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『しーちゃんと記憶の図書館』第9話
机の引き出しの中で
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赤い屋根の廃屋は、
風が通り抜けるたびに、かすかな音を立てていた。
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しーちゃんは、部屋の奥にある木の机へ近づいた。
引き出しの取っ手は錆びていたが、
力を入れるとゆっくりと開いた。
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中には、
古い便箋と、色あせた写真が一枚。
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便箋の封は切られていなかった。
封筒の表には、震えるような字で
「まだ見ぬあなたへ」と書かれていた。
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少年が小声で聞く。
「これ…妹さんの字かな」
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しーちゃんはうなずき、
封筒をそっと開いた。
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中には短い文章があった。
「海を見た日のことを、
あなたにいつか話したい。
その日が来るまで、この手紙を預けます。」
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そして、封筒の奥には小さな押し花。
潮風に運ばれたような、淡い紫色の花びらが
まだ形を保っていた。
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写真には、
若い女性と青年が肩を寄せ合い、
海辺で笑っている姿が写っていた。
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「これが…」
少年の声は、少し震えていた。
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しーちゃんは静かに言った。
「この手紙は、“まだ見ぬ誰か”のために残されたの。
その相手を探すのが、次の旅になるわ」
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窓の外では、
海からの風がまた一枚、
古いカレンダーのページをめくった。




