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『しーちゃんと記憶の図書館』第88話
最後の風鈴
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しーちゃんは、
家の軒先で一番奥に吊るされた風鈴を見つめた。
それは他のものよりも古く、
色も少し曇っていた。
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「これが……最後の?」
海斗が問うと、
真理子さんは静かにうなずいた。
—
海斗はそっと紐を外し、
風鈴を手の中で揺らした。
チリン……と、
控えめでやさしい音が響く。
—
中の短冊には、
たった一行だけ書かれていた。
“海斗、私はずっと、あなたを探していました。”
—
海斗の指が小さく震える。
その短冊は、海水に濡れた跡があり、
滲んだ文字が長い年月を語っていた。
—
「……返事を、してもいい?」
海斗が顔を上げると、
真理子さんの目に、涙が光っていた。
—
「ええ。できれば……風鈴に入れてほしいわ」
—
潮風がまた吹き、
二人の間に、新しい音の約束が生まれた。




