【迷子のローマロン毛27歳をギャルから隔離せよ!】俺の中にあるはずもない『イケナイ太陽(平成魂)』が、なーなーなーなな、なーななーしちまう……!!!!
前回のあらすじ:浴びせられる視線と黄色い声援の中、意外にも平和にお買い物を楽しむ『黒瀬家発・珍味大名行列』のご一行。
ついに目的地である日用品店舗へと到着したのも束の間、なんと圧倒的地雷男こと、ロマハラ継続中のナルシネスがいない!?
彼の一挙手一投足により、明日の朝刊(三面記事)へのカウントダウンが開始された今。
『確保』という二文字を決心した一人の男、黒瀬ラジが駆け出す!
果たして、ローマ奇行男はどこにいるのか?
えっ? まさかあのギャルファッション専門店『BLACK♡AGEHA』に……!?
モモック星の第一王子・ナルシネス×ギャル。
う〜ん、これは濃厚な胃もたれコース確定か!?
怒涛のお買い物編・後半戦、どうぞお楽しみください!
クソったれがぁぁぁぁぁ!!!!!!!
土曜日の昼下がり。穏やかなショッピングモールを、宿敵にとどめを刺しに行くかのような鬼の形相で全力疾走している高校生男子が一人。
すれ違う初々しいカップルや、『幸せの象徴』を絵に描いたような家族連れが、街中に突如現れた野生の猿でも見るかのようにサッと目をそらし、爆走鬼のために無言で道を空けていく。
周囲のウィンドウを眺めながら、キーピング・スマイルで練り歩くのが基本のショッピングモール。そこをマッハの速度で爆走する、『機関車トーマス』ならぬ『暴走機関車ハンーニャ(般若)』が突撃してくるのだ。
人里に降りてきた野生の猿並み――いや、それ以上に危険な存在だと認識せざるを得ない。
――ッッッシュシュシュシュシュッ!!!!!!
「…………」
……クソ、あいつどこ行ったんだよ!!!
羞恥心!? そんなもん、あのシーツと一緒に捨てたらぁ!!!!!
こっちは黒瀬家存続の危機にさらされてんだよ! ホストファミリーの責任感なめんなぁぁぁぁ!!!
一秒でも早くローマロン毛を捕獲するため、火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか、人ならざる速度と持久力でショッピングモールの1階を爆走するラジ。
ナルシネスが何かをしでかした瞬間、このモールの平和は終わり、ひいては自分自身の、そして黒瀬家の社会的死――『明日の新聞の一面』が、着実な足音を立ててこちらへ迫ってきているのだ。
「……ハァ、ハァ、ハァ」
機関車ハンーニャの出発地点である一階の東奥フロアから、真逆の西奥フロアまでを全力で駆け抜けるも、そこにローマの欠片すら見当たらない。
結局、ラジは先ほどのショッピングモール入口付近へと舞い戻ってきていた。ガクッと両膝に手をつき、爆走の疲労から激しく肩で息をしている。
「……ハァ、ハァ」
……一階のメイン通路にはいねぇ。
ってことは、一店舗ずつ入って確認するしかねぇか……。
クソッ、タイムロスだが、一番確実な方法で――
独自展開中の『踊る大捜査線~ローマシーツ封鎖できませぇん!~』を地道なローラー作戦へと切り替え、再出発に腹をくくり、顔を上げた瞬間。
「キャハハハハ! ナルピーナッツ超ウケる☆ マジ神なんだけどぉ~!」
「私を神と崇めるとは。汝よ、グッド&グッドグッドチョイスだ☆」
ラジの頭上。広大な吹き抜けの空間を伝って、聞き覚えのある凛とした――そして、反射的に激しい憎悪を覚えるほど妖艶な男の声が、朗々と反響した。
その声の発信源である二階フロアを、バッ! と見上げる。
するとガラス張りの手すりの向こう側に、見間違いようのない『シーツ親善大使』の姿が。
ブロンドの長髪をなびかせたナルシネスが、よりによってショッキングピンクのネオンがギラギラと輝くギャルファッション店の店頭で、金髪の店員と何やら親しげに立ち話をしているではないか。
「…………」
……なにやってんだよ、あいつ!
