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『しーちゃんと記憶の図書館』第86話
風鈴の家
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風鈴の音を追って歩くと、
港のはずれに古い木造の家があった。
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軒先には、色も形も違う風鈴が十個以上、
潮風に揺れていた。
その音は、不思議と心を落ち着かせる響きだった。
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玄関の前に立つと、
ガラス戸の向こうに白髪の女性が見えた。
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海斗は息をのむ。
面影は時を経ても、確かにそこにあった。
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「……真理子さん?」
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女性は少し目を細め、
そして驚いたように口元を押さえた。
「……海斗、なの?」
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次の瞬間、
二人の間に、五十年分の沈黙が流れた。
風鈴の音が、そっとそれを包み込んだ。




