82/104
『しーちゃんと記憶の図書館』第82話
もうひとつの手紙
⸻
岬の灯籠の中には、まだいくつかの小瓶が残っていた。
海斗がそのひとつを手に取り、そっと栓を抜く。
—
中から出てきたのは、
小さく折りたたまれた青い便箋。
潮の香りがほのかに漂った。
—
紙を広げると、
丸みのある、やさしい字でこう書かれていた。
“あの日、声をかけられなかったあなたへ。
もしこの灯りを見つけたら、
私はまだ、ここで待っています。”
—
読み終えた瞬間、海斗の表情が変わった。
「……この字、知ってる」
—
しーちゃんと遥さんが驚いて顔を向ける。
海斗は便箋を見つめたまま、
少し震える声で続けた。
「子どもの頃、港でよく遊んでくれた女性がいたんだ。
船を降りたら、必ず僕に絵葉書を書いてくれた。
その字と同じだ」
—
遥さんは静かに頷いた。
「じゃあ、その人は今も、この岬に想いを残してるのね」
—
海斗は灯籠に手を添え、
潮風に向かって小さくつぶやいた。
「……会えるかな」
—
鈴の音が、答えるようにひときわ強く響いた。