てめぇは街灯に群がる虫か!! 同じ金髪に引き寄せられてんじゃねぇよ!!!!!
体の底からグツグツと溢れ出す憎悪を奥歯で噛み殺し、ラジはあの忌まわしき『天然と加工のゴールド聖地』へ向け、目の前のエスカレーターを二段飛ばしで駆け上がった。
***
ズンッ、ズンッ、ズンッ――♪
腹の底に響く重低音のBGM。
思考と視界を容赦なくかき乱す黒とピンクのコントラスト、そして狂気的なまでに敷き詰められたヒョウ柄。
そこは、誰もが想像する『平成』を今なお現役で生産し続けるギャルファッションの絶対的聖域――『BLACK♡AGEHA』。
店頭から十メートル先まで漂う、むせ返るほど重く甘いムスクの香り。それが強固な結界となって、一般人――非ゴールド(非ギャル)の侵入を全力で拒む。いわば、この街における「不可侵領域」だ。
「ナルピーナッツ、がちウケ☆ってか、それどこだよ!」
「ふぅん、まぁ、ここまでなら『飛ばせば』ジャスト五分圏内ってところかな」
一体、どの次元のどこを何に乗って移動した話をしているのか。
あだ名を付けられた本人も、まるで「自分の名前は昔からピーナッツでした」と言わんばかりの涼しい顔で、その呼び名を受け入れている。
ダダダダダダダダッ!!!!
「っおい!!!!!!!!! クソシネス!!!!!!!!!!!!!!」
いつの間に店員との友好をさらに深めたのか、先ほどの店頭よりも更に奥深い、店員の陣地である『レジ前』で談笑している二人。そんな彼らを食い止めるように、ラジはムスクの強固な結界を物理的にぶち破って突入した。
「……はぁ、はぁ、どこ……ほっつき歩いてんだ、てめぇ……!!」
エスカレーターの二段飛ばしと高速ダッシュによる酸欠、そして何より、最悪の事態(社会的死)を免れた安堵からか。ラジはガクッと両膝に手をついて激しく肩で息をしながらも、憎悪を煮詰めたような眼でシーツ男を下から睨みつけた。
「…………」
「……えぇ~? なになに、弟? ってか超イケメンじゃん!」
一瞬の沈黙ののち。ラジの放つドス黒い威圧をあっさりと粉砕したのは、キンッと甲高く、カラッとした晴天のような声。
その主に引かれるよう、彼の視線がもう一段階上がり、シーツ男の肩越し――その奥、レジ台の向こう側を捉える。
「え、待って待って、弟、超メロじゃん☆ ナルピーナッツが王子系なら、こっちはクール系? っつっても全然似てないけど~! 弟くん、日本人感つよみ~」
レジ台に頬杖をつき、しゃがみ込むラジを見下ろしているのは、縦巻きロールの金髪を揺らす『絶滅危惧種』のギャル店員。健康的に焼けた肌に、こぼれるような真っ白な歯。そして瞬きのたびに、まぶたに乗った大粒のラメが、バブリーな夜を連想させるほどキラキラと跳ねている。
店内にはゲスピーナッツ(ナルシネス)以外に客はおらず、保護対象生物の甲高い笑い声と、豪快に手を叩くたびにぶつかり合う長い付け爪の、カチカチとした乾いた音だけが響き渡っていた。
「…………」
……あのイカれミンチロン毛、なんちゅう場所でご休息楽しんでくれちゃってんだよ!!
にしても、すげぇ所だな……。
ックソ、なんでだ……! 俺の中にあるはずもない『イケナイ太陽(平成魂)』が、なーなーなーなな、なーななーしちまう……!!!!
