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『しーちゃんと記憶の図書館』第89話
返事の短冊
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机の上に、
白い短冊と細い筆が置かれた。
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海斗は、しばらく筆を握ったまま動かなかった。
何をどう書けばいいのか、
言葉があふれては消えていく。
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「むずかしいときは、
一番最初に浮かんだ言葉を書けばいいんですよ」
背後から、しーちゃんの声がやわらかく響いた。
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海斗は深く息を吸い、
一文字ずつ、ゆっくりと書き始めた。
“僕も、ずっと会いたかった。”
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書き終えると、
真理子さんがその短冊を両手で受け取り、
新しい風鈴の中へそっと入れた。
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チリン……
今度の音は、
潮の香りと涙の温度を含んで、
二人の胸に染み込んでいった。
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「これからは、もう返事を待たなくていいですね」
しーちゃんが微笑むと、
海斗も真理子さんも、静かにうなずいた。
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風は止み、
小さな音だけが、しばらくその場を守っていた。




