【凸凹くそアベン〇ャーズよ、おピンクの中心で愛を叫べ!】瞳孔バキバキ男は、ホコ天でブレイクダンスするくらい大迷惑ですぅ!?!!
前回のあらすじ:正体バレも通報もギリギリ回避! 激闘のショッピングモール(主に『BLACK♡AGEHA』)から無事に帰還した珍味大名行列こと、黒瀬一家。
どピンクなベロアとヒョウ柄に囲まれつつも、どうにか穏やかに週末を乗り越えるのであった。
そして始まる新たな一週間――と思いきや、『調子のり奇行種』ロコモコ浜田から濃厚すぎる恋愛相談を持ち掛けられるハメに!?
さらには新たな刺客(?)、瞳孔バキバキ・鼻息フシュフシュ男まで迫りくる!!
結成、戦闘力皆無の『凸凹くそアベンジャーズ』!
波乱必至の放課後寄り道タイム、果たしてラジは無事に帰宅できるのか!?
ぶっちぶちでびっきびきの第14話、どうぞお楽しみください!
「なぁなぁ、黒瀬! 俺と恋バナ、ラブトークしようぜ!!」
疲労と睡魔のピーク――地獄の終わりを告げる六時間目のチャイムと同時に、ワァッと活気を取り戻す教室。
各自おしゃべりしながらダラダラと机を後方へ押しやり、それぞれの掃除区域へと向かっていく中、一口目から濃厚すぎる話題を持ち掛けるロコモコ浜田。
ラジはそんな『う』と『ざ』と『さ』しかない男に一瞥もくれず、淡々と机を下げる。そして相変わらずの無表情で己の担当区域へ向かうべく、教室を出た。
「くぅろぉせぇ~! ラブトークだよ、ラブトーク!! 俺と熱いラのブのトークをしましょうってぇ~!」
ぴょこぴょこと後ろをついてきたロコモコ浜田は、ラジの肩へガバッと馴れ馴れしく腕を回し、楽しげに顔を覗き込んでくる。
「………………暑苦しいんだよ、離れろ」
「いいじゃん、黒瀬~!!」
そう言うと、目になにやら怪しげな光をともし、鼻の穴を地球ごと吸い込むブラックホールのような勢いでビンビンに広げる。そして空いた左手で口元を隠しながら、ラジの耳元でひそひそと囁いた。
「黒瀬さぁ、お前あのパジュちゃんと同棲してんだろ? ちょっとはそういう、おピンクな話とか聞かせろって! ったく、ラブトークで察しろよなぁ??」
「…………」
……はぁ、クソ野郎から奏でられるクソ質問だ。
クソすぎて否定する気さえもクソだ。とにかくクソ、トータル・オール・クソ。
ボスゴリラから放出されるビッキビキのホッカホカのもっりもりのクソだ。
ラジの脳内でクソのゲシュタルト崩壊が起きている中、ロコモコ浜田は能天気にニヤニヤと『クソの続き』を垂れ流し続ける。
「だってあの美少女、パジュちゃんと毎日同じ家で暮らしてんだぜ?! そんなんもう『おピンクの中心で愛を叫ぶ』じゃん?!!」
「…………どこの中心だ、それ。ってか、離れろ」
しょうもない『おクソ大放出』にとうとう痺れを切らしたのだろう。ラジはうんざりしたように肩の腕を払いのけると、パジュのためなのか何なのか、ロコモコ浜田の元野球部自慢のふんわりヒップに軽く蹴りを入れた。
「アッハッハ、っいてぇ!!! だってさぁ、あんな可愛い子と一緒に生活してんだぜ? お着替え中にドアガチャッからの『きゃー!』とか、お風呂場のドアガチャッからの『きゃー!』とか、なんかしらのドアガチャッからの『きゃー!』とかあるだろ普通??」
「…………」
……こいつ、ごちゃごちゃ改め、ガチャガチャうるせぇな。
こちとらドアノックからの『誰か入ってますか?』紳士文化、とっくに習得済みなんだよ!
ドアガチャ性癖野郎は、どこでもドアでも見て一生興奮しときやがれ!!!!!