「ねぇ! ねぇってばぁ! お~い、ピーナッツ弟!」
「……っ、あぁ。えっと、その、俺たち別に兄弟じゃないんで」
ギャル店員の呼び声に、強制的に意識を平成の彼方(ムスクとネオンの翻弄)から引き戻されたラジ。そして、隣で「ほぉ☆」と興味津々にレジ台横の洋服を物色し始めるナルシネスを横目に答える。
「えっと……この人は海外からの留学生で、うちでホームステイしてるって感じ、と言いますか」
「あ、ガチ? ってかどこ出身って聞いたら『モモック星』とか答えんの! マジウケるんだけど! しかも第一王子らしいよ? 設定高貴すぎて草。ファッションもキャラ守ってて、リアル泣けるんだけど☆」
ナルシネスの言動がすっかりツボなのか、蝙蝠の翼のような真っ黒のつけまつげをバサバサと瞬かせ、大きく手を叩くミラーボールガール。派手な化粧の奥にある柔らかい表情をくしゃくしゃに崩し、ケタケタと無邪気に笑っている。
「…………」
……あんにゃろ、何勝手に正体ほざき散らかしてんだよ。
正真正銘、星の第一王子が、『ハロウィン調子乗り・仮装男』みたいな痛キャラ扱いされてんじゃねぇか!(……あとなんだ、ピーナッツ弟って。)
……フゥ、まぁいい、落ち着け。
まずはここを適当に誤魔化して、一刻も早く退散するのが先決だ。
「……あぁ、モモック星ってのは、モンゴルのことっすね。この人、モンゴルの奥地出身なんで」
いつも通りの無表情で、淡々と事態の収拾(大嘘)にかかるラジ。『留学生だからまだ日本語が不自由』という設定を、ここぞとばかりにフル活用しようという魂胆らしい。
「あと、あっちで開かれた『ヤギの乳搾り大会』の初代王者らしいっすよ。それで自分のことチャンピオン、『第一王子』って呼んでるっぽいっす。彼、まだ日本語勉強中なんで」
「モンゴル? でもナルピーナッツ、朝青龍み全然なくない? どっちかっていうとローマ系っつーか、走れメロス的な?」
「…………」
……クソッ、モモックの『モ』につられて『モンゴル』にしたのは安易すぎたか。
誤魔化そうにも、あいつの風貌がアジアンビューティー路線をぶった切るローマ特急すぎんだよな……。
……いや、乗り切れ! 乗り切るんだラジ!
ここさえ突破すれば、あいつはただの『モンゴル出身のキテレツ留学生』として処理できる。
目の前のこの店員さえ丸め込めば、あとは静かに退散するだけだ……!
「…………ハー……フっすね、ハーフ! モンゴルと、ローマの!(まぁ、正確に言えばモンゴルとイタリアのだが)」
「あぁ、ハーフ!? 朝青龍とメロスのハーフね!!! マジ最強じゃん☆ モンゴル人ばりイケメン~♡」
「…………」
…………の、乗り切ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
なんか歴史と格闘技の『異次元ビッグカップル』が爆誕しちまったが、どうにか乗り切ったぞ!!!!!
よし、よし、よし! いいぞ、いい流れだ!
『メロス要素が強すぎるモンゴル人ハーフ』という無茶苦茶な設定で、どうにかご納得いただけた。
あとは適当にさよならして、このムスク結界を突っ切るだけだ……!!
「何をごちゃごちゃ言っているのだ、干し芋男よ」
近場にあった服の物色に飽きたのか。
ナルシネスはラジの涙ぐましい隠蔽工作(努力)など微塵も聞いていなかった様子で、怪訝そうな声を放ちながら、ひらりと元居た場所――レジ台とラジの間に戻ってくる。
「干し芋? えぇ~なになに? 名前、ポテト系? どゆことすぎんだけど~☆」
店員が日本に未だかつて存在しない『乾燥ポテト系ネーム』に食いつく。
「ちょっと〜!ナルピーナッツ、説明求む~☆」
「ふぅん、この男は、我が妹の魔_」
撤退モードから一転、店員の興味が再加熱する。ましてや、この状況で最も厄介な誤解を生み、ギャルの妄想が大暴走するであろう『魔魔』――もとい、『ママ』という危険な単語の片鱗が見え隠れした瞬間。
「……し、しんゆう!!!」
ラジは脳の全細胞を高速回転させ、ナルシネスがその単語を完全に発するコンマ数秒前に、この窮地を脱するための『ハッピーハッピー苦し紛れ解答』を叩き出した。
「……モンゴル語で『ホスィ・モ・オトゥーコ』は、親友って意味っすね! こいつ、俺のこと親友って呼んでるんっすよ」
そう言うと、今年叔母からお年玉を頂いた時以来となる可愛らしい爽やかな笑顔を作り上げ、意味不明な解答を強引に正当化するように、ガシッとナルシネスの肩に腕をまわした。
「ホスィ・モ……なに? 言いにくっ!! でも、いいね〜エモ〜☆」
「……何を言っているのだ、干し芋男」
「…………」
ハッハッハッハ!!!!
