【ムッキムキ・ボブ〇ップのスライディング軍団?俺のブンブン乱舞で止めたらぁ!!】マイライフ・ベスト・オブ・黒歴史、堂々の第一位入賞おめでとう☆
前回のあらすじ:前代未聞の『おピンク花臣ゲッチュー作戦会議』の会場として、規律の案内によりレトロな純喫茶へとやってきた『凸凹くそアベン〇ャーズ』とラジ。
しかし、ムーディな喫茶店でまさかの変異が暴発……!?
ロコモコ浜田と規律に「それ」を見られてしまったラジは、果たしてこの地獄をどう乗り切るのか!?
ラジの尊厳を脅かす絶体絶命のピンチ! それでは、第15話お楽しみください!
カランコロン。
「ここが僕の叔父が経営する喫茶店『卍家』ですぅ」
規律の案内により到着した、おピンク花臣ゲッチュー作戦会議の本部こと、レトロな喫茶店。年季の入った木の扉を押すと、心地よい鈴の音と共に、コーヒーの香ばしい匂いが一行を優しく出迎えてくれる。
「うぅん、そうですね、あそこの窓際のソファー席に座りましょう」
「イェーイ! ソファーとっぴ~!!」
おピンク促進隊長たる規律の指した先、赤茶色のソファーをめがけ、小学五年生男児の『テンプレート・イェーイ』を発しながら、ロコモコ浜田が一目散に駆け寄っていく。
その後ろには、初めての喫茶店に緊張しているのか、お得意の『口先にょっこり内弁慶顔』でキョロキョロと辺りを見渡すパジュの姿。さらにその最後尾を、ラジが気だるげな足取りで追従していく。
「俺、窓際の席も~らい! イェーイ! 窓際族~!!!」
「ちょっと! あのぉ、そこは僕の特等席なんですけどぉ!!」
「え~いいじゃ~ん! 俺ここがいいも~ん! プリーズ窓際族、チャンス~!!」
「あのぉ!!! 人の腕にベタベタしがみつかないでくださいぃ!!! あと窓際族の意味、一回調べてもらっていいですかぁ?!?! 絶対いらないチャンスですからぁ!!!!」
目の前で繰り広げられる『ミミズの糞レベル』の小競り合い。ラジはその横を呆れ顔でサラッと通り抜け、向かい側となるソファーの前にすたこらと歩いていく。
そして、醜きマジマブ同盟の背後で何が何だか分からず、ただジッと首をすくめているパジュへ向けて、小さく手招きをする。
「…………お前ら、うるせぇって。声のボリューム考えろ。ほら、パジュ、こっち」
「ふぃ~」
ラジに呼ばれるや否や、サササッと奥の窓際席へ入り込むパジュと、その隣に腰掛けるラジ。その向かいでは、晴れて窓際族の座を勝ち取ったロコモコ浜田と、相変わらずふんすかグチグチ沸騰中の規律が並ぶ。
「ってか、ここめっちゃ雰囲気良くね?! 古民家風っていうか、家通りこしてピラミッドじゃん! ピラミッドお喫茶、ナマステ~つって!」
「あのぉ、人んちのオシャレ喫茶、勝手にスフィンクス仕様にしないでくれますぅ?! 驚くほどに三角形じゃないですからぁ、ここぉ!!! あと最後のナマステは本当に意味がわからないですぅ! ……あとぉぉぉ! さっきからずっと僕の足踏んでますぅ!!!!」
「……規律、落ち着けって。浜田は日本史専攻なんだよ」
……はぁ、めんどくせぇ。
ナマステもしれっと足を踏む無神経さも、全部日本史専攻だからだよ、ほっとけって。
『目には目を、歯には歯を』ならぬ、『深爪には深爪を、どうでもいいことにはどうでもいいことを』の理論で発された、ハンムラビ法典も真っ青のクソ新法案で場を収めつつ、ラジは己の周囲を探るように卍家の店内を軽く見渡した。
『マンジ』という名前の禍々しさとは裏腹に、店内にはゆったりとしたジャズが流れ、数名の常連客が文庫本を片手にコーヒーを楽しんでいる。そこは驚くほど落ち着いた、こじゃれた雰囲気の漂う『まっとうな』喫茶店。
「いらっしゃい。守くんのお友達かな?」
穏やかな声と共に、コップのお水とお盆を片手に現れたのは、ムッキムキの肉体にちょび髭オールバックという、漢を極限まで煮詰めたような男だった。
明らかにサイズの合っていないピッチピチのエプロン。その胸元にプリントされた『卍家』の「卍」の文字は、盛り上がった大胸筋のせいで今にも引きちぎられそうなほど『ぐっにゃぐにゃ』に歪んでいる。
「あぁ、この人がこの店の店長、そして僕の叔父、喫茶竹愛酢さんですぅ」
「こんちわっす! 同クラの浜田正樹でぇ~す!」
「……っす。ファオリオ、パジュっす」
「…………」
……喫茶だけを愛する男、喫茶竹・愛酢ってか?
