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『しーちゃんと記憶の図書館』第8話
潮風をたどる地図
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港を離れる前に、
老人は小さな紙切れを差し出した。
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それは、古びた手描きの地図。
港から続く細い道、
山のふもとにある赤い屋根の家が印されていた。
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「妹が最後に手紙を出した場所だ。
ただ…もう50年以上前のことだがな」
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しーちゃんと少年は地図を受け取り、
港をあとにした。
—
道は緩やかな坂をのぼり、
潮風が背中を押してくれる。
時おり立ち止まっては、
風に混じる塩の香りや、
どこからか聞こえる波の音を確かめた。
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「この道の先に…まだ家は残っているかな」
少年が小さくつぶやく。
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しーちゃんは微笑みながら答えた。
「たとえ家がなくても、記憶はきっと残ってる」
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やがて、赤い屋根が見えた。
しかし近づくにつれて、
それが廃屋だと分かった。
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扉は開いており、
中にはほこりをかぶった机と、
壁にかけられたままの古いカレンダー。
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その日付は──
妹が最後に手紙を出した年のままで止まっていた。
—
しーちゃんは感じた。
この家がまだ、誰かを待っていると。




