第十七話
ゴブリンキングはゴブリンたちを統率し、支配するものだ。バラバラで戦う知能しかない彼らを軍団としてまとめ上げる。
また、腕力も秀でており、並みの冒険者どころかゴールド帯でも苦労する。
個の戦闘ではなく、軍の戦争を象徴するような魔物である。
これが世間一般が認知しているゴブリンキングだ。一体出ると、一個中隊総出のパーティーで殲滅する。
「な、なんでこんなところにゴブリンキングがいるんですのよ!?」
天井スレスレの巨躯。醜い太った緑の体。手には人間の背丈ほどある棍棒。その後ろには、大量のゴブリンが控えていた。
「ティルトのやつ、これ知ってやがったな!?」
「あっはー! やっぱり、ただ者じゃないねあのギルドマスター!」
「むきー! やっぱり、わたくしは利用されていたんですのね!?」
三者三様の反応を示し、それでも彼女たちは逃げるという選択肢は取らなかった。
ルベルは一人、体を震えさせる。彼女の周りから冷気が少しずつ広がっていき、洞窟のいたるところに氷柱を形成させていた。
「お前ら、たたじゃがえさねぇ!」
「そんな、三下なセリフは聞いて呆れますわよ!」
シンシアが躊躇なく、突っ込む。
「いつも四下のセリフを吐いてるシンシアに言われてもね?」
「余計なお世話ですわ!?」
「ほら、喋ってないで殲滅しろ!」
ドロルはナイフで切り込み、ファーミュは魔法でゴブリンたちを殲滅する。
しかし、彼らの優位は少しずつ崩れていく。その様子を見て、ルベルが何とかしなくちゃと思う。
しかし、仲間を氷漬けにしてしまう自分に何ができるというのだろうか。
恐ろしい光景が頭に過ぎり、後退りしてしまった。
「ルベルさんは、坑道から出てティルトさんを呼んできてくださいまし!」
「あたしたちが止めておくから!」
「で、でも……」
そんなことしたら戻ってくる間に、三人は殺されてしまうのではないか。
拳を握りしめる。彼女の不安を体現するように、身体から冷気が漏れた。
「大丈夫、シンシアは打たれ強いから!」
「ファーミュ!? それだとわたくしが負けるって言ってるように聞こえますわ!?」
「あ、ははは。そうだね、シンシアはなんやかんや修羅場をくぐってくれるからね」
助けたい。でもという気持ちが、彼女をさらに一歩下がらせた。かかとが小さな穴につまずく。
尻もちをついたルベルの前に広がるのは、ゴブリンに殴られて血だらけの三人。しかし、彼女たちはそれでも戦っていた。
──自分だけは何もしないのかい?
ティルトにそう言われたような気がする。
直後、ゴブリンキングが動く。
何とか防ぎきっているが、彼女たちの限界も近い。助けるにしても逃げるにしてもモタモタしている時間はない。
ティルトならどうする。と、ルベルは自然と考えていた。彼はこの状況を想定しているはずだ。
だったら、何かルベルを動かすために仕組んでいるはずだ。
「……あ」
頭の中がスッキリしたような感覚を受けた。ルベルはゆっくり立ち上がって、前を見据える。
「すみません皆さん! 凍らせてしまいます!」
その言葉を聞いて、三人とも笑顔で親指を立てる。
ルベルは放った。坑道内全体を凍らせるように、意識する。
瞬間──茶色い洞窟内は白一色に切り替わった。
※※※※※※※※※※
白一面の世界は見慣れた世界だ。すべての生きとし生けるものが凍りつき、死の大地を形成させる。
何百年。そういう世界に浸り、生態系を壊してしまった。
レベルの目の前には、凍った三人とゴブリンキングたちがいる。全員動かない。
彼女の心臓が早鐘を打つ。もし、読みを間違えていたら、大変なことになる。
そんなとき、氷漬けの三人の懐が赤く光りだした。その光に包まれた彼女たちの氷は、徐々に溶け始める。
「し、死ぬかと思いましたわー……」
最初に喋ったのはシンシア。彼女は深く息をつき、尻もちをつく。
「いやぁこれは壮絶だねぇ」
続いてはファーミュ。彼女はふわふわ浮かびながら、凍ったゴブリンキングたちを眺めていた。
「氷漬けって中々体験できないが、結構氷の中って温かいんだな」
最後に口を開いたのはドロル。彼女は筋肉を整えるように腕を回していた。
三人とも生きていたことに安堵し、座り込んだ。小さく「よかった」と、涙を流す。それは水滴となって、氷の地面を濡らす。
「おーほほほ! こんなところで、わたくしは死ぬもんですか!」
「いや、実際死にかけたけどねぇ」
「まぁ、それはティルトのせいだから今回はシンシア姉さんは悪くない」
「そうですわ! あとで、ギルドに直談判しますの! 高級料理を一週間分!」
騒がしい彼らを見ていると、自然と笑顔が漏れる。
心の底から、パーティーを組んでみてよかったと思える。
「……ところで、誰がゴブリンたちの討伐証を集めるんだ?」
そのドロルの言葉に全員が固まった。
ここまで倒してきたゴブリンの数は数え切れない。証を集めるだけでも、一日はかかってしまう。
「に、逃げるのですわ!」
「いや、逃げんな!」
ジタバタするシンシアの後ろ首を、ドロルが捕まえたのだった。