「ねぇよ、そんなもん。大体、親父に爺さん、それにパジュの兄貴までいんだよ。お前みたいなドブ発想にもなんねぇよ」
「えぇ~? そんなもんかぁ? 黒瀬ちゃんったら、もぉピュア! ピュア! 俺だったら『きゃー』チャンス伺っちまうけ――」
全女子を敵に回すであろう、ドアノブ男から独自の『キャーチャンス理論』が世に放たれようとした瞬間。
一瞬にして『三枚目奇行種』から『二枚目奇行種』へと品格を上げたかのように、彼のおしゃれパーマの先はより一層クルンとつやっと輝き、瞳には愛くるしい光が宿る。
不浄な過去を全て洗い流したような『ちゅるちゅるキラッキラ純真オーラ』を放ち、ロコモコ浜田はフレッシュレモンのような声で再び言葉を紡ぎだした。
「黒瀬くん、今日は天気が良いね。何だか趣味の乗馬がしたい気分になるよ。なぁ、そう思わないかい? 黒瀬くん」
「…………は? なんだよ、いきなり。てか、てめぇ乗馬なんてし――」
言いかけたラジの視界の右端に、前方から渡り廊下を歩いてくる花臣紬の姿が映った。
友達と楽しそうに談笑しながら、教科書を胸に抱く彼女は、どこぞの三分カップラーメンのような『即席光』とは次元が異なる、まさに学年のマドンナらしい柔らかく清らかな輝きを放っている。
「…………」
……あぁ、そういうことか。
「あ、ラジくん!」
花臣がこちらに気づき、チリンっとガラス風鈴が響くような透き通った声でラジの名を呼ぶ。彼女は友達と別れると、こちらに手を振りながら淡い笑顔で駆け寄ってきた。
「あのね、さっき中岡先生が、ラジくんのこと探してたよ! 明日の一限の前に、なんか職員室に来てほしいんだって」
「中岡って、担任の方の中岡?」
「あ、ううん、世界史の中岡先生! ……って、私ったら紛らわしい言い方しちゃったよね? もぉ~ごめんねっ」
花臣はその笑顔をポワッと淡いピンク色に染め、教科書を抱いていた右手を少し恥ずかしそうに頬へと添えながら、体をもじもじと左右に揺らした。
その動きに合わせてゆらゆらと揺れる髪から、苺のような甘い香りがふわりと漂い、なんてことのない渡り廊下が、まるで少女漫画の一ページのように鮮やかに塗り替えられていく。
「あ、いや別に、紛らわしくはねぇよ。一応の確認。了解、ありがと」
小中の同級生という気安さからくる、ラジのどこか優しくも飾らない返事。それでも花臣は「役に立てて嬉しい」と言わんばかりの笑みを浮かべ、小さく「うん」と頷いた。
彼女はまた、ピュアピュア少女漫画の『ルンルンストロベリーオーラ』を大爆発させながら、小さく手を振って軽やかな足取りで去っていった。
「…………で、恋バナって、花臣のことか?」
苺の香りがまだ微かに漂う渡り廊下。
ラジは全てを察したかのように、花臣の視界に一ミクロンも入っていなかったであろう『放置・即席ボーイ』の立つ左側をチラッと見る。
「はぁ……もう好きじゃん? 絶対好きじゃん? 花臣さん、俺のことストロベリーラブしてんじゃん?」
花臣が消えた瞬間に過去の不浄を全て取り戻した三枚目男、ロコモコ浜田が、困った風を装いつつもウォータースライダーのように伸びた鼻の下を隠し切れず、口を開く。
「…………そう見えたか?」
「だってあの香り……俺の中二からのお気に入り、『インド産苺100%使用:ガンダーラストロベリーシャンプー』だぜ? もぉ〜、絶対真似じゃ~ん、好きじゃ~ん、フォーリングじゃ~ん」
「…………」
……なんだそのカレー臭漂うシャンプーは。
しかもインド産の苺ってちょっと質悪そうだな、おい!(インドのイチゴ農家さん、ごめんなさい)
ックソ、「そんなわけねぇだろ」と秒で断言したいところだが、あまりにマニアックすぎるシャンプーの一致に万が一……いや、そう……なのか? と無駄な不安にさせてくれやがる!!
