ込んでいるはずだ!
瞳孔ガンギマリの殺気を放ちながら、周辺の二年生ラインを凝視するラジ。見つけ次第、視線で抹殺せんばかりの勢いで首を振り、不審な金髪ロン毛の残像を追う。
「あ、あのぉ、く、黒瀬くん…………?(この人、ソーセージに狂ってブンブン振り回したり、たまに本気で恐ろしいですぅ)」
規律の引き気味な声を無視して必死にサーチを続けるが、……いない。流石に、百九十センチを超える『無駄発育・金髪』を見落とすはずがない。
「…………いねぇか」
……ふぅ、まぁ、そうだよな。あいつにも最低限の倫理観はあるはず。言ったって星の第一王子なわけだし。
どんだけ妹ラブでも、さすがに転校生として学校に紛れこむなんていう、『地獄シスコンの鏡』みてぇな行動はしねぇか。
安堵のため息をついた瞬間。
キュィ~ンという耳障りなハウリング音と共に、体育教師・盛厚先生ことピカアチュの「おらぁ! 静かにしろぉ!!!」という怒号が響き渡る。
「えぇ~、おはようございますっと。全校集会を始めます。今日は今後の夏休みに向けての校外活動についてと、新任の先生の紹介。この二点についてお話があります。では、先に生活指導の高梨先生から――」
……あぁ、なんだ。転校生じゃなくて、新任の先生の話か。
規律の聞き間違いってこと――
…………ッ!!!!!
待て。待て待て待て待て。もしかして………………そっちか!!!
再び『瞳孔殺気・ガンギマリ』状態で、学生集団の左側に並ぶ教師陣を一人一人凝視する。
松岡先生。高田先生。岡先生。石川先生。…………ナルシネス。
…………っ!?
松岡。高田。岡。石川。…………ナ・ル・シ・ネ・ス!!!!!
「…………」
クソォォォォォォォ!!!!! 何度見ても、石川ネクスト・ナルシネスしてやがんじゃねぇかぁぁぁ!!!!!
温厚で有名な古文のおじいちゃん先生、石川先生のすぐ隣。
そこに、真っ赤なベルベットの座面に、肘掛けの随所に黄金の龍が彫り込まれた――明らかにこの学校の備品ではない『王座』に鎮座するナルシネス。
さも当然だと言わんばかりの顔で深く腰掛け、優雅に足を組んでいる。さらにその後ろでは、完璧な燕尾服に身を包んだミルクが、どこから用意したのか大きな羽根付きの扇で、一定のリズムを刻みながら彼をあおいでいた。
「…………」
あんのぉ、くそシネスゥゥゥゥ!!!! どこぞの野良宇宙人が何ちゃっかり、教師面して全校集会に参加してんだよ!!!
ってか、立て! てめぇは速攻立ちやがれ!!! 新任のくせに、なに自分だけ豪華絢爛なイスに座ってんだよ!
こっちは直射日光からの汗だく直立不動を、サムライ魂で耐え抜いてんだぞ!!
しかも、あの頼れるミルクさんまでナルシネスに加担してやがる!!
仰ぐな! そのフッワフワ、ファッサファサの扇で! あいつに『涼』をお届けするなぁ!!(でも横の石川先生、流れ風もらって、ちょっと涼しそう。……そこは良かったけど!)
ラジのお怒りボルテージが最高潮へと達する中、ようやく生活指導の話が終わり、再び進行役・ピカアチュの野太い声が響く。
「はい、高梨先生ありがとうございましたっと。では、次は新任の先生の紹介です。校長先生、お願いします」
校長先生がトボトボと朝礼台へ移動し始めると、待ってましたと言わんばかりにナルシネスが動いた。
座っていた『王座』から――ぶわっ! と優雅にマントを翻して立ち上がると、校長の後ろを颯爽と歩き始める。
「みなしゃん、あのぉ、おはようございますぅ。きょふは、あたらひぃ、せんせぇをひょうかいしまふぅ……あしゃは、ごふぁんと、おみそしぃるはれぇす……」
「………………」
校長先生ぇぇぇぇぇぇえ!!!!! 脳チョイチョイされて、極限レロレロ状態じゃねぇか!!
