第十四話
依頼を終了して、夜のことだった。ティルトの作ってくれた晩ご飯を食べていると、とんでもないことを言われた気がする。
「え……なんて言ったんですか?」
気のせいかなと聞き返したが、机の向かい側に座っている彼は笑みをたたえたままだ。
サシャの方は、不服そうにため息をついていた。
「だから、次はパーティーで依頼をこなしてもらうよ」
「いや、む、無理です!」
今日のタイラントボアを討伐できたのは、“自分一人でいたから”だ。被害もティルトが抑えてくれていると信じたからできたことである。
すぐ近くに仲間がいれば、ルベルはきっと恐れてしまう。そして、その恐れは暴走を生む。
今でも、手に持っているフォークが凍ってしまっていた。先に着いた熱々のサイコロステーキは、完全にカチンコチンである。
「サシャさんからも言ってください」
助けを求めるように、黙々とご飯を食べていたサシャを見る。彼女は口の中にある食べ物を飲み込んでから口を開く。
「良いんじゃないでしょうか」
「……え?」
いつもなら止めてくれるはずの彼女は、ルベルに視線を合わせない。
フォークでステーキを刺すと、また口の中に運んだ。
「一度死ぬ思いをして痛い目を見ればいいんです」
「……な、何の話ですか?」
「……すみません。身内の話です」
何やらサシャは不機嫌なまま無言でご飯を食べ続けている。
涙目になってティルトの方を見ると、彼は答えずに肩をすくめるだけだった。
「残念だけど、今回はそのパーティーの方からの“熱いご要望”だよ。君の能力を自覚した上で、誘ってきたんだ」
「そ、そんなことって……」
ありえない。言いそうになって、手をポンと打った。
「ティルトさんも来てくれるんですね?」
「僕は近くまでしか来ないし、君の温度調整もやらないよ」
その言葉がどれほどの意味を持つのか。レベルは心の中で震え上がる。
やっと慣れてきたと思った途端、壁にぶつかる。やはり、自分が街に溶け込むのは難しい気がしてきた。
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今日ほど次の日が来なければいいと思ったことは、ルベルにはないだろう。
ギルドの待合場で、頭をたれ下げてズーンと落ち込んでいる。心臓の音は大きくて鳴りやまない。
何かの手違いであってくれと、心から願う。しかし、その願いもすぐに打ち破られた。
「こんにちは、ルベルちゃん」
聞き覚えのある声に、彼女は顔を上げる。そこには、昨日自己紹介してくれたファーミュがいた。
そのすぐ隣には、背の高い獣人のお姉さんだ。
「えっと……私とパーティーを組みたい人たちって」
「そ、私たち。こっちは脳筋のドロル」
「誰が脳筋だ……。ドロル・キャットウォーだ。よろしく」
手を差し伸ばされて、恐る恐るつかみ返した。今はティルトが魔法をかけてくれているから、冷え性と思われるくらいだと心の中で言い訳する。
事実ドロルはぎゅっと握り返して、緩やかに頭を下げてくれた。
見た目は怖いが、中々に礼儀のある人で安堵する。
「で、もう一人いるんだけど……」
ファーミュが振り返った。彼女の視線を追うように見る。そこには柱に隠れる金髪のエルフがいた。
「だ、大丈夫ですの!? 凍りつきません!?」
「シンシア姉さん。あんたが言い出したことだぞ?」
「あはは〜見ての通り、あそこにいるのはリーダーのシンシア・ローグワット。かなり面白いお姉さんとでも思っておいて」
誘われるように頭を下げると、彼女は悲鳴を上げながら柱の影に隠れてしまった。
はて、自分は向こうからパーティーに誘われたのではないのだろうか。
困惑した顔を見せると、ドロルが大きなため息をつく。
「まぁ、小悪党の小心者って思っててくれればいいよ」
「誰が小悪党の小心者ですのよ!?」
柱の影から突っ込んでくるが、出てこなかった。
「あ、あの……ローグワットって」
「やっぱ、気づいちゃう?」
たっはーと嬉しそうに笑ってから、ファーミュが続ける。
「シンシアはサシャの妹なの。しかもバリバリコンプレックスを拗らせてる厄介妹」
「人がいないところで散々な言いようをしないでくださいまし!?」
しかし、やはりシンシアは出てこない。
「えっ……と、私のことが怖いなら、私とパーティーを組まなくても大丈夫ですよ?」
儚げな笑顔を浮かべながら、ルベルは言う。
その言葉に反応するように、シュバッとシンシアが柱の影から出てきた。
「お、おーほほほ! こ、怖くなんてありませんわ!」
「シンシア姉さん。そんな冷汗かきながら言われても説得力ねぇよ?」
「何を言っていますの! 説得力しかありませんわ、ねぇ!?」
身を乗り出して、ルベルの顔をみてくる。苦笑いを浮かべて頷くことしかできなかった。
「とりあえず、わたくしがこのパーティーのリーダーのシンシア・ローグワットですわ。よろしくお願いいたします」
丁寧に改めて名乗ってから、シンシアは手を差し出してくる。
その手を握ろうとしたところで、シンシアの手がビクリと震えている。
「えっと、今は凍らないですわよね?」
その質問に、ルベルはなんて答えるべきか迷うのだった。