「やっぱさ、ここは俺から『愛の確定申告』すべきだよな? あんなガンダーラアピールされて待たせるってのも、あれじゃん? やっぱここは、インドの名にかけて、やるしかねぇよな?」
「…………」
……そのシャンプー、使うの速攻やめろ。頭皮からインドが脳に染み溶けてやがる。
インドの名にかけんな、てめぇはインドの何なんだよ。せめて『じっちゃん』だろ。
「…………掃除、行くぞ」
一体何からどうやって伝えるのが優しさなのか。自らの無力さを痛感したラジは、静かに頷くと、ロコモコ浜田を後ろに引き連れ、己の掃除区域である校舎裏の中庭へと淡々と向かった。
***
ザッ、ザッ! ザッ、ザッ!
竹ぼうきと乾いた土、そして砂利が擦れ合う一定の音が響く、中庭。
「なぁ、なぁ、これだとちょっとガンダーラみが少ないか? もっとこう、シタールを奏でるような情熱的な腕の動きで……」
ロコモコ浜田の、もはや何が正解か分からない『告白シミュレーション』を完全に無視して、ラジは黙々と竹ぼうきを動かす。
「あ、パジュちゃん!」
隅にある初夏の花壇。七分咲きの向日葵が並ぶその前で、ちょこんとかがみこんで何かをじーっと眺めているパジュを発見するや否や、ロコモコ浜田は大型犬のような弾ける満面の笑みで駆け寄っていく。
「パジュちゃん! パジュちゃん! ちょっとヘルプヘルプ!」
振り向かざるをえないボリュームの呼びかけに、チラッと左に顔を向けるパジュ。
「あのさぁ、パジュちゃんって花臣さんと仲良いじゃん? 花臣さんから俺の話とか聞いてない?!」
パジュは一瞬、向かってくるロコモコ浜田を認識したものの、そやつを透過するように奥のラジへと視線を送る。そして何かを指差すと、再び花壇へと向き直った。
「ラジ。黒い、ごま」
「パジュちゃん、パジュちゃん! ほら、なんかこう? ……フォーリン的な? 話とかあったらなぁ~って! 俺から始まるラブに合わせてっ! パジュ、よん♪ ラブ、ラブ、ラブ、ラブ! みたいなさぁ~!!」
「…………ラジ、こり、生きてる? ぞろぞろ、ぞろぞろ、動く」
「ほら、ほら、俺とパジュちゃんの間じゃん? そういう情報を俺にウーバーおピンクしてほしいわけぇ~!」
彼は歩み寄った流れのまま、ちょこんとしゃがみこんでいるパジュの横へドカッとガサツなヤンキー座りで陣取ると、目元にピースをあてて「てへっ☆」と彼女を見つめた。
不純物の塊から発射されたものとは思えないキラッキラの笑顔に、渾身のウィンクまで添えたロコモコ浜田の『濃厚おピンクキメ顔』。
「…………」
淡々とした真顔がデフォルトのパジュ。彼女はまるで寄ってきた蠅を嫌悪するような顔で眉間にしわを寄せ、極めて下品な何かを見るようにしらっと左を見るや否や、すくっと立ち上がった。
そして、その何か(ロコモコ浜田)を完全に素通りし、一目散にラジの元へと駆けていく。
「ラジィィィィ! 黒ごま、わーの靴に乗った! 見て見て!!!」
「…………」
……いや、めっっっっっっちゃ無視!!!!!!!!!!
おい、あの不快ピンク蠅だって生きてんだよ! 俺らと同じ血の通った人間なんだよ!!!
ちょっとくらい、視界の隅にいれてあげたっていいじゃねぇか!!!!
ほら見ろ、てへっと出した舌がカッピカピに乾いて路頭に迷ってんだろうが、可哀想に!!!
ひっこめろ、もうひっこめていいんだ、浜田! こんな所で舌を犬死にさせるな!!!
「……それ、ごまじゃなくて蟻な」
目の前で大きな笑顔を見せるパジュと、その奥の花壇で、ウィンクした目からダイヤをこぼし微かに震えているロコモコ浜田の背中。
ラジはその哀れな背中を見やってから、手前のパジュへと視線を戻し、静かに諭した。
「蟻っていう昆虫だよ昆虫。……ってか、あいつの質問にも答えてやれよな」
彼がそう促すと、パジュは聞こえるか聞こえないかくらいの声で、「……ケッ」と毒を吐いた。一瞬にして目から光が消え失せ、半開きの真っ黒な瞳で、ギギギ……とロコモコ浜田の方へ首を向ける。
「…………で、なんスカ?」
「…………」
……なんだその態度! バイト飛ぶ三日前の金髪大学生か!!!!
