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『しーちゃんと記憶の図書館』第95話
小さなお願い
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風鈴の下でしばらく話したあと、
母と息子はしーちゃんの前に並んだ。
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「実は……お願いがあるんです」
女性がそっと切り出した。
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息子が持っていたのは、
古びた缶ペンケース。
角は擦り切れ、色も少し褪せていた。
—
「これ、父さんがくれたんです。
でも、僕……ずっとしまい込んでて」
—
母が続けた。
「ここに置いてもらえませんか?
あの人の思い出を、風鈴のそばに残したいんです」
—
しーちゃんは、
缶ペンケースを両手で受け取り、
ゆっくりとうなずいた。
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「ここなら、大切に眠らせてあげられます。
そして、誰かの心をそっと呼び起こすでしょう」
—
その日から、
風鈴の下の棚に、
小さな缶ペンケースが仲間入りした。
—
中には、
色あせた青い鉛筆が一本、静かに横たわっていた。