っていうか、よく見ると目もグルグル回ってるし、頭に残された最後の希望である『ひよこ産毛』まで、某北欧キャラのニョ〇ニョロみたいに揺れてやがる!!
しかも聞かれてもない、朝食のお気に入りメニューまで発表しやがった……。
既に全校生徒、そして教師陣も脳チョイチョイ済みなのであろう。
校長のレロレロ喋りさえも、それこそが『威厳』だとでも言わんばかりに、皆が静かに耳を傾けている。
「…………」
…………ったく、パジュの浜田といい、ナルシネスの校長といい、ピンポイントで出力バグ起こしてんじぇねぇよ。
浜田はいいけど、校長先生はダメだろ。教育一本、平子定春の歩みを止めんじゃねぇ。
「でぇわぁ、しんにぃんの『きょうとうしぇんしぇい』でありゅ、ナルシネスきょうとうからぁ、ごあいしゃつ、おねぎゃいしまふ……うめぼしはぁ、はちみつうめはれぇす」
「…………」
…………きょうとうしぇんしぇい?!!!?! (梅干し情報はもういい、スルーだ)
ラジが耳を疑った瞬間、平子校長の背後に控えていたナルシネスが、黄金の髪をふわりとなびかせてマイクの前へと進み出た。
「グッドモーニング☆ 干し柿・アンド・カイワレ大根たちよ!」
ナルシネスの甘く艶っぽい声がスピーカーを通じてグラウンド全体を優しく包み込む。その瞬間、女子生徒たちから、堰を切ったような黄色い悲鳴が沸き起こった。
「ねぇ、見た!? 超かっこいいんですけど!!」
「え、やばくない!? ガチの王子様じゃん!!」
「顔小さすぎ! 何頭身あんの!? モデル!? ハリウッド俳優!?」
「あたしは、朝ごはんならマルゲリータ派かなピッツァ~」
…………クソッ、全員まとめてオール・チョイチョイ済みってことか。
っていうか、なんださっきの挨拶! 「レディース・アンド・ジェントルマン」みたいなノリで、乾物とヒョロ野菜の連合軍ぶち込んでくんじゃねぇ!
しかし、凄い悲鳴だな。さっきまで生活指導の高梨先生が話していた時は、全員、瞼が瞳を半分覆うような、思春期特有の『ぬ』みたいな目をしてやがったのに。
ナルシネスが口を開いた瞬間に、どいつもこいつもキラキラと、期待に満ちた『ぴ』みたいな目になってやがる。
「ゴラァ!!!!! お前らぁぁぁ、静かにせんかぁぁぁぁぁ!!!!!」
ピカアチュの怒りのゴリラドラミングが開始されても、悲鳴と歓声は一向に収まらない。それどころか、男子生徒までもがナルシネスの圧倒的な美貌にどよめき出す始末だ。
「キャァァァ! 俺、今、目が合っちゃったかも!!!」
「ってか、あのファッションセンス、えぐいよな!? 真似してぇ~」
「俺らの部活の顧問になってくんねぇかな!?」
「あ、でも明太子マヨも捨てきれないピッツァ~☆」
「…………」
……………………ピ川、お前は一回黙ってろ。
さっきからお前だけ、ナルシネスじゃなくて校長先生の朝食話で盛り上がってんだよ。
『ぴ』の目が、お前だけピッツァの「ピ」なんだよ!!
でもナルシネスより平子校長派のピ川、今このグラウンドで一番輝いてるぞ……。
全校生徒がナルシネスに魅了され、ピ川が最強の『朝食ピザ・チョイス』に苦戦し、ラジがそんなピ川を温かい目で一瞥している中――。
混乱の張本人は満足げな笑みを浮かべ、長い人差し指をチョンと動かした。
「ノッティング☆ 鎮まりたまえ、乾物の民たちよ! 今日からこの私が、このフィットネススクールの教頭を務める。改めて、ファオリオ・ナルシネスだ」
「…………」
「そして、前任の教頭である『ハシィーモト・ヤ・スゥーオ』とは、今日からダブル教頭――WKとして勤務する☆ よろしくタモーレ・アモーレ! 以上」
「……………………」
……あぁ、もう大混雑だ。週末のイオンのフードコート並みに、ボケがごった返してやがる。
まず、その①! ここはフィットネススクールじゃねぇ! 誰がお揃いの白シャツにローファーでランニングすんだよ!! 走りにくいこと山のごとしだろうが。
はい次、その②! 前任の教頭をフランス人みたいに呼ぶな! 誰が『ハシィーモト・ヤ・スゥーオ』だ! 橋本安男だ!!!!