店長の「お疲れ! 今日暑いね~」っていうコミュニケーションさえも冷たく払いよける、あいつらか!!!
店長だってたまには雑談したいんだよ!!! バイトの笑顔が見たいんだよ!! お前の「あざっす」一言で救われる夜があんだよ!!!
ラジの心の中でこだまする絶叫とは裏腹に、当のロコモコ浜田は、パジュがこちらを振り向いてくれたことがさぞかし嬉しかったらしい。
彼はすっかり立ち直り、「それでさぁ~」と一歩も前進していない話の続きを弾き語るように、ずかずかとこちらへと歩いてくる。
「いやぁ〜、恥ずかしい話なんだけど、花臣さんって、その、俺のこと? なんか言ってなかったかなぁってさ!」
「アー、キオクニゴザイマセン」
「えぇ~? ほらぁ、この前とかさ二人で『かっこいいよね~』みたいな話ししてたじゃん?! あれって、やっぱ俺のこと!? なぁ、なぁ??」
「アー、キオクニゴザイマセン」
「いや、だって、この前もふた――」
「アー、ナーツヤスミー」
「…………」
……あいつ、世界一便利な『謝罪会見中の政治家』ムーブかましてやがんな!?
(あと最後はなんだ、『あーチャンス』使ってTUBEるな)
一気に三歳児に戻る驚異の記憶力と圧倒的なふてぶてしさ! あのムーブ出されちゃ、もう常人は手も足も出ねぇぞ……。
編入初日にラジをからかわれたことを未だに根に持っているのだろうか。ロコモコ浜田の質問を一向に鼓膜へ落とす意思がないパジュと、そんな彼女に押されつつも驚異的なポジティブハッピーマインドで食らいつく浜田。
そんな大荒れ記者会見をどうにか丸く収めようとラジが言葉を発しかけた、その瞬間。
鼓膜をキリキリと突き刺すような、高圧的でねっとりとした怒号が背後から飛んでくる。
「あのぉ!!!!!! ちゃんと掃除してもらっていいですか!?!!! あのぉ、風紀委員として、本当に迷惑なんですけど!!!!」
もう一人の中庭掃除担当であり、同じクラスの風紀委員でもある規律守が、堪忍袋の緒が切れたとばかりに、物凄い剣幕と鼻息でこちらへ向かってくるではないか。
「あのぉ、いい歳して遊ぶのは恥ずかしくないんですか?!! あのぉ、ずっと迷惑ですぅ!!! 本当に迷惑ですぅ!!! あのぉ、迷惑迷惑迷惑ですぅ!!!」
規律は栗色のサラサラお坊ちゃまヘアを風になびかせ、これ見よがしに「クイクイッ」と眼鏡を押し上げながらズンズン詰め寄ってくる。
極度の遠視なのだろうか、ねっとり口調とは相反する可愛らしいルックスを不気味に覆う、牛乳瓶の底のように分厚い魚眼レンズ眼鏡。
そのレンズの奥では、チャームポイントであるはずのくりくりお目が、沸騰するようにギョロギョロと血走っていた。
「あぁ、ごめ――」
「あのぉ、言い訳は迷惑ですぅ!! あのぉ、謝罪も迷惑ですぅ!! あのぉ、さっさと手を動かしてください! あのぉ、掃除時間は、あと七分四十五秒しかないんですぅ!!」
「…………うん、だからごめ――」
「あのぉ!!! 迷惑ですぅ!!!!!!!!!!」
「…………」
……いや、聞け。掃除はごめん。でも聞け。謝罪は聞け。最後まで聞け。お前が一番迷惑だ。
「規律くん、ごめん麵ゴリラ☆」
下から凄みを効かせて睨みつける規律と、その『ハイパワーまくし立て』を正面からモロに喰らい、面倒くささの極致といった顔で若干うなだれているラジ。その間に、謎のまずそうな麺で謝罪しながら、ロコモコ浜田が陽気に割り込んでくる。
「ちょっとばかし恋バナで盛り上がっちゃってさぁ~! あ、規律くんは、そっちの方面どうなの?! 好きな人とかいない系? いる系?? あ、花臣さんはダメだよ俺の~! マイン~!」
ロコモコ浜田が、いつもの調子でパーソナルスペースゼロの馴れ馴れしさを発揮し、規律の頭上からガバッと、無邪気に肩へ腕を回す。
