第十五話
「依頼は最近住み着いたゴブリンたちを討伐してほしいだそうだ。鉱石掘りのほうから緊急要請があったよ」
ティルトが待っていたのは、坑道入り口である。彼はいつもの飄々とした佇まいで以来の説明をしてくれる。
「ゴブリン討伐ってシルバー帯の仕事ですわよ?」
対してシンシアはつまらなさそうに息をついていた。
「私たちはゴールド帯なんですのよ?」
その言葉に反応したのは、ティルトの横にいるサシャだ。彼女は静かな瞳でシンシアを睨んでいる。
睨まれたシンシアは、そのまま小さくなる。ドロルがため息をついて、ファーミュが茶化すように笑っていた。
「まぁ、それはわかっているけど今回はルベルがいるからね」
ティルトに視線を合わされて、肩が跳ねる。緊張でなんとか冷気が出ないように気を配る。
ここ数日の練習の成果で、ティルトの制御下でならある程度は体温調節ができるようになった。しかし、彼の制御を離れると途端に不安定になる。
やはり、凍らせてしまうのではないかという不安は、ルベルの心の中に宿っていた。
「それに、僕やサシャも見てるんだ。すごいところを見せてくれたら、ギルド内の評価が上がるかもしれないよ」
「わかりましたわ! 早速、わたくしがすべて討伐して見せますわ!」
鼻息荒く、シンシアは行動の中に入っていった。その後ろ姿を見てドロルとファーミュがため息をつく。
「チョロい」
「チョロいね」
二人はやれやれと首を振りながら、シンシアの後について入っていった。
残されたルベルはどうしようかと、ちらりとティルトの顔を見る。しかし、彼は笑顔を返すだけであった。
諦めて、おずおずと後を追いかけていく。坑道の入り口を越えると、ティルトの結界特有の熱さが身を包み込んだ。
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「また、意地の悪い人ですね」
サシャは皆が入って行った坑道を見ながら、息を吐いた。
ジト目でティルトのことを見るが、彼は素知らぬフリで指で顎を触っている。
「何がだい?」
「何が、ゴブリンの巣窟ですか。ここは、ゴブリンキングが占拠してるって、通告があった場所じゃないですか」
「あれ、そんな通告あったっけな?」
笑って肩をすくめる彼は、確実に分かっていた様子である。
サシャは頭を押さえて、眉間にしわを寄せた。
「あんまりしかめっ面ばかりしてると、美人が台無しだよ?」
「……誰のせいだと思っているんですか?」
「少なくとも、僕のせいなのは確かだね」
答えると、「箝口令を敷いていた理由が今わかりましたと」サシャがつぶやいていた。
ゴブリンキングは、ゴールド帯でも苦労する敵。ティルトの見立てでは、シンシアのパーティー出鼻手に余る敵だ。
「さて、ルベル。目の前で人が死にそうになったら、君はどうする?」
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「やっぱりゴブリン討伐なんてつまらないですの」
シンシアが大きくため息をつきながら細剣を振っている。そのたびに一体……また一体とゴブリンを倒していく。
「まぁまぁ、ルベルちゃんはブロンズ帯だって言ってたから」
「ブロンズ帯でしたの!? あんなに化け物みたいな凍りつけ性能していらっしゃるのに!?」
「あ、そこは普通に知らなかったんだね……シンシア」
そんなシンシアとファーミュの会話を聞き流しながら、ルベルは「平常心……平常心……」と呟いて自分の氷を制御しようとしている。
しかし、制御しきれなかった部分は、足跡の氷として残っていた。
「おい、ルベル大丈夫か?」
ドロルに話しかけられて、氷漬けの範囲が少し広がった。
「ど、ドロルさん、話しかけないでください……。じゃないと、みんなを凍らせてしまいます」
「お、おう……悪かった」
涙目で訴えると、彼女は苦笑しながら頬をかいていた。
「これ、気づいんたんですけども……わたくしとんでもないことを押しつけられたんじゃありませんの?」
「うん、今さらだね。今さらだよシンシア」
「え、ファーミュさんは気がついてたんですの!?」
「ギルドマスターが笑顔で寄ってくるときって大体ろくなことがないでしょ? いい加減シンシアは勉強しよう?」
雑談をしながらも効率よく倒していくのを見るに、彼らは戦闘慣れしているのがよくわかる。
ファーミュは風や水の魔法を使って足止め。シンシアはサシャほどではないが素早い剣技。ドロルは拳とナイフによる攻勢。そのすべてが噛み合い、お互いを補い合っている。
一方のルベルは、まだ一つも活躍できていなかった。
「ルベルさん、大丈夫ですの?」
ゴブリンの攻勢が弱くなったとともにシンシアが声をかけてくる。
突然のことで心臓がはねたルベルの足元から氷が波紋状に広がった。
一斉攻撃を仕掛けたゴブリンが全員凍る。その光景を見て、他の三人は「わぁ……」と声にならない声を出していた。
「……大丈夫そうですわね」
腰まで凍らされたシンシアが、静かな笑みを作っている。
ルベルはただ平謝りするしかなかった。




