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『しーちゃんと記憶の図書館』第7話
もうひとつの宛先
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港町のカフェで、
老人は温かい紅茶を一口飲むと、ゆっくり口を開いた。
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「…思い出した。
本当はこの手紙、青年にじゃなく、
青年の妹に渡すつもりだったんだ」
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しーちゃんと少年は、同時に顔を上げた。
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青年の妹は、幼いころから病弱で、
海を見に行くことも叶わなかった。
姉は、彼女のために海の絵を描き、
そこに潮風の匂いを閉じ込めた。
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「けれど…妹は、青年と一緒に遠くへ行ったらしい。
その先がどこだったのか、誰も知らない」
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老人は窓の外を見つめ、
潮風が頬をなでていくのを感じていた。
「もしまだ生きているなら…
この手紙を、渡してやってほしい」
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しーちゃんは静かにうなずき、
「探してみます。この手紙の続きを、
私たちが見届けます」と答えた。
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少年の目は、海の水平線のように輝いていた。
それは、新しい旅のはじまりの光だった。