『名は体を表す』とは言うけど、規律守といいお前の家系、体を表しすぎだろ!
苗字も大概だけど、名前単品でみたら『愛酢』さんだからな?!! ポピュラー調味料入っちゃってるし、びっきびきムッキムキのアイスちゃんだからな!?!
「……初めまして。守くんと同じクラスの黒瀬です。お邪魔してます」
強烈なミラクル叔父の登場にラジのHPがやんわり削られていく中、店長のアイスちゃんは各々の挨拶を受け入れると、白い歯をキラリと輝かせた。
「腹いっぱい食っていきな」
心地よい低音のバリトンボイスを響かせ微笑むと、彼はメニューをテーブルへ置き、またキッチンへと戻っていった。
「なぁなぁ! 先に飲みもん注文しようぜぇ! ってか、腹減ったなぁ! ポテフラとか頼んじゃう? なぁなぁ??」
「わかったって、ちょっとは声のボリューム落とせよな。俺、アイスコーヒー。パジュは?」
ラジが隣にメニューを差し出すと、パジュは未知の古文書を読み解くような真剣な眼差しでそれを凝視し、おもむろに口を開いた。
「……ンタリポナ、にする」
「……ナポリタンな、それ飲みもんじゃねぇから。あと日本語は基本、左読み」
「…………じゃ、『なつ、やさい、かつかれー』にする」
「それも飲みもんじゃねぇよ。……あ、いや、一部の層によっちゃ飲みもんか? ……って、ややこしいもん注文すんな! オレンジジュースか、ミックスジュース! パジュならこの二択だ。こっから選べ」
ラジがメニューのソフトドリンク欄を指でトントンと叩き、強制的に選択肢を絞り込む。
「じゃ、ミックス」
「なら、俺はメロンソーダ!! あ、バニラアイス大盛りね☆ 知り合いのよしみ盛りで!!」
みんなの注文をとりまとめていた規律へ向け、浜田がグッドラックポーズに極めつきの図々しいウィンク&舌ペロを放つ。案の定、規律のこめかみにはピキピキと血管が浮かび上がり、無言のままグイッと魚眼・瓶底眼鏡を押し上げる。
「あのぉ!!!! あなたは知り合いの中でも、かなり遠い方の知り合いですぅ!! 『知り合い』という言葉で包んだ、他人ですぅ! そして、メニューにない盛りは、存在しない盛りですぅ!!!」
「えぇ~いいじゃん☆ 今日から規律アドバイザーの立派な講習生だぜ? もうマブ! マブ! 俺たち!」
規律は「……この人、本当に図々しいですぅ。酸素の無駄ですぅ」と恨み言をブツブツ垂れながら、全員の注文を喫茶竹の待つキッチンへと伝えにいった。
***
「規律って案外良い奴だな?!」
つい先ほど『酸素の無駄』とまで吐き捨てられた人間から発せられたとは思えないほどのハッピー思考を炸裂させつつ、浜田は出されたおしぼりでゴシゴシと手を拭きながらラジに満面の笑みを向ける。
「教室だとさ、なんかいっつもキレてるイメージだけど、話せば分かるやつじゃん!? 黒瀬以上におピンクの素質もあるし、気も合うし! もう俺らのおピンク花臣同盟に入れてあげてもいいよなっ?!」
「…………」
……『俺ら』じゃねぇ! 『てめぇの』だ!!!