「あのぉ、もしかして掃除中に恋の話ですかぁ?!!!」
「…………」
……あぁ、浜田の野郎、余計なこと言いやがって。
また掃除しろだのなんだのって、キンキン声で怒鳴られるだろうが。
「規律、ごめん。さっさと掃除して戻――」
「あのぉ、恋バナ! 僕大好きですぅ!!!!!!!!」
先ほどの怒りはどこへやら。バキバキに血走っていた目を一瞬にして輝かせると、規律は持っていた竹ぼうきを躊躇なく後ろへぶん投げる。
「………………」
これ見よがしに胸ポケットから生徒手帳を取り出すと、中から『全人類をそこはかとなく不安にさせる濁りどす紫ピンク色』のカードを抜き出し、勢いよくバッ! と頭上に掲げた。
「僕『恋愛アドバイザー1級』の資格持ってますからぁ!!! 学生の本分は学業と恋愛だと思いますぅ!」
さぁどうぞ見て下さいと言わんばかりに天から下ろされた誇らしげなその資格証を、ロコモコ浜田とパジュが左右から興味津々に覗き込む。
「うわぁ~!! すげぇ!!! 規律っち、恋愛マスターじゃん! 銀座の母ならぬ、恋愛の眼鏡じゃん!!」
「…………しゃしん。こり、変な顔」
「………………」
……浜田、もっと良い例えあっただろ。視力の悪い恋愛中の人は、大抵『恋愛の眼鏡』だ。
あとパジュ、そこはいじってやるな。この国の証明写真は全部呪われてんだ。
どんな最高コンディションで挑んでも、必ず人生最悪ショットが撮れるっていう、現代科学でも証明できない謎のシステムなんだよ。
「あのぉ、僕が浜田君の恋、成就させてあげてもいいですよ? ここで会ったのも何かの運命、規律一級アドバイザーの腕、見せて差し上げましょう」
顔の横で資格証をピラピラと揺らし、さぞかし得意げなおすまし顔の規律。
そして思いもよらぬ珍味仲間を手に入れたロコモコ浜田は、「おぉぉぉ!」と感涙せんばかりに目を光らせている。
その横では、状況など一切理解していないであろうパジュが、規律の呪われた証明写真にすっかりツボったのか、彼の右手にあるカードを見つめてはうっすらとニヤついていた。
「規律っち! 最高じゃん、今日からマジマブな、俺ら!! じゃ、早速、規律アドルバシザー先生! 俺のラブリーロードのお手引きお願いしたいっす!!」
「いいでしょう。……あと、アドバイザーです。なんですかアドルバシザーって。誰ですかそれ」
マジマブ結成わずか一秒。ラジの目に早くもチームの序列がはっきりと見えたのも束の間、規律は魚眼レンズをグイッと押し上げ、左から順にラジ、パジュ、ロコモコ浜田の顔――――ならぬ『メンバー』を確認していく。
「じゃあ、早速、今日の放課後、僕のお気に入り喫茶で、作戦会議ですぅ! では、全員集合するようにぃ!! 以上、解散!!!!」
そう言い放つとクルッと背中を向け、投げ出された竹ぼうきの元へスタスタと歩いていく。
「…………いや、俺は遠慮しと――」
「あのぉ!!!!!! 以上!!!! 解散ですぅ!!!!!!! 迷惑ですぅ!!! 掃除してください!!! あのぉ、迷惑迷惑迷惑ですぅ!!!!」
ラジが今晩のサッカー中継を考慮し、民主主義の基本たる自由意志を行使しようとした瞬間。規律は分厚いレンズの奥で瞳孔を限界までブチ開き、バチバチに充血させた目をひん剥いて、ドタドタと物凄い勢いで再びラジに迫りくる。
真っ赤になった顔から「フシュー……フシュー……」と漏れる鼻息は、今すぐ掃除に取り掛からぬ不届き者を直ちに爆破せんとする、時限爆弾のようだった。
「…………了解」
……クソ! こいつ俺にだけ当たり強すぎんだろ!!!
てめぇこそ、二十一世紀キングオブ迷惑・しょうもな検定・半目写真男だ! ボケェ!!!!