よぉし、これでお前が今後どんだけ『干し芋男』と連呼しようと、ここじゃただの『親友大好きっ子ちゃん』になるだけだ、バァカ!!!!
『ショッピングモール・大迷いロン毛27』は、余計な口たたかず、大人しくシーツの端でもいじいじしてやがれ!!!
何でも『エモい』で片付ける現代人の性質を逆手に取った戦法――略して、『正直、全然意味わからんけど、なんかイイ感じってことだよね? まあとりあえずエモいって言っとくか戦術』が功を奏したのか。店員がそれ以上、干し芋という単語に関心を示すことはなかった。
『魔魔』のビッグウェーブをどうにか乗り越えたラジ。
「ふぅ」という小さな安堵と共に、不快そうではあるもののされるがままのナルシネスの肩から、スッと腕を下ろす。
「ウチィ、安富絵梨。エリゴンでいいよぉ~」
「エリゴン……獣のような野性味溢れる良い名だ。こいつは、干からびア_」
「黒瀬ラジです。どうも」
ナルシネスが『干からびアサリポン酢(ラジ予想)』という不名誉極まりない名を押しつけてくる前に、日本語ネイティブの力技――「会話割り込み・強制押し切り」で淡々とねじ伏せる。
「……じゃあ、俺らはそろそろ。こいつ、搾乳の自主練の時間なんで」
ラジはナルシネスの手首を掴み、逃げるように店を出ようとした、その時。
「ちょい待ち!!!!!」
背中に突き刺さったのは、鼓膜を震わせるような甲高い声。出口へと向かい始めたその足を止め、恐る恐る後ろを振り返るラジ。
レジ台という店員の本拠地を遂に離れ、凄みの利いた顔でゆっくりと動きだすエリゴン。
白いファーのついたヒョウ柄のチューブトップにデニムの超絶ミニスカ、そして極めつけのいかついゼブラ柄のハイヒールをカツカツと響かせながら、獲物を追い詰めるようにこちらへと迫りくるではないか。
「ねぇ、あんた。家族構成は?」
エリゴンはナルシネスの前を素通りすると、ラジの目の前まで詰め寄った。
そしてあろうことか、ラジのTシャツの首元をガシッと掴むと、有無を言わさぬ力で斜め下に手繰り寄せ、鼻先が触れそうな距離まで顔を近づけてきた。
その瞳には、あのナルシネスさえも一瞬で手懐ける、強くも愛情深い『母ライオン』のような気迫が宿っている。
そんな彼女のあまりの圧力と、至近距離にある顔のせいか。ラジは思わず視線を逸らし、一瞬の動揺を見せながらも答えた。
「えっと……親父と、妹……? と、じいちゃん……。あと、こいつです」
「…………オッケー☆」
パッと手を放すと同時にニコッと笑うエリゴン。
彼女は「肌はブルベっぽいし、身長は百八十センチ超えくらいかな~」と何やらブツブツ言いながら、フンフンフン~♪とご機嫌な足取りでレジ裏の小さな倉庫へと戻っていく。
「…………」
…………いや、なんだ今の。なんか無駄にちけぇし。
ブルーベリーだのなんだの言ってたけど、これは待っとけってことなんだよな……?