勝手に人を、いかがわしい色の団体関係者にするな!!
だいたい、お抹茶とかお吸い物みたいなノリでピンクに『お』をつけるな、気色悪い!!!
お前の『お』は丁寧語の『御』じゃなくて、汚物の『汚』だ!!! この脳内汚ピンク野郎め!!
同盟拡大に胸を躍らせるロコモコ浜田を、道路脇に落ちているドブ水を吸い尽くしたヨレッヨレの靴下でも見るかのような冷徹な目で一瞥し、そのまま左を見やる。
その視線の先。窓際の席にちょこんと座っているパジュは、さも「緊張? そんなものしませんわよ。喫茶店のマナーは心得てますから、ご心配あそばせ」と言わんばかりの表情で、ツンとすましている。
顎をクイッと引き上げ、王女らしい気品すら漂わせる横顔。だが、その頬は期待に高揚しているのかポワッと薄紅色に染まっていた。
机の下では、太ももの下にしっかりと挟み込まれた両手とは裏腹に、主人の心を映すように足がパタパタと揺れている。
「…………」
心と表情のいじらしい不一致から透けて見えるのは、彼女にとっての放課後、寄り道、恋バナ、相談といった、キラキラとした『初めて』たちへの初々しい期待。
その尊さに寄り添うように、ラジはパジュの横顔から窓の外へと、そっと焦点を移す。
オレンジ色へとじんわり塗り替えられていく街並み。ぽつぽつと行き交う人の流れを眺め、わずかばかりの穏やかさが心に染み渡っていくのを感じていた、まさにその瞬間――!
「へい、お待ち!」
ッドン!!!!!!!!!!! ッビチャ!!
店内に流れる優雅な雰囲気を真っ向からぶった切る、ガサツ・オブ・マッチョこと喫茶竹の威勢のいい掛け声。鈍い打撃音と無慈悲な水飛沫と共に、純喫茶のテーブルには不釣り合いすぎる巨大なピッチャーグラス三つが叩きつけられた。
「…………」
……喫茶店のマスターがグラス叩きつけんな!! 20連勤目の限界イライラ居酒屋店長か!!!
ってか、なんだこのグラス! 激安チェーン居酒屋の飲み放題コースで見かける、団体イキり大学生用のビールピッチャーじゃねぇか!!!
歓迎か?! これは卍家伝統の歓迎の証なのか?!!
その巨大な容器には、黄金色のミックスジュースや鮮やかなメロンソーダが、表面張力の限界値である『たっぷたぷ』の状態で波打っている。
あの図々しさの化身であるロコモコ浜田でさえ、「……テーブルびちゃびちゃだ……」と引き気味な声を漏らした、まさにその時。
喫茶竹の後ろからスッと出てきた規律が、なぜか照れ隠しのようにソファー席とは明後日の方向を向き、ぼそぼそと口を開いた。
「あのぉ……ちょっと『知り合いのよしみ盛り』ですからぁ? あのぉ、ほんの、ちょっと多くなっちゃっただけですからぁ!!」
そっぽを向いた横顔から真っ赤な耳を覗かせ、規律は必死になって「ちょっと」を連呼している。
「…………」
「…………」
…………あぁ規律、お前。俺たちが来て、そんなに嬉しかったのか。
お前の『ちょっとよしみ盛り』、ありがたく頂くぞ……。
ロコモコ浜田とラジ。二人の心は、出会って二年目にして今この瞬間、ようやく一つとなった。
まるで悟りを開いた仏のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、二人は各自の前にそびえ立つ『バケモノ』へと静かに手を伸ばした。
「いやぁ~っ!! 守くんの友達ってことで、おじさんついつい張り切っちゃったよ! お店に大きいグラスがなくてねぇ、観葉植物の水やりに使ってるジョーロ用のピッチャーになっちゃったけど、ごめんね☆」
「「…………汚ねぇだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」
『ちゃんと洗ったから大丈夫だよ☆』じゃねぇんだよ、馬鹿野郎!!!!
