第十六話
「本当にすみません! 本当にすみません!」
ルベルが頭を下げるたびに氷の礫が飛ぶ。その礫を顔面に受けながら、シンシアは「い、良いですのよ」と、応対していた。
「シンシアが押されてるって珍しいね」
「……シンシア姉さんはいつも押されてないか?」
「いや、いつもなら暴走してる」
後方から聞こえてくるのは、シンシアの仲間たちの冷静な声。
ちなみに彼女たちはシンシアのことを助ける気はなさそうだ。
「……ティルトさんからこれもらっておいてよかったですわ」
そう言ってシンシアは懐から玉を取り出した。それは赤色に輝く手に収まるものだった。
取り出されたものを見つめながら、ルベルは首をひねる。
「これなんですか?」
「竜族が作れる属性結晶ですの。ティルトさんお手製で簡易的に魔法が発動できますの」
赤い玉は光り輝き、シンシアを凍らしていた氷が溶けていった。と、同時に赤い玉は砕け散ってしまう。
「といっても範囲は限られていますし、このようにすぐ壊れてしまうので、使いどころはあまりないですけどね」
「す、すごいです!」
ルベルが自分の氷が溶けたことに興奮して、その場で飛び跳ねる。瞬間、今度は首元までシンシアが凍った。
「あ」
「……あ」
いつの間にか距離をとっていたファーミュとドロルは同時に声を出す。
氷つけられたシンシアは、必死の形相になりながら──
「なんでわたくしだけですのおおおおおおお!」
渾身の絶叫を言い放った。
もはや、ルベルは謝ることしかできない。
「は、はーっくしょん!」
洞窟内に響き渡るのは、シンシアのくしゃみだ。鼻をズルズルと啜り、ファーミュが火属性魔法で起こした焚火に当たっている。
ルベルは申し訳なくて、三角座りのまま頭を垂らしていた。
「まぁ、なんだ……わざとじゃないからシンシア姉さんも怒ってねぇよ」
隣に来たドロルが慰めてくれる。しかし、元気にはなれなかった。
やはり自分は人を凍らせてしまう危険が孕んでいる。このままでは、いつか壊滅的な被害をもだろう。
こうしている今も、彼女を中心として冷気が広がっていってる。ドロルがうっかりと触ってしまって「冷た!」と、手を引っ込めた。
「本当に、ティルトさんは何を考えているのでしょうか……?」
横に目を流しながら、諦観する。自分にはパーティー行動が無理なことを突きつけたいのかと思えてくる。
「たぶん、ルベルを助けたいんじゃないか?」
「……それだったらこんな状況になってないですよ」
「うーん、ルベルだからこそこんな状況にしてると思うんだがな?」
ドロルが一歩詰め寄ってくる。指先が少し凍っていた。しかし、そのことを気にする様子もなく、彼女は続ける。
「これは本当に噂話でしかないんだけどな? ティルトは昔、国一つを不毛の大地にしたって言われてる」
「不毛の大地……ですか?」
「そう。今もそこは、“終わらない灼熱に包まれている”そうだ」
その状況を想像して、どこか似通った光景を見たことがあった。
そう、ルベルの故郷もそんな感じだ。
彼女のせいで、あの周辺は永久凍土と言われている。
「だから、ティルトは本気でルベルを助けたいと思うぜ?」
まぁ、予想でしかないけどなと、ドロルは付け加える。
「そうですか……そっか」
膝を抱えていた腕に力を入れる。唇を噛みしめて、今の心の弱さを投げ出すように首を振った。
「ルベルさん! あれっぽっちで責任を感じてもらっちゃ困りますの! わたくしにとって一度や二度の氷漬けなんてなんのあちゃちゃちゃ! ファーミュ、火が! 火が当たっていますわ!?」
「シンシアが途中で動くから悪いんでしょ〜?」
大きな声に、いつの間にかルベルは笑っていた。
「お、笑うと一段と可愛いな」
ドロルに真正面から言われ、目を丸くする。
「本当ですわね。まぁ、わたくしの可愛さには負けますあちゃちゃちゃ! わざとですわよね!?」
「調子に乗るからだよシンシア〜」
そういえば、ティルトにも笑っているほうがもっと可愛いと言われていたことを思い出す。
自然と心があったかくなり、地面の氷が引いていく。
「ありがとうございます」
笑顔でお礼を言うと、三人とも頷いた。
──ドシーン。
突如、轟音が坑道の奥から響いた。振動で地面が揺れる。天井からは、石や砂が落ちてきた。
「な、なんですの!?」
真っ先に驚いた声を上げたのは、シンシアだった。彼女は細剣を手にしながら辺りを警戒する。
ファーミュとドロルも続いて武器を手に取って周囲を見回した。
遅れること数秒して、ルベルも立ち上がる。
なおも振動は続いている。それも近づいてきている。
絶対に普通ではない。そう誰もが確信した時だ。
「おでの住処を荒らす奴はどいつだあああああああ!
?」
坑道の奥からは耳を塞ぎたくなるほどの咆哮が聞こえた。