このまま挨拶もなしに去るのも気が引けるのか。ラジは呆気にとられたまま何となく辺りを見回し、ふと、己の口から発された『言葉の海』へと思考を泳がせた。
「…………」
…………家族、か。
……うん、まぁ、アレだ。この場合はそう説明するのがベストっつうか。
パジュやミルクさんのことを「ホームステイ中」だの何だのと、変にダラダラ説明するより、そう括った方が合理的だし。
別に、本気でそう思って出た言葉…………じゃない。
「このナルシネス、私はお前を家族とは認めておらぬぞ」
どこか生温かい何かが、喉の奥をグッと締め付けた瞬間。
斜め前でことの一部始終を傍観していたナルシネスが、そっぽを向いたまま、氷のような声でぴしゃりと言い放った。
「…………」
……あぁ、はいはい! こちとら願い下げだ、ブラックアゲハに舞い降りた『白蛾カメムシ・カナブン男』がよぉ!!!!!!!!
内臓が裏返るほどの怒りで歯を食いしばった、その時。
エリゴンが『福袋』とデカデカと書かれた大きな紙袋を四つ、両手に抱えて戻ってきた。
「これ! ナルピーナッツとラジクルミとマブッた証☆持って帰んな!」
「………えっと、これって?」
状況が読み込めないラジの目の前で、エリゴンは大きな口から真っ白な歯をのぞかせた。真夏の太陽のような笑顔で両手を持ち上げ、へへへと巨大な福袋を突き出してくる。
「日本に来たなら、まずは日本の『ギャル文化』も学ぶべきっしょ!?」
そう言うと、彼女はラジの左奥へと視線を向けた。そこには、先ほどそっぽを向いた流れでいつの間にか入口付近へと移動し、ちゃっかり服を物色しているナルシネスの姿がある。
彼を見たエリゴンは、少女のように柔らかく温かい笑顔を浮かべた。
「それにナルピーナッツ、布系ファッションも超似合うけど、『BLACK♡AGEHA』の服も超絶似合うって☆」
店頭に並べられた服を眺め、ただの知的好奇心から身体にあてては自分に酔いしれるナルシネス。
エリゴンには、その姿が「布一枚で留学に来て、健気にウィンドウショッピングを楽しんでいる」ように見えたのか、あるいは純粋に応援したい気持ちに駆られたのか。
「……えっと、いや、さすがにタダで貰うのは……ちょっと……」
「問題ナッシング! ナッシング! ってか、これお正月の残りだし! 店長として社割で買い取ってたんだけど、持って帰るの激重だしぃ、汗かくの無理だしぃ! ……ってか、エリのただのわがままだから! もお! 説明だるい!! いいから、貰って貰って♡」
照れ隠しなのか、長いつけまつげをバサバサッと揺らし、ほんのり首を右下にずらすエリゴン。「重いから早くってば!」と、そのままグッと福袋を差し出してくる。
そんな彼女を視界に捉え、ラジの視線が一瞬、下へと動く。
そしてほんの数秒の沈黙の後。彼は小さく頭を下げると、そのまま両手でしっかりと袋を受け取った。
「……じゃあ、ありがとうございます。…………あ、これ、一つ取っ手が取れそうなんで、予備の袋とか貰ってもいいっすか?」
「オッケー☆待ってて!」
エリゴンがショップバッグを取りに、先ほどのレジ裏の倉庫へとパタパタ引っ込む。
彼女の姿が消えた一瞬。ラジは持っていた福袋を床に置くと、素早い手つきで尻ポケットから何かを取り出し、レジ台の隅へとそっと置いた。
「はい、替えの袋!」
ぶっといハイヒールを己の足と阿吽の呼吸で完璧にコントロールし、予備の袋を片手に戻ってくるエリゴン。
「じゃあね☆あ、今度イケメンモンゴル人の紹介よろ〜! ナルピーナッツも搾乳の練習がんばんな~☆」
大きく手を振るエリゴンを背に、巨大な紙袋四つを両腕に抱えたラジと、相変わらず手ぶらのナルシネスは『BLACK♡AGEHA』を後にした。
二人を見送り、業務の再開と共にレジ台へと戻ったエリゴン。ふと、カウンターの隅に置かれた何かが視界の左端に映り込む。
「……もぉ、だるすぎ〜♡」