こっちはもう『ジョーロ』って単語で気分害されちゃってんだよ!!!!
ってか、そもそも言うな! タネを明かすな!!! お前には規律のあの可愛らしい想いってのが見えねぇのか?!!
カフェと喫茶の経営は、センスあってなんぼの世界じゃい!!!!!!
そんなラジと浜田の渾身の怒りにも、喫茶竹は「ハハハ! 高校生は元気がいいね!」と全く悪びれる様子もなく陽気に笑い飛ばす。
そして追加サービスの『フライドポテトとソーセージ盛り』をテーブルへドンッと乱暴に置くと、また軽やかな足取りでキッチンへと戻っていった。
「ではぁ、あのぉ、早速作戦会議といきましょう」
仕切り直すようにわざとらしく咳払いをして、スッと元の表情、元の席へと戻る規律。
追加されたポテトとソーセージという、年ごろの放課後男児には抗えようもない『油と塩気の賄賂』を前に、衛生概念の幅がグッと広まったのか。
観葉植物への水やりとして酷使されてきたであろうドデカグラスについに観念した二人は、各自の『愛のバケモノ』へストローを深く突き立てると、無言のまま大人しくズズズと飲み始めた。
***
「まずぅ、浜田くんは、花臣さんのどこが好きなんですか?」
「え〜、なんか恥じいなぁ〜! えっとね、えっとね! まずは顔! あと性格も好き!!」
「……何ですか、そのペラッペラな答えは。あのぉ、もっと具体的に教えてくれますぅ? 好きになったきっかけにこそ、成就のカギが隠されているんですぅ」
「きっかけ〜? あ〜、あるある!! あのさぁ――」
規律とロコモコ浜田の「花臣ゲッチュー講座」が、白熱した盛り上がりを見せ始める。その一方で、会話に混ざる気も聞く気も一切ないラジは、二人の騒がしいやり取りをBGM代わりにして、頬杖をつきながらボーッとよく動く表情を眺めていた。
――ポコンッ。
そんなラジの左ふくらはぎに、机の下で何かが軽く当たる。察するに、先ほどから気持ちが溢れ出て止まらない彼女の足、およびその小さな靴の先であろう。
その足に呼ばれるように、ラジの視線も正面から左隣へ移る。
そこには、ゲッチューの「ゲ」の字にも興味がなさそうなパジュが、ジョッキの中で氷と果実がゴロゴロと揺れるミックスジュースを、目をキラキラさせながら不思議そうに眺めていた。
「ほぉえぇ〜」
その姿はまるで、小さい子供が初めて訪れた水族館で、ガラス越しに未知の生物と出会ったかのような、純粋な驚きとときめきに満ちていた。
「…………」
視線に気付いたのか、パジュはパタパタさせていた足をスッと止める。そして、ラジの前に置かれたアイスコーヒージョッキをじっと見つめ、小さな指先を向けた。
「ラジィ、これ飲んでみたい。ラジの、これ」
「……いいけど、自分の全部飲んでから人の飲めよな」
パジュってコーヒー飲めたっけ、という軽い疑問をよぎらせながらも、ラジはそのジョッキを彼女の方へスススッとずらす。
「おぉ~、まっくろけのけっけ」
右隣から届いた巨大なジョッキを両手でしっかりと掴み、こちらの真っ黒な水槽の中の生物をも鑑賞するかのように、パジュはガラス面へとグイッと顔を近づける。
一見すればいつも通りの淡々とした表情と尖った口先。それでも今日は、隠しきれない感情がその輪郭に淡くにじんでいた。
「こぼれるから、飲むならストロー使えよ」
ラジは目の前にあった規律の未使用ストローを手に取ると、袋を破ってジョッキにサッと挿す。だが、その言葉や動きに全く反応することなく、パジュは相変わらずガラス面の中をジッと見つめている。
「…………」
