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『しーちゃんと記憶の図書館』第93話
手紙を持ってきた人
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ある午後、
図書館の扉が静かに開いた。
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入ってきたのは、
紺色のコートを着た女性。
手には、
青い封筒が握られていた。
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「ここに……息子が来ましたか?」
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しーちゃんは微笑んでうなずいた。
「はい。
この風鈴の前で、しばらく立ち止まっていました」
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女性は、風鈴を見上げた。
その目に、光がにじむ。
「この音……私の実家で使っていたものと同じです。
あの子、覚えていたんですね」
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封筒を胸に抱きしめ、
女性はしーちゃんに深く頭を下げた。
「この手紙、何度も読みました。
あの子の心の奥に、こんな思い出が残っていたなんて……」
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しーちゃんは静かに答えた。
「大切な記憶は、ちゃんと生きているんです。
風や音が、それを呼び起こすだけなんです」
—
女性の頬を、
潮風のような涙が静かに伝った。