放課後は速攻で自宅へ帰ることを断固として心に誓ったラジ。
そんな彼の地を這うような静かなる怒りをよそに、中庭には鼓膜を劈くようなねっとりとした怒号が鳴り響く。
歓喜や怒り、期待とときめき……様々な思いが交差する中、残り五分というタイムリミットに向け、各自はようやく掃除へと取りかかる。
***
「あのぉ、竹ぼうきはそう掃くんじゃなくて、こうですぅ! こう!」
「規律っち、きび~! きびだんごすぎて、桃から産まれた竹ぼうき侍じゃ~ん☆」
つい数分前、『竹ぼうきぶん投げ事件』をかました主犯者こと、前科持ち風紀委員から、なぜかきつめのご指導を受けているロコモコ浜田。
みずみずしい桃から産まれるはずのない、なんかチクチクしそうな童謡キャラ(竹ぼうき侍)が爆誕しつつある――そんな騒がしい光景をよそに、ラジは少し離れた木陰のベンチ付近を気だるげに掃いていた。
吹きっさらしの中庭。そこには葉っぱや砂利に混じり、飴玉の包み紙や紙パックのストローといった、いかにもなゴミが数多く落ちている。
それらを淡々と掃き寄せているラジの視界の左端に、自分のではない竹ぼうきの先がスッと入り込んできた。
「…………」
ふと顔を上げると、そこには不器用にほうきを動かしながら、「いかにも真面目に掃除しています」という顔で、じりじりと距離を詰めてきたであろうパジュがいた。
「……ラジィ」
両手で竹ぼうきをギュッと掴み、規律に気づかれないようチラチラと横目で確認しながら、小声でひそひそと話しかけてくる。
「なんだよ。ほら、さっさと掃除しねぇと、また怒鳴られるぞ」
「わーもその『きさてん』行ってみたい」
「……きさてん? ……あぁ、さっきの」
ベンチの脇に置いたちりとりを拾い上げながら、つい先ほど規律の口から放たれた、『作戦会議』という名のぶちギレ強制連行の記憶を呼び起こす。
「行ってこいよ。お前もしっかりメンバーに数えられてたし、浜田も規律も喜ぶだろ」
「……わーも行きたい、行ってみたい」
「ん、家に伝えとく。夕飯までには帰ってこいよ、親父が心配すっから。あ、俺ちりとり持つわ」
「…………わーも行きたい」
「いや、だから、誘われてんだって」
まったく噛み合わない会話。
そして何より、一向に動かないパジュの竹ぼうきを催促するように、ラジはしゃがみ込んだまま、視線を足元のちりの山から彼女の顔へとゆっくり引き上げた。
彼の目に映ったのは、いつもの『内弁慶シリーズ』とは異なる不満げに突き出た口先と、餅のような頬をうっすらと赤く染めたパジュの姿。
伏せられた瞳には何か言いたげな光がうるっと輝き、竹ぼうきの柄を握る手さえも、主の心と連動するかのように、もどかしげにもじもじと動いている。
「…………えっと、一緒にこいってこと?」
温度はないが、どこか口当たりのいい柔らかさが滲むラジの問いかけ。
パジュの心もとない表情を見つめ、彼から小さなため息が漏れる。
それを「呆れられた」と感じ取ったのか、彼女は不満げに尖らせていた口を少しだけ緩め、ぽつぽつと言葉をこぼし始めた。
「……だって、『こい』の話しとか、『さくせん』とか」
「……うん」
「その、『そうだん』とか……」
「……うん」
「その、その……わーも、しちみたいもん……」
「…………」
静かに落とされる言葉を拾い上げ、丁寧に紡ぐような温かいラジの相づち。
その一本の糸を脳内で手繰り寄せるように、彼の意識は音のない深い所へ、ゆっくり沈んでいく。
……パジュがモモック星でどんな生活をしていたのか、俺は詳しくは知らない。
別に聞いたこともないし、特にあいつから話すこともない。
……まぁ、あっちではあっちで、それなりに楽しくやってたんだとは思うけど。
でも、第四王女だの、変異能力だのって……もしかしたら、こういう『学校』とか『普通の放課後』とか、みんなで『寄り道』みたいなこととは、随分遠い所にいたのかもしれない。
それに国王選抜とか言ってたし、あいつにはあいつなりの事情ってもんがあんのかもな。まぁ、多分だけど……。
「……ラジィ?」
思考の主であるパジュの声に意識を浮上させると、ラジはすくっと立ち上がり、彼女が持っていた竹ぼうきをスッと手に取る。
そのまま残りのゴミを素早く掃き集めると、二本分の竹ぼうきとちりとりを無造作に掴み、無言でスタスタと歩き出した。