パジュの関心、そして自分のアイスコーヒーが当分戻ってこないことを察したのか。ラジは、丁度よく振られた話題に反応するように、再び白熱する『ゲッチュー講座』の方へと向き直った。
「なぁなぁ、黒瀬! 花臣さんの好きなタイプって、俺?! 多分俺だったよな?!!」
「あのぉ!! 好きなタイプが『ピンポイント浜田』なはずないですぅ!! あなた何ですか?! 自分を全盛期のタイタニック・ディ〇プリオだとでも思ってるんですかぁ?! だとしたら、興行収入2円ですぅ!!!! ねぇ、黒瀬くん?!」
「…………『ピンポイント浜田』って、ピン芸人にいそうだな」
「ちょっと黒瀬くぅん!!!?! あなたがそうだから、浜田くんがこうなんですよぉ!!!」
「……ッハハ、あいつはもともとそう――」
キリキリとまくし立てる規律に、ラジは珍しく柔らかい笑顔を見せる。他愛のない雑談を軽く流しながら、おもむろに目の前にあったソーセージにフォークを突き刺した。
それを口に運ぼうとした、まさにその瞬間――!
『ッボン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
凄まじい風圧と、心臓を揺らすような謎の波動。
一瞬、全員の髪の毛が爆風に煽られたように「ぶわっ」と逆立った。(なお、ワックスベタベタ男である浜田のみ、逆立ち維持中)
「「………………え?????」」
時が止まったかのような深い静寂の中、規律と浜田の声だけが、綺麗に響く。
全員が呆然とパジュの方を見つめる。
そう、そうなのだ。初体験のコーヒーのあまりの苦さに驚きに驚いたパジュが、あろうことかその反動で、右腕の細胞を『一瞬だけ』急激にパンプアップ(変異)させてしまったのである。
「……あ、あのぉ、今一瞬、テーブルにあのムッキムキの『ボブ〇ップ』がスライディングしてきたような……!?」
「……た、大群だぁ……! ボブ〇ップの大群がテーブルを駆け抜けたぞ…………!!!」
グリグリの目をこれでもかと言わんばかりにかっぴらき、青ざめていく規律と、今にも逃げ出さんとばかりにソファへ抱きつくロコモコ浜田。
二人の目には、パジュのパンプアップが巻き起こした凄まじい爆風により、一瞬だけ世紀末風味のムッキムキな何かの残像が見えたのだろう。
「…………」
…………ックソ!
一瞬だが、『あれ(変異)』を見られた! どうにか誤魔化すしかねぇ!!
……でも、どうする!? 何か方法を考えろ!!
コンマ何秒という速度で頭をフル回転させるラジ。ふと、その視界に自らの右手が映り込んだ。フォークに突き刺さったままの、薄茶色いソーセージ。
……これだ!!!!!!!!
パジュへと向けられた戦慄の視線を物理的に遮るように、ラジは持っていたフォークに刺さったソーセージを、二人の目の前へバッと突き出す。そして、マッハの速度で「八の字」に振り回した。
ブンブンブンブンブンブンブンブン!!!!!!
「「……………………」」
静けさが包む無の境地となったテーブルに、微かに鳴り響く「ブン……ブン……」という空気を切り裂く音。
「あぁ、それ、あれだ。ボブ〇ップじゃねぇ。俺の『ソーセージ・ブンブン』の残像だ」
真顔のまま腕以外は一切微動だにさせず、フォークにぶっ刺さったソーセージを全霊で振り回し続ける男。そして、そんな彼を見つめる死んだ魚のような目の男たち。
…………ブン…………ブン…………ブン…………
…………ブン…………ブン…………ブン…………
「…………」
……クソォォォォォ!!! 殺せぇぇぇぇぇ! いっそ今すぐ俺を殺してくれぇぇぇ!!!!