そして最後ぉぉぉぉぉ!!!
『ダブル教頭』ってなんだ!? WK!?
平成の伝説ユニット『W』じゃねぇんだよ! てめぇが、この学校の辻ちゃん加護ちゃん改め、やっちゃんナルちゃんかぁ!?
ってか、分かんのか? このボケつたわってんのか!?
令和生まれの皆さんに伝わってるんでしょうかぁぁぁぁ!?!?!?(よろしくタモーレ・アモーレはつまらんから、スルーだ)
ラジの脳内でツッコミ背負い投げが三本ほど綺麗に決まったところで、進行役・ピカアチュの締めの挨拶により、全校集会はようやく解散となった。
一時間目の授業に間に合わせるため、各自ダラダラと校舎へ向かって歩き出す学生たち。
脳内『全日本ツッコミ柔道大会』の予選を圧倒的なスコアで突破したラジも、運動後の謎のランナーズハイからなのか。もはや「どうにでもなれ」の精神――極限の真顔で校舎へと足を踏み出す。
「ラジィ、生きてる?」
不意に右下から、パジュがキョトンとした顔で、ラジの顔を覗き込んできた。
「…………案外俺、柔道の才能があったんだなって……」
「ジュド? ……モモック星のフルーツ『ジュドブリブリ』のことか?」
「…………いや、違う。………………もういい、とりあえず教室戻るぞ」
兄の奇行を特に何とも思っていない様子のパジュ。対して、今から始まる『ナルシネス(WK)と行く地獄の学園生活』に覚悟を決め、絶望と悟りの表情で一点の曇りもない頭上の青を見つめるラジ。
…………あぁ、空が綺麗だ。
そしてジュドブリブリ……。なんか汚ねぇ……。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
遂に黒瀬家を飛び出し、王座を持参してパジュの通う学校にまでやってきたナルシネス。
そして爆誕した、世界初の教頭アイドルコンビ『WK(ダブル教頭)』。
ファオリオ兄妹による脳チョイチョイで極限状態に陥っている校長先生。ラジも苦労が多いですが、影の功労者は、間違いなく平子定春校長先生ですね……。
ちなみに、平子校長先生と橋本教頭先生はとっても仲良しで、お互いの誕生日にはプレゼントを贈りあっているそうです。
(以下はそんな仲睦まじいお二人からのコメントです)
平子校長先生「去年は橋本教頭先生からジェラート〇ケのもこもこパジャマを貰いました。凄く気に入ってます」
橋本教頭先生「いやぁ、気に入ってもらって良かったです。私も去年は足つぼを刺激する、温泉旅館にあるようなサンダル? を貰いましたね。今年はもっとかわいい物を貰えるよう、女子力ならぬ『教頭力』を極めていこうと思ってます」
【読者の皆様へ! ラジから切実なお願いです】
「自分は、全日本ツッコミ柔道大会の予選で敗退したっす」
「近所の公園をジョギングするハシィーモト・ヤ・スゥーオを見かけたことある」
「俺/私も、アラサー・ロン毛・ド変態って呼ばれたい」
……と、少しでもクスッとしていただけたそこのあなた!
今後の過酷な『WK学園生活』へのエールとして、ぜひページ下部の「ブックマーク登録」や、評価欄の「ポイント評価(☆☆☆☆☆を★★★★★に!)」をお願いいたします!
皆様の応援が、作者とラジの生きる希望になります!
WKが支配する地獄のフィットネススクール(学校)で、一体何が起きる……?!
次回の第17話は【月曜日の18時】に更新予定です! お楽しみに!