「……」
その様子をただジッと眺めていたパジュ。
やがて諦めたのか何なのか。遠ざかっていく背中を力なく見つめたあと、しゅんと俯き、彼の向かう掃除用具入れへとトボトボついていく。
「……俺の飲み物代」
不意に足を止めたラジは、少し離れた後ろを歩いてくる『小さな生物』を、気だるそうに軽く振り返った。
「パジュ、お前がおごれよな」
めんどくさそうに少し眉をしかめながらも、どこか柔らかいラジの横顔。
それが視界に映った瞬間――彼女の顔には、花壇の向日葵にも負けない満開の笑顔がパァッと咲き誇った。
「ん!!!!! 八杯まで!!!!」
「フッ、そんな飲まねぇよ」
元気よく飛び出した声と右手の三本指に、ラジが思わず吹き出す。
彼女はなぜ笑われたのか、その意味までは理解していないようだったが――ラジが笑ってくれたこと自体が嬉しいらしく、「ひひ」と肩をすくめ、綿菓子のように甘く溶ける笑みを浮かべた。
「ったく、ついてきてほしいなら、最初っから素直にそう言っ――」
「あのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
二人の間に流れていた静かな、そして着実な心の歩み寄りを、規律の『血走り眼バッキバキ怒号』が無慈悲に断絶する。
前科をもろともせず、どこかの戦闘民族ともサシで戦えそうなほどの速度で竹ぼうきを激しくぶん回したまま、片手でこちらをビシィッと指さすバッキバキ規律。
「あのぉ!!!! 掃除してくださぁい!! あのぉ、迷惑ですぅ!!! ホコ天でブレイクダンスするくらい大迷惑ですぅ!!!!!!!」
あろうことか、風紀委員にあるまじきアクロバティックな猛ダッシュでこちらへと迫ってくるではないか。
「…………こっわ。あいつ、魔魔の第三候補、決まり」
「………………」
キーンコーンカーンコーン!
「お~い! チャイム、チャイム☆ さっさと戻って、みんなでおピンク喫茶にかちこもうぜぇ~!!」
ルンルンの浜田と、しれっと第三候補を決めたパジュ、そしてついさっきまで迫り来ていたぶっちぶちのブンブンの規律。
チャイムの音につられるように、各々が道具をテキパキと片付け、三人はそそくさと校内へと向かっていく。
敵どころか、もはや竹輪にすら負けそうな寄せ集め――『凸凹くそアベンジャーズ』の背中を、ラジは一人静かに見つめていた。
その目には覚悟と絶望、そして虚無が入り混じった複雑な色が浮かんでいた。彼には、この面子で迎える数時間後の悲劇が、すでに見えていたのであろうか。
前代未聞の『おピンク花臣ゲッチュー作戦会議』が、今ここに幕を開けようとしている。
果たしてラジは、己の尊厳、そして精神を保ち、パジュを連れて無事帰宅できるのであろうか――。
(第15話に続く)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ついに二年五組の風紀委員、規律守が登場しました!
高校生にして二級でも三級でもない『恋愛アドバイザー1級』の資格を持っているとは驚きですね(笑)
ちなみに規律くんの恋愛観は、なんと韓国ドラマ『冬のソナタ』で培われたものらしいです。
生徒手帳にはヨン様のブロマイドを忍ばせ、お弁当には必ず「韓国のり」を常備。
そんな彼ですが、証明写真を撮る時は胸に手をあて、渾身の『ヨン様スマイル』を意識しているのだとか。
余談ですが、一年生の時のクラスは、ラジとロコモコ浜田が「三組」、ピ川と規律が「一組」、花臣は「六組」だったそうです。
【読者の皆様へ! ラジから切実なお願いです】
「おピンクの中心で愛を叫んでみたい」
「あ、俺もこの前好きな子にスルーされて『放置・即席ボーイ』だったわ」
「親戚がインドでイチゴ農家している」
……と、今回少しでもクスッとしていただけたそこのあなた!
ラジのすり減った精神力への回復アイテムとして、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】にして応援していただけないでしょうか!
皆様からの【ブックマーク追加】や【評価(★)】が、作者とラジの何よりの励みになります!
次回、『凸凹くそアベンジャーズ』と行く放課後の恋愛作戦会議!
波乱の喫茶店編も、どうぞお楽しみに!