親戚からは『お行儀の良いラジちゃん』、学校では『クールなラジ』として生きてんだよ!!! 真顔でソーセージ乱舞を披露するために、この世に生まれ落ちたんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!
「……あのぉ、食べ物をブンブンするのは、本当にどうかと思います」
「黒瀬、さすがにそれはないぜ。……食べ物で遊ぶの、マジでやめな?」
ソーセージ・ブンブンの残像に無理やり納得したのか、はたまた生涯のトラウマともなりうる衝撃映像に対し、脳の防衛反応がそう思い込ませたのか。規律と浜田は、軽蔑すら混じった本気トーンで注意を促す。
一方そのすぐ隣で、この大惨事の張本人であるパジュは、「……にがい」と何事もなかったかのように目をギュッとつむり、ペロッと小さく舌を出していた。
「……あぁ、わりぃ。ソーセージにテンション上がっちまって……」
「……ったく、黒瀬くんは変なところではしゃぎすぎですぅ。あ、それで、その時花臣さんは何て言ったんですかぁ?」
「あ、そうそう! その時、俺に笑顔で『大丈夫?』って言ってくれてさ、あれは絶対に――」
規律の呆れ果てたため息を皮切りに、『花臣ゲッチュー講座』は何事もなかったかのようにまた白熱へと入っていく。
数分前の笑顔と盛り上がりが完全に引き継がれたことを、呼吸を止めたままジッと確認したラジ。彼は、もう誰も見ていないそのフォークを静かにおろし、ただ一人、『魂の演武』の幕を閉じる。
「…………」
……セーフだ。
どうにか、ごまかせた…………。
だが、その代償はあまりにも大きかった。
……マイライフ・ベスト・オブ・黒歴史、堂々の第一位入賞おめでとう。
俺は今日という歴史的奇行を、この先何十年も風呂場で不意に思い出しては、『うわぁっ!!!』と恥ずかしさで悶え死ぬことだろう……。
規律と浜田の楽しそうな笑い声が響く中、ラジは魂が抜けたように天井を見つめ、静かに絶望を噛み締める。
心地よく流れるジャズの調べも、周囲から聞こえてくる客の軽い談笑も。今の彼にとって店内を包むすべての音は、遠い異世界の出来事のようにぼんやりと響いている。
「…………」
……はぁ、何だこの気持ち。
あいつらに誤解されたことより、何よりも悲しいのは……咄嗟とはいえ、俺の中に、奇行のなれの果て『ソーセージ・ブンブン乱舞』の引き出しが存在していたということだ。
……もう帰りたい。布団の中で静かに、永遠に瞳を閉じたい……。
ラジの魂が彼方へと遠のくのと共に、騒がしい店内の喧騒も、すべてが薄い膜の向こう側へと消えていった。
***
「じゃ、また学校でな~! 第二回作戦会議は、明日の掃除時間ってことで!!」
「あのぉ!!! 掃除は掃除ですぅ!! そのお腐れ脳を漂白しない限り、第二回は有り得ないですからぁ!? あのぉ、分かりますぅ!!?」
第一回『おピンク花臣ゲッチュー作戦会議』が、主にラジの尊厳を犠牲にして無事に(?)終わり、ロコモコ浜田とギャースカうるさい規律の声を背に、それぞれが帰路に就いた。
ふと見上げれば、夕暮れの空に夜が溶け込み、黄色と紫が混ざり合う幻想的なグラデーションが広がっている。
度重なる心労と、己の『乱舞ポテンシャル』に疲弊したのか、無言で淡々と歩くラジ。その三歩後ろを、いつも通りパジュがトテトテとついて歩く。
背後から漏れ聞こえてくる「……ヒヒ、ヒヒヒ」という小さな笑い声に、ちょっとムッとしたような、照れた顔で振り返る。
「あのなぁ! そもそもお前のせいで、ああなったんだぞ?!」
「……ヒヒヒ。……ソーセージ……ヒヒ、ブンブン…………ヒヒヒ」
左手で口を必死に押さえながら、空いた右手で「八の字」を描き、あの『マッハブンブン』を真似するパジュ。
「………………もうお前とは、遊ばねぇ」