呆れたように、けれど愛おしそうに目を細めて微笑むと、去っていったその方向を柔らかく見つめる。
ギラギラのラメとストーンがついたド派手な付け爪。その指先の隙間からは、くしゃくしゃの千円札数枚と小銭が覗いていた。
***
『BLACK♡AGEHA』を後にしたラジは、日用品店の前で待つ修二とパジュのもとへと淡々と足を動かす。
その三歩後ろを、相変わらず手ぶらのナルシネスがマイペースに練り歩いていた。
「おい」
「おい!」
「おい!練りわさび男よ!」
「…………なんだよ、うるせぇな」
背後からの執拗な『我は話があるのだ、振り向け』コールについにしびれを切らし、ラジは気だるそうに振り返った。
「なぜ、わざわざ金を置いてきた?」
右の眉毛をほんのり歪め、理解不能なものを見るような、それでいて至極当然の疑問だと言わんばかりの視線でラジを真っ直ぐに捉えると、ナルシネスは静かにそう問いかけた。
「…………」
ラジはナルシネスの視線を正面から受け取るように、めんどくさそうに口を開く。
「……別に。スニーカー買ったお釣りがポケットに入ってたから置いてきた。それだけだけど」
ぶっきらぼうにそう言い放つと、「ってか、お前もこれ持てよな!」と右手に持っていた福袋を二つ、ナルシネスの胸へと突き当てる。
そして再び正面を向くと、さっさと歩き出していった。
渡された大きな福袋を、律儀に両手で抱きかかえながら。遠ざかるラジの後ろ姿をじっと見つめ、ナルシネスは不思議そうに目を細めて小さく息を吐く。
「……ふぅん。地球人の思考回路は、やはり理解不能だな……」
そう呟いた彼は、荷物の重さとシーツのズルズルに若干ふらつきながら、「この服は駄作であったな」などとぼやきつつ、謎の地球人の後を追う。
彼がその「理解不能な誠実さ」にほんの少しだけ敬意を抱いたのか、はたまた単に呆れただけなのか。それはまだ、神のみぞ知る領域だろう。
***
数日後、パジュのクローゼットに『鮪一本釣り』Tシャツと、ド派手なピンクのヒョウ柄セットアップ(SSサイズ)が仲良く並んで収納されることになるのだが……それはまた、別のお話。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
どうにか『ショッピングモール・大迷いロン毛27』こと、ナルピーナッツを確保し、明日の三面記事を逃れた黒瀬家とラジクルミさん。
いやぁ、それにしてもあの異次元なナルシネスの風貌を、歴史と格闘技の『異次元ビッグカップル』の爆誕でねじ伏せたラジには驚きました(笑)。
納得してくれるエリゴンの大らかな心にも感謝ですが、ラジにはMVPの拍手と『蝙蝠つけまつげ』を差し上げたいと思います。
ちなみに、頂いた福袋には『BLACK♡AGEHA』らしい素敵な洋服が沢山入っていたそうです。
つい先日、ラジがお風呂上がりにリビングへ行くと、全盛期の浜崎あ〇み風の『どどどどピンクのベロア生地セットアップ』を着こなした修二とミルクさんが、優雅にチェスに興じていて大変驚いたのだとか。
さらには、B'zの稲〇さんよりも短い『白のホットパンツ』姿でコンビニに出かけようとしたナルシネスは、さすがにラジが全力で止めたそうです。
【読者の皆様へ! ラジから切実なお願いです】
「暴走機関車ハンーニャのアニメは、いつ放送されてますか?」
「あ、自分は乾燥ポテト系ネームっす!」
「俺/私、『踊る大捜査線~ローマシーツ封鎖できませぇん!~』は劇場で見たけど、マジ泣けた」
……と、少しでもクスッとしていただけたそこのあなた!
ラジのすり減った精神力への回復アイテムとして、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】に評価をお願いいたします!
ブックマークへの追加や、毎話の「いいね」も、作者とラジの大きな励みになります!
次回、波乱のお買い物編から帰還した一行を待ち受ける新たな日常とは……!? お楽しみに!