プイッと前を向くラジを追いかけるように、ニコニコ顔のパジュがトトトッと駆け寄って、横を歩く。
「……お前、もう外でコーヒー禁止な」
「あれ、まずい。あんな、まずいモノ、初めて」
「……モモック星にもコーヒーぐらいあんじゃねぇの?」
「コーヒー、ない」
「ふ〜ん。ってか、パジュもミルクさんも、たまに淹れてくれる紅茶以外、殆ど飲み物飲まねぇよな」
「モモック星人、ポーション(水分)、ほとんど摂らない、いらない」
「へぇ」
「「…………」」
ミーン、ミンミンミン――。
蝉の声だけが降り注ぐ、夏の夕暮れ。約二十九センチ差の影が、歩くたびに寄り添っては離れ、また寄り添っては離れながら、アスファルトの上でゆらゆら揺れている。
「……ラジィ」
その声に導かれるようにラジの視線が斜め左下へと移る。
「今日は楽しかった。来てくれて、あんがちょ」
いつも通りの飄々とした真顔。しかしその頬と突き出た口先は、どこか淡い色に染まっていた。そんなパジュを瞳に映し、何を思ったのか、また視線を前へと戻す。
「…………あと七杯、ちゃんと奢れよな」
柔らかくもぶっきらぼうに返すラジ。
すると突然、横を歩いていたパジュが、ぴょんっと二歩前へ飛び出した。そして、くるりと軽やかに振り返り、夕陽を背にラジを見つめる。
「…………またソーセージ・ブンブン、してくれるなら!」
えへへと肩をすくめて笑うパジュと、その提案に少しむくれた顔を見せるラジ。
本格的な夏の訪れとともに、二人の距離も少しずつ、けれど確実に縮まっていくのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
コーヒーの苦さに驚いたパジュの『ムキムキ(暴発)』を隠すため、クール男子・ラジが咄嗟に繰り出した奇行のなれの果て――『ソーセージ・ブンブン乱舞』。
マイライフ・ベスト・オブ・黒歴史の第一位を更新し、彼の尊厳は見事に木っ端微塵となりました……。
(ちなみに、喫茶竹は独身で絶賛彼女募集中だそうです。以下、ご本人からコメントを頂きました)
喫茶竹「僕は、結構尽くすタイプかなぁ。得意料理はタコスで、好きな食べ物はタコスです。飼ってるウサギちゃんの名前もタコスです! オールタコスです!」
【読者の皆様へ、ラジから切実なお願いです!】
「ソーセージ乱舞の体験教室は、どこから予約できますか?」
「卍家のぐにゃぐにゃエプロン販売希望!」
「俺/私の乱舞ポテンシャルも見てほしい」
……と、少しでもクスッとしていただけましたら!
ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】にし、ラジへの応援(※傷ついた尊厳への慰謝料)をお願いいたします!
ブックマークへの追加も大変励みになります!
皆様の応援が、ラジの黒歴史を浄化し、明日を生き抜く希望になります!!!
ここまで全15話の毎日投稿で、『パジュ魔魔』の濃厚もったり・ビキビキほっかほかな味は、十分に楽しんでいただけたかと思います!
今後は皆様の日常の楽しみとして長くお届けできるよう、【毎週 月曜日・木曜日の18:00】の週2回更新とさせていただきます!!
(待ってくださる方がいらっしゃるかは不明ですが……!お~~~~い!!!誰かぁぁ!!!ここに人がいまぁ~す!!!助けてくださぁぁい!新着の波に遭難してます!!!)
さぁ、次回の第16話は【木曜日の18:00】に更新予定です!
すでにラストまでの道筋は完璧に完成しております!
途中でバイバイ失踪(笑)することは絶対にありませんので、どうか安心してパジュとラジと手をつなぎ、最後まで一緒にゴールを目指してくださると最高に嬉しいです!
次回、第16話。
ついにあの「ブロンドロン毛異端児」が大暴れ……!?
木曜日をどうぞお楽しみに!!




